38.選ばれし者。
ブクマ100突破致しました!
応援ありがとうございます。
俺の名前は桑田信也。都内に一人で住んでいる大学生だ。
といっても、実家の仕送りだけでは暮らしていけないので、学校が終わった後は居酒屋で働いている。
ある日の夜。
いつものようにバイトを終えると、クタクタの状態で自宅のアパートに帰って来た。
「ただいま」
同居人に声を掛けると、昼ご飯を抜いて腹ペコだった俺は早速キッチンに入った。
買ってきた大好物の唐揚げを電子レンジでチン。マグロの刺身を皿に移す。
さあ、夕飯だ。箸を手に白飯をかっ込もうとした瞬間。
─────突然、四畳半の畳の上に奇怪な魔法陣が浮かび上がった。
部屋一面が眩しい光に包まれたかと思ったら、次第に謎の酩酊感が俺を襲った。
壁が歪み、畳が捻じ曲がっていく。
アパートの部屋が歪曲し、グニャグニャと周囲の景色が変わっていく。
そして、次に目を開くと……。
「……一体ここはどこだ?」
俺は住み慣れたアパートの一室から、見慣れぬ草むらに突っ立っていたのだった。
周囲は雑木林に囲われていて、辺りに建物は見えない。
だが、空の彼方に輝く赤と青、二つの月がここは地球では無い事を示していた。
「何が起こった……俺は一体どうしたっていうんだ?」
携帯電話も無く、ライターや懐中電灯等の役立つ道具も無い。
全部あの部屋だ。完全な手ぶら状態。
自分に襲い掛かったこの奇妙な現象も不可解だが、この場所に留まっていても仕方が無い。
ここがどこなのかも分からないが、早く人が住んでいる場所を……民家を探さなくては。
そう思い、辺りの様子を伺っていると
─────パカラッパカラッパカラッ
何か……こちらに駆けてくるのが見えた。
馬だ。何者かが馬に乗っている。
誰かは分からないが、馬に乗った人物は俺に気付くと、草むらをかぎ分けてゆっくりと近づいて来た。
馬から降りたのは、全身鎧で身を固めた男だった。
男は、片膝をつき、恭しく俺に向かって挨拶する。
「失礼致します!私はペリシアーノ王国からやってまいりました騎士団長、カッツェと申します。突然の事態に戸惑っておられる事と思います。どうか、私の話をお聞き下さい」
「実は……我が国は今、恐ろしい魔王に攻められ、危機が迫っています。そこで王国に伝わる『勇者召喚の儀』を執り行った所、異世界から現れたのが貴方様なのです」
「申し訳ございません!勝手に私達の事情に巻き込んでしまい……ですが、どうか……私達の国をお救い下さい。そして……このペリシアーノ王国に平和を……」
開いた口が塞がらなかった。
勇者。ふざけてるのか?
俺は平和な日本で、真面目に学生をやっていたんだ。それが……勇者だって?迷惑にも程がある。
国の存亡の為に必死なのかもしれないが、俺には全く関係のない話。
こっちにだって生活があるんだ。それに来期の学費も稼がなきゃいけない。
無関係の人間を巻き込むな。
頭にきた俺は、目の前の騎士に文句を言った。
「……ふざけるなよ!勝手な事言いやがって。誰がお前の言う事をきくものか!」
すると、目の前の騎士はこう言った。
「ハァ?……誰がお前みたいな猿に頼むと言った?下がれ、無礼者め!私はそこにおられるお方にお願い申し上げているのだ!」
兜を脱いだ騎士を見て、俺は仰天した。
ぴょこんと突き出た耳。
ビー玉みたいなつぶらな瞳。
そして、かわいらしく左右に生やした3本のヒゲ。
猫。
俺が人だと思っていた騎士は、鎧を着た猫人間だったのだ。
まてよ……じゃあ勇者って……まさか!!
その足元には、俺と同じように驚愕し、ムンクのポーズで固まった俺の愛猫コジローがプルプルと震えていた。
「ニャニャンッ(僕が勇者?)」
俺はただ、同居人に巻き込まれただけだったようだ。
再び猫話。ペリシアーノもカッツェも海外の猫の呼び方です。
しばらくはこれまでの話を改稿しながら投稿していきます。
次回も金曜日に投稿出来ればと思っています。
追記。
まさかここに来てブクマ100頂けると思ってませんでしたので、驚きました。
思わず小躍りしました(笑)。
本作は一度春先に終わらせていたのですが、応援下さる読者様が増えて素直に感動しています。
これからもマイペースに取り組みますので、今後もよろしくお願いします_(._.)_