表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/22

#3 予知夢

 仕事を終えた人々が帰路を急ぐ夕暮れ時。ビルの隙間に沈む最後の夕日だけが、これから訪れる逃れられない闇に抗っている様にも見えた。


 明かりもついていない薄暗い部屋で、一人の女性がテーブルに座り、何かを書いている。


「お母さん何を書いてるの?」


 女性は二又瀬 未来の母であり、母の様子を見に来た未来は薄暗闇の中で書き物をしている母をいぶかしがって声をかけた。しかし未来が話しかけても母が振り未向く事は無い。


「お母さんどうしたの? ねぇ、何書いてるの?」


 未来の声には全く反応せず、何かを書き終えた母はしばらく刻一刻と暗闇が増す窓の外を見つめていた。やがて完全に夜のとばりが訪れ、微かな月明かりが部屋を照らす頃、母はゆっくりと立ち上がった。そのまま台所に向かい果物を剥く時によく使っていた果物ナイフを取り出す。


「お母さんどうしたの? 果物なら私が剥くよ。そのナイフを貸して」


 やはり未来には全く反応せず、母は風呂場に向かいお湯を溜め始めた。


「望、未来ごめんね。お母さん疲れちゃった」


 母はその時初めて未来の方を向き、寂しげな笑顔でそう言った。


「何言ってるの? 何する気? お願いそのナイフを貸して。ダメよお母さん! 絶対にダメ!」


 未来が必死に近づこうとしても、何故か距離が全く縮まらない。母はゆっくりとナイフを自分の手首にあてがった。


◇ ◇ ◇


「待って! 止めてお母さん!! ダメー!!」


 自らの叫び声で未来は飛び起きた。


「はぁはぁ、何今の夢? もしかして……まさかね」


 未来は小さい頃から度々”夢で見た事”が、現実に起こるという体験をしていた。小さい頃はそれが特別な事だとも知らず、夢に見た事を親に話しては、怪訝けげんな顔をされていた。

未来が小学生の頃、自転車に乗った兄が通学途中で大きなトラックにはねられる夢を見た。恐ろしくなった未来はいつもより早く家を出ると、望の自転車のタイヤに穴を空けてパンクさせ、そのまま夢の中で事故があった大通りに向かった。

しばらくその通りの電柱の影に隠れていたが、望がそこを通る事は無かった。単なる夢だったと思い安心した未来が学校に向かいかけた時、未来の直ぐそばを夢で見たあの大きなトラックが轟音と供に通り過ぎていった。


ーーやっぱり単なる夢じゃなかったんだ……


 その日、兄が学校から帰って来ると未来は兄の制服を掴んで聞いた。


「おかえり、お兄ちゃん。外に自転車があったけど今日どうやって学校に行ったの?」

「え? ああ、チャリがパンクしてたからバスで行ったよ。遅刻しそうになるしな。ほんとについてない。今から自転車屋行ってくるから」


ツいてない、という様に首をすくめながら望が苦笑いをする。むろん未来が自分の自転車をパンクさせたなどとは夢にも思ってはいないだろう。未来はかなり迷った挙句、自分が視た夢と今日あった出来事を望に打ち明ける事にした。

鳩が豆鉄砲食らったとは、まさに今の望の様な表情であっただろう。望は、しかし驚きはしたが未来を疑う事は無かった。


「そうか、未来が助けてくれたんだ。ありがとな」

「信じてくれるの?」

「もちろん! 未来がそんな嘘お兄ちゃんに言う訳ないだろ? でもパンクさせる前に一言、言ってくれたらな~」


 頭をかきながら笑う望。


「だって、もしお兄ちゃんが信じてくれなくて、自転車に乗って行ったら未来止められないもん」

「ああ、なるほど。朝は忙しいから信じてやれなかったかもな。ハハハ」

「何それ! バカ!」

「冗談だよ、じゃ~自転車屋行ってくるから留守番お願いな」

「うん、気をつけてね」


 笑顔の未来に見送られ、自転車を押しながら最初の角を曲がると望は立ち止まった。


ーー俺、今日ひょっとして死んでたのか? 未来が助けてくれなかったら……

その顔は青ざめて少し震えている様にも見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ