Ⅱ 探偵の今昔物語・降
現在深夜にパソコンに向かって投稿作業に没頭・・・・・・
連続徹夜は流石にキツイですねwww(ハイテンションです!)
では、よいRead Lifeを御過ごしください!
アランと初めて出会ったあの日から博の運命は目に見えて悪い方へ傾いていった。
まず変わったのは依頼の量だった。以前は休む間もなく依頼が届いていたが、だんだん数が減っていき、気が付くと以前の半分ほどしか届けられなくなっていた。少し調べてみると、今まで博に依頼していた警察や大物たちがアランに依頼するようになっていたことがすぐに発覚した。負けじと依頼数を稼ぐために宣伝や知り合いの刑事に掛け合うなど様々なことをしたが、天才探偵で大人気のアランの勢いに勝てるはずもなく、日を追うごとに更に依頼は減っていった。
それにより明らかに収入が減り、苦しい状況になった。それでも仲間たちは欠けることなく一緒にいてくれた。探偵社を創立するときに掲げたあの誓いが彼らを繋ぐ唯一無二の支えになっていたのだと思う。
しかし、一度吹いた向かい風はそう簡単に止むことはなく、むしろ強さを増して博を追い詰めていくのだ。
ある日の夕刻、博は自室で書類の整理をしていた。
コンッコンッコンッ
「……失礼します」
扉をノックする音が鳴り、探偵社の社員の一人、中村 結子が入ってきた。彼女らしからぬ思い詰めた表情に疑念を覚えながらも用件を尋ねた。
「どうした?次の依頼で悩むところがあったか?」
「はい、あの、桜井さんに、大切な話があります……」
結子は一度言い淀んで言葉を止めたが、覚悟を決めて口を開く。
「この探偵社を辞めさせてください!」
その言葉を聞いた瞬間に顔から血の気が引くのが自分でも分かった。腹の奥から冷たいものがせり上がる感覚がした。
「え、今、何て」
「本っっ当に申し訳ありません!私も自分で薄情だと思っています。こんな時期に辞めるなんて最悪なことだということは分かっています。でも、アランさんに誘われたら――」
「待て!いま何て?」
「えっと、こんな時期に辞めるなんて最悪な――」
「そこじゃなくて、その後」
「……アランさんに誘われたら断れなくて、ついつい誘いを受けてしまいました。本当に申し訳――って聞いてますか?」
結子の話に耳を貸す余裕などなかった。それほどに今出てきた名前が衝撃的で、憎々しかったのだ。
結局、結子の話は保留ということでその場は終わらせ、博はすぐに憎き相手のアランの元へ向かった。アランのオフィスは都市部の高級マンションのワンフロアをそのまま利用したものだった。普段の博ならば緊張するところだろうが、今はそんな感情は何処にもなかった。
エントランスには威圧感のある容姿をした警備員が配置されていたが、難なく通過できた。というのも、博が来ることを見越したアランが警備員に事前に指示していたらしい。怒りのあまり警備員に殴りかかりそうになったが止めておいた。決してビビった訳ではない。平和主義の博は怪我人を出したくないのだ。そう、そうしておこう。
警備員に案内され、博はアランの部屋に到着した。玄関を入ってすぐの部屋にアランはいた。向かい合わせにソファが置かれ、その間にテーブルが置かれる応接間らしい配置だった。インテリアは高そうなものばかりで、余計に博を苛立たせた。アランは一方のソファに座り、以前のように聖人のような微笑みを浮かべていた。アランに座ることを勧められた博だったが、それには従わず立ったままアランを睨み付けて早速話に入った。
「何で俺の邪魔をするんだ」
「挨拶もなしにいきなりどうしたんですか先輩?一体何のことを言っているのか」
「とぼけるな。俺から依頼と仲間を奪ってお前は何をしたいんだ」
「はて、どちらも先輩に文句を言われる筋合いはないと思いますよ?」
「なに?!」
「依頼の件は、先輩が僕よりも実力が低くカリスマ性に欠けるから減った。お仲間さんに関しては少し申し
訳ないと思いますが、優秀な人材を自分の手元に起きたいと思うのは当然でしょ。しかも、僕は誘いはしましたが、それを決めるのは彼女ですから僕にはどうしようもない。そうでしょう?」
「…………」
何も言い返せなかった。全て正論だ。確かに俺は実力もカリスマ性もアランに劣る。確かに俺もいい人材は仲間にしたいと思う。アランの言っていることは紛れもない正論だ。だが――だからこそ、悔しい。
「話はそれで終わりですか?終わりなら帰っていただいてもよろしいですか?僕はとても忙しいんですよ」
「てめえ!!!」
最後の一言が博を何とか抑えていた理性を弾き飛ばした。怒りを爆発させた博は、ソファから立とうとしていたアランに全力の力を込めて殴りかかった。
ガンッ
鈍い音が部屋に響く。気がつくと博はテーブルの上に押さえつけられていた。鈍い痛みが顔と胸に響く。振りほどこうとしたが、関節を決められた腕が徐々に不味い方向へ向けられていたため上手く抵抗できない。
「いい加減にしてください先輩。いや、桜井 博。これ以上僕を失望させないでくださいよ」
上方からアランの声が聞こえる。どうやらアランに押さえつけられているようだ。駄目だ、勝てない。博が抵抗をやめるとアランはすぐに手を離した。悔し紛れにアランに文句でも言おうと思ったが、アランの表情を見ると恐怖で口が開かなくなった。感情がぐちゃぐちゃになった博は部屋を飛び出し、心の悲鳴を叫びにして夜の町を走った。その夜はとても長く感じられた。
それからは今までより状況が酷くなったような気がする。結局、結子は桜井探偵事務所を辞めアランの元へ転職した。それに続いて幸坂 隼人という若い職員もアランに引き抜かれて辞めた。ブルータス、お前もか……。
その後に最後の一人の仲間 比良金 槻与は何故かこのタイミングに実家に帰ると言い出し、彼も辞めてしまった。いつも居眠りするほどマイペースな性格だったが、ここまで自由だと怒るどころか、呆れて笑えてきた。
仕事の量はさらに減り、質も落ちていた。基本的な依頼は探し物や探し人、浮気調査に迷子のペット探し。悪いときには引っ越しの手伝いや揉め事の仲裁などの探偵というより“何でも屋”のような依頼を受けなければならなくなった。事件と呼べる依頼はほとんど来なくなり、良いときで半年に四、五回ほど昔のよしみの刑事や大物が気遣って依頼してくれるくらいだった。それらで得た収入は税金と勢いで買ったオフィス兼自宅のローンの返済に回され、生活費等々は必要最低限しか残らない苦しい生活となっていた。
そんな暮らしが数年続き、博は仲間なし、名誉なし、余裕なし、あるのは多額の借金だけの、金に強欲な三十路探偵に成り果てていたのだった。