47.若者よ。
僕の名前は佐伯雄介。普通の高校生だ。
ある日……部活仲間と学校から帰る道中、突然通り魔が現れた。
信じられる?この平和な日本で通り魔だよ?
僕は包丁を振り回して襲ってきた通り魔から友達をかばって……胸を刺されて死んじゃった。
何という悲運、こんなのあんまりだ!
─────でも幸運な事に、魂だけが残った僕を救ってくれた存在がいた。
白髪に威厳ある白い髭を携えた老人、神様だ。
『若い身空で可哀想に……。ううむ、君のように勇敢な若者がこんな所で死ぬとは勿体ない』
『どうじゃろう?さすがに現世に生き返らせる事は出来ぬが……新たな世界で、その力を試してみるというのは』
神様はそう言って、僕に新たな人生を歩むチャンスをくれたのだ。
いわゆる、異世界転生というものらしい。
友達をかばって死んだ哀れな僕に、別の世界で二度目の人生を歩ませてくれるというのだ。
僕は……正直元の世界への未練から、何とか生き返らせては貰えないかお願いした。
だが、駄目だった。どうしても僕はここで死ぬ運命だったのだと神様は答える。
僕は泣いた。愛する家族、仲の良い友達、その全てと別れなければならない事実にただただ泣いた。
神様は、申し訳なさそうな顔で僕を慰めた。
そして……ひとしきり泣いた後、どうにもならない事を悟った僕は決断した。
「分かりました。ありがたく、お受けいたします」
『おお、そうか。つらい中、よう決断した!君の行く新たな世界はとある女神が管理している。紹介しよう』
そう言って神様が呼んだのは、何とも見目麗しい女神様だった。
『初めましてサエキさん。私はこことは遠く離れた西の星々を管理する女神。よろしくお願いしますね』
長く美しい銀髪をした女神は、瞳を涙で潤ませながら僕の手を取ると、
『こんな事になるなんて、何て運命とは残酷なものなのでしょう……。あなたのような才気ある若者が、こんなに早く天に召されてしまうなんて!』
『……慰めになるかは分かりませんが、私の世界はとても住みよい、良い所です。あなたの住んでいた所と変わらぬように。歓迎いたしますわ、サエキ=ユウスケさん』
慈愛のこもった抱擁を受け、僕は気恥ずかしさでいっぱいだった。
「で、では……お世話になります。神様、僕を見つけて下さってありがとうございました」
『いや、君には済まない事をした。新たな世界で天寿を全うするとよかろう。さらばじゃ』
こうして僕は女神様にいざなわれ、異世界への扉を開いたのだった。
───────────────
『これで……良かったかの?』
儂はチラリと隣で微笑む女神の顔色を窺った。
『ええ、よく説得して下さいました!あの子の魂の輝きを見ましたか?……実に素晴らしい光の魔力に溢れていますわね!』
『じゃからと言って……未来ある若者の魂を強引に連れ去っていくというのは……』
『平和な場所で一生を終えるなど、つまらないじゃないですか』
ワケが分からないとばかりにキョトンとする女神を見て、儂は身の毛がよだつ思いがした。
分かっていた事だが……この女神はヤバい。
見た目こそ麗しいものの、コイツは頭のネジが何本も抜けている、危険な戦神なのだ。
自分が見初めた男を……強引に自分の元へ連れ去って行ってしまう。
そもそも……あの少年は、あそこで死ぬはずではなかった。通り魔など、現れる予定も無かった。
人生を悲観した男に声をかけ、自分の管理する星で悠々自適に転生するというエサを与えた。
この女神は、通り魔を自らの手で仕立て上げたのだ。
『自分が死んだと納得すれば、諦めもつくでしょう?』
おしとやかに、花のように可憐に微笑む女神を見て、思わずゾッとする。
『全く、お前という奴は……』
『あら?昔、そんな女神にコナをかけたのは誰でしたっけ?……奥方に言いつけても良いのですよ?』
『……うぐっ』
すまん、若者よ。達者でな。




