57.殺人犯、拘束す。
『テレシア市街地区・連続女性失踪事件』
被害者は十数名にも及ぶ、女性ばかりを狙った犯罪事件だ。
王都の騎士ナイトハルトは今、その凶悪な事件の犯人と対峙している。
冷たい地下の一室で、鎖で繋がれた女への尋問が行われていた。
女の手首と足首は厳重に拘束され、逃げる事が出来ないように縛り付けてある。
「この国を騒がせた連続失踪事件の主犯、『テレシアの笛吹き男』の犯人が……まさか女だったなんてな。ハッ、こりゃ見つからない訳だ」
「あらぁ~、そんな名前で呼ばれてるの?それは光栄だこと」
「ふざけんなっ!連れ去った女達を何処へやった?」
─────ぎろり
ナイトハルトが憎しみを込めて女を睨むと、何がおかしいのかケタケタと笑って答えた。
「アハハ、察しは付いてるんでしょ?」
「何がだ?」
「あら、気が付かなかった?私の隠れ家の一階に─────出来たての作品があったでしょ?ほら、服とか、椅子とか」
「まさか───!」
女は自分のネックレスに目線を下げる。
「このネックレスもね、近くの町で攫った女の子から作った物なのよ」
「悪魔!お前の下らない欲望のせいで一体どれだけの人が苦しんだと思っていやがる!」
「あら、失礼しちゃうわ。私はちょっぴり自分に正直に生きてるだけよ―――ウフフ、若い女の子って、滑らかな肌も、丸みを帯びた骨も、とっても使い勝手が良くってねぇ」
怒りに奮えるナイトハルトは、唇を切りそうになりながら叫んだ。
「だまれ外道!お前のような邪悪、見たことがねえ!」
「勝手に貴方の価値観が正義だなんて言われても困るんだけど。何が正しくて、何がいけないかだなんて、私達が決めることじゃないでしょ?」
「この糞女っ……」
「それよりも不思議だったのよね~。貴方、私が犯人だと……どうやって見当を付けたのかしら?誰とも揉め事を起こさないように、巧く擬態してたつもりなんだけど……ねえ、誰かに聞いたのぉ?」
「……」
「答えてくれないのー?いいじゃない、冥途の土産に教えてくれても」
「だまれ!口を開けなくしてやろうか!」
「まあいいわ。どうせ町の誰かでしょ?独り身の女が田舎町でひっそり暮らしていると、良からぬ噂を立てる連中も出てくるのよね~」
―――ナイトハルト。騎士、ナイトハルト!どこにいるんだ?
「あら、上が騒がしいわね……貴方のお仲間が来たようよ?」
「……悪しき魔女め。今まで殺された女の魂が、必ずお前を冥界に引きずり込む。いずれ降る、神の裁きを震えて待つんだな」
「フフフ、アハハ、アハハハハハハハ!!」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
―――コンコンッ
男が薬屋のドアをノックすると……美人と評判の女主人が、優雅に微笑んで出迎えた。
「こんばんはイメルダさん!夜分遅くに、すいませんなぁ」
「あら、騎士団長のドノバンさんじゃないですか。こんな町はずれの薬屋に何か御用?」
「ええ。実は私、とある事件を追っていまして―――ほら、例の『テレシアの笛吹き男』ですよ。女ばかりを狙うっていう。先日この辺りを調査していた騎士の一人まで行方不明になりましてね……目下、調査中でして」
「まあ、怖い!それは大変ですねぇ」
「アンジェリカ=ナイトハルト―――お転婆な、ナイトハルト家の三女でしてな。赤みがかった髪の、勝気な目をした若い女性なのですが……この辺でお見かけした事はありませんか?」
「残念ながら、分からないわぁ。お力になれなくてごめんなさいねぇ」
「そ、そんな!頭を上げて下さい。そうですか。あやつめ、凶悪犯の餌食になってなければ良いが……ああ、失礼。では、貴方も十分に気を付けて下さいね。不審な事があれば、すぐ近くの衛兵に相談して下さい」
「分かりましたわ。ご親切にどうも」
馬に飛び乗り、隣町へ捜索に向かう騎士を見ながら、イメルダはそっと扉を閉じた。
足取り軽やかに―――暗い地下へと降りていくその手には、愛用の肉切り包丁が鈍く光る。
「この町もそろそろ潮時ね……ウフフ」
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今年もよろしくお願いします_(._.)_