15.響き渡る鐘の音。
とある星、とある国の物語。
多くの民が住む王都フランベールにて、それは起こった。
ある日の早朝のこと。
カラーンコローン カラーンコローン カラーンコローン カラーンコローン
どこからともなく、鐘を鳴らす大きな音が王都中に響き渡ったのだ。
洗濯する婦人、散歩中の老夫婦、薪を割る木こり等、多くの者が動きを止めてその音に聴き入った。
数刻ほど鐘の音は続いていたが、やがてその音は聴こえなくなる。
「誰かのイタズラだろう」と多くの民は感じ、深く話題に出すことなくこの日は終わった。
だが、その翌朝から。
カラーンコローン カラーンコローン カラーンコローン カラーンコローン
同じような鐘の音が毎日、決まった時間に王都中に響き渡るようになった。
人々は皆、この音がどこから響いてくるのか不思議に思った。
高所に設置してある見張り台の鐘の音は、騒々しく、このように美しい音ではない。
かといって、露店に並ぶような鐘が、王都中に響き渡るはずがない。
であれば、王都の中心にある大聖堂の鐘なのだろうと思う者もいたが、年に数度、祭事でない限り鐘は使われるはずがない。教会に勤める聖職者が、すぐさま否定した。
カラーンコローン カラーンコローン カラーンコローン カラーンコローン
この音がどこから鳴っているのか、人々は不思議に思った。
だが、誰もその答えは分からない。
興味深く思ったこの国の王は、調査団を派遣し、真相の追及を命じた。
王都中を駆け回り、音の鳴る鐘、また音を鳴らす者を探りに毎朝調査が行われたが、誰も発信源を突き止める事が出来なかった。
分かったのは、この鐘の音は、王都から鳴っているものではない事。
また、実は他の町でも、同じような音色が毎朝、決まった時間に鳴っているという事だけだった。
高名な学者が独自に調査した結果、この音色の発信源は王都ではなく、空高い場所から鳴り響いていると主張した。
王はこれらの報告を聞き、首を傾げたが、結局真相の追及を諦めた。
それからしばらくすると、人々は噂するようになる。
「鳴り響く鐘の音は、神が大地に住む人々に祝福を授けようとしているのだ」
「神が鐘を鳴らすのは、今年の豊作を約束しているのではないか」
どれもこれも単なる噂の域に過ぎないものだったが、聖職者がこの噂を積極的に受け売れた事で多くの民がこの噂を信じるようになっていった。
鐘が鳴る朝、人々は皆祈りを天に捧げ、家族の幸福を願う光景がどの家庭でも見られるようになっていく。
この鐘の音は、やがてこの王都に住む人々に広く受け入れられるようになった。
その頃。
王都の人々が住む星から遠く離れた宇宙空間を一隻の宇宙船が運航していた。
「先程は驚きましたね……」
「ああ、驚いたな。まさか、寿命僅かな星に、未だに住んでいる者がいようとは」
「わざわざ緊急アラームを鳴らし、あの星に避難を呼びかけるなんて艦長はお優しいですね」
「ハハ、よしてくれよ。……あれから暫く経つ。もうあの星の生命体は皆、宇宙船で避難した頃だろう。そろそろアラームを解除してもいい頃だな」