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#16 お盆

二0一六年 八月


 母の初盆の為に、望はお盆休みを利用して、マイホームがある比良坂市に帰省していた。

主を失った望のマイホームは未来が暮らす事に決め、望に家賃を支払っていた。望は「要らない」と言ったのだが、「けじめだから」と未来も譲らなかった。結局言い出したら聞かない未来の気が済む様に、望は月々のマイホームローンの半額を家賃で受け取る事にした。


 帰省した次の日。

正午に近い、未だかろうじて”朝”とよんでも差し支えない時間に、昨日遅くまでテレビゲームをしていた望が大きな欠伸をしながら起きて来た。寝癖をつけたまま居間でゴロゴロしていた望は、掃除機をかけている未来にモーニーングコーヒーを注文する。未来は「もう、お昼ですけど!」と皮肉を言いながらも、望の為に”砂糖1杯、ミルクを適量入れてかき混ぜない”がポイントの望仕様のアイスコーヒーを準備した。


「ん~美味い! さすが俺の開発した”アイスコーヒー望仕様”だ」

「お兄ちゃん邪魔」


 無表情で掃除機のノズルを望にガシガシぶつけながら、未来は掃除を再開した。

掃除を終えた未来は庭の花壇に咲いた青紫蘇あおしそとプチトマト、そして一本だけ咲く母が好きだった向日葵にホースで水をかけていた。放物線を描く霧状のシャワーにキレイな虹が現れ、望はアイスコーヒーを飲みながらそれに見とれていた。

 庭の手入れが終わると未来は昼食の準備を始める。”昼食の準備が終わるまでおよそ一時間”と推定した望は、昨日の続きをする為に、テレビゲームのスイッチを入れる。

しかしおよそ十五分後、未来が食器を居間のテーブルに並べ始めた。「え? もうできたの?」と尋ねる望を華麗にスルーして、未来は出来上がったばかりの昼食をテーブルに並べる。望はしぶしぶ始めたばかりのテレビゲームを中断して、昼食が並ぶテーブルに座った。献立は庭で取れたプチトマトを添えたサラダと青紫蘇を薬味に入れた素麺であった。


「早いはずだよ」

「ん? なんか言った?」

「別に、いただきま~す」


 望が家事全般を手伝わないのは、望の気が効かないのでは無く、未来の決定である。とにかく家事が下手な望に手伝わせると、物をこぼすわ、お皿を割るわ、掃除機を詰まらせるわ、風呂を空焚きするわ……etc

「お兄ちゃんは座ってテレビゲームでもしてて!」「……はい」

……という様ないきさつがあっての事である。


「ん? きゃー、蟲ー!!」

「ん? 蟲じゃなくて虫だろ。そんな大きな声だすなよ、ほら」


 いつの間に侵入していたのか、未来に近づこうとしていたカナブンを、事もなげに素手で捕まえた望は、庭にそっと逃がしてやる。

オールマイティになんでもこなす未来だが、爬虫類や昆虫類は大の苦手であった。未来曰く「何を考えているのかわからない」だからそうである。一方、望は生物全般特に苦手なモノも無く、いざとなっら”G”でも素手で捕まえる程であった。「さすが、お兄ちゃん!」と、兄の偉大さをこの時ばかりは未来も痛感するのであった。

めったにある事ではないが。


◇ ◇ ◇


 昼食を済ませた二人は墓参りに出かける。

眼下には海岸線が見渡せる、小高い丘にある霞ヶ丘霊園に眠る両親。望と未来は、母が好きだった庭に咲いた大きな向日葵を墓標に沿え、静かに手を合わせる。


ーーお父さん、お母さん安らかに眠って下さい。


 澄み切った碧空から振り注ぐ太陽の日差しを浴びて、ひと夏の命を燃やす蝉の鳴き声を背に受けて、二人はいつまでも手を合わせ続けていた。


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