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借金だけ探偵と終焉を迎える一冊の世界  作者: 亀井 ダルマ
第一章 闇色の煙と血色の頭巾
2/4

Ⅰ,探偵の今昔物語・昇

二回目の投稿となります。早めに皆様に本編を読んでいただきたいと思い、溜めていた分をポンポン投稿いたします。プロローグで終わらず本編の方も飽きずに読んでいただけると有難いです。


では、よいRead Lifeを御過ごしください!

 

 カチッ、カチッ、カチッ、カチッ――――


 静かな部屋に時計の秒針の音が響く。自分以外に誰もいないオフィスに漂う静寂が、こんな小さな音も気にしてしまうほどに人の気を張らせる。最近になってやっとこの静けさにも馴れてきたが、虚しさというか孤独感は、まだ消えてくれない。

 たくさんの資料と本が森に生える木々の如く積まれた部屋の中、ソファに寝転がり天井を眺める男が一人。歳は三十歳、身長は平均的だが体格は少し痩せ型。しばらく切られていないのか、天然パーマぎみの黒い髪は少し余計に伸びていて邪魔そうだ。その前髪が目にかかっているからか、それとも元々か、目を細めて憂鬱そうな顔になっている。そんな男、桜井 博(さくらい はか)はそんなことを考えながら、輝かしかった過去の自分を思い出してしまう。


 刑事である父親の影響か、それとも幼い頃から大好きだった推理小説の影響か、いつからか探偵になりたいと思うようになった。その思いは大人になっても変わらず、ついに若くして探偵となった。父親は博が探偵になることに反対していたため、直接の支援はしてくれなかったが、知り合いの刑事たちがいたため、その人たちから支援ですぐに警察からの依頼が入ってきた。それだけではなく、実力も他の探偵より頭一つ飛び抜けていたため、博の噂を聞いた父親と縁遠い警察や富豪などの大物からの依頼が毎日のように届くようになった。

 活躍と共に博の名はどんどん広がっていき、博の元で働きたいと言う者たちが現れ始めていた。当時のオフィスはビルの一室を借りた小さな場所で、スタッフの数に対して明らかに狭い部屋だった。そこで博はその頃の収入の多さと若さからの勢いで三階建ての立派なオフィス兼自宅を購入した。総額五千万円ほどしたが、半分即払い半分ローンである程度の見通しも立っていたので問題なかった。

 という訳で、新しい仲間とオフィスを手にした博は“桜井探偵事務所”を創立し、仲間たちとこれまで以上の功績をあげることを誓った。

 それから月日が経ったある日、博は仲間たちと共に警察からの依頼を受け、事件の現場に向かっていた。現場に到着すると、いつもの見馴れた刑事や鑑識官たちの中に一人、見馴れない人物がいることに気がついた。年齢は十八歳くらいだろうか。端正な顔立ちと綺麗な所作から育ちの良さを感じ取れ、その顔には聖人のような優しい微笑みを浮かべていた。最初は新人の刑事かと思ったが、明らかに警察関係者とは違う雰囲気を持っていた。少し気になった博は声をかけることにした。


「初めて見る顔だね。新人の刑事かい?」


「いいえ、違います。初めまして、あなたがかの名探偵 桜井 博さんですね。お会いできて光栄です」


 後ろに一本で括った綺麗な銀髪と顔立ちから外国人だと分かったが、日本人にも負けないほど流ちょうな日本語だった。


「こちらこそ光栄だ……と言いたいところなんだが、あいにく俺は君が誰なのか知らないんだ。君はいったい何者なんだい?」


「これは失礼、申し遅れました。私はアラン・ヴァン・オースリン。以前はロンドンを中心に探偵として働いていたのですが、諸事情によりこの度日本でしばらく働くことになりました。どうぞこれからよろしくお願いします、先輩」


「ああ、こちらこそ……よろしく」


 軽い挨拶と共に握手を交わす博とアラン。近くで見ると改めてその顔の美しさに気づかされた。あぁ、イケメンだわ。

 そのあとすぐに事件の捜査が開始され、博たちは現場周辺で刑事たちと聞き込みを行っていた。その途中で刑事の元に一本の電話が届く。その内容はすぐに博たちにも伝えられた。


「犯人逮捕だ。あの若い探偵が解決したらしい」


 博は驚きで言葉を失った。あり得ない。まだ捜査開始から三時間しかたっていないんだぞ。軽く見積もっても半日はかかる事件を三時間で――――しかも、自分の知っている限りアランは事件現場から動いていないのだ。その状態でどうやって事件を解決したというのだ。博の頭を疑問と驚きが埋め尽くした。

 急いで事件現場に戻った博たちを待っていたのは、事件を解決に導いたヒーローと、それを褒め称えて周りに集う警察関係者たちだった。アランはすぐに博の存在に気づき、微笑みながら歩み寄ってきた。


「お疲れ様です、先輩。今回は僕が先に解かせていただきました」


「お、お疲れ様。いったい君はどうやってこの事件の真相に至ったんだ」


「『どうやって』って……こんな事件、簡単に解るじゃないですか。証拠もここにちゃんと揃っていたし。いや~、この犯人はうっかりものなんですかね」


 戦慄した。こいつは現場に残されていたものだけで事件の全容を把握したというのか?勿論、刑事や鑑識員たちの丁寧な仕事によっていくつかの証拠は出ていた。しかし、少なくとも博には事件解決に十分なまでの証拠はなかったと思っていた。だが、目の前の青年は見事に解いて見せた……。この技量の高さに戦慄してしまった。


「では先輩、僕はこれで失礼します。これからもお仕事頑張って下さい。もしかしたらまた仕事でご一緒するかもしれませんので、その時はよろしくお願いします」


 博の戸惑いを尻目にアランは挨拶を述べ、洗礼された所作で悠然と背を向けその場を立ち去った。そのときも彼は笑みを浮かべていた。ただ、それは万人を寄せ付ける微笑みではなく、あらゆるものを見下す満面の嘲笑だった。

 その日を境に、博を押していた追い風は確実に向かい風へと向きを変えていった。


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