35.私はギルドの受付嬢。
私、トリシャ=リムは冒険者ギルドの受付嬢です!
この仕事を初めたのは今年の初め。まだまだ新人で失敗も多いのですが、なかなかやりがいのある仕事だと思います。
膨大な依頼の事務処理に始まって、依頼人との折衝、冒険者へのアドバイスや直接依頼、資格取得への試験準備……おまけに荒くれ者への対処。最初の一か月は本当に大変でした。
国が運営する機関ですので給金は良く、また程よくお休みを頂けるのでギルドの職員はかなりの人気職業なんです。
毎年多くの受験者がいる中で、たまたま受かった私は相当運が良い方でしょう。
「おはよートリシャー。昨日はお仕事手伝ってくれてありがとー」
「おはようトリシャ。今日も早いのね。感心だわ」
私の隣には、先輩受付嬢のミランダさんとマーシャさんがそれぞれの席に着きます。
ミランダさんは綺麗な赤毛をした褐色肌の美人さんです。
エキゾチックな大人の魅力を持った方ですが、少しズボラな性格なのが玉に瑕ですね。
マーシャさんはふんわりとした栗毛の髪がきれいなお姉さんです。
美人で、全体的にスタイルが良く、おまけに仕事も出来るまさに私達『働く女性』の理想でしょう。
ギルドに顔を出す冒険者のほとんどがマーシャさんとお近づきになりたいと思っている位です。
「ミランダさん、マーシャさん、おはようございます!」
「トリシャー、昨日はごめんねー。お詫びに今晩はゴハン奢るから」
「全く……。ミランダ、貴方の方が先輩なんだから、もっと先輩らしくしないといけないわよ!トリシャを見習いなさい。あ……!寝癖も付いてるじゃない!」
「う、嘘!ちょ、ちょっと直してくるー!!」
「……クスッ」
毎朝のドタバタした光景。
あまり褒められた行動ではないのかもしれないが、私はこの二人のやりとりのお陰で、リラックスして仕事に向かう事が出来ています。
失敗し、クヨクヨ悩んでいた時、この二人の励ましもあって何とかここまでやってこれました。
私もいつか後輩が出来たら、お二人と同じように優しく、丁寧に迎え入れてあげようと思っているんです!
さあ、これから朝一番、冒険者ギルドが開きます。
今日も冒険者とのお仕事をこなし、早く一人前の受付嬢になりたい。
そんな思いを胸に、私は本日最初のお客様に笑顔で挨拶をしました。
「ようこそ、冒険者ギルドへ!本日はどういったご用件でしょうか?」
すると、目の前のお客様は私を見ると、
「ぐふふふ、ひひ、ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」
焦点の合っていない瞳を大きく開き、握っていた袋に『点火』の魔法を放ちました。
冒険者ギルド内に、凄まじい光が満ち、そして収束していきます。
「トリシャ逃げて!!」マーシャさんが悲鳴を上げました。
「どうしたマーシャ!?」ミランダさんが驚いてトイレから帰って来ます。
そして……。
――国立魔導学院【ギルド職員育成コース】――
「……これが有名な『トレロ地区・冒険者ギルド爆破事件』の全容です。この爆破で、犯人と共に当時受付嬢をしていたトリシャ=リムが犠牲となりました。また生存者の多くに後遺症が残り、今でも入院されている方がいるのです」
講師の無情な言葉に、生徒は顔色を悪くするばかりだった。
生徒の一人が、おずおずと手を挙げて質問する。
「先生……その……襲撃犯の目的は何だったのですか?」
「……犯人は薬物中毒だった事が後に分かっています。よその町で冒険者をしていたそうですが、夢破れてトレロ地区に。人生を悲観し、誰かを道連れに死にたかったようですね」
「そんな……そんな事で……」
講師は教本を手に、生徒へ呼びかける。
「今では、各ギルドに警備として衛兵が付くようになり、持ち込まれる魔道具の鑑定は別窓口で行われます。引退した実力あるパーティを指名し、任地の護衛として雇う事も可能です。もう二度と同じような悲劇は起きないでしょう」
「ですが、最後に頼れるものは自分だという事を覚えておきなさい。どんな仕事にも不意の事故や危険は存在します。勿論、冒険者ギルドであっても例外ではありません。そこを自覚し、最後まで職務を全うするのですよ。20年前に起きた事件はその教訓なのです」
「「はい、先生」」




