17.世間知らずな聖女。
「では、行ってまいりますね!」
そう言って、少女は転移門の中に消えていく。
「体に気を付けてな!」
「頑張るんだよ」
「貴方の旅に、祝福あれ」
少女の家族や初老の神父は、それを温かく見送る。
───転移門。
神が創られたと伝わる遺物で、将来、国を支える聖女となる人物の為に用意される修行の場。
この門の先は、発達した文明を築き、良識な思考を持つ異世界へと繋がっている。
そこで、代々の聖女候補は信仰を集め、立派な聖女としての実力を身に着けるのだ。
──────────
「ここは……」
少女が降り立った先は、山一つ見えない、人の大勢集まる大きな都市だった。
故郷では見た事のないほど大きな建物が立ち並び、高級とされているガラスでピカピカと輝いていた。
町を行き交う人々は、きらびやかな衣装を身にまとい、楽しそうに笑っている。
しばらく少女が呆然としていると。
「あの……すいません!外国の方ですか?」
背後から突然、見知らぬ男が少女に声を掛けた。
「え、ええと……その……はい、そうです」
「ああ、何だ!日本語が通じるんだね。良かった~」
実際は転移門をくぐった瞬間に言の葉の加護を得たのだが……少女がそう考えていると、
「実はこの近くの建物で、困っている人や苦しんでいる人を助ける為の講習会が開かれるんだ。是非とも若い人には信……んん、参加して欲しくてね。どうだい?」
「困っている人を救う……ですか!」
───少女は思った。
このような文明の発達した世界にも、救いの手が足りていないのだ。
私が手を差し伸べ、多くの人を救う手助けをしていかねば。
「分かりました。では是非、ご一緒させて下さい!」
「よし!じゃあ行こう。もうすぐ始まるから」
少女と男は寂れた建物の中に入っていく。
それから………………10年の時が流れた。
「緊急速報です。本日早朝、山梨県の山中にて、潜伏していた宗教団体の幹部らが警察により逮捕されました」
「日本初となるバイオテロを計画、実行し、多くの被害者を出した忌まわしき事件。実行犯が捕まった事で、芋づる式に教団内から捜査の手が及び、ようやく逮捕の日を迎えました」
「教団関係者によると、この宗教団体は教祖たる外国籍の女性を信奉し、彼女の指示によって多くの犯罪行為が行われたという事です」
「実際の指揮は幹部が行っていたようです。彼女がどのように教団を動かしていたのか、詳しい事はまだ分かっていません」
「ああ!今……教祖の女性がパトカーに連行されていきます」
「何でしょう?女性が何か叫んでいます。……私は……だまさ……人を……救う……なか……うまく聞き取れませんね」
「現場からは以上です」