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諮問会議

作者: 兄連

A「では、蜜蜂の個体激減による農産物への影響に関する会議を始めます。では、皆さんよくお互いをご存知のことかとは思いますが、一応自己紹介をお願い・・・」

B「前置きはやめましょう。時間がありません。今回の原因は日本国民全体の姿勢にあると思います。食の安全性とかいう錦の御旗の下で農薬を使い、我々、失礼、蜜蜂の生殖機能に異常を殆したことに間違いありませんから」

C「それは結論を急ぎすぎではないのでしょうか。ハチタニさん・・・とおっしゃるんですか。初めてお目にかかりますが、どのようなご専門で・・・」

蜂谷「いいえ、ハチヤと読みます。私は蜜蜂の生態研究をそのライフワークとしております。今、蜜蜂は存亡の危機にいるのです。お名前は・・・それがわかりますか」

C「鎌田です。今の今まで蜂谷さんと刺を通じていなかったというのも不思議なことですね。

私はかれこれ五年に亘って全国養蜂事業者協会の理事長を務めております。私の名前くらいはご存知でしたでしょう。死活問題なのはこの私が誰よりもよく知っております。勿論、養蜂家だけの利害で申しているのではありませんよ。日本農業全体にとってですね・・・」

A「ちょっとお待ち下さい。やはり、まずは自己紹介から始めた方がよいようですね。では、私から失礼させていただきますが、食糧・エネルギー庁で自給率アップ特命担当課長の居古米イコマイと申します。正式なメンバーではございますが、皆様、有識者の方々の闊達なご意見の調整役と申しましょうか、オブザーバーです。便利屋とでもご理解ください。そういうわけで第一声を発せさせていただきましたが、座長は皆様に互選していただくことになっております。では、時計回りでお願い致します」

D「まんず、大山から出て参りました大山と申しまんす。まんず、うちは代々百姓やっとりまして、まんず・・・」

E「失礼、角青カクセイの専務取締役鈴木です。農産物部門を統括しております。お次、どうぞ」

F「経済評論家の南紀ナンキです。先だってキャンベル経済学賞に輝かれたAAA先生の愛弟子でございます。特に先生の『ほっとけ』理論を農業でのアプローチに敷衍できないものか研究をしております。このアプローチ・・・」

居古米「いや、もう皆様、ご専門の分野から話し始めると止まらないという感じですが、まずは座長を互選することから始めてはどうでしょうか」

鎌田「この諮問会議はやはり内閣へのご説明という大役を担われるわけでその点からプレゼンに慣れていらっしゃる鈴木さんが適任かと思います」

鈴木「とんでもございません。やはり南紀先生が適任でいらっしゃるのではないでしょうか」

南紀「私はお受けすることは差し支えありませんよ」

大山「まんず、百姓のことなんど百姓がやらんでは。まんず、おらが・・・」

居古米「ここはどうでしょう。多数決でね、蜂谷さん」

蜂谷「そんなことより、助けなくてならない。こんな話をしている間にも仲間は死んでいるんですよ。早く進めましょう」

鎌田「そうです。蜂谷さんのおっしゃる通りです。ここは南紀さんか鈴木さんで採決しましょう」

居古米「では、鈴木様の座長に賛成の方は?」

居古米「お一人ですね。では、南紀様に賛成の方?」

居古米「お三人ですね」

鎌田「大山さんはなぜ挙手されないのでしょうか」

大山「まんず、おらはおらがいいんだ」

居古米「大山様、私ども食糧・エネルギー庁が無作為に農家の方から一人代表を新しい試みで選出させていただいたわけで、大山様の貴重なご意見をこの有識者集まりの場で忌憚なくいただくことは大きな意義があります。むしろ、大山様はまとめられるという役割よりも農業に携わる方の生の意見をお出しいただくことに専念していただくのが肝要かと思う次第です。日本X万人の農業従事者の代表として・・・」

大山「まんず、おらでダメなら、そこの鈴木さんがよかと。おらたちのこと、高く買ってくださるだが・・・」

南紀「まぁー、一応多数決で僭越ながら私が多数の支持を得ましたので、まず議論を始める上での進行役を務めさせていただくということでどうでしょうか。座長という役はそうした議論の中で自ずと適任者が見えてくるでしょう」

大山「いや、まんず、初めが大事んだ。鈴木さんがええだ」

鈴木「大山さん、私を高く評価していただくのは光栄の限りですが、色々なご意見もありましょう。ここは・・・」

大山「いや、まんずこの南紀ちゅう方は信用でけん。なんかかっこつけたことばっかり言っておらの村から郵便局をなくしたんだ」

南紀「それは少し失礼なおっしゃり方ではないでしょうか。しかも、この場は郵政に関して語る場ではないのです。あなたは・・・」

居古米「南紀先生、ここはどうか、穏やかに。ここは鈴木さんが進行役ということでは?」

鈴木「それは困ります。私がやるとすぐ競争原理とかそういう枕詞がついてマスコミが喧伝します。ここは南紀先生が・・・」

蜂谷「もういい加減しなさいよ。あなた方には、蜜蜂の痛みがわからないのですか?座長だか脱腸だか知らないが、いい加減にしてください」

鎌田「蜂谷さん、あなたねぇ、あなたもねぇ、養蜂家のお一人のようですが、あなたのようにただ『蜜蜂を守ろう』などと幼稚に叫ぶような人がいるから、困るんだ。現実を直視して議論しなければならないんだ。いいです・・・」

居古米「まぁー、皆さん落ち着いてください。皆、目指すところは同じじゃないですか!」

そのとき、大きな顫音が会議室に響き渡ったかと思うと叫び声がそれに続いた。それは断末魔のそれだった。

鎌田「ぎゃー。お前は化け物か?何なんだ・・・」

居古米「蜂谷さん、や、やめろ!うわぁー」

南紀「たしゅけて、たしゅけて。ぐぇ」

大山「まんず、うぇ」

鈴木「一体どうなってんだー!ここから出してくれ・・・。ぐぅ・・・」



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