5.竜殺しの剣。
『竜』の名の付くものを全て殺す。
とある星、とある国の物語。
黒髪黒目に鋭い三白眼の冒険者の男がいた。
地球からの転生者であった彼は、壮絶な冒険の末に『竜殺しの剣』を手に入れる。
秘境の奥地、火山の一帯を守護する炎の精霊王から授かった、幻の剣『竜殺し』。
『炎の加護を受けた刃は竜の息吹から身を守り、一太刀でも傷を付ければどんな竜をも打ち滅ぼす』
『竜殺しの剣』を手に入れた男に、一つの依頼が入った。
「我が国の鉱山にドラゴンが住み着いた。このままでは国益が損なわれるので、討伐を願う」
国からの直々の依頼を男はすぐさま了承した。
『竜殺しの剣』の性能を試すちょうど良い機会だと思ったのだ。
国から派遣された騎士を連れて鉱山に行くと、大きな咆哮と共に大きな竜が現れた。
全長は軽く30メートルは超えるだろう竜。その体表は赤く分厚い。その大きさから、いわゆる長年生き続けた古龍種である事が伺えた。
上空から降ってきた怪物に、多くの騎士が吹き飛ばされて宙を舞った。ある者はその鋭い爪で切り裂かれ、またある者は高熱のブレスで灰となった。これが竜か、と圧倒的な力に男は肝が冷えた。
だが、男はくじけなかった。騎士に指示を出し、翼を集中的に狙う。
空からの攻撃を防げばまだ反撃のチャンスがある。長時間の戦闘で右の翼を傷付けると、竜は空から降り立ち、こちらに向かって攻撃してきた。
竜が息吹を浴びせてくる。だがしかし、『竜殺しの剣』のお陰で男にはやけど一つつかない。
これを好機と見た男が一気に攻撃を浴びせかけると、みるみるうちに竜が弱っていく。
さすがは『竜殺しの剣』……。男は油断なく竜を切り続け、死闘の末、ついに竜を打倒した。
周囲の騎士達が歓声を挙げる。男はそれに答えると、ゆっくりと『竜殺しの剣』を剣に収め……
「冒険者殿!やりましたなあ!こりゃあ叙勲も夢ではありますまい!」
急に後ろから肩を叩かれた。
手元が狂い、鞘に剣をしまう際に少し左手を刃で傷付けてしまう。
すると、傷口からまるで猛毒が体内に入ったかのように、男の体は痙攣を始めた。
左手が沸騰したように真っ赤に染まり出す。
─────痛い痛い!体が溶ける、溶けてしまう!
左手から血が噴き出し、いくら手で押さえても止まる様子がない。
それどころか、傷口が次第に溶け出してきた。
「あ、あああ、お、おぼぼぼぼぼぼ」
喀血した男はその場に倒れ込む。気分が悪い。頭が割れんばかりに痛む。
異変に気付いた騎士の一人が、持っていたポーションを振りかけるが、全く効果が現れない。
なぜだ……次第に体が硬直し、男は何も考えられなくなった。
そして、そのまま男は死んだ。
──────────
その後、男の遺体は救国の英雄として丁重に葬られる事となった。
最後までその死因は謎だったが、竜から受けた呪いによるものだ、という話に収まる。
そして、国内にある墓場に男の名が刻まれた。
─────タツミ リュウジ【辰巳 竜司】ここに眠る。