19.ああ、素晴らしい世界。
俺の名前は小林卓也。
普通のサラリーマンだった俺は、通勤途中にトラックに撥ねられて命を落とした。
だが、たまたまその様子を見ていた神様が、俺を別の世界に招待してくれる事となった。
何という幸運だろう!
漫画が好きだった俺は、人並みに異世界漫画もよく読んでいた。
剣と魔法の世界。異世界に降り立った主人公が、己の身一つで成り上がる。
可愛らしい女の子を侍らせてチート無双!
元々、俺はしがないサラリーマン。ルックスは平凡。インテリ性の欠片もなくて女っ気のない俺からすれば、この世界に未練なんて無い。
まだ見ぬ世界に胸を高鳴らせる。
神様によると、俺のような者は『迷い人』として現地の人々が歓迎してくれるらしい。
すると一瞬、俺は大きな光に包まれ……。
──────────
目が覚めると、俺は整備された広場の中心に立っていた。
「ここが異世界……?」
どうやら本当に異世界に来たらしい。
周囲を見回すと、タイヤの無い、不思議な形をした車がパイプの中を行き来している。
大きなビル状の建物が立ち並び、遠くの空では飛行船らしき物が浮かんでいた。
異世界の光景に呆然としていると。
───パチパチパチパチ!!
広場に居たこの星の人々が、大きな拍手を送ってくれた。
人垣の中から一人の男が俺の前に現れた。
「ようこそおいで下さいました!実は、神のお告げにより今日この日、『迷い人』様が現れる事が決まっておりました。お会い出来て光栄です!」
その男は、この国の大統領だという事だった。
──────────
大統領の案内で、俺はこの国が見渡せる中央タワーに招待された。
この国を一望して分かったが……やはり優れた文明を持っている国のようだ。
下手をすると、地球以上の技術力を持っているのかもしれない。
大統領は俺に語り掛ける。
「この国は、異世界からの迷い人様によって文明を築き、進歩した国なのです!迷い人様は様々な知識を私達に教えて下さいました」
「例えば、優れた建築技術です!それまで土や木で作るしかなかった建物から、独自の知識で固い壁や基礎を築き、大きな都市を作る助けとなりました!」
「医療技術も素晴らしい!助からない、不治の病とされた病気も、医術をお教え頂いて多くの人命が守られました!」
「教育、娯楽、政治……これまで頂いた異世界の知識の数々には本当に感謝しかございません!」
───嫌な予感がした。
「魔物?魔王?ははは、そのような危険な生き物はこの平和な世界には存在しません」
「人助け?犯罪から人を救う?……面白い事をおっしゃる!この世界では犯罪予防の為、生まれた新生児は例外なく『犯罪予防薬』を打ちますので、そのような心配は無用です!そもそも、危険な仕事は全てロボットが行いますので、人助けの必要など無いのです」
「ところで……」
「此度の迷い人様は、どのような知識をお教え下さるのでしょう?」
異世界に行って、現代知識無双をする小説に思わずツッコミを入れたくなる瞬間、無いですか?
何でごく普通の男子高校生が日本刀の精製工程を知ってるの?
何で普通の女子高生が内政チート出来るの?
そういう事言うの、野暮なんでしょうね(笑)。




