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朱羅の鳥と楓の剣 [蓬莱妖仙傳]  作者: 犬塚弘鳥
第壱章 居候事始
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第5話 法師

 闇に覆われた山道を月明かりがほのかに照らす。木漏れ日のような(おぼろ)な光が地面に点々と続いている中で、朱羅たちは木の間村に向かっていた。進むにつれて闇が濃くなっていくとともに朱羅たちの歩みも遅くなる。さくさくと地を踏む音と前を歩く人の息遣いだけが頼りだ。何も考えずにむやみに歩くと木にぶつかったり、湿った草に足を取られて滑るかもしれない。そうなれば誰も助けられなくなる。

「ねぇ、草太。感じない?」

「何をだよ」

「こう……向こうから来る何かを」

「はぁ?」

 草太は意味が分からないと怪訝に朱羅を見る。いきなり朱羅から話しかけられたと思ったらこれだ。何かを怖がっているようだが、そんなことは皆感じている。草太は朱羅の頭を(はた)いた。しかし、彼自身も朱羅が言いたいことは分かっていた。動物ではない何かがいる。そう感じているのだ。朱羅が善右衛門に言ったことは草太も思っていたことでもある。それでも言わないのはただの強がりかもしれない。

 少し道が開けたのか月明かりが差し込み、闇がやんわりと薄らぎ一寸先が見えるようになった。煌々とした月の光でもここまでが限界らしい。暗がりで月に照らされた朱羅は眉を曇らせ怯えているように見える。草太の隣にぴったり寄り添って離れようとしない。後ろについて歩くのが怖いのだろう。草太の着物の袖をぎゅっと左手で握って、彼を見上げていた。朱羅を見ていた草太はため息を漏らす。

「あのなぁ、そんなこと言ってっと本当に出るぞ」

「でも……」

「グダグダ言ってねェで歩けよ」

「ごめん」

 生ぬるい風が木の葉をざわつかせた。カサカサと何かが地を這い、近くの茂みを揺らす音がする。一瞬にして体を凍らせた朱羅に草太もびくりと肩を揺らした。息をひそめてじっと茂みを見つめていると、それは勢いよく飛び出す。瞳を爛々(らんらん)と輝かせる狐に拍子抜けした草太は朱羅にげんこつをくらわせた。朱羅のせいで自分までびびった腹いせだろう。痛かったのか瞳に涙を浮かべる朱羅に草太はふんっと鼻を鳴らした。それで気が済んだのか、草太は朱羅を置いていく勢いで歩き出す。必死でついてくる朱羅にお構いなしだ。あっという間に離れていた文吉の背中に追いつくと彼らと同じ歩みで歩いていく。

「草太、遅かったな」

「ちょっとこいつのせいで遅れたんだよ」

「また混血児かよ。いい迷惑だぜ」

 文吉の容赦ない言葉に朱羅はさっき吐いた息をもう一度呑み込んで、縮こまるしかなかった。草太に迷惑をかけていたのに気付かなかったなんて。自責の念に駆られた朱羅は草太の袖を離し、その場に踏みとどまろうとした。自分さえいなければ迷惑をかけないで済む。家に帰らず、ずっと山の中にいればいい。そうすれば誰の迷惑にもならないから。胸から溢れそうになる寂しさを堪えて、拳を握り締める。再び闇が押し寄せて退いてくれそうにない。しばらく一歩も動かず小さく静かに呼吸をしていた朱羅は、手首を掴まれぐいっと引っ張られるまで彼に気付かなかった。心の中で自分に言い聞かせていたせいか、周りに気を付けていなかったせいかはわからない。彼に引っ張られるまま、朱羅は集団に近づいていく。何が起きているのかわからず、ただ混乱するだけの朱羅に温かい言葉が降り注いだ。

「何やってんだよ、バッカじゃねェの。いつ離れろっつったよ」

「ごめん」

「たくよォ、真に受けすぎなんだよ、てめェは」

「……ごめん」

「たくっ」

 草太は呆れたように短く息を漏らす。掴まれている手首から草太の熱が伝わって朱羅を優しく満たしていった。ずっとこのままでいたいと願いたくなる。背中がざわざわする気配に少しずつ近づいていても、草太の側を離れたくなかった。彼といると肩に綿詰めの衣をかけてもらった気になるからだろう。それと同時に朱羅は怖いのに怖くないという不思議な感覚を味わっていた。草太の隣を歩きながらその答えを探そうと考えていると、先頭を歩いている善右衛門の前方で何かが赤く光る。その光に気付いた朱羅は足を止めそうになった。あれが何なのか分からない。赤い二つの光は朱羅たちに向かっているようだった。地を這うように近づいてくる光はカサカサと微かに音を出している。

「草太、あれ何かな?」

「あれってなんだよ。……赤い光とか言わねェよな」

「うん、赤い光」

 朱羅は右手で赤い光を指差す。暗い道だと指で指し示しても分からないかもしれない。それでも草太には朱羅の言いたいことが分かったようだ。月が彼らの先にあるものを照らす。木の間を縫うように滑らかに地を(うごめ)き黒光りする大きな体を露わにしたそれは、その先端に赤い光を二つ抱えていた。大きな触角も見える。節のある体をたくさんの足で支えながら近づく、明らかに異常な百足(むかで)に草太は戦慄した。あんなばかでかい百足は見たことがない。草太は朱羅の手首を掴む力が強くなるのを感じた。普段目にするものより何百倍も大きい体をたやすく動かす百足に善右衛門たちもようやく気が付く。彼らは二の句が継げないのか口をパクパクさせて、向かってくる百足を見つめていた。


「う、うわぁぁぁ! 化け物だぁ!」

「逃げろぉ!」


 それを合図に善右衛門たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。暗い中で逃げるのは容易ではなかった。木にぶつかったり、何かにつまづいて転けたりする。そのたびに背後から迫るカサカサという音に心の臓を鷲掴みにされ、飛び上がらなければならない。どこに逃げればいいのか、それが分かっていても頭が働かなかった。草太もその例に漏れず、混乱したまま朱羅と一緒に山を駆けおりていく。何も考えられない。ただ本能に従い逃げるだけ。草太と朱羅は足元に生える草に何度も足を取られそうになりながら、転がるように木の間村に逃げ込む。そのまま地面に四つん這いになって呼吸を整えながら、早鐘のように鳴らしている鼓動が落ち着くのを待った。人心地がついた頃、辺りを見渡すと善右衛門たちも同じように休んでいる。

 気が付くと草太たちの周りは松明で照らされていた。探しに来たであろう男たちの持つ松明の灯りが彼らを安心させてくれる。百足の足音も聞こえない。そのおかげか百足のことを文吉がぽつりと漏らす。

「あんなでかいの今までどこにいたんだよ。普通いたら気づくだろ」

「地中にいたとかじゃないっすか?」

「地中ねぇ。あとさ、いつまで混血児の手を握ってんだよ、草太」

「ん? うおっ」

 右手をじっと見ている文吉の視線に気づいた草太は慌てて朱羅の手首を解放した。朱羅は軽く(あと)がついた左手首を摩る。その様子に文吉は呆れたのか、はぁと溜め息を溢した。

「気づいてなかったのかよ」

「わりィ。必死だったからつい」

「混血児なんかほっとけよ。どうせ百足呼んだのもそいつだろ」

「此奴が呼んだだと!?」

「そうだろうが。化け物に気付いていたのあいつだけだぜ? 他に考えられねぇよ」

 草太には言いがかりにしか聞こえなかった。百足がいることを感じていただけで呼んだとはあんまりだとしか言えない。しかし、文吉はそうに決まっていると決めつけているらしく朱羅に詰め寄っていた。朱羅がどんなに首を横に振っても責め立て続けている。彼が縮こまっても容赦をしていない。しまいにはどうやって呼んだのか問い詰める始末だ。そんなことを知るはずもない朱羅は呼んでいない、していないの一点張りをしている。これではらちが明かない。草太が腰を上げて文吉に口を開こうとした時、目の前が薄暗くなった。何事かとそちらを見ると楓が松明の灯りを背に受けて朱羅の前に立っている。朱羅を迎えに来たのか。草太はそう早合点をしたがどうやらそうではないらしい。

「ねぇ、朱羅。今日玉梓さんが来たでしょ? あの人、帰りがけに変なことを言っていたんだけど……」

「変なこと?」


「うん。『よもや西城の小童(こわっぱ)がこんなところで生きていたとは……。玉の在処を知っているやもしれんな』って。西城という苗字を持つ人なんていないのにね。あんた、心当たりある?」


「西城……」

 朱羅は文吉に問い詰められていたことを忘れているようだった。顔を青くして焦点が定まっていない。誰から見ても分かるその動揺に草太は身を乗り出す。ここまで慌てる朱羅は見たことがない。それは楓も同じらしく、朱羅の目の前にしゃがみ込んでいる。この辺りに西城という家があると聞いたことがない。とは言っても武蔵国(むさしのくに)の全体的な情報を知らない草太には、本当に西城と言う家がないのか分からなかった。それを朱羅に聞こうにも彼が答えてくれそうには見えない。西城について何かを知っているようだが、それを頑なに隠そうとしているのか楓から目をそらしている。それが余計に怪しく見えるせいで、彼女は朱羅に疑いの眼差しを向けていた。



 大百足が現れてから数日経ったある日の午後、寺子屋帰りに散歩をしていた朱羅と楓は、袈裟を着た二人連れが道端で村長と話しているのを見つけた。法師の親子連れらしいが、小さい方は髪が(うなじ)まである。雲水でも髪を剃っているのに、法師の息子が剃っていないのはおかしい。気になった朱羅たちは彼らの元に歩いて行く。瑞々しい稲穂が風に揺れて水面が波立っているようだ。その脇を早歩きで進んで行く。話が終わる前に彼らの元にほんのわずかでも早く着きたい。それだけだった。

「父上、そちらの法師様は?」

「おぉ、楓か。どうやら大百足の話を聞いて退治しにいらしてくださったらしい。話が伝わるのも早いものだ」

 通常、妖怪が出たら近くの寺か神社に頼むのだが、今回のように法力の強い法師が近くに来ていれば彼に頼むこともあった。その場合は地元の法師や神主、巫女にも彼に協力してもらう。大して意味のないことかもしれないが、そうすることで(いさか)いを避けているのだ。それを村長も承知している。彼が法師と話していたのも地元の神主や法師と協力してくれないかと頼むためだった。これを法師が快諾したのか、村長はすこぶる機嫌がよさそうに見える。

「拙僧は法師の文殊と申します。これは息子の普賢(ふげん)と申します」

「私は楓です。こっちは朱羅です」

「ほぉ、可愛らしいお名前ですね。朱羅と言う名前も珍しい」

 村長の紹介を受けた文殊は上品な言葉と共に微笑みを浮かべた。朱羅の「ど、どうも」という緊張した小さい声も笑みを誘う。ここで瑠璃色の瞳の少年に会うとは。文殊は意外に思う気持ちは胸にしまい、朱羅を観察し始めた。目鼻立ちが昔会った少女と似ている。髪の色に違いはあるが、彼は間違いなく彼女の息子だ。朱羅は恥ずかしいのか文殊の視線から逃れるように楓の後ろに隠れている。ひょいと顔を出して小声で楓に何か言っているようだが、文殊には聞こえない。それに彼女は首を傾げて訳がわからないといった風情だ。朱羅からは法師や神主といった職業に就く者なら誰でもわかる力を感じる。こういった力は一般の民ならわかりようがないものだ。例えその力を持っていても、知らなければうまく説明ができないものでもある。

 文殊は村長に大百足を見た者を集めてくれるように頼んでから、普賢に何かを渡して朝日村へと続く山に向かわせる。彼を見送ると文殊はゆっくりと楓たちに近づいた。錫杖の環がシャンシャンと小さく音を奏でる。薄墨色の衣に軽く手を置き、楓たちに目を合わせると再び人の良さそうな笑みを浮かべた。


「朱羅様は法師ではないみたいですね。この感じからすると(かんなぎ)でしょう。この歳ですし、神主はまずありませんから」


 その言葉に朱羅はきょとんとする。自分が寺や神社に所属していないのは見てわかりそうなものなのに、この法師様は何を言っているのだろうか。覡と言うのは巫女と同じ力を持つ男のことだったはず。冬嘛斎にも感じるどこか清浄な気を感じさせる法師の考えていることがわからない。朱羅が答えられずに楓に隠れてやり過ごそうとしていると、村長に呼ばれた善右衛門たちがやって来た。口々に化け物が退治される喜びを語っている。その声が文殊の背後まで迫った時、彼は姿勢を正しながら振り返った。

「お呼びたてして申し訳ありません。早速ですが、あの夜に見たものを教えていただけませんか?」

 文殊の柔らかな口ぶりに善右衛門たちは見たものを話す。大きな黒い体に赤い目を持つ大百足の話を彼は静かに聞いていた。いつの間にか日が沈み、闇が空を覆っている。山から吹く風に木の葉や草の葉がざわざわ揺れた。それと同時に大百足を朱羅が呼んだという話も飛び出してくる。朱羅も負けじと呼んでいないと声を上げる。玉梓や大百足に変な怖いものを感じただけなのに、犯人呼ばわりをされたくなかった。

「話はよくわかりました。朱羅様が感じていたのはおそらく妖気でしょう。玉梓という女人は邪気のようですが」

「法師様、妖気とか邪気ってなんですか?」

「妖気とは妖怪が発する気。邪気とは(よこしま)な心が発する気。そう覚えていいですよ」

 目線を合わせて教える文殊に朱羅はへぇと小さな吐息を漏らす。自分が感じていたものがそういうものだとは思わなかった。法師様に聞いてよかったかもしれない。こうやってきちんと話を聞いてくれる人が他にもいる、ということが朱羅には嬉しかった。それにしても妖気や邪気という言葉はどこかで聞いた気がする。朱羅が思い出そうと頭をひねっていると横から声が聞こえた。


「……俺もそれ感じたぜ」


「草太も?」

 草太の唐突な告白に朱羅は驚きを隠せなかった。文吉たちもそれは同じだったようで彼を見つめている。混血児と同じように感じたというのが信じられない。蚊の鳴くような声で呟く文吉に隣にいる藤助も頷く。しばらく沈黙が流れた頃、顎に手を当てていた文殊が草太と朱羅を交互に見ながら口を開いた。

「草太は妖気や邪気を感じ取れるようですね。もっとも朱羅様と違って霊力はないようですが」

「霊力?」

「妖怪を倒せる清浄な力のことです。人によっては神通力と言ったりしますよ」

 法力と霊力は同じ力でも微妙に違う。仏の教えや仏具を用いて使う法力は、法師であれば誰でも微々たる力を持っているものだ。その中でも強大な妖怪を退治できる程の力を持つ者は少ない。それと同じように神具や武具を用いて使う霊力は生まれながらに持っている者しか使えない力だ。大抵はそこそこの力だが、まれに強大な妖怪を倒す程の霊力を持つ者もいる。そういったものは家系によるものが多い。とは言え、この二つの力には修行によってその力を強くすることが可能と言う共通点があることもまた事実だった。

 それが朱羅にあるとは誰も思わなかったのだろう。文吉たちは楓の後ろにいる朱羅を遠巻きに見ていた。思いのほか目立ってしまった朱羅は後ずさりしようとして、誰かにぶつかり肩がびくりとする。恐る恐る振り返ると息を切らした普賢がそこにいた。手には空になった袋が握られている。

「父上、準備が終わりました」

「ご苦労さま。普賢は休んでいなさい」

「準備ってなんだよ」

 草太が口を挟んだと同時に朱羅は背後から迫りくるものを感じた。カサカサと地を這う音も聞こえる。その音はどんどん朱羅たちに近づいて来ていた。あの時の大百足が木の間村にやって来たらしい。朱羅は震えそうになる声を抑えて、平然を装って彼らに呟く。

「来るよ」

 呟きに反応した草太たちは山のふもとを見つめる。村長がつけた松明の灯りが届かないところでも大百足の赤い目はよく見えた。大きな触角を左右に振りながら近づく大百足にどうしたら良いのか、文吉たちは分からず善右衛門の側に固まる。草太は足がすくんで楓の隣から動けなかった。この前見た時よりも獰猛(どうもう)そうなその目に足が棒になったようだ。それでもせめてもの抵抗として、この事態を引き起こした文殊に大百足を指差しながら声を荒げる。

「なんであいつが村に来るんだよ!」

「私が普賢に頼んで道案内してもらいましたから」

「笑って言うことじゃねェだろ!」

「ご安心ください。これも退治するためですから」

 文殊はお札を懐から数枚取るとぶつぶつと何かを唱えて大百足に投げた。宙を舞うお札は松明に照らされて橙色に染まる。投げられた勢いそのままにお札は大百足の頭に張り付いた。大百足は起き上がろうとした状態で固まり、そのまま地面に崩れ落ちる。まるで石のようにぴたりと動かなくなった大百足に文吉たちは目を見張った。

「おぉ……すげぇ」

 感嘆の声を尻目に文殊は大百足の前に立ち、朱羅の方を向いた。にこりと微笑み、ここに来いと言うように手招きをしている。朱羅は怪訝に思いながら彼の元に歩いていった。文殊は彼が自分の前に来ると錫杖を渡す。いきなりそれを渡された朱羅は目をぱちぱちさせて文殊を見た。一体何をするつもりなのだろう。首を傾げて見上げてくる朱羅に文殊はふふっと笑い声を漏らした。

「朱羅様、あなたもやるんですよ」

「えぇ!? ど、どうやってするんですか?」

「これに体から湧き上がる力を込めてみてください。そうですね、(てのひら)から錫杖に水が流れる様子を浮かべながらやってみてください」

「はい」

 朱羅は言われたとおりに錫杖を握って何かを込めてみた。体の深いところから何かが駆け上り、手を伝って錫杖に流れ込む。生まれてはじめてしたとは思えないその感覚に、朱羅の口元に笑みが浮かんだ。段々その何かに錫杖が包まれていくのを感じる。

「早速やってみましょうか」

「法師様ぁ!?」

 文殊はそう言うと大百足に貼ったお札を丁寧に剥ぎ取る。お札が全てなくなって目覚めた大百足がしゃーと音を出しながら起き上がり、朱羅に襲いかかる。朱羅は目を瞑り、ぎゅっと錫杖を握り締めた。そのとたん、錫杖の先端が淡い青い光に包まれたのに草太は気づく。錫杖が大百足にぷすっと刺さった途端、青い光の粒と一緒に大百足の体がいくつかの節ごとに分かれてはじけ飛んだ。

「……大百足がバラバラになるなんて嘘だろ」

「今なにが起こったの?」

「よくできました。あとは同じやり方でこのお札に霊力を込めればどんな妖怪だって封印できますよ。そうしたらその妖怪は悪さができなくなります」

 大百足の残骸に戸惑う楓や文吉をよそに文殊は朱羅をねぎらった。懐からお札の束を取り出し、朱羅の手に包ませる。呆然とそれを見る彼に文殊は苦笑いをこぼし、頭をくしゃくしゃと撫で回した。それでようやく落ち着いたのか、朱羅はぺこりとお辞儀をすると草太のところに駈けていく。まだ何が起きたのか受け入れられていないらしい。これはもう少し付き合わないと駄目かもしれないな。心の中でひとりごちると文殊は普賢の元に歩いていった。

 翌朝、木の間村の入り口に文殊親子と村長がいた。文殊は申し訳なさそうに眉を下げている。村長はそれに気づかぬふりをして、小銭が入った財布を彼に渡す。

「法師様、大百足を退治してくださりありがとうございます。これが今回のお礼です」

「ありがとうございます。地元の神主たちにお詫びをお伝えてください。それと朱羅様によろしくお伝えください。では」

 財布を懐に収めた文殊は申し訳ないともう一度言ってから歩き出した。その後を普賢がついていく。今回は別段地元の神主たちに力を借りるほどではなかったが、それでも約束破りになるのは後味が少々悪い。次に来るのはいつになるか。それを思うと後味の悪さも引いていく。そんな自分に文殊は苦笑すると蒼い空を見上げた。風が心地良く吹いている。隣を歩く普賢も気持ちよさそうに微笑んでいた。

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