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43.とある天才の栄光。

─────国立アンクラフト工科大学。



 国でも有数な頭脳を持つ者しか入学を許されぬ学び舎であり、あらゆる科学の分野を研究、開発している国家の特別機関でもある。



 だが、その中でもこの私、ヘルマン・ミュンヒハウゼン教授は百年に一人の天才だ。



「……であるからして、かの偉大な学者グスコーは、あくまで人体を一つの容器として捉える事で全く別の実験結果をもたらした。完璧なリバース・エイジング(不老不死)は不可能だが、それに近い状態に近づける事が現代でも可能となった訳だ」



 科学分野の全てを修め、日々研究に励むこの大学の名誉教授。

 数々の発明を成し、優れた研究によって世界に名を轟かせる、優秀な頭脳の持ち主。

 こうして教壇に立ち、後進育成にも力を注ぐ傑物。

 それが私、ヘルマン・ミュンヒハウゼンである。



「人間は脆い生き物だが、かつてのグスコーが示した可能性は私が実現した。私を含めた多くの学者が今も研究を引き続き行っている。生徒の皆も各々が専攻した分野を極め、将来はこの国の発展に尽くしてもらいたいな」



 そう締めくくり、本日の講義『現代生命論』を終える。

 私の授業を拝聴した者達は幸せだろう。何せ、人類の進歩に貢献した男の講義だ。

 さて、もうすぐ終業のチャイムが鳴る、研究室に戻ろう……そう思っていると、




「ヘルマン先生!質問宜しいでしょうか!」




 珍しく、生徒の一人が私に問いかけて来た。




「何だ─────君、名前は?」

「リディ=オルキスです!先生、先ほどの実験の事で質問があるのですが」

「実験……リバース・エイジングか」

「はい!先生のおっしゃった不老不死の研究は素晴らしいものだと思います!僕も非常に感銘を受けました。ですが、先生の研究は倫理観、守られるべき人類共通の規範を遥かに逸脱している事を指摘されています。実際、一部の学者は先生の研究を否定されていますし」

「何を馬鹿な……良いかね、リディ君。誰しも人は最後に『死にたくない』と願う。不死は昔から学者にとって永遠の研究テーマなのは君も分かっているはずだろう?我々は、神でも聖職者でも無いのだから、生命の神秘を追求する事に忌避を抱くのは全くのナンセンス。時間の無駄だな」




 やれやれ……まだ青い若者の考えというものは理解に苦しむ。

 倫理や社会規範を考えて研究など出来るはずがない。

 そもそも現代の常識は、全て過去の先人が研究・実験し、数多くの失敗を元に生み出されたものだ。

 失敗を怖がっていては何も始まらない。



 私はリディ=オルキスと名乗る生徒に憐みの言葉をかけた。すると、



「なるほど、そうですね。ありがとうございました」


─────リディ生徒はそう言って、手にしたリモコンのような機械のスイッチを押す。


 すると、私は……急に何だか目の前がぼやけ、視界が真っ暗に変わっていくのを感じた。












───────────────













 終業チャイムが鳴り、『()()生命論』の講義は終わった。


「おーい、リディ君。確か君、今日の講義の補佐当番だったよな?済まないが、教材を教具室に運んでおいてくれないか?」


 次の授業のマイリ―先生が声を掛けてきた。


「分かりました」


 僕はそう返事すると、ゴム手袋をはめ、特殊な溶液に浸かっていたソレから電極を外し、別の容器に移す。




 ソレ─────ヘルマン教授の脳を。








 ヘルマン・ミュンヒハウゼンは稀代の天才だ。

 遺伝子の研究を始めとして、数多くの分野で様々な功績を遺した科学者。生命科学の父とされ、国立アンクラフト工科大学の名誉教授となった人物。


 勿論この僕、リディ=オルキスだって尊敬している。偉大な先生ではある。

 ─────だが、彼は今は昔……200年以上前の過去の科学者なのだ。




 先生のリバース・エイジングの研究は『人の脳を休眠状態のまま取り出し、意思疎通を可能にさせる』というマウス実験を成功させた。

 ヘルマン曰く、「究極の不老不死の形」なのだという。

 そして後年、末期の癌に侵された彼は人体実験に自分の体を用いた。


 


 教授の理論は完璧だった。思考回路に問題は無く、生前の人物と同じように意思疎通の出来る体になったが……そこには大きな誤算があった。



 彼の脳は肉体から離れ、大きく時間が経過するうちに……ひらめきを司る脳の働きが抑制され、新しい発想を生み出す事が出来なくなったのだ。

 また、かつての思考回路を脳が基本なベースとしているので、柔軟な思考をも取れなくなった。今でいう、頑固おやじのようなものに。

 つまり……今の先生は科学の発展に置いて行かれた無用の長物、ただのデータベースになってしまったのだ。






 その後、先生の研究は倫理的な問題が国際的に危険視されて凍結。

 一部を除いて全ての研究が条約によって廃止された今、先生はその事も理解出来ずに淡々と自分の役目を長年に渡って務めている。


 『近代生命論➀』第三講義、【生命科学の発展と犠牲~現代に至る歴史~】

 ただの教材─────反面教師として。

新作投稿していますので、宜しければそちらもお願いします('ω')ノ


現在、改稿作業&新たな作品に取り組んでいるので、次回更新が遅れます。少しお待ち下さいね。


ここまでお読み下さり、ありがとうございました!

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