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朱羅の鳥と楓の剣 [蓬莱妖仙傳]  作者: 犬塚弘鳥
第弐章 一筋光照
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第7話 手伝

 若葉が色づき、小鳥が気持ちよさそうに鳴いている。瑠璃も村長の家に慣れ、仕事に精を出していた。その中で朱羅は何もしていないことに焦りを感じていた。今までさせてもらっていた農作業もごく軽いものしか手伝っていない。それに毎日のように寺子屋に行かせてもらえるのはありがたいが、これでは申し訳ない気がする。このままだと朱羅自身がこの村にいる意味がなくなるような気がした。ただでさえ外に出れば氷のような視線が突き刺さる。それから逃げようとすれば、彼らに負けた気がして嫌な気持ちになる。もうそんな思いはしたくなかった。できることなら冷たい目をされないようになりたい。

 日当たりのいい居間で伸びていた朱羅は誰かが近づいた気がして身を起こす。窓から光が伸びて彼のところで止まっていた。隣を見ると楓が座っている。朱羅が小首を傾げて彼女を見ていると、何かを企んでいるかのようににやりと口角を上げた。目がキラキラと輝いている。

「ねぇ、朱羅。あんた、村の手伝いをしてみない?」

「手伝い?」

「そう。畑仕事を手伝わせてもらうのよ。そうすれば手持ちぶさたにならずにすむでしょ」

「そうだけど……邪魔にならないかな」

「ならないわよ」

 ここ最近畑に行っていない朱羅は畑仕事に自信が持てないでいた。それでも、たくさん手伝ったら温かい目で見てもらえるかもしれない。そう思ったらやってみたくなる。一抹の不安はあるが、楓が言ったことなら試してみたい。そうすれば認めてもらえるかもしれない。朱羅は一筋の光が楓から差してきたように思えた。彼女のおかげで進む道が見えた気がする。

「俺、やってみる」

 朱羅はゆっくりと言った。それを聞いた楓は顔をほころばせる。これで彼が暇そうに寝ころぶこともなくなるはずだ。窓から吹きこむ風が朱羅の髪を揺らす。額に垂れた前髪もそよそよと吹く風に遊ばれた。楓から見れば朱羅の髪型はおかしいと感じる。どうせなら前髪と横髪を伸ばして一緒に後ろで結べばいい。だが彼はそれが嫌なのか、ある程度伸びたら切ってしまう。それが余計に朱羅を目立たせていると気が付いていないらしい。

 楓がどうしたものかと考えている側で朱羅は風を胸いっぱいに浴びていた。瑠璃色の瞳に若葉の色を写し込んで空を見つめている。心なしか口元が笑っていた。畑仕事を手伝えるかもしれない。それだけで朱羅は十分だった。これから過ごすことになるであろう日々を想像するだけで胸がわくわくする。朱羅は立ち上がると楓に顔を向けた。

「行ってきます」

「どこに行くの?」

「まずは組頭さんの所かな」

 その言葉に楓は驚いた。朱羅が自分の実家が倒されてから避け続けて来た場所に行こうとしている。どういう風の吹き回しなのか。彼の表情を伺っても穏やかな微笑みを浮かべているだけ。楓があっけに取られている間に朱羅は小さく手を振って出かけて行った。

 組頭の所に行くと言って出かけた朱羅は彼の土地につくまでの間、心の臓がドキドキしていた。言った以上は行くしかないのだが、今更不安が心に満ちてくる。青々とした稲の若葉すら目に入らない。心地よい風が木々の葉を揺らしても不安は増すだけだった。手伝わせてもらえるかどうか、というよりも彼の冷たい視線が怖い。その恐怖を飛ばす為に朱羅は深呼吸をする。いつまでも怖がっていたらそれこそ何も出来なくなる。

「まずは組頭さんを探さないと」

 実家の跡地に足を踏み入れた朱羅は組頭の姿を探す。彼を見つけないと頼むことが出来ない。彼は家の縁側に腰かけているか、田畑の見回りをして小作人たちがきちんと働いているのか確認しているのが常だった。だとしたら組頭の家に向かう方が良いだろう。朱羅は太陽に向かって葉を伸ばす野菜にわき目もふらずに駆けだした。若草の匂いが鼻をくすぐる。目と鼻の先に組頭の姿も見えてきた。どうやら縁側にいたらしい。朱羅は立ち止まると軽く息を整える。組頭はどっしりと構え、彼を冷ややかな眼差しで見つめていた。その目に朱羅は一瞬ぴくりとしたが、次の瞬間には地に額をこすりつける。

「組頭さんにお願いがあります。忙しい時だけでも畑仕事を手伝わせてください」

「ふん。石っころが何をしに来たかと思えば……。いいだろう、手伝わせてやる」

「ありがとうございます! 寺子屋が終わってから来ます」

「手抜かりすれば容赦はせんぞ」

 顔を上げてきょとんとした朱羅に組頭は舌打ちする。寺子屋が終わった後で来るとか彼にしてみればどうでも良いことだった。そもそも手抜かりの意味すら分かっていない朱羅にいちいち説明する気などない。ただ働き手が増えればいいだけだ。見下したように朱羅を見つめていると、彼は顔を下に向け立ち上がる。風に揺れる彼の髪にリベルタを思い出し、組頭は苦虫を噛み潰したような顔をした。事あるごとに物を申してきたリベルタに組頭はいつも怒りを覚えていた。その息子が目の前にいる。組頭はにやりと口角を上げ、頭を下げどこかに行こうとする朱羅を止めた。

「どこに行く」

「他の人たちにも頼みに行こうかと」

「ならさっさと行け。汚らわしい」

 瞬く間に固まり駆けだした朱羅の後ろ姿に組頭は、組んだ手の上から覗く目を細めた。たった一言で固まる少年に勝ち誇った気がする。組頭はクククッと喉を鳴らすように笑った。これで誰にも(はばか)ることなく自由に朱羅を使えるだろう。そう思うと笑いが止まらなかった。



 十何軒かの農家を回り、その全てから手伝わせてもらうことになった朱羅は最後の一軒に向かっていた。日も暮れかかり影も伸びている。一軒一軒回るうちに過ぎた時間に朱羅は驚いていた。なかなか承諾してくれない家もあったせいだろう。それでも朱羅は達成感を感じていた。小さい影と大きな影が畑で動いている。まだ夕食時にはなっていないらしい。どういう反応を取るのか不安も抱きながら朱羅はその家の土地に足を踏み込んだ。すぐ近くに村長の家が見える。それとは対照的なこぢんまりとした家が村長の家を引き立てているようだ。ぼんやりと村長の家を見ていた朱羅の背中に声がかかる。

「しゅーちゃん?」

「茜、おじさんいる?」

「うん、いるよ。今畑にいるからすぐに来ると思う」

 朱羅と同い年の少女はにこりと笑う。彼女は草太の妹だ。くるくるとよく動く目で朱羅が来た理由を探るように彼を見ている。その後ろからがっしりとした男が現れた。日に焼けた肌にごつごつした手を持つ男を見た朱羅は土下座をする。その姿に男と茜は目を丸くした。

「忙しい時だけでもいいから畑仕事を手伝わせてください」

「いきなり何を言うんだ。チビ助にさせる仕事なんざねぇぞ」

「父ちゃん、朱羅がこうして頼んでるんだぜ? 手伝わせりゃいいじゃねェか」

「だがなぁ」

「夏場だけでも良いっつってんだ。それに人手が増えるしよ」

 肩にいくつもの(すき)や鎌といった農具を担ぐ草太に言われ、源次郎は腕を組んで考え込む。確かに草が元気に生える夏場は人手がある方が助かる。(がら)が小さい朱羅でも草刈りくらいならできるのは知っていた。わざわざ土下座までして頼み込むほど手伝いたいのだろう。その気持ちを無碍(むげ)にするのは草太が許しそうにもない。源次郎ははぁとため息をつき、頭を下げている朱羅を見る。いとも簡単に下げた頭を起こそうともせず、彼がどう答えるか全身を耳にしているように感じた。てこでも動く気はないらしい。源次郎はゆるりと言葉を紡いだ。

「いいだろう。その代わり、忙しい時だけだぞ。それ以外は畑に入れん」

「ありがとうございます!」

 ばっと顔を上げ瞳を輝かせる朱羅にこれでよかったのだと源次郎は思う。満面の笑みを浮かべ、無邪気に草太に話している姿に微笑ましさも感じた。彼に拳を軽く胸に当てられたが、それが彼なりの喜びの表し方と心得ているのか、朱羅は喜ぶ草太の言葉を聞いている。紅い穏やかな光を背に受けて会話する子供たちに源次郎は日頃の疲れも吹き飛ぶ心地がした。その声を聞きつけたのか、玄関から源次郎の妻も顔を出す。彼女は源次郎を見ることなく、草太たちの会話だけで何があったのかを判断したらしい。源次郎に声をかけると彼女は柔らかく微笑む。それにどう反応したらいいのか分からずに引きつった笑顔を顔に貼り付けた彼に草太から声がかかった。

「父ちゃん、朱羅帰るってよ」

「おう、そうか。じゃあまたな、チビ助」

「さようなら」

 手を大きく振りながら去っていく朱羅に草太も手を振り返す。角を曲がって村長の家に入ったのを確認して彼も家の中に入っていった。だが、入ってすぐに農具を担いだままなのを源次郎に怒られてまた外に出る。うっかり農具を納屋に戻し忘れただけなのに。草太はちぇっと舌打ちをし、しぶしぶ納屋に向かう。その影は長く伸び、日暮れを告げていた。



 翌日の昼下がり、朱羅は組頭の土地に来ていた。約束通り来た彼に組頭はどこを手伝えばいいのか手短に説明する。それが終わると朱羅は彼の納屋から農具を借りて畑に向かった。平太や吉兵衛が作業している畑に行くと既に組頭から言われているのか、朱羅の作業する場所を教えてくれる。どうやら畑の一角の草刈りをするらしい。瑞々しい野菜たちが十分に育つように草を刈る。葉の青臭い匂いが朱羅を包んだ。

「うわぁっ」

「どうした坊主。……なんだ、ただのみみずじゃねぇか」

「ぶふっ。みみずごときに驚くとは大したことねぇな」

 土からちょこんと顔を出したみみずが足の甲を通って驚いた朱羅を吉兵衛は笑う。途端に恥ずかしくなって俯いた少年に平太が彼の頭をぽんぽんと軽く触って通り過ぎた。気にするな。そう聞こえたような気がした朱羅は彼の方を見たが、素知らぬ顔で草を刈っている。後ろから吉兵衛が何かを抜いている音が聞こえた。そちらを見ると野菜の育ちの悪い部分を千切っている。はらはらと土に舞うそれに実家の跡地の脇にある盛り土を思い出した。あれから一度もお参りをしていない。そろそろ行かないと彼らに怒られるかもしれない。だが、それすらも今日の手伝いが終わらないと行くことはできないだろう。朱羅はため息をついて目の前を見た。野菜と野菜の間に生えた雑草と葉の裏にいる虫。楓だったら飛び退きそうな光景に朱羅は小さく笑った。

「笑ってねぇで草を刈れ」

「ごめんなさい!」

「坊主、吉兵衛には気をつけろよ? あいつ、ちんたらしている奴にうるせぇから」

「うん、わかった」

 にしし、と笑う平太に吉兵衛が獣のように唸る。それを気にすることなく草を刈っていく彼に朱羅はすごいと思った。自分も頑張ろう。朱羅は目の前に広がる草に向き合った。鎌を草の根近くに当て刈り取る。そのたびに青臭い匂いが鼻に広がり、野菜の側にいることを実感させた。次々に草を刈っていく朱羅に組頭は満足げに口角を上げる。たまたま近くに通りかかったふりで監視をしていた彼は近くにいた吉兵衛を呼んだ。

「石っころの働きぶりはどうだ」

「まぁまぁですね」

「そうか。まぁ、そんなもんだろうな。いい子にしていたら認めてやってもいいんだが」

「おっしゃるとおりで」

 聞こえよがしに言う彼らは楽しげに笑う。朱羅は組頭の言葉に未来が見えた気がした。もし、いい子だったら認めてもらえるかもしれない。そうすれば彼だけでなく村の皆から認めてもらえるかもしれない。これは彼らの畑仕事を手伝うことに似ている気がした。朱羅は微笑むと再び草を刈りだす。葉の裏に潜む虫も土を横断するみみずも気にならない。サクサクと切れていく草の束が出来上がり、決められた場所に草の束を置く。既に隣の農民が彼を呼びに来ていた。朱羅は急いで組頭の元に行くと頼まれたことが終わったことを告げ、鎌を元あった場所に戻しに行く。

「次はオレの所を手伝ってもらうぞ」

「何をするの?」

「草刈り」

 今の時期はそれくらいしか手伝うことはない。日に日に色濃くなってくる若葉は夏がやってくることを告げている。それを楽しみにしているのか、大吉は嬉しそうにそれを見ていた。もうすぐあの季節が来ることを待ち望んでいる彼に朱羅は羨ましさを感じる。小鳥が空を飛び、畑に舞い降りた。何かをついばんでまた空に舞う。あちらこちらで子供たちが親の仕事を手伝っていた。朱羅はいつの間にか離れていたことに気づき、大吉の後を慌てて追う。彼は腰に手を当てて冷ややかな眼差しを送っていた。彼の足元には鎌が置かれている。そこまでしてから呼びに来てくれていたことに気づいた朱羅は自然と大吉に頭を下げた。

「ほらよ。ここから向こうまでやってくれ」

「はい」

 朱羅に鎌を渡した大吉は畑の奥に入っていく。大吉の畑は平太たちが任されている畑より大きい。朱羅が手伝うように言われたのは畑の端から端までだ。ちょうど畑の一辺の畝を二つするだけ。それだけすれば次の場所に行く。朱羅は大吉の畑に足を踏み入れ、手前の畝にしゃがみ込んだ。畝を一つ隔てた向こうには大吉の息子、権之助がいる。彼は朱羅を一瞥するとべっと舌を出した。それだけでは飽き足らなかったのか、手をひらひらさせて彼を近づけまいとしている。彼がいつかの時にぶつかった少年だと気づいた朱羅は申し訳なさそうに頭を下げた。今更しても意味はないだろうが、そうしないといけないような気がする。それが功を奏したのか権之助はそっぽを向いて草を刈り始めた。

「権之助、ちょっとこっちに来い」

「へぇい」

「お前はあっちだと言っただろうが。ほら行け」

 尻を軽く叩いて大吉が権之助がいた畝とは反対側に行かせた彼の姿は野菜の陰に隠れて見えなくなる。それとほぼ同時に朱羅を見やり、草を刈るように顎で示した。大吉の畑は一部だけ草刈りがうまくできていないらしい。野菜の隙間を雑草がほぼ埋め尽くしている。これでは野菜が育ちにくい。朱羅は鎌を茎に当てると草を刈っていく。刈られていった草が束になり、組頭の時と同じように束を置いてくると大吉に鎌を返して彼の畑を出た。後ろから朱羅が刈った畝を見に来た大吉の感嘆の声が聞こえる。綺麗に刈られ、野菜がのびのびと空に葉を伸ばしていた。

 草刈りを終えた朱羅が向かっているのは草太の家だった。次も草刈りをするのだろう。そう思った朱羅は源次郎の畑に向かった。畑では草太が草刈りをしている。ここも他の畑と同じように野菜が青々と育っていた。

「おじさん、来たよ」

「おう、チビ助。草太を見張っといてくれ」

「雑草を刈るんじゃないの?」

「それはまた今度だ。さっさと行け、ちゃんと見てねぇと怠けるからな」

 草を刈る草太を見張れとはどういうことだろう。朱羅は首を傾げながら彼の元に向かう。源次郎の持つこの畑は割と手が行き届いているらしい。草太がいる所の手前までは雑草が見当たらなかった。だが、彼に近づくにつれて雑草の数が増えていく。そこでようやく朱羅は理解した。すぐ草刈りを怠けようとする草太を見張って、きちんと雑草を刈り終えるのを見届けて欲しいということだろう。それに気づいているのか草太は苦々しそうに朱羅を見つめていた。

「なんでおめェが来るんだよ」

「おじさんに頼まれたから」

「いつ頼んだんだよ、俺は見てねェぞ」

「今日の朝だよ。頼まれたのが終わってから手伝いに来いってさ」

 それを聞くと草太はがっくりとうなだれた。ようやく向こうに行ってくれたと思ったら朱羅が来る。これでは怠けることが出来ない。どうにか怠けられないか。うなだれたまま草太は考える。朱羅は彼がどうしたのか気になるのか顔を覗き込もうとしていた。その視線を感じ、体の向きを変えた草太はあることを思いつく。これなら怠けられるし、朱羅も邪魔できない。草太は目の前の雑草を引き抜くと朱羅に放り投げる。慌ててそれを受け取った彼は怪訝そうに雑草を見ていた。

「草刈りゃいいんだろ」

「そうだよ」

「だったら……」

 草太はにやりと笑うと手当たり次第に雑草を引き抜き、そのまま朱羅にそれらを投げる。彼が受け取った所で脇腹に手を入れ、こちょこちょくすぐり出した。最初は声を押し殺して耐えていた朱羅もくすぐったさに負けたのかけらけらと笑いだす。なんとか逃げようともがく朱羅を抑えて草太は鎌を放り投げた。鎌が土にサクッと突き刺さる音がする。朱羅の着物に土がつき、草の匂いが鼻を覆った。彼がもがいたせいで土にいくつかの細い溝が出来る。笑い転げる朱羅と草太の上に黒い影がかかったのはそのすぐ後だった。

「誰が遊べと言った」

「ごめんなさい!」

「わりぃ、つい……」

 どすの()いた源次郎の低い声を聞いた瞬間、さっと身を起こした朱羅は頭を地に付ける。その横で草太は頭を掻いていた。ぎろりと源次郎の目が光り、右手で頭の横を掻く彼を見据える。草太の背中に冷や汗が流れ落ちた。少しやり過ぎたらしい。そう思った時には既に遅かった。源次郎の拳が草太の頬を殴る。勢いで隣で土下座をしている朱羅に倒れかかった。右頬をさすりながら草太が起き上がると彼の心配そうな目と目線が合う。とっさにそっぽを向いた草太は目を吊り上げた源次郎に、朱羅ともども頭を掴まれ上を向かせられた。

「ここがどこだと思ってやがる。畑だぞ。次、畑をめちゃくちゃにしやがると容赦しねぇぞ。ゴラァ!」

「わりィって! もうしねェから離せよ」

「本当にごめんなさい」

 両手を顔の前で合わせて草太と朱羅は謝った。ぎりぎりと二人の頭を掴む源次郎の手の力が強まっていく。朱羅は両手を揃え地面にそっと触れさせ、草太にもそうさせようと手を伸ばした。もう少しで草太の両手を揃えられそうになった時、ふっと頭を掴む力が消えて二人は地面に倒れる。顔を上げると源次郎が戻っていくところだった。今回は見逃してくれたらしい。草太と朱羅は安堵の息をつき、地面に座り込む。互いに顔を見合わせ、がっくりとうなだれた背中を夕陽が優しく照らしていた。

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