第4話 山越
朝食の時間になっても朱羅は帰って来なかった。それほど家に荷物があるというわけでもないのにどうしたのだろう。一太は心配になり、村長に断って朱羅の家に向かった。道中、村の様子を見たが朝食を食べているらしく村人の姿は見えない。そんな中、組頭の所有する土地にさしかかった途端、異様な光景が目に飛び込んできた。昨日まであったはずの朱羅の家がものの見事に潰れている。一体何があったんだ。一太は朱羅を探した。家に帰って来ていないということはまだこの近辺にいるはず。そう考えたからだ。思った通り、朱羅は自分の家だったところの裏手に座っていた。しかし、頬にかかる横髪のせいでその表情は分からない。
「おい、朱羅。一体何があったんだ?」
一太がそう声をかけても反応はない。肩を震わせてすすり泣いているだけだ。それでも木材を持ち上げようとしている。壁の一部とはいえ、朱羅には重すぎて持ち上げられるはずがない。どかすことさえままならないだろう。
「もしかして組頭がやったのか?」
朱羅の様子から推測して一太は問いかける。その問いに朱羅はこくんと頷いた。実際にやったのは組頭の小作人だろうが、それを命じたのは組頭だろう。だとしたら、組頭がやったのと同じだ。
「組頭のやつ……父上に言いつけてやる」
一太が憤慨して家に戻ろうとした時、朱羅の悲痛な響きを孕んだ声が聞こえた。
「行かないで……」
「何でだよ。これはただことじゃない。父上に言わないと」
そこまで言って一太は気がついた。悲しみの渦に溺れている朱羅を一人にするのは、あまりにも残酷だ。たった一つの心の拠り所を失った幼子を放っておくわけにはいかない。一太は朱羅の隣にしゃがみこむ。
「手伝ってやるよ」
「え……?」
一太が手伝ってくれるとは夢にも思わなかったのだろう。朱羅は涙でぐしゃぐしゃになった顔を一太に向けた。その瞳には驚きと悲しみが宿っている。そんなに驚かなくても。一太は心の中で肩をすくめた。今まで誰にも頼ることが出来なかったとしたら当然の反応かもしれないが、一太には馴染みがない反応でしかない。手間取っていたら誰かが助けてくれるのが普通ではないということだ。一太は感覚の違いに溜め息を吐くと、朱羅が持ち上げようとしていた木材を盛り土とは逆の方向にどかした。
「ありがとう」
「いいって」
一太は屋根の近くの折れた木材をどかそうと足を一歩踏み出した。みしっと木が軋んだ音がした途端、朱羅に引っ張られて後ろに倒れ込む。何事かと朱羅を見ると、ふるふると首を横に振っていた。ここはまだしたらダメということか。そう思って改めて家を見る。屋根を葺いていた茅が辺りに散らばっていた。どかした木材が削ったとも思えないし、倒れた拍子に剥がれたとも思えない。もしかしたら、朱羅が引き抜いたのかもしれない。
「屋根をどかしたいのか?」
「うん。だからさっき、どかそうとしてたんだけど……」
「持ち上げようとしていただろ。それでどかせるかっての」
「ごめん」
しゅんと落ち込んだ朱羅に一太は溜め息をこぼす。屋根をどかしたいのなら、素直にそれを言えばいいのになぜ言わなかったのか。そう言っても意味はないのだろう。まだ幼い朱羅が筋道立てて考えられると思う方が間違いだ。だとしたら、自分が朱羅を引っ張っていくしかない。
「朱羅、空いたところから屋根まで行って押せ」
「一太はどうするの?」
「前から屋根を引っ張る。うまく行けば屋根をどかせられるだろ」
そうする為には屋根にくっついている壁を全て切り離さなければならない。木材を組み合わせて支えているだけの屋根から切り離すのは容易に思えた。倒れたおかげで屋根付近の木材は折れている。これならいける。そう思って言ったのだが、実際に切り離せるのは朱羅のいる裏手だけだった。それに木製の屋根は重い。子供だけでどかせられるわけがなかった。
「朱羅、ちゃんと押しとけよ」
「うん」
朱羅が屋根を力の限り押す。しかし、屋根はぴくりともしない。それでも押し続ける。一太が引っ張ってくれているんだ。自分も頑張らないと。そうやってしばらく押していると、屋根が突然ふわりと浮いた。朱羅が驚いて目を開けると、組頭の小作人たちが屋根を持ち上げている。さっきまでいなかったのにどうしたのだろう。
「そいじゃ行きますか」
「へい」
「せーの!」
一太のかけ声と共に屋根がゆっくりと動く。地面から低く浮いた屋根は家から離れていった。家の壁が倒れているその先に、慎重に屋根を地面に下ろす。さぁと舞う土煙が収まる頃には隠れていた床が顔を出していた。これなら荷物を取れそうだ。いや、床に倒れ込んでいる壁を取り除かない限り、荷物を完全に取ることはできないだろう。
「壁をどけてやるからな。坊主はそこにいろ」
「家を倒しちまって悪かったな」
「おーい。そっち持ってくれ」
「あー、こりゃ腰に来るな」
朱羅が最初の男に返事をする前に次々と飛び交う男たちの言葉。彼らだって好きで朱羅の家を倒した訳ではない。命令されたら従うしかない小作人なのだ。そんな彼らの行動を責めることはできない。まるで罪滅ぼしのように壁をどけてくれる彼らに、朱羅は複雑な感情を抱いていた。
「こんなもんか。おい、坊主。荷物をかっさらいな」
「あ、うん。ありがとう」
「いいってことよ。オレたちの方が坊主に謝らねェとなんねェしよ」
「んだんだ」
「どこの方言だよ、それ」
「はっはっは。知らん」
朱羅がお礼を言って広くなった床に行く後ろで、二人の小作人は楽しそうに話す。一仕事終えた後のおしゃべりらしい。朱羅は彼らに構わず、散乱している荷物を拾う。荷物と言っても衣服と布団を除けば、数えるほどしかない。
「もう終わったのか? 手拭いに鍋、お椀、盥、箱、水瓶、米櫃……少なっ!?」
「そんなに驚くことかな」
「驚くわ! 箪笥はないのか?」
「ないよ。隅っこに積んでるだけだし。それに着物だって全部合わせても両手に足りない。行李がなくても問題ないよ」
「嘘だろ」
一太は信じられなかった。思っていたより朱羅は貧しかったらしい。普通ならあるはずの物ですらないなんて誰が想像できるだろう。一太が動けずにいる間に朱羅は荷物を纏めていた。鍋の中に盥と椀を入れる。手拭いは箱の中にさっと突っ込んだ。しかし、米櫃と割れた水瓶はどうしよう。風呂敷を広げたまま、朱羅は考え込んだ。土の匂いが鼻をくすぐる。
「持って帰ってもいいか」
男の手が米櫃に伸びる。朱羅が顔をあげると小作人の一人、平太が米櫃に手をかけていた。確かに朱羅が持って帰っても何かになるとは思えない。それならいっそ平太に持って帰って貰った方が良いかもしれない。朱羅は小さく頷く。割れた水瓶もいつの間にか小作人の吉兵衛の手に収まっていた。彼には鋳掛屋の知り合いがいるという噂があるが、もしそれが本当なら直して使ってくれるかもしれない。そうでなくとも、彼は組頭に信頼されている。水瓶くらい修理させて貰えるだろう。それに、元々朱羅の家で使っていた水瓶は小作人たちから分けて貰った物だ。確か吉兵衛の所から分けて貰ったはず。詳しいことまでは覚えていないが、朱羅はそんな風に記憶していた。
米櫃と水瓶がそれぞれ引き取り手に渡った後に残ったのは、朱羅が纏めた荷物と布団や着物だけだった。鍋と箱は風呂敷で包んである。問題は布団と着物だ。どうやって村長の家まで運ぼう。朱羅が布団とにらめっこしていると、布団が着物を包んだままひょいっと浮いた。慌てて見上げた朱羅の前にいたのは、布団を抱えた一太だった。どうやら彼が布団を持ってくれるらしい。朱羅は風呂敷包みを抱えると、少し足を踏ん張りながら立ち上がる。鍋は金属製だからか思ったより重い。しっかり持っていないと落としてしまいそうだ。
「行くぞ」
「えっ、待ってよ」
一太は朱羅を待たずに村長の家に向かう。もうお腹はペコペコだ。出来ることなら今すぐ帰りたい。それは朱羅も同じだった。朱羅は鍋を落とさないように一太について行く。村人は朝食を終えたのか、ぞろぞろと出て来始めていた。一太たちは布団と風呂敷を抱えたまま、村長の家に急ぐ。
「ただいま戻りました」
一太が玄関に入って声をかけると、お菊が台所からやってくる。
「お帰りなさい。あなたたちのご飯を取ってあるわよ。手を洗ってらっしゃい」
「はい」
「それと荷物はそこに置いておいていいわよ」
お菊が言うやいなや一太は上り口の側の床に布団を置いた。朱羅にも置くように促したが、なかなか動かない。どうしたのかと朱羅を見ると、瞳に大粒の涙を浮かべていた。お菊は朱羅と目を合わせる。
「おいで」
優しく包み込むようにお菊は朱羅に手を伸ばす。朱羅はお菊の胸に顔をうずめ、ぽつぽつと小さく何かを呟いた。お菊はそれに相槌を打ちながら、朱羅の背を撫でている。一太は黙って見ているしか出来なかった。朱羅がお菊に何を見たのか、一太には分からない。
「仏壇を造りましょうか」
その言葉に朱羅は顔をあげる。仏壇に先祖を祀るのなら、両親だって祀っていいはず。そう考えて組頭の家に行ったのに、家が壊れたことで頭から消えていた。お菊は全てを見通していたらしい。春の日差しのような微笑みに朱羅はいつの間にか頷いていた。お菊と一緒に仏間に移動すると懐の風呂敷包みをほどき、箱ごと盥を取り出す。蓋を開けて中の手拭いと本を出すと、空になった箱に椀を逆さにして入れた。床の間に箱を縦にして置くと、箱の蓋を後ろに隠す。そこまでしたところで、お菊から小さな仏像三体が手渡された。朱羅が怪訝に見ているとお菊は仏像を椀の底に一体ずつ乗せる。
「位牌も置かないとね」
「どこにあるの?」
「ふふ、ここに持って来ているのよ」
ほら、と差し出された位牌には十六夜とリベルタの戒名が書かれていた。いつの間に用意したのだろう。小首をかしげる朱羅にお菊はくすくすと堪えきれずに笑った。二人が亡くなった後で村長が秘密裏に作っていたなど、朱羅が知るはずもない。無論、今それを教える気もなかった。
位牌を置いた後は小さな花器を華瓶代わりに供える。飯を供える器は余っているもので補った。これで十六夜たちの仏壇は出来上がりを迎える。朱羅は不思議と心が落ち着いて行くのを感じた。仏壇を作っただけなのに、どうして安心するのだろう。朱羅には不思議だった。
朱羅が遅めの朝食を食べ終えた頃、村長の家に客が訪れた。木の間村では見ることのない金色がかった茶色の髪を持つ妖艶な美女だ。彼女はお付きの者を一人連れている。近くの町から来たらしい。それに気づいた村長は使用人に出迎えに行かせ、客用の座布団を用意して彼女を出迎える。
「村長殿、お久しぶりにございます」
「玉梓殿、ここまでよく来られた。道中疲れたであろう。ごゆるりと過ごしてくだされ」
「はい。……ところで、そちらのお小さい童はどなたです? 以前はいなかったはずですが」
「この子は朱羅と申して、家で引き取った子なんですよ」
「綺麗な紅髪だこと」
玉梓は紅い目を細めて朱羅を見る。ぞわりとする得体のしれないその視線に朱羅は身をすくめた。顔をあげるのも怖いくらいの背筋を凍らせる雰囲気を醸し出す玉梓に、朱羅は逃げ出したくなる。体の芯からじわじわと体温を奪うような、屑が放つあの嫌な臭いが体に纏わりつくようなその感覚が怖い。しかし、楓たちはそれを感じていないようで、玉梓と仲良く話している。なぜ楓たちが平然と過ごせるのか、朱羅には分からなかった。どこにも逃げ場のない思いに囚われ、一人悶々と考え込んでいた朱羅の肩を一太が叩く。朱羅が振り向くと、一太は耳元に顔をよせ小声でささやいた。
「俺の代わりに朝日村に荷物を届けてほしい」
「いいの?」
「今頼めるのはお前だけだ。頼む」
「分かった」
朱羅は深く頭を下げ、その場を離れると急いで草鞋を履いて外に出る。一刻も早く玉梓から離れたかった。その為ならどんなことだってする。朱羅にとって一太の申し出は仏そのものに感じられた。朝日村に荷物を届けたことは無いが、そこに行く為に集まる場所なら知っている。それも一太が朱羅に頼んだ理由だ。朱羅は家から少し離れた山のふもとに駆けていく。既にそこには数人の子供と引率と思われる男がいた。
「なんで混血児が来るんだよ」
「一太に頼まれたから」
「たくっ、どうせなら一太が良かったぜ」
「ごめん」
文吉がちっと舌打ちを打つと朱羅は申し訳なさで胸がいっぱいになった。母と同じ混血児である朱羅を快く思わない者は多い。それは村の子供たちも同じだった。彼らは決して朱羅を名前では呼ばない。穢れたものとしか思っていないせいだろう。
朱羅と文吉のやり取りを見ていた男は、朱羅に荷物が積まれた背負子を渡した。ずっしりと布地が詰まっている。山を越えた先にある朝日村には行商人もなかなか行かないので、木の間村が代理で購入して定期的に運んでいるのだ。それを十代後半までの少年たちが運ぶ慣習になっている。いつもは一太がこれに加わっているのだが、彼は玉梓がいるおかげで来ることが出来ない。
「行くぞ、ガキども」
「おっさん、今日は少しゆっくり行こうぜ」
「文句あるなら帰っていいんだぞ、草太」
「ちぇっ。ケチ」
草太は頬を膨らませ、男から顔をそらす。楓と同い年の彼は村長の家の近くに住む農民だ。よく楓の所にも遊びに来ている。朱羅に軽蔑した眼差しを向けてくることは無い。それが朱羅には嬉しかった。年の近い幼馴染みにまでそんな眼を向けられたらたまったものではない。
草太たちは先導の男、善右衛門について行き山道を登っていく。途中何度か休憩を取りながら朝日村を目指す六人を木漏れ日が温かく出迎えた。山の中に少年たちの話声と善右衛門の叱咤が木霊する。朱羅も草太に家が壊れたことを話した。
「はぁ!? それって村長に」
「しぃー! 大きな声で言わないでよ。皆に聞こえちゃう」
「おめェ、それでいいのかよ。ここはガツンと」
「草太じゃないんだから」
途中何度か言葉を切られた草太は眉をひそめた。朱羅としてはあまり人に聞かれたくない話だったが、流石に悪い気がする。今の話を忘れろなんて言えるはずもない。だったらいつか草太の頼みを聞くしかないだろう。そうしたら少しは気を収めてくれるかもしれない。朱羅は草太にそう提案しようと口を開きかけたが、言葉は出なかった。前を歩いていた少年にぶつかったことに気づいて頭が真っ白になる。罵倒の言葉と一緒に怒られるかもしれない。それだけは聞きたくなかった。朱羅が後ずさりをすると前にいた少年が振り向く。少年は朱羅を一瞥するとべっと舌を出し、彼がぶつかったところをさっと払いながら再び前を向いた。それに草太が怒ったのか手を振り上げたのに気付いた朱羅は慌てて彼を止める。これ以上したら善右衛門にどなられてしまう。草太もそう気づいたのか手を下した。ぶつぶつ文句を言っているが、少年の背負子にある荷物を傷つけるわけにはいかないと考えたらしい。彼の荷物である食料をだめにしてしまえば、朝日村の人から怒られるだろう。せっかく手に入るはずだった魚の干物がだめになる、というのは事情を知っても許されるものではない。
「ガキども、着いたぞ」
「やっと着いたー。ここまでかかるなんて聞いてねぇっすよ」
「この山がすぐ越えられる山に見えるか」
「……見えねぇっす」
藤助ががっくりと肩を落としながら善右衛門を見る。彼も初めて朝日村への荷物運びに参加した。親からどれくらいかかるのか聞いていなかったのだろう。
太陽が照らす朝日村は翡翠色の段々畑が良く映えている。山に囲まれた村は風が吹くたびに揺れる葉が奏でる音に満たされていた。気持ちのいい風が吹いている。朱羅たちが地面に座って涼んでいると初老の男が一人近づいてきた。
「木の間村の皆さん、お疲れでしょう。荷はわしらでほどくのでしばらくそこにいてくだせぇ」
「末吉さん、いつもありがとな」
「いえいえ。もうすぐ日も暮れるじゃろう。帰り道には気を付けてくだせぇよ」
末吉は朱羅たちが持って来た荷を一つづつほどいていく。彼の息子たちも荷物を運ぶ手伝いをしていた。食料とそれ以外の品で分けられた荷物は末吉の家の縁側に並べられる。これから村人に分ける作業をするらしい。朱羅たちの役目は終わったのだ。あまり長居をすると朝日村の方々が困るだろう、と善右衛門は帰り支度を始める。子供たちも次々に立ち上がり、何も入っていない背負子を肩に掛けた。
これから来た道を戻るとなると、帰りは夜になるだろう。間違いなく夜ご飯は抜きだ。あるとしても夜食だが、家族がそれを用意してくれているかは分からない。善右衛門は文句を垂れる子供たちを追い立てながら山に分け入った。
「……灯りがないっておかしいだろ」
「仕方ないよ。おじさんが忘れちゃったんだから。それにほら、お月様が出ているからきっと大丈夫だよ」
「よく言えるよな」
歩き出してどれくらい経っただろう。とっぷり日が暮れて月が顔を出した頃、善右衛門一行に問題が発生していた。善右衛門が灯りを忘れたおかげで、月明かりを頼りに村まで帰らなければならない。それがどれほど大変か、朱羅には分からない。月明かりの中で家に帰ったことがないのだ。
善右衛門たちが来た道を違えることなく進んでいると、朱羅は違和感を感じた。村に通じる二つの道の内、左側から体に纏わりつくような気配を感じる。玉梓のそれとは違い、これは恐怖を煽るものだ。心の臓をきゅっと掴まれたような感じもする。いつ体が震えてもおかしくない恐怖を感じているのに一向に震える気配を見せない。これは一体何だろう。
「おじさん、そっちから何か感じる。行かない方が良いと思う」
「あぁ? 混血児のくせに文句つけんのか」
「ごっ、ごめんなさい」
左側の道に進もうとする善右衛門に教えても彼は取り合ってくれない。危ないと頭が警報を鳴らしているのに、誰も感じないのだろうか。朱羅には分からないことが多すぎる。風もざわめいているのに誰も気が付かないのだろうか。不安が胸を覆っていく。漆黒の刃が彼らに覆いかぶさろうとしていた。