第六話《敗北》《決意》
「随分ボロボロだねー? どうかしたの?」
朝、黒雲本部に帰ってくると、鱗目さんが出てきてそう言った。
「いや、なんでもありませんよ。鱗目さんは何してるんですか?」
「今日から君とコンビ組んでアムッカーズを倒さないといけなくなったから、君を探してたんだよ」
「ん? 僕とコンビですか?」
「うん」
「誰が決めたんですか。そんなこと……隊長はいないはずでしょう?」
「龍円寺君だよ」
龍円寺? えーっと……誰だっけか?
あ、っすっす言ってたあの男か。
ふーむ、それにしても龍円寺君とやらはそんなに偉いのか?
「へー。そうなんですか」
「龍円寺君、頭良いからねー。作戦やら策略やらをサクサク考えちゃうんだよー。で、今回の作戦は私と霧笹君が組むことだよ」
そういえばそうだった。龍円寺君は、機械やコンピューターにだけは天才的、と聞いていた気がするけれども、逆にこいつ以外、頭の良さそうな人が存在しない。
それで何だって? 鱗目さんと俺が組むだって?
また真面目になるじゃん? 真面目になっちゃうじゃん?
まぁ、そんなことはさておき気になることは一つ。
「一体、何の為の作戦なんですか?」
「決まってるじゃん? 五代能力者を倒す為だよ」
「へぇ、あ、でもあと一人しかいないですよ?」
「うん?」
何を言っているんだ? こいつは……と言った表情を浮かべる鱗目さんに興奮しつつも、俺は質問に答える。
「隊長は殺しましたし、地獄落とし、時空切りも殺しました」
「あと二人じゃない?」
「話の途中ですよ。それから、昨日に物々生成を倒しました」
そう、昨日のことだった。
喧嘩をしていると辺な男が現れて、物々生成を使う五代能力者ということなので、喧嘩相手と共に、そいつを倒したという訳である。
「昨日に? 昨日は海に行ったでしょ?」
「夜ですよ。夜」
「あ、そっか」
納得して鱗目さんはポンと手を叩いた。
「それで、霧笹君。私と組んでくれるかな?」
……組む以外の選択肢など、俺の脳内には存在しなかった。
「はい」
……
「中々見つからないねぇー」
鱗目さんはそう言って、俺の方を向いた。
「仕方ないですよ。奴ら、相当目立つことしないと出てこないですし」
「ふーん……あ、そういば最後の五代能力者ってまだ能力わかってないんだっけ?」
「えぇ、確かそうだったと思いますよ。でも能力なんて分かったところで意味ありませんよ。今までの敵もよくわからずに倒してましたからね」
「へぇ、すごいじゃん霧笹君」
「そうでもないですよ。そういえば鱗目さんはどんな能力を使えるんですか?」
「ナイショだよっ!」
「えー」
すると気配を感じた。人ではない。まるで悪魔が現れたかのような気配だった。
いや、悪魔なんかがいる訳ない。いくらなんでも厨二的すぎる。
人なのか……? でも、だとしたら、だとすれば…………その、悪魔のような気配を出す、その人間は……。
一体……どんな強さだと言うんだ。
「くっ、厄介なことになりそうだ」
すると身体を……。否、気配を感じ取れたが故、何とか片手を……。何かが貫いた感覚があった。
「え?」
そしてその感覚の後襲ってきたのは痛みだった。
強烈な痛み。
燃えるような痛み。確実に人を殺すためだけに存在するかのようなその痛み。
その痛みに俺は……苦しんだ。
「うぎゃああああああ」
猿が鳴いたかのような声を腹の奥底から出し、喉が枯れるとかそんな些細なことを気にしないほどの声を出し、俺の目の前はフラフラと揺れ、目の前にいる鱗目さんが二重にも三重にも見え、瞼が閉じていき、眠たさのような感覚が俺を襲う。
目を閉じたら、そのまま死んでしまいそうだった。けれども、俺は……このまま死んでもいいと思った。
なんというか……別に良い人生じゃなかったし、楽しい思い出も、真の友人も、いなかった。いつの間にか人を殺し、殺し尽くしていた俺にはお似合いの最後だろう。
けれど、けれどもだ。
男として、最後くらいはキメておきたかった。
考える。俺の、俺としての最後の言葉を考える。
「愛してるぜ……地球」
最後に地球に感謝を述べ、俺は……。
俺は、眠るように死んで…………。
……
「る訳がねーか……」
気がつくと、そこは黒雲の本部だった。
天井が見えるので、俺はベットということか。
片方の腕の感覚が無い。
恐らく無くなっているのだろう。
「大丈夫ですか? 霧笹君」
「呪払か」
呪払は俺のベットの横の椅子に座っていた。
「ビックリしましたよ。貴方がまさかやられるなんて……」
「けっ、仕方ねーだろ。俺だって人だ。誰かしらには負ける」
「それもそうですかね」
「はっ、はは。お前と話してると……お、僕は落ち着く」
「そうですか?」
「そうだよ。何ていうか……とても落ち着くんだ」
「ふーん」
そう言うと呪払は立ち上がった。
「もう行くのか?」
「はい。貴方を倒した、恐らく五代能力者最強であり最後の敵を、探さなければならないのです」
「そ、そうか…………」
「では」
言って彼女は帰っていった。
「殺さないと……」
はやく殺さないと、殺さないと、殺さないと。五代能力者最強で最後の敵をぶっ殺さないと、どんな手を使っても、殺さないと、殺さないといけないんだ。殺意が暴走するかのように溢れ出す。
このままじゃ、はやく俺が奴を殺さないと。
俺が黒雲のメンバーを全員殺してしまう。
それだけは避けなくてはならない。
殺したくない。でも抑えきれない。
だから……俺は……。
「五代能力者最強で最後の一人を俺は……殺さないといけないようだ」




