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1.青い瞳の勇者。

人は見た目によらない。

「さすがは勇者様、素晴らしい才能を持っておいでだ!これでこの国は救われるぞ!」






 魔王軍の侵攻による危機が迫る王国が行った『勇者召喚の儀』。

 異世界からやってきた勇者は、とても美しい姿の青年だった。


 

 まるで彫像のような整った目鼻。玉のように澄んだ白い肌。天使のように見事な金色の髪。

 金髪はこの国でもそう珍しくはないものの、その宝石のような青い瞳をした青年の姿は宮廷の女性の心を一目で奪ってしまった。



 彼が素晴らしいのは、顔だけでは無い。内包された筋肉も見事なものだった。

 猫科の動物のようにしなやかで、なおかつ瞬発力のある猛獣の如き力強さを備えている……恐らく、彼は祖国でも独自に体を鍛えていたのだろう。そういった精錬された動きが見て取れた。訓練の為に用意された騎士が一人残らず床に倒されてしまっているのも仕方がないというものだ。




 「すみません!つい力が入り過ぎて……申し訳ない、怪我をされてしまったようだ。肩を貸しますので治療をしてもらいましょう」



 そして、この謙虚な姿勢だ。

 召喚されたばかりの勇者は突然の事態に取り乱す者や尊大な態度で混乱を招く者もいると聞く中、非常に落ち着いて事態の収集に努め、自身が置かれた状況を理解して魔族の討伐に納得して下さった。



 また、この方は老若男女関わらず、全て平等に優しい。この世界に来たばかりで心細いだろうに、そんな態度は見せず、いつも笑顔で我々を受け入れて下さるのだ。訓練にも全く手を抜かず、毎日この世界の座学を学ばれた後、夕刻までこの訓練場に足を運ばれる。

 正に、聖者に相応しい立ち居振る舞いであろう。誰もが勇者を慕い、口々に彼を褒め合った。






───────────────







 数か月経ち、今日はいよいよ勇者が魔族討伐に向けて旅立つ記念の日。多くの国民が城下に祝福に押し寄せ、歓喜の声が広場に響く。




「本当にお一人で向かわれるのですか?」

「ええ、まずは一人でこの国を見回った後、独自で仲間を探していこうと思います」


 王女の言葉に、勇者は優しく返した。

 騎士団長は、自分の部下の中でも選りすぐりの若者を仲間に推したものの、非常に丁寧に断られた。


「この国には頼れる人間が一人でも多く必要なはずです。私の事は気になさらず、訓練に励んで下さい」




 最後までこちらを気遣う優しい言葉をかけて、青い瞳の勇者は城を後にした。












 ……それから幾ばくか、時が経った頃。

 王都から数十キロ離れた街道の中を、意気揚々と勇者は歩いていた。



「It's about time!I can live without being patient from now on!」

(ついにこの時が来た!これからは自分のやりたい事を我慢して生きる必要はないんだ!)


「The best world for me.No matter what I do.It's my freedom to do anything」

(最高の世界だ。何をしても許される。何をするのも僕の自由なんだ)


「Because……No one can stop me here」

(ここには……僕を止める事の出来る者なんていないのだから)













─────勇者が旅立ってから数か月。

 王国にある村々で、奇妙な事件が起きていた。




「……今度の女も首無し死体だったって話だぞ」

「前に林の中で見つかった女の死体も首から上が見つかっていないんだろ?気味が悪いよな」

「傭兵崩れの仕業だろ?全く、魔物以外にも気を付けなきゃならんとは」




 妙齢の女性が、次々と死体となって人気の無い森や河原で見つかったのだ。

 それも、どの死体も必ず首から上が切断されていた。




 事態を重く見た王国は、幾度も騎士を派遣して真相の追及に当たらせたが、調査に向かった者は誰一人帰らなかった。そして、現場に手掛かりは何も残らない。

 顔も何も分からない事から、密かに魔族がこの国に侵入し、女を襲ったのだと大きな騒ぎになったが、ついに誰もその正体を掴めなかった。




 勇者のその後を知る者はやがていなくなり、次第に魔族の侵攻により王国は衰退の一途を辿っていったのだった。










──────────────────






『ただいま、臨時ニュースが入りました』



『フロリダ州立刑務所より、凶悪殺人犯トマス=ジョンソン(26歳)が脱走したという情報が入ってきています……そうです、あのトマスです。5年前の連続婦女誘拐殺人事件の犯人です』



『非常に狡猾で危険な男です。整った顔立ち、計算され尽くした紳士的な振る舞いで言葉巧みに女性を誘い、残虐な殺人を繰り返しました。犠牲者は16名。遺体の一部(頭部)に執着し、持ち去った事から異常なシリアルキラーとして恐れられています』



『本日、死刑が執行される予定でしたが……今朝、牢獄から姿が消えている事が発覚。不思議な事に監視カメラに前後の様子は映っておらず、また刑務官もその姿を確認していないとの事で……付近に住む方々は外出を控えて下さい。また、州外に逃亡する恐れもありますのでご注意下さい』

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― 新着の感想 ―
[一言] 作者様にとってはどうでもいい事とは存じますが、 妙齢の女性という表現が、思い込みで無ければ正しく使われているのが嬉しかったです。 なろうで多くが、子持ちでおそらく30代後半の女性とか、40代…
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