34.占い。
マダム・ミランダは全米で有名な占い師。
その占いはよく当たると評判で、どこに行くにも占いの依頼が絶える事が無いほどだ。
今日もマダムの元には男女問わず多くのお客がやって来る。
「初めましてマダム、今日はお日柄もよく……」
上品なイタリア製のスーツを着こなすジェントルマン。
「是非とも彼と私の将来を占って頂きたいんですの!」
髪を短いポニーにくくった可愛らしい淑女。
「実は来月、友人とコンサートを開く予定でして……」
ヴァイオリンを大事そうに抱える作曲家。
「叔父が新しく事業を起こそうとしているのですが、上手くいくでしょうか?」
不安そうにハンカチを握り締める妙齢の女性。
お客は途絶える事は無く、マダムは得意の水晶占いで大勢の男女を占った。
水晶に浮かぶ依頼人の未来を視て、望んだ形となるようにアドバイスをするのだ。
だが……今日は何かおかしい。
上手く未来を視る事が出来ないお客が数多くいた。
占おうとすると、水晶に真っ暗なもやがかかり、その先が全く見る事が出来なかった。
そうしたお客には申し訳ないが、頭を下げて依頼を丁重にお断りさせてもらったが。
こんな事態は占いの修行を始めてから前代未聞だった。
中にはきちんと占える人もいる。
年若い淑女や妙齢の婦人。また背伸びして恋占いにやって来た十代前半の女の子。
大半が女性客だったのだ。
男性客の中で未来が視えたのはごくわずか。
占いに関しては私にも分からない事が多い。
何の法則があるのだろう?
私の調子は悪くない。
体調もすこぶる良く、先ほどもディナーをお替りした位だ。
いくら考えてもこの不調の原因は判明しなかった。
突然の出来事に驚きを隠せないマダムだったが、占いの力が無くなった訳ではないと分かると安堵した。
これからマダムは海外での仕事を終え、母国であるアメリカへと帰る予定である。
それまではつかの間のバカンスをこの場所で過ごすのだ。
「寝付けないわね。少し甲板でワインを楽しみましょうか」
イギリスを出港した豪華客船は、ニューヨークへ向けて順調に航海を続けていた。
……氷山にぶつかるまでは。




