55.最強。
事故で死んでしまった僕の魂をつまみ上げ、神様は言った。
「若くして死ぬなんて勿体無い……良ければ私が作った新たな世界へ行ってみないかい?今なら望む力を授けてあげるよ」
その言葉を受け、しばし考えた後、僕は答えた。
「あの、例えばですけど……『転移した異世界で一番強い男』とかでも、大丈夫ですか?」
───ざわざわ
僕が現れた途端、冒険者ギルドが喧騒に包まれる。
「嘘……あいつが担いでるの……ヘルファングでしょ?」
「とんでもないルーキーが現れたもんだぜ」
「こないだ、あいつに絡んだCランク冒険者が痛い目を見たらしい。どう見ても普通のガキにしか見えないんだが……人は見かけによらないな」
この星に転移して数日、思う存分異世界生活を満喫してきた。
それも、神様にあの願いを叶えてもらった恩恵だ。
そのお陰で、魔物が蔓延るこの異世界を、実に安全に生きていく事が出来るのだ。
最強……本当にチート能力だな。異世界での冒険も楽勝になってしまった。
冒険者ギルドに登録する前の頃が懐かしい。
最初は貧弱そうな僕を見て、面白おかしく絡んでくる冒険者の男達がいたが、僕を相手取るとまるで動きが鈍くなり、パンチ一発で倒せてしまった。その様子を見て掴みかかってきた熟練の冒険者達もいたが、全く僕の相手にはならない。
驚いた受付嬢が僕のステータスを確認してきたが……同年代の子どもにも劣る程だと不思議がっていた。
神様のやる事はよく分からないが、『実力を隠しているのだ』と周囲の冒険者達が勝手に思うようになってくれたので都合が良かった。
村の女性をさらうゴブリンの撲滅。
農耕地に現れたキラービーの討伐。
人里に下りてきたブラッディグリズリー退治。
短い期間に、立て続けに大きな事件に巻き込まれたが………僕の相手になる奴はいない。
特に、ブラッディグリズリーはB級冒険者が集団で討伐するらしいが、僕の腹パン一発で地に伏した。
自分より強そうな存在を、ことごとく打倒する。なんて気持ちが良いんだ!
僕は確信した。この世界に、僕に敵う存在はいないのだと。
───それから一か月。
すっかりこの町の実力者として名を馳せた僕は、異例の速さでD級冒険者になり、ソロで快進撃を続けていた。
そんな中、とある依頼が舞い込んでくる。
「え?合同討伐ですか?」
「そうだ。君に、他の冒険者パーティと共に人喰いオーガの住処を叩いて欲しいんだ」
オーガ……単独でも脅威度Cランクに相当する魔物が発見されたという。
僕には楽勝の相手だが、件の冒険者達の保険として、是非同行して欲しいとの事だった。
「分かりました。それ位なら引き受けますよ」
「おお、ありがたい!そう言ってくれると思ったよ」
二つ返事で快諾した後、同行するパーティに合流する。
Cランク冒険者が五人。これは、僕の出番は無さそうだな。
─────
「くっ!もう矢が尽きたっ」
「ハァ、ハァ、糞、キリがねェ、どっからこんなに湧いてきやがったんだ!」
「ゴブリンのスタンピード。これ、もしかすると……人喰いオーガが指揮していると思われ、げふ……」
「しゃべるなヨーゼフ。逃げろって!」
安全な討伐だと思われた依頼だったが……とんでもない事態になった。
なんと、拠点とされていた穴倉には、ゴブリン、ホブゴブリン共が一緒に生活していて、そうとは知らずに住処に入った僕達に襲い掛かってきたのだ。
「す、すまねえなアンタ。俺が先行しなければ……」
パーティリーダーが謝ってくる。
倒してもキリが無いゴブリンの群れ、ケガを負った仲間、絶望的な状況だ。
もうここで、自分達の命運が尽きそうだと思っているんだろう。
だが、そんな心配はいらない。
「大丈夫ですよ。皆さん、僕が殿を務めます!ケガした仲間を連れて、急いで救援を呼んで来てください!」
「「な!!」」
僕が微笑んで言い放つと、彼らは口々に反対した。
「危険だ!」
「無謀過ぎる!蛮勇だ!」
玉砕するなら、いっそ皆で抗おう……そう提案する皆を尻目に、僕は足を止めた。
もうすんでの所まで追いかけてきたゴブリンの群れがあっという間に僕を取り囲む。
「ああ、何てこと……」
「アンタっ!無茶だ!」
悲観した顔で僕を見つめる冒険者達。
そんな中、ニタニタと僕を取り囲むゴブリンの一体が襲い掛かって来た。
「GIYAAAAAAAAAA!!」
手に持ったこん棒で殴り掛かって来るが……全く痛くない。
その様子をみた他の連中が一斉に襲い掛かって来るものの……ダメージらしいダメージは一切無かった。僕はゴブリンの一体を頭を掴むと、力に任せて思い切り地面にたたきつける。反撃開始だ。
「皆さん!僕は平気です!急いでケガ人を連れて町に戻って下さい!」
「だが……」
「大丈夫です。無理そうなら僕も機を見て離脱します。早くっ!」
そうこうしている内に、森の奥から一際大きな魔物……件の人喰いオーガが現れる。
それを見た冒険者チームは、申し訳なさそうな顔を僕に向け、謝りながら森を抜けていった。
「JIRAAAAAAAAAA!!」
それにしても……オーガ。馬鹿デカい魔物だ。
体長3メートル近い大柄な化け物が、僕を見て喉を鳴らしている。僕を食べようと思っているんだろう。
だが、恐怖は感じない。
未だにポカスカ殴り、蹴り、頭に齧りついて来るゴブリンを見るに……僕の体は相当強くなっているに違いないのだ。これならば……何を相手にしても負ける気はしない。
ゴブリンを押しのけ、オーガは手に持った金棒を僕の頭目掛けて叩き下ろしてきた。
僕は、無駄だとばかりにそれを払いのけようと……。
─────
───ずるずる、ずるずる
頭を砕かれて血まみれの死体を引きずり、魔物達は住処へと帰って行く。
「GIYOYO(姐さん、さすがっス!)」
「GIYOYOYO(俺達が歯も立たなかったニンゲン相手に凄いっス!)」
口々に褒めそやすゴブリン達に、そっけなくオーガは言った。
「JIRAA?JIRAAAAAAAA(そうかい?大したニンゲンにも思えなかったがねェ)」
神様「ふむ……(♂と戦う時に強力なデバフ与える能力……とかでいいか)」




