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人竜―愛したい人がいる―  作者: 覇斗
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人竜が狙う村

 「十年前、か……。」

 ローブを片づけながら、サイファーは呟いた。

 ここはサイファー達駆逐部隊に与えられた宿舎の部屋である。内装はシンプルであるのは窓とベッドくらいだ。

 サイファーの部屋は宿舎の中でも比較的馬小屋と獣舎に近い位置にある。

 (グリフォンがいるらしいから後で覗いてみるか。)

 聞いた話によると、ここアーク村では十年前の襲撃を教訓に養成所から数年に一度グリフォンを引き渡してもらっているらしい。

 ふと、ドアを誰かがノックした。

 「サイファー?私だよ。カタリーナ。これから見張り交代だから、行こう?」

 「もうそんな時間か。フレデリックも呼んでおいてくれ。」

 「わかった。」

 サイファーは剣を置いて、荷物の中からタガーを取り出し廊下へ出た。

 「フレデリック……。お前、寝てただろ。」

 廊下には長い赤髪を一つにまとめてポニーテールにしたカタリーナと明らかにさっきまで寝ていたであろうフレデリックが立っていた。

 「だって眠いじゃん。眠くないの?サイファー。」

 「俺は竜医だぞ?患畜がいるってのに呑気に寝てられっか。」

 酷い時は三日三晩起こされた。あれはドラゴンが卵づまりを起こした時だ。あの時ほど冷や汗をかいた日はない。

 「ほら、トラストだってまだ森を周回しているんでしょ?早く行くよ。」

 宿舎の外はひんやりとした空気に包まれていた。

 真夜中だからか異様に静かで、見張り以外誰も見当たらない。

 「三人一組での見張りだから楽勝よね。え……っとカーターたちは……。」

 「村の入り口のところに居るじゃん。焚き火してる。ほら、あそこ。」

 サイファーが指を指す。

 カタリーナは目を丸くした。

 「サイファー……君って夜目もきくのね。普通なら暗くて見えないじゃない。」

 「んー。生まれつきこうなんだ。鼻もそれなりに効くと思うよ。」

 「へぇー。凄いのね!あ、カーター!交代よ!」

 サイファー達に気づいたカーター達は宿舎へ戻り始めた。

 彼らが居た見張り場所につくと、茂みから物音が聞こえてきた。

 (動物……?)

 サイファーは持っていたダガーを取り出した。

 だが、茂みから出てきたのはトラストだった。

 『そう身構えるな、竜の医者。ここら辺に敵はいない。』

 彼は鹿を捕ってきたらしい。厳しい冬を乗り越えて身が痩せた雌鹿を引きずってフレデリックの元へ足を進める。

 「どこまで行ったんだ?ここらに鹿はいないはずだろ?」

 『こちらへ向かう途中にいい狩場を見つけたんだ。だからそこまで引き返した。遠いがここに居る間はそこで調達する。』

 得意げに尾を揺らしながらトラストは言った。

 フレデリックはそんなトラストの額を撫でる。

 「にしても十年前も襲われたなんて……なんでアーク村なのかしら?」

 カタリーナが焚火のそばに腰を下ろしながら言った。

 サイファーとフレデリックも腰を下ろす。

 「そこがちょっとわかりづらいよな。人竜の考えてる事は人間にはわからない。」

 「そういえば、サイファーは知ってる?人竜を。」

 カタリーナが尋ねてきた。

 「いや、そこまで詳しくは。」

 (そういえば、人竜について調べた事なんかなかったな……。)

 十年前のアーク村襲撃は知っている。その時の父と母の活躍だって。でも人竜については調べようとしなかった。

 「そうなの?じゃあ軽く教えるね。」

 そう言うとカタリーナは話し始めた。

 「人竜っていうのは名前の通り『人間とドラゴンの間』に位置する種族なの。昼間はドラゴン、夜は美男美女に姿を変えるわ。でも必要なら夜ドラゴンに姿を変えることだってあるし昼間に人間になることだってある。彼らは群れで行動したり一人で行動したりといろんなパターンがあるわ。でも、それだけじゃ私達に駆逐される理由にならない。でも彼らには私達と敵対する理由があった。それはね……。」

 「俺達人間を食べるから、だろ?」

 「……フレデリック。美味しいトコとらないでよ。まぁ、そうフレデリックの言った通り、彼らの捕食対象は人間なの。確かに普通のドラゴンだって人を襲う事はあるけど人竜みたいに意図的じゃない。人竜は、自らの意志で人間を襲い、食べるわ。だから私達駆逐部隊ができたの。ホント、人間ってワガママよね。人竜だって生きているのに。」

 「でも、人竜に殺された人の遺族はそうは思ってないさ。」

 「あら、フレデリック。それ、私たちが食べているポークにも言えるのかしら?」

 カタリーナに睨まれたフレデリックは押し黙った。

 「十年前……。」

 サイファーはぽつりとつぶやいた。

 「十年前のアーク村襲撃の時俺の両親は戦闘班班長として戦線にたっていたんだ。」

 「サイファー……。」

 「人竜の(つがい)と相打ちさ。殺されたよ。」

 彼が人にこの話をだすのは二度目だった。

 実際にその光景を目にしたわけではない。生きて帰ってきた両親と親しかった兵士がわざわざ知らせに来てくれたのだ。

 「サイファー、同情するわ。」

 「ありがとう、でも同情は要らないんだ。」

 火の燃える音とトラストが肉を引きちぎる音だけが聞こえる。

 ふと、トラストが言った。

 『十年前。』

 「え?」

 『十年前……なぜここが狙われたか、わかるか?』

 トラストの問いに三人は首を横に振った。

 肉塊を飲み込んで彼は言った。

 『アーク村は元々人竜達のものだ。彼らが昔……百年以上も前にここを己らの拠点としひっそりと生きてきた。そこへやってきたのがお前ら人間だ。言いたいことがわかるか?』

 トラストは三人を睨みながら言った。

 『十年前だろうと今だろうと、人間に奪われた自分達の住処を取り返す。彼らは理由なく村を襲うわけじゃない。奪われたものをとり返したいだけだ。』

 

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