表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/73

29.さよなら3年2組。

 桜が舞い散る良き春の日。多くの学校では、卒業式が行われていた。

 3年間を過ごした校舎に別れを告げ、次の進路へと向かって歩み出す、記念の日。



 だが、都内に存在する荒涼中学校では、前代未聞の事件が起こっていた。

「消えたですって?3年2組の卒業生39名とそのクラスの担任が?」

「ええ、式場の準備が出来たので、教室に声を掛けようとしたんですが……」



─────生徒の集団失踪。おまけに担任まで。

 式の開始時刻。

 他の卒業生、在校生、保護者が着席する中、3年2組の生徒だけが姿形を消してしまったのだ。



「今、校長と教頭が警察と保護者に事情を説明してる所です!まるで煙のように、生徒の鞄はそのまま、机や椅子もそのままに誰もいなくってまして……」

「担任の権藤先生が連れ出してるとか?最後の思い出作りとか」

「あり得ないでしょ?こんな日に!」

「では、一体何が起こったんでしょう?保護者も騒ぎ出してます……もう警察沙汰になってますし、これから新聞社やテレビ局がやってくる可能性も……」




 理解が及ばない状況に、職員室が大きな騒ぎになっていると。




───ガララッ




「……すいません。卒業生の澤田です。卒業証書を受け取りに来ました」




 職員室の扉が開き、一人の男子生徒が現れた。






─────────






 男子生徒、澤田幸成は2年間、学校に来ていなかった不登校生徒だった。 

 原因はクラスメイトによる陰湿なイジメ。


 クラスのリーダーだった不良生徒の目に、たまたま留まってしまった。

 それだけで、澤田に対する攻撃は始まった。


 財布を取られ、暴力を振るわれる。

 筆記用具はボロボロに壊され、机に『死ね』を大量に書かれ。

 それに便乗した女子からは、『澤田キモい』『学校来るな』とヤジを飛ばされ。

 万引きを強要され、警察の厄介になった事もあった。

 イジメの事実を伝えた担任は、話も聞かずに加害生徒に迎合した。面倒事は御免だと、イジメを黙認。 

 

 親に迷惑をかけた事は数知れず。


─────ついに心折れた澤田は、学校に行くのを辞めた。











――————————————











 ある日。

 澤田が、いつものように部屋で不貞腐れたように眠っていた時。



 ……転機は、突然訪れた。



『もし……其方に……お願いしたい事があるのですが』

「だ、誰だ?」

『私はここから遠く離れた異世界の女神、レミリアと申します。私のお願いを聞いて下さいますか?』




 自分の部屋に、女神を名乗る美しい女が澤田の前に現れた。




 女神は語る。

 いわく、自分の管理する世界に魔王が現れ、自分を信奉する人間を滅ぼそうとしている事。

 いわく、このままでは、いずれ世界が魔王の手に落ちてしまう事。

 ……女神に協力し、混沌とした異世界を救って欲しいという事。



『魔王の侵攻は激しく、私にはもうほとんど力が残っていません……このような事、本当ならお願いするのもおこがましい事。ですが、一人でも多く魔王を打倒する人材が必要なのです。どうか……共に異世界に来て下さらないでしょうか?』


「……それって、一人でも多い方がいいんですよね?」


『はい』 


「分かりました。……残念ながら、私にはこの世界でやり残した事がございます。ですので、この星でも類まれな力を持った戦士達を紹介しますので、連れて行って下さい」


『まあ!そのような方々が!……ですが、本当に宜しいのですか?……正直な話、危険な旅路になりますよ。生きて帰ってこれないかもしれないのですよ』




 澤田は笑って答えた。




「ええ。一致団結し、集団で一つの任務を遂行する事に長けた奴らなんです。必ずやあなたの世界を救ってくれると思いますよ!」








─────








 卒業証書を受け取った澤田は、晴れやかな気分で職員室を出た。

 猛勉強の末、市外の高校へ進学する事が決まったのだ。ロクな思い出の無い場所にもう用はない。


 大騒ぎになっている体育館を通り過ぎ、足取り軽く澤田は帰って行った。






 異世界へ旅立った彼らは、結局帰って来る事は出来なかった。

もはや完全犯罪。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 平和になっていいんじゃね? 学校の隠蔽体質にはほとほと嫌気が差しますから。 [一言] こういう「もしも」が本当に起こったなら、興味深い案件になったでしょう。 自殺するほどではなくとも、小さ…
[良い点]  異世界の女神とチャンネルが合っちゃうなんて、魂とか精神が現し世から解離しつつあったのでしょうね。  Win-Winですよね飛ばされた連中以外の人達にとっては。  家族?  きっと碌なもん…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ