空からの災難
「あなた、だれ?」
突然空から降ってわいた白い服の少女が俺を見上げて呟いた。
はっきりいって、こっちが聞きたい。
と、言うか、…………あーもう最悪。
少女に下敷きにされて踏み潰された花束。
もう、売り物にならない。
「あのさぁ、おまえこそ誰なんだよ!他人の商品ぐちゃぐちゃにしてさ。これもう、売り物にならないじゃないか、今日の商売あがったりだよ」
全く、どうしてくれるんだ!
「うりもの?」
怒鳴り付けて詰め寄っても、全く状況を把握してくれていないその少女に踏みつけられてよれよれになった花束の一つを突きつける。
弁償してほしい訳ではない。
いや、本音はしてほしい。
この花束を売りさばいて得られる金がなければ、明日から生活が出来ない。
せっかく今日は一年に一度の降臨祭。
想う人に花束を贈って気持ちを伝える日なのだ。
そのために、夜明け前から森に入って篭いっぱい花束を作ったのだ。
この花束を売れば暫くは具のない味の薄いスープだけの生活から逃れられると思ったのに。
「まあ、わたくしにくださるのですか?ありがとうございます。……でも、可哀想に潰れてしまってますわね」
にっこりと微笑むその姿に、がっくりと肩を落とす。
俺のパンを返せ!!
「おまえが、踏み潰したんだろ……」
「え?!……あら?まあ!!」
気付きませんでしたわ。
と少女は小首を傾げた。
こいつ、頭足りてないのか?!
よく見れば髪も手入れが行き届いて艶々しているし、仕立ての良い服を身に付けてる。言葉遣いからも、良いところのお嬢さんだろうと察せられるのに、いや、お嬢さんだからかいちいち反応が鈍い。
だいたい何でこんな森の入り口に供の一人もつけずに落ちてくるんだ。
というか、何で空からわいて出たんだ!!
「あのさぁ、俺、これを街で売るはずだったんだよね。なのに、あんたが落ちて来るから売り物にならなくなって困ってるんだけど。俺、明日から食べるもの買えないんだけどさ。見たところあんた良いもん着てるしお嬢さんなんだろ?家、連れていってやるからさ、ほら、なんつーの。お詫び的なさ、なぁ」
なんたる名案!!
我ながら素晴らしい。そうだよ、お嬢さんだったら家に連れ帰ってやれば、感謝されてお礼をもらえるかも。
下手したらしけた花束売るよりがっぽり儲かる。
そうすれば、パンだけでなくソーセージも買える!!
災難にしかし見えなかった目の前の少女が急に輝いてみえてきた。
街で苦労して花束売るよりも謝礼の方が実入りが多いよな。
「俺、ザック。あんた、名前は?どこの家?」
上着の裾で手のひらを拭いて少女に差し出す。
「……なまえ……、えっと……忘れました」
ニコッとそれはもう見事な笑顔で彼女は俺のソーセージ計画をぶっ壊してくれた。
忘れたって……じゃあどうするんだよ。
置き去りにして…………行けないよな。
えっ、もしかして俺、拾わないといけないの??
どうしよう。
「ザックさん、よろしくお願いいたします」
差し出した手をとられて、やっぱりこいつは災難だと俺は心から思ったのであった。