23.妖精の住む町。
多くの人々が暮らす町、マハラ。
あまり知られていない事だが、この土地には古くから、人には見えない小さな住人達が住んでいた。
─────深夜。
ふわふわと、ほのかな光と共にその小さな住人は姿を現す。
「こんやは、なにしてあそぶー?」
「おにごっこ!」
「もうあきちゃったー」
「ねえねえ、おもしろいこと、かんがえたんだけどさ」
小さな住人……妖精は、人々が寝静まる頃になると、集まり出して遊ぶのだ。
「こんやはさ、ニンゲンのおしごと、てつだってあげようよ!」
「ええ?ニンゲンの?なんでなんでー?」
「あさになったら、ぜったいにおどろくよ!」
「おもしろそう!やろうやろう!」
今夜も気まぐれから、妖精達は一軒の靴屋の前にやってきた。
「ねてるー?」
「くつやのおじさん、ぐっすりだねー」
「あたらしいくつ、つくってるとちゅうだよー」
「よーし、みんなでかんせいさせようか!」
─────とんてんかん!とんてんかん!
─────おじさんのくつ、とんてんかん!
─────とんてんかん、とんてんかん!ぽっからりーの、ぽん!
「「かんせいだー!」」
妖精達が手掛けた靴は、それはそれは見事な出来に仕上がった。
職人の手では実現出来ないような細かな作業、あつらえ方は熟練の職人もうなる程の出来栄えだった。
「あ、おひさまがのぼってきたぞー!」
「そろそろかえろう!もりにかえろう!」
「いそげー!」
「あ、まってー!」
翌朝、靴屋の主人は作業中だった靴が完成している事に驚いた。
さらにはその靴が今までにない、見事な一品に仕上がっていた事に二度驚いた。
妖精が手掛けた靴は名立たる貴族が購入し、そのお陰で靴屋の主人はたいそう儲ける事となった。
───その数日後、深夜。
ふわふわと、ほのかな光と共に妖精達は姿を現した。
「このあいだはたのしかったねー!」
「おじさん、よろこんでたねー」
「こんやも、にんげんのおしごと、おてつだいするー?」
「やろうやろう!おてつだいやろう!」
そして、とある一軒の家の前までやって来る。
「おじいちゃん、よくねむってるね」
「これ、もうすこしでかんせいだね。みんなでてつだおう!」
「よーし!」
「がんばるぞー!」
──────────
「「かんせいだー!」」
妖精達が手掛けたそれは、たいそう見事な出来に仕上がった。
その出来に満足した妖精達は、家主のおじいさんの喜ぶ顔を思い浮かべ、住処の森へと帰って行った。
そして……。
─────その三日後。
「なあ、聞いたか?今朝、クリムト爺さんが首を吊って死んじまったんだってさ」
「クリムト爺さんって、昔から一人で絵ばっか描いてる人だろ?何でまた」
「それが……謎なんだよ。あの人、何年も前から人生最後の傑作を描くって、息巻いてたんだけど……」
「納得のいく作品が出来なかったとか?」
「いや!そうじゃないんだ。爺さんの遺体の傍に、とんでもなく素晴らしい作品が出来上がってたそうなんだ!でもよ、完成した絵を見るなり、『これは私の作品ではない!』って大騒ぎし始めて……。今、爺さんの葬儀とその絵の扱いをどうするか、話し合ってるらしい」
「ますます訳がわからねえな……芸術家ってやつは。なんで死んじまうんだか」
「さあな……」
その後、クリムトが描いた大作『夜の蝶』は、宮廷に献上され、国でも有数の絵画として名を馳せるようになった。
特に、仕上げに描かれたとされる【月に浮かび上がる幻想的な蝶】の美しさは、これまでにない発想で多くの芸術家によって称賛されたという。