夢
サイファーは一人湖のほとりに立っていた。
(どこだ?ここは……。)
三日月の光が淡く彼を照らしている。
サイファーはすぐ気づいた。
(夢、か……。)
ここは毎晩夢に出てくる湖のほとりだった。
あたりを木々に囲まれ、彼と湖しか生きていないような不思議な感覚。
ふと、茂みから物音がした。
(トラスト?いや、違う……あれは……。)
茂みから出てきたものに彼は驚いた。
出てきたのは、一人の美しい少女だった。
艶やかで黒い髪を持つ彼女には見覚えがあるような気さえもする。
(あの子は、一体……?)
悲しそうに伏せる緑の瞳、透き通るような白い肌。壊れてしまいそうなくらいに華奢だ。
ふと、彼は少女に触れたいと思った。話してみたいと。
そっと、気づかれない様に歩み寄ろうと足を踏み出す。
彼女はじっと三日月を見上げていた。
(あの子はなんで月を……?)
そう思った矢先、木の枝を踏んでしまった。
枝が割れる音が響き、少女が驚いたようにこちらを見る。
サイファーに臆しているのだろうか、目を見開いている。
しばらく互いを見つめ合った。
見れば見るほど美しい少女だ。
「や、やぁ……。」
恐る恐る声を出す。
サイファーの声に少女は我に返ったように身をひるがえし、茂みの中へ逃げるようにして姿を消した。
「!まっ……」
『こないで。』
呼び止めようと声を上げた瞬間、凛とした声が頭に響いた。
『こないで。お願い。私達の住処を……。』
奪わないで……―――――――。