6.やり直し。
木村雄太は大学3回生の夏、所属していたサークルの旅行中に海で溺れて亡くなった。
魂となった雄太は、突然の死を受け入れられずにいた。
若くして死んだ彼に、神は次の転生では望みの奇跡を与える事を約束する。
しばらくして雄太は神に一つの奇跡を望んだ。
「次の人生では、死んだとしても失敗した所からやり直せる力が欲しい」
とある星のとある国。
ローニア王国で雄太は、農家の三男として転生した。
神から授かった身体は常人よりも強靭で、小さな頃から畑仕事や狩りで右に出る者はいなかった。
13歳になった雄太は、この世界の未知を探求し、様々な職業を生業とする冒険者となる為、王都に向かった。初めは交渉事や金銭で幾度も失敗したものの、この世界では割とマシな地球での知恵と若さで何とか窮地を脱し、成長していった。
初めて死にかけたのは、経験を積み、満を持して挑んだ北方でのドラゴン退治だ。同業者50人で挑んだものの、高熱のブレスと鋭い爪で近づけず、空を飛び遠距離で攻撃する為に幾人もの冒険者に死傷者が出た。万全を期してはいたが、それでも自分が死なずに済んだのは奇跡だった。
雄太の剣がドラゴンの首を突き、ようやく討伐出来たのは3日目の朝だった。
ドラゴン退治の功労者として王国から称賛を受けた。
それからは広い大陸内を冒険し、大陸一の剣士として雄太は有名になった。その後も数多くの冒険を繰り返したが、一度も神の奇跡が起きる機会は無かった。
幾年かが過ぎた後、30歳になった雄太は、とある町娘との結婚を機に冒険者を辞めた。
剣の師範として王国に迎えられた雄太は、幸せだった。死ぬような危機も無く、気の合う嫁との二人暮らし。剣を教えるのは楽しかったし、生徒の成長も素直に嬉しかった。時には、冒険者時代の友人と何度も酒を呑み、いつも帰ってから嫁に叱られた。
やがて嫁との間に子どもが生まれ、町の様子もどんどん変わっていく。地球のような娯楽は無いが、何よりも幸せを分かち合う事が出来る家族がいる喜び、気楽に居られる仲間の存在が、これまでの思い出が胸を温かくしてくれた。
年を重ねる事数十年、知り合いが一人、また一人と亡くなっていく。ついに雄太も80歳になった冬、家族に看取られる中でこの世を去った。
─────はずだった。
「・・・は、ははは」
雄太は呆然としていた。
5歳児に戻った自分の姿に困惑しながら、ただただ呆然としていた。
「ちゃんとお茶碗を持って食べなさい!」
母親のお叱りの言葉を受けて。