18.親切な宇宙人。
───20XX年、夏。
それは突然の出来事だった。
アメリカ、ロシアを初めとした主要国の都市上空に、複数の巨大な宇宙船が現れたのだ。
先進国の高性能レーダーにも掛からない。
某秘密国家が戦闘機を飛ばし、撃墜に向かったが、宇宙船を取り囲むように不思議な光の壁に阻まれて失敗に終わる。
何事も無かったかのように各国の首脳部へと宇宙船が降り立った。
前代未聞の出来事に、世界中の人々の注目が集まる。
警察組織が宇宙船の周囲を取り囲み、警戒する中で、宇宙船の扉が開いた。
「地球の皆様、こんにちは!我々は、この星より遥か遠く離れた【ハテノ星】に住む、ハテノ星人です。本日は地球人の皆様との友好を結びにやってまいりました!」
朗らかに微笑んで、やって来た宇宙人。
意外な事に、その宇宙人は触覚がある以外、人間と変わらぬ容姿をしていた。
─────────
その数日後。
世界各国の首脳が集まり、この宇宙からの使者との友好について協議がなされた。
この協議には、宇宙人も参加を表明した。
「本当に我が星、世界との友好を結びに来たのか?」
「未知の科学力を用いて、侵略行為は行わないのか?」
「友好というのは建前で、この星を植民地化し、多くの星々を支配するのではないのか?」
どの国も遠回しにそのような質疑を向けた。
それに対し、
「その心配はありません。我がハテノ星は宇宙国際同盟に加入しており、他の星への侵略、略奪行為は固く禁止されています。友好を結ぶ国に、そのような失礼な事は致しません」
毅然と返答する。
それどころか友好の印として、地球における科学技術の向上、並びに世界で起きている国際問題の解決に尽力し、その証明としたいと提案した。
この提案を受け、疑惑の目を向けていた各国首脳の態度が少し軟化する。
巨大な宇宙船を製造する技術力。また異世界である地球の言語を聞き分ける学習能力。
その秘密を知りたい。
協議の結果、賛成多数で宇宙人との友好が結ばれた。
約束通り、各国に散らばったハテノ星人は各国の諸問題を解決に導いた。
発展途上国で、貧困に喘ぐ地域には、『宇宙ジャガイモ』の種をまいて食料自給を可能にした。
その上、『治療キューブ』という未知の医療マシーンを設置し、無償医療を行ったのだ。
ゴミ問題には、『次元処理装置』という機械を使い、廃棄問題を解消させた。
大気汚染に関しても、『宇宙空気清浄装置』の稼働によって元の正常な大気に近づけた。
宗教、政治、倫理・・・様々な問題に、時間をかけて紳士的に解決に導いていくハテノ星人。
次第にその行動に対し、世界中から称賛が集まるようになっていく。
─────そして20年後、慎重な協議の結果、ついにハテノ星との外交が認可された。
多くのハテノ星人が各国を観光し、ショッピングを楽しむ光景が見られるようになり、次第にハテノ星人は地球人に受け入れられていった。
一緒にスポーツを楽しみ、酒場で酒を酌み交わし、くだらない日常の些事を笑い合う。
やがて、地球人とハテノ星人とのカップルが見られるようになった。
ハテノ星人は皆、眉目秀麗で、親切。
おまけに、国際間でハテノ星人の評判は高く、世論もハテノ星との交際を快く受け入れる。
更に時が経つと、ハテノ星人と結婚する人間も出てきた。
公園でサッカーをする子ども。
屋台でおでんをつつく商社マン。
井戸端会議に花を咲かせる専業主婦。
あらゆる日常の一コマに、ハテノ星人は溶け込んでいった。
まるで、最初からこうだったように、何の違和感もなく彼らはその光景の一部となった。
長年、時を重ね、良き隣人を得た地球人はハテノ星と共に成長を遂げていく。
─────そして………………長い長い時が過ぎ、10000年の時が流れた。
「長い作戦だった……これで地球侵略計画は完了とする」
ハテノ星、対地球侵略部隊、作戦参謀長官は部下に向かって、高らかに宣言した。
「本年で我々ハテノ星人と地球人の混血が全地球人口の99%に達した。彼らも今では同じハテノ星人の一員となったのだ。」
「もはや我々を蔑ろには出来まい。第二の母国となったハテノ星と共に手を組み、地球を第二のハテノ星として開放してくれる事だろう。我々は、同じ血を分けた兄弟なのだ」
宇宙人の穏やかな侵略は、国交を結んだと同時に終わっていたのだ。
無理やり身内に引き込んでいく侵略スタイル。