58.侵略者。
2XXX年、突如として宇宙から謎の大きなUFOが地球に降り立った。
出て来た宇宙人は、銀色のツルツルとした体が特徴の、いわゆるグレイ型宇宙人だった。
何事か、と集まってきた者達を前に、宇宙人は実に尊大な態度で言い放つ。
『私は、遥か彼方のMO星雲からやって来たムーア星人だ。手短に言う。我らは長年の人口増加により、新たな星の開拓を急務としている。この美しい星は、ムーア星人が暮らすのに相応しい条件を満たす、稀有な星だ───この星を明け渡し、我々に服従しろ』
宇宙人……ムーア星人が手を上げると、UFOから赤い光線が伸び───建物を破壊し、道路を壊し、都市に住まう者達を恐怖に叩き落していった。
これが、地球で勃発する侵略者との戦いの始まりだった。
ムーア星人が最初に落ちた小さな島国は、ムーア星人の襲来によって多くの被害を出した。
シンボルであった赤いタワーの倒壊。そこにUFOを拠点として設置したムーア星人は、世界中の全ての者達に対して服従を求めたのだ。
何とか宇宙人との国交を結べないか、と使者を送り出した小さな島国の代表だったが……無言のまま、UFOが発する怪光線を浴びせられ、近づく者は皆跡形も残らず消えていった。
そして、小さな島国への攻撃を皮切りに、ムーア星人が操るUFOは世界中の国々の首都を攻撃して回った。服従するもしないもどちらでも良い、とばかりの暴虐さに、世界中の人々がパニックになっていった。
東の国、西の国、技術大国、秘密国家……国の主義、宗教、国の大小を問わずに攻撃を繰り返すムーア星人のUFO。
戦闘機は悉く撃ち落され、被害は増すばかり。
大国がUFOをミサイルで迎撃するものの、大したダメージを与えることが出来ず、事態は一向に好転せずにいた。
この未曽有の危機に、世界中の国の代表が集まって緊急会議が開かれた。
話し合いの出来ぬ、野蛮な宇宙人。
首都を攻撃され、地球に未だに根を下ろし、現地民は避難を余儀なくされている。このままでは、ムーア星人によって我々は……。
同じ地球に住んでいても……様々な思惑があり、なかなか一つになれない地球住民であったが、今回『地球の危機』によって、初めて真の意味での協力を図る事が出来た。
ムーア星人に敵対の意を示すと、ムーア星人は嘲笑と共に地球住民の殲滅を発表する。
それに対抗する為、手を取った地球連合は地球防衛軍となり、宇宙人との戦いを開始した。
特殊潜入部隊による宇宙船の破壊工作、最新鋭の技術を掛け合わせた戦闘機の開発。凶悪な細菌兵器の投入。
各国の力を合わせた徹底抗戦は、最初は無駄だと思われたが……それでも一部の作戦は少しずつムーア星人は警戒を覚えた様子で、UFOによる襲撃活動にもわずかに影響が出始めた。
しかし、宇宙は広い。彼らの科学文明の高さは地球以上なのは明確である。
だが、『野蛮な宇宙人を追い出す』為に結束した地球住民達のパワーは、大きな技術力の差を少しずつ埋めて行った。
ムーア星人の弱点は何か。熱に弱いのか。寒さに弱いのか。特殊な音波を流してはどうか。酸で溶かすのは。やはり核か。
皆で話し合い、数々の作戦を敢行し、抗戦しては撤退を繰り返す。
そんな事を繰り返すこと20年……ついに、その時がやってきた。
※※※※※※※※※※※※
「やった!やった!」
「UFOが逃げて行くぞ!」
激戦によって傷付いたUFOが飛び上がり、ムーア星人は母星へと帰って行く。
この地球を占領するのは困難だ、とようやく悟ったのだろう。
長い戦いの末、ようやく宇宙人との抗争に打ち勝った。地球の歴史に、新たな一ページが刻まれた瞬間であった。
世界各国はムーア星人によって多大なダメージを受けていた。
しかし、先進国、途上国に関わらず復興作業が開始され、各地に散った地球防衛軍がそれぞれの国の支援に動いている。復興まで時間が掛かるだろうが、いずれまた、美しい地球を取り戻す日も来るだろう。未知の侵略者を追い出した今、地球住民の顔は皆、明るかった。
『地球に住む皆さま。地球に住む皆さま。ようやく、長い長い戦いに終止符が打たれました。地球時間13時35分。ついに我らの地球を奪おうとした異星人は地球防衛軍の戦いに疲弊し、この星を去りました!まだ警戒は必要ですが、ひとまずは地球に平和が戻った事を喜びましょう!我々は結束すれば、何者にも打ち勝てる!多くの者を失った20年でしたが、まだまだ我らの歩みは止まりません……我々の祖先がこの地球に降り立って数百年。一度は地球の各地へ離れた同胞達とも、今後は手と手を取り合い、お互いがより良き未来を歩んでいこうではありませんか!』
街頭モニターには、大統領の演説が繰り返し放送されている。
地球に住む数十億のイカルダ星人は歓喜した。
地球は、もう既に侵略された後だった、という話です。
来月更新遅れます。
 




