49.性格判断【RPG風】。
某有名ゲームをモチーフにしています。
目覚めると、私は切り立った崖の前にいた。
対岸には、見事な滝が流れている。涼し気な風が私の体を吹き抜けていく。
私は……なぜこんな場所にいる?
自分が何者なのかははっきり分かっている。
日がな一日をのんびり楽しく生きている、どこにでもいる日本人のオッサンだ。
だが、この場所にどうやって来たのか、今朝からの記憶が全くない。
私が戸惑っている最中、その声は空から聞こえて来た。
─────もし……もし……私の声が聞こえますか?
声の主には全く聞き覚えが無いが、非常に澄んだ……どこか人間離れした声が聞こえる。
─────私は、直接あなたの頭に語りかけています……大丈夫。自分に何が起こったのか、覚えていないのでしょう?
どうやら、この人には私の事情が分かっているようだった。
ここはどこだ?私は一体どうなったのだ?
そう質問をしようとした所、声の主はこう言った。
─────何も心配なさる事はありません。
私があなたをここにお連れしたのは……これから私が問いかける質問に、正直に答えて頂きたいだけなのです。
質問?
─────はい、あなたは選ばれたのです。
お答え頂ければ、あなたがここに来た理由もお分かりになるでしょう。そして、元の世界へお送りいたしましょう。
元の世界へ送る?貴方が私をここへ……?
そんな疑問を介することなく、声の主は私に問いかけた。
─────さあ、私の質問に正直に答えるのです。準備はいいですか?
はい
いいえ
!?
頭の中に、突然選択肢が浮かんできた。
これに沿って選べという事なのか。
……まあ良いか。
➨はい
いいえ
─────あなたの名前と性別を教えて下さい。
➨ヤマダ ツトム
➨男
─────ツトム……あなたには、命に代えても守りたいものがありますか?
➨はい
いいえ
─────困っている人を見ると、あなたは何をおいても助けに行きますか?
➨はい
いいえ
─────やむを得ない理由があれば、失敗を誰かのせいにしていいと思いますか?
はい
➨いいえ
─────道で石につまずいて転びました。転んだのは石のせいではなくて自分のせいだと思いますか?
➨はい
いいえ
─────あなたはこれまで、大きな失敗をした経験がありますか?
はい
➨いいえ
─────あなたは嘘で人を傷付けた事がありますか?
はい
➨いいえ
ぶつけられた質問の数々に、私は少し動揺しながら答えていく。
他にも、様々な質問がなされて……ついにその時がきた。
─────それでは最後の質問です。
……正しい道理から外れてしまった事は、何があっても正されるべきだと思いますか?
➨はい
いいえ
悩んでから答えると、しばしの逡巡があった。
本当に、この質問に何の意味があるのだ?そう思っていると、
─────ヤマダ ツトム、あなたがどういう人間なのか、知る事が出来ました。
ご協力感謝いたします。
それでは、あなたを元の世界へお連れ致しましょう。
そう声の主が言うと、目の前が急に真っ暗闇に包まれた。
体が動かず、何も聞こえない。
まるで、かなしばりにあったような感覚だった。
声も出せず、しばらくそのまま立ち尽くしていると、視界が急に開け出してきて─────
目を覚ますと、私は無事に元の世界へ戻っていた。
そして……意識が徐々にはっきりしてくると、自分が今置かれた状況を理解して顔が真っ青になった。
なぜなら─────私が今立っている場所は……。
「皆さん、スクリーンに映った問答をご覧になっていただけたでしょうか?」
「最新式のVRシステムによる、被告人への質問を見て頂きました。アメリカでは既に実働されていますが、対象者に『専用ヘッドギア』を装着。脳に特殊な音波を流すことで、こちらの質問に答えて頂く事が出来るのです」
「山田勉さんは皆さんもご存じの通り、都内でも有名な政治家であります。ですが昨年、ご自身の汚職を秘書に押し付け、自殺に追い込んだ……として遺族から訴えを起こされていました。『やむを得ない理由があれば、失敗を誰かのせいにしていいと思いますか?』」
「あなたほどの社会的地位があるならば、何をしても許されるのでしょう。『困ってる人は何をおいても助けてしまう』のですか……聡明な貴方は事務所で遺体を見つけるなり、救急車を呼ぶより先に自分の保身に走られたようですが」
「裁判長。本件の自殺には山田氏が関係しているという証拠は数多く出揃っているのに、具体的な調査がなぜか遅れています。VRを用いた本実験が、どこまで役に立つかは分かりません。ですが……山田氏は自分に関わる人物が死んでいるのに、『大きな失敗をしたことが無い』と答える人物です……少なくとも、この場にいる人々は皆、氏の言動に対して疑念を抱かれたのではないかと思います」
裁判長は……軽蔑したように私を見つめていた。
新作の短編書いてるんで、GWの暇つぶしにどうぞ。




