第七話《悪魔》
「なぁ、君が五代能力者最後の一人かい?」
「え? ち、違いますけど……」
「そっか。うん、ありがとう。死んでくれ」
言って俺はナイフを突き刺した。
ここ一週間、ずっと俺は奴を探している。
五代能力者最後の一人を。
殺す、殺す、殺さないと。
奴は俺が殺さないといけない。
けれども……
「うーん見つからないなぁ……」
いくら探しても見つからない。
……
一ヶ月が過ぎた。
「はぁはぁはぁ」
俺は殺したい衝動で暴れそうな自らの身体を、必死こいて、全力で、本気で、抑えていた。
「水だぁっ! 飲むがいい!」
そう言って明伊さんは俺に水の入ったペットボトルを渡し帰っていった。
相変わらず元気な方だ。今死んだけど……あれ? いつの間にか……殺したのか? 俺が? 嘘だろ。そんな、俺は……俺は!
俺は誰だ。俺は何だ。俺は俺だ。俺は……俺は僕? 僕は俺? 俺は僕は誰だ? どこに俺はいる? どこに僕はいる?
君は誰だ。俺は誰だ。
霧笹 目的という人物は一体誰だと言うのだ。
黒雲のメンバーだけは俺の仲間だったのに、殺してしまった家族よりも、殺してしまった同級生よりも、大事な……仲間だったのに…………俺は化物なのだろうか?
鬼なのだろうか?
殺人鬼……なのか?
「おい、ドーナツ持ってきたぞ」
そんな時、夏尾が来た。
「やぁ、夏尾……ありがとうな。ドーナツいただくよ」
言って俺は糸を夏尾の身体に張り巡らせ、殺し…………。
「おいおい、何すんだぁ? 目的……。てめぇ……ぶっ殺されてえのか?」
「ち、違うんだ……違います。 ち、違うんだよ……違っているんだよ。あ、あああああああああああ!」
「おい! 落ち着け! お前どうしたんだよ!」
「俺は化物何だ。殺人鬼何だ。悪魔のような人間だぁぁぁぁぁ」
「あ? 悪魔? 片腹痛えぜ」
「は?」
「お前はその悪魔に負けたんだからな」
「ん? 悪魔に負けた?」
「五代能力者最強最後の奴の能力が分かった。悪死魔。今まで一つでも悪と思われる事をした人を殺すための能力だ」
「悪魔……か」
「そう、悪魔。まぁとにかく今まで悪事、つまり人殺しをしまくったお前じゃあ奴は倒せねぇよ。諦めな」
「諦めきれる訳が無いだろう!」
「はっ、さっきから落ち込んだり叫んだり忙しい奴だなぁ……。まぁでも、ほらよ」
「あ?」
「悪魔の場所が書いてある。本当に奴をぶっ殺してぇならさっさとそこ行け。この馬鹿野郎が」
「はっ、なんだとてめぇ……。いいぜ、ぶっ殺してやる」
そうだ。
殺せばいい。
別に殺せばよかった。
シリアスな雰囲気を出して、殺した事を後悔している場合じゃあなかったのだ。
それに……。
「悪い事をした人なら倒せても……鬼は殺せるかな?」
そう。俺は鬼になる。
殺人の鬼。
殺人鬼になる。
殺人の衝動が抑えられないなら殺せばいい。
奴を殺せばいい。
見つからない?
探せばいい。
探したけど見つからない?
なら見つけ出せばいい。
そんな単純な事に何故気づかなかったんだ?
それだけの疑問はあるが、まぁいい。
とにかく見つけて悪魔を殺す。
……
「は? こんなもんかよ……」
俺はナイフを相手に向けた。
「期待外れにもほどがあるぜ……」
そして、ナイフをくるりと回し構える。
「お、お前……何なんだよ! 能力者でもない癖に!」
相手はそう言って俺を指差す。
「期待なんてしてねえけどな」
言って俺は相手の首を切り裂いた。
切り裂き、潰して、貫き、汚すし、殺す。
切裂潰貫汚殺
これが……俺の…………技能だ。
「やっと……終わった。悪魔を……倒した」
鬼となればたやすい事だった。
簡単だったんだ。
普通の人間を殺すくらいには。
俺は……疲れ、眠りに落ちた。
……
「おい、起きろよ。目的」
「ん? なんだよ夏尾……」
「お前道に倒れてたんだよ」
「ここは?」
「お前んとこの観覧車」
「あー、そういえばここ遊園地にあったっけか」
「そうだぜ? 全くいいご身分だ」
「おいおい、いいゴミ分とは酷えな」
「区切り方がちげえよ。アホか?」
「アホじゃねえよ。殺されてえのか?」
「よし……喧嘩ろうぜ?」
「おう……喧嘩いてやんよ」
「と、いきたいとこだが、今日は話があって来た」
「ん? 何だよ。もう悪魔は倒したぜ?」
「あぁ、知ってるよ」
「じゃあなんだよ」
すると、夏尾は俺の顔に顔を近づけた。
「おいおい、俺はそっちじゃねえぞ!」
「わかってるよ! とりあえず耳貸せ」
そう言うので耳を夏尾に向ける。
すると小さい声で夏尾は言った。
「な、どういう意味だよ」
俺はそれについて聞く。
「そんなことより見ろ。あれを」
俺の言葉を無視し、夏尾はそう言った。
「あ?」
そこには綺麗な夜景が広がっていた。
暗闇に光る町々が空に光る星のように輝いている。
「って俺は星に興味ねーよ。なんだよお前!」
「はっ、そういうと思ったぜ。目的ぃ」
夏尾はそう言ってから「あ、そういえば」と言った。
「ん? そういえばなんだよ」
「俺、明日この町から出て行くわ」
「は? 何でだよ」
「飽きたんだよ。他の町にはもっと美味しいドーナツが世の中にはあるかもしれないんだぜ? 探さずにはいられねえよ」
「ふっ、お前らしいよ」
「だな」
少しの間、沈黙が続く。
「そろそろ下に降りるな」
「そうだな」
俺が言うと、夏尾はそう答えた。
「なぁ、目的」
「なんだよ、夏尾」
「最後はカッコよく去るのが男だと俺は思うんだが、どう思う?」
「はっ、そんなん決まってるだろ? 当たり前だ」
「だよな。じゃあ最後にショータイムと行こうか」
「おう、どんなことすんだよ。楽しみにしてんぜ?」
俺がそう言うと、夏尾は飛び降りた。
観覧車から飛び降りた。
「んじゃな! 生きてたらまた会おうぜ!」
無傷で着地した夏尾は走ってどこかへ行った。
高い、とても高い観覧車から見下ろしても分からないくらいの遠くへ。
「それにしても…………」
……
「鱗目未幸に警戒しろ」
あの夏尾の言葉の意味は何だったんだろうか?




