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第71話 残念な聖騎士

 《ランド王国最西端の山岳地帯》


「……っ」


 シャロンヌの目の虹彩(こうさい)がすぼまる。

 透き通った薄紫色の前髪から覗く彼女のその額から、冷たい汗が流れ落ちた。


「……花村(はなむら)……(てん)


 シャロンヌは咄嗟に息を呑み込み、やっとの思いで声を出す。彼女は今、かつてない衝撃を受けていた。ここまでのカルチャーショックはここ十数年……いや、生まれてこの方あじわったことがない。



『たかだか雀の涙ほど力が増した程度で、俺に勝てる夢でも見たか』



 花村天とバンザムの壮絶な結末、その一部始終を()ていたシャロンヌの心中は、天への畏敬(いけい)(ねん)(いろど)られていた。


 ーー(かく)(ちが)いすぎる。


 (かつ)自分(シャロンヌ)が大苦戦を()いられた邪教徒と、同格の(くらい)を持つであろうバンザム。それをまるで歯牙(しが)にもかけない圧倒的な戦力、絶対的な力。


 ーー素晴(すば)らしい。


 シャロンヌは他に今現在の自身の心境を表現する言葉が思いつかなかった。

 天の冷酷な一面を目の当たりにしてなお、シャロンヌは心の内で惜しみない称賛を彼に贈っていた。


 あれこそ自らが望んだ最高の決着(かたち)()御仁(ごじん)こそ、長年にわたり自分が探し求めていた、“豪勇(ごうゆう)()”に相違ないと。



『俺が魔物の命乞いを聞き入れるような男に見えるか?』



 天のあの姿に恐怖心を抱かなかったと言えば嘘になる。彼が行った所業が決して褒められたものではないことも、重々承知の上。


 ーーだがそれがどうした?


 目的の為にあらゆる手立てを(こう)じるのはプロとして当然。肝心な場面で非情になりきれない者など戦士として二流以下。一番大切なことは結果を出すことだ。


 ーー形振(なりふ)(かま)わずのどこが悪い。


 綺麗事で(エレーゼ)が救えるなら今すぐ(あま)にでもなってやる。されど現実は甘くないのだ。美辞麗句(びじれいく)を並べても結果はついてこない。体裁を気にしては誰も救えない。シャロンヌはこれまで(あゆ)んできた己の人生の中で、それらの現実を痛いほど突きつけられてきた。




「どうやら()わったみたいですね」


「ーーッ⁉︎」


 シャロンヌは思わずギョッとする。不意に真横から飛んできた爽やかな男性の声は、彼女の意表を突くものであった。


「今感じた威圧感は、以前兄さんが『リザードキング』を討ち取った際に発したソレと同種のものでしたから」


 カイトは驚いた顔をするシャロンヌの目を見返し、「簡単ですよ」と微笑みを浮かべて答えた。


「兄さんが何に対してそれほどまで感情を高ぶらせたかは分かりませんが。確実に言えることは、その原因を作った者は無事(ただ)では()まないはずだ」


「……さすが、相方のことはよく知っているというわけか」


「ハハハ、多分リナも今の一瞬で気づいたと思いますよ」


 このカイトの言葉どおり、リナは誰に教えられるでもなく、天と敵の幹部との間で何らかの決着がついたことを本能的に悟っていた。


「……馬鹿なヤツなの。天兄を本気(マジ)で怒らせるなんて……」


「リナさん?」


「……なんでもないのです」


 そう。カイトが察することが出来たのに、リナが気づかぬ訳がないのだ。なにせ彼等は、つい最近、天の“全力の殺気”を実際に体験したばかりなのだから。



「何故そんなことが分かる?」


 しかしカイトと違い、シャロンヌは半信半疑といった様子で、すぐ側に停めてある車の方へと目を向けた。


「あいつは今、動力車の中に居るんだぞ?」


「ええっと、リナの感受性の高さは、冒険士の中でもピカイチですから」


 カイトは内心で少々戸惑いながらも、シャロンヌの疑問に対して適切な回答を示した。


 実のところ、自分もリナも、もっと根本的な理由で天の激昂を知り得たのだが。

 ()えてその事を口に出して言う必要はないと、カイトはそれとなく攻守の入れ替わりを(はか)る。


「それはそうと、シャロンヌさんはどうして兄さんの現状を把握できたんですか?」


 途端、シャロンヌの顔が強張った。


「い、いや、それはだな……」


「仲間のことを(のぞ)()るのは、あまり良い趣味とはいえませんよ、シャロンヌさん」


「〜〜っ!」


 思わず唇を()んで赤面するシャロンヌ。すべて見透かしたカイトの言葉に、完全に二の句が継げなくなってしまった。


 そんな彼女に唯一できる事といえば、


 ……コイツも中々いい性格をしている……


 ()ってて()いたな、という恨めしげな視線を、目の前にいるカイトに送ることだけだった。



 ◇◇◇




 《ランド王国最東端 スルガンの古跡(こせき)


 もともと『ランド王国』は魔物(モンスター)が多く生息する国として有名だ。その理由の一つとして挙げられるのが、国が管理する危険区域の多さである。

『ランド王国』は全世界でワーストスリーに入るほど国土が狭い。にも(かかわ)らず、国際機関により(さだ)められた危険指定区域が国のあちらこちらに存在するのだ。


 中でもここ『スルガンの古跡』は、昼夜を問わず凶暴な高ランクの魔物ーーといっても大抵がDかEだがーーが徘徊(はいかい)しており。周辺住民はもちろん、熟練の冒険士ですら足を運ぶことを躊躇(ためら)う、ランド国内でも一二を争う危険地帯であった。





 ……グルルルルル、ガルルルッ、ヴルルル。


 漆黒に支配された真夜中の古戦場跡。不気味な(うな)り声が真っ暗闇の奥から聞こえてくる。


 ここら一帯を縄張りにする魔獣や夜行性の猛獣たちが、招かざる来客たちの訪問により警戒心をあらわにしていた。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 そんな中、タッタッタッタ! と(せわ)しない足音が荒い息遣いと併用して近づいてくる。


「ーーグラス団長!」


 見た目は十六、七といった、若い騎士の少年が、夜の暗がりの向こうから血相を変えて走ってきた。


彼奴(きゃつ)らが現れたか?」


 ランド王国騎士団団長、(あかつき)グラスは、鋭い光を目に宿し、腰に携えた長剣の(つか)を握りしめる。


「ち、違います!」


 それを見て、騎士の少年は慌てた顔で手を振る。


「只今『ソシスト共和国』の大統領、シスト様よりご通達が届きました」


「むっ」


 鋭い眼光はそのままに、グラスはゼェゼェと息を切らす少年騎士の方へと歩み寄った。


「して、その内容とは?」


「はい! 『アリス王女はこちらで無事に保護した』とのことです!」


「なんと‼︎」


 グラスは思わず目の前にいる少年騎士の両肩を掴んだ。


「それは(まこと)か!」


「は、はいっ、自分が直接応対しましたから間違いありません。周りにいた数人の騎士達も聞いていましたし!」


「っ〜〜‼︎‼︎」


 まさに感無量といった様子で、グラスはその場に(ひざまず)いた。


「やはり……あなた様にご助力を願った小生(しょうせい)の判断は、(あやま)りではなかったーー」


「えっ、え?」


「心より感謝致します、シスト様。この暁グラス、此度の御恩は一生忘れませぬぞ」


「あ〜〜」と、納得したように少年騎士は肩を落とした。いきなりランド王国随一の剣士に目の前で跪かれれば、彼が動揺を示すのも致し方ない。


「あっ、そうだ」


 落ち着きを取り戻したのも束の間。少年騎士は何かを思い出したように素っ頓狂な声を上げた。


「アリス姫様がご無事だという(しら)せの他にも、シスト様から我々に緊急の伝令があったんだ」


「なにっ⁉︎」


 グラスは勢いよく立ち上がり、再び少年騎士の両肩をガシッと掴んだ。


「何故それを早く言わぬのだ!」


「す、すみません」


「シスト様はなんとっ、なんとおっしゃられていたのだ‼︎」


 少年騎士の体を激しく揺さぶるグラス。少し前までは、この辺りでユウナ女史の仲介が入っていたのだが、生憎と彼女は今この場にはいない。その為、少年騎士は一〇〇回ほどグラスに揺さぶられた後、「うっぷ」と青ざめながら、やっとの思いで声を出した。


「ア、アリス姫様と一緒に攫われた世話役の侍女達の、特徴を教えてほしいとのことです」


「? 姫の世話役達の特徴とな?」


「何でも攫われた侍女三人の内、助け出せたのは未だ一人だけらしいんです。だから、残り二人の行方不明者を捜索する為にも、シスト様は彼女達の身体的な特徴を大至急教えてくれと」


「ーーっ‼︎‼︎」


 ガーン‼︎ という効果音が聞こえてきそうなのほど狼狽した顔で、グラスはまたしても地に膝をつく。


「小生は、なんと思慮が浅いのだっ」


「えっと、グラス団長……?」


「シスト様のおっしゃるとおりですぞ! この度の一件で(ぞく)の手に落ちたのは、何もアリス姫だけではなかった……!」


 グラスは土下座のような体勢で、その場の地面を思い切り叩いた。


「こうしてはおられぬ!」


 かと思えば、すぐさま飛び跳ねるように立ち上がり、ガシャガシャと甲冑が擦れる音を立てながら大慌てでドバイザーを取り出している。

 どうやら彼は、非常に感情表現が豊かな青年のようだ


「くっ、手甲が邪魔で、上手くドバイザーを操作できぬ」


「ええっと……」


 慌ただしく自らの感情の起伏を全身で表現するグラスを見て、少年騎士はただただ呆気にとられてしまう。毎度のことながら、グラスのこういった性分には正直ついていけない。


「……何してるんですか、団長?」


「知れたこと! 賊に攫われたアリス姫の世話役三名について、小生が知り得る限りの情報を(ただ)ちにシスト様へお伝えするのだ!」


「えっ⁉︎ グラス団長は、今回の事件で城内の誰がいなくなったか分かるんですか⁉︎」


 少年騎士が驚くのも無理はなかった。ランド王宮に仕えている使用人の数は(ゆう)に百を超える。もちろんその全てが侍女というわけではないが、国境の警備やら要人の護衛やらで頻繁に城を離れている騎士達にとっては、一般の使用人もお付きの侍女も大差ない。しかも、アリスの世話役に限っては本人の意向によりころころ変わってしまうのがランド王国の裏常識。なので、よほど城の侍女達を毎日観察しているか、職場(じょうない)同僚(じじょ)でもない限り断定は難しいはずなのだが、


「『ジェシカ・ミリン』と『松江(まつえ)イル』……それと『(おか)マドカ』の三名ですな」


 グラスは当たり前のように即答した。


「丘マドカって、あの名物使用人ですか⁉︎」


 そして、何故かグラスが名前を告げた三人の中の一人に、過剰な反応を示す少年騎士。


「何でまたアイツが姫様の世話役なんか……」


「小生も詳しくは知らぬが、おそらくはいつもの事ですぞ」


「あぁ、姫様お決まりの御指名(ワガママ)ですか」


 二人は何かを思い出したのか、うんざりした顔でため息をついた。


「あの者を侍女と数えるのはいささか無理があるが、賊に連れ去られた三名の内のひとりには違いないのだ」


「確かにーー」


 意味ありげなグラスの言葉に少年騎士が相槌を打った……その時だった。


「ーーガルッ!」


「グルルルルルゥ……」



 突如、少年騎士の前方数十メートル先の暗闇から、赤い四つの目が浮かび上がる。


「へへ、ヘルハウンドだ!」


 反射的に声を上げる少年騎士。夜闇(やあん)の先より現れたのは、二体のDランク最強モンスター、『ヘルハウンド』だった。


「くっ」


 多少動揺しながらも、少年騎士は素早く己の武器をドバイザーから取り出し、二体のヘルハウンドに向けて剣を構えた。


「案外のんびりとした到着でしたな」


 だが少年騎士が臨戦態勢をとる必要はなかった。何故なら、この場にはこの男がいるのだから。


「少し()がっているのですぞ、バッツ」


「団長……」


『バッツ』と呼ばれる騎士の少年は、言われるがままに歩幅五歩分ほどグラスから距離を置く。


「さあお前達、さっさと()るがいい。小生は、急ぎシスト様へ伝え届けねばならぬ事があるのだ」


 グラスはバッツが自分から離れたのを確認すると、腰に下げた長剣に手をかけた。


「ガウッッ!」


「ガルルルルゥーッ!」


 それと同時に、二体のヘルハウンドは猛然と棒立ち状態のグラスに飛びかかる。


「はっ!」


 直後、放たれた気勢と共に王国最強の騎士が自らの愛刀を抜剣(ばっけん)した。



 《剣技(けんぎ)(うら)時雨(しぐれ)



 ヒュン! という風切り音がバッツの耳に届く。瞬きするほどの短い時間の中で、騎士団の少年は確かに見た。グラスに襲い掛かった二体のヘルハウンドが、一瞬のうちに空中で細切れにされる姿を。


「スゲェ……」


 目を丸くして驚くバッツ。彼はグラスと細切れにされたヘルハウンド達を交互に見た後、感嘆の声を漏らす。

 一方、グラスは何事もなかったように長剣を鞘に収めると、またぎこちない手つきでドバイザーを操作し出した。


「……まあ、いつもの事か」


 あまりにマイペースな自分達の大将を見て、バッツは思わず苦笑してしまう。そう、彼ら騎士団にとってこのような光景は日常茶飯事。これがいつもの暁グラスなのだ。


「ーーところでグラス団長」


 それはさておき、バッツは先ほどから感じていたある違和感を、グラス本人に訊ねてみた。


「団長は、どうしてそんなに城の侍女達の事情に詳しいんですか?」


「フッ、小生をなめてもらっては困りますな」


 部下からの真っ当すぎるこの疑問に対し、グラスは臆面もなく得意げに言い放つ。


「城内に巣食(すく)女人(てんてき)どもの動向を探るは決まり切った日々の作業……小生の日課ですぞ!」


「…………………………そうッスか」


 キメ顔でしょうもないことを口走る眉目秀麗(びもくしゅうれい)なランド王国最強の騎士団長を見て、王国騎士団の少年は思った。


相変(あいか)わらず残念(ざんねん)聖騎士(パラディン)だよな、この人は』と。



 ◇◇◇




 鮮やかなスカイブルーのドバイザーに、出来上がったばかりの“魔石(ませき)”のデータが表示されている。


 《魔石収納リスト》


【魔石】

 ・種類 外魔バンザム亜種(あしゅ)の魔石

 ・ランク A

 ・状態 (なみ)

 お金にしますか?

 (かみ)PT(ポイント)にしますか?

 保存しますか?


 お金(1億100万円)←

 神PT(10.1神PT)

 保存


【魔石】

 ・種類 ヘルハウンドの魔石

 ・ランク D

 ・状態 最良(さいりょう)

 お金にしますか?

 神PTにしますか?

 保存しますか?


 お金(120万円)←

 神PT(0.12神PT)

 保存


【魔石】

 ・種類 リザードマンの魔石

 ・ランク D

 ・状態 最良

 お金にしますか?

 神PTにしますか?

 保存しますか?


 お金(85万円)←

 神PT(0.085神PT)

 保存


【魔石】

 ・種類 クレイジーキャットの魔石

 ・ランク C

 ・状態 最良

 :

 :

 :

 :



 ☆★☆



「……やれやれ」


 そこに映し出されている画面を凝視し、天は憂鬱(ゆううつ)そうにため息をつく。


「俺としたことが、なんつー勿体無(もったいな)いことを」


 天はわりと本気で凹みながら、もう一度ドバイザーの画面を見て確認する。




 外魔バンザム亜種の魔石・ランク A………………状態 並。



 其処には、魔石採取に並々ならぬプライドを持つ彼こと花村天にとって、断じて容認できない戦果が記されていた。


「……せっかく『(エー)ランク』の魔石を手に入れたのに、状態が“並”じゃな」


 ……まあ、あんだけ本体を小分けにしちまったら、並でもまだマシなぐらいなんだろうがな……


 それでもと、天は力なく肩を落とした。魔石の品質はイコールでドバイザー(自分以外)の経験値に大きく比例することを、彼は知っているから。


 ちなみにこの世界での魔石の品質規格は、上から最良、良、並、不良、粗悪となっている。なので、天が採取したバンザムの魔石は、率直に述べると可もなく不可もない品質だ。

 つまり一般的観点から考えれば、仮に採取した魔石の品質が並であったとしても、そこまで気にするようなことではない、はずなのだが……


「あ〜くそっ、査定価格もあんな状態のやつで(おく)()えなら、“最良”で一体いくらになってたって話だ!」


 どうやら、彼の職人魂(プロこんじょう)がそれを許さないようである。


「ん?」


 天が悔しがりながらドバイザーを眺めていると、急に端末(ドバイザー)の液晶画面が切り替わる。


 画面の中央には、大きな文字で『着信』と出ていた。


 ……こんなタイミングに誰からだ?……


 ひと段落したのを見計らったように掛かってきた無線通信。正直言って怪しいなんてもんじゃないが、天はとりあえずその無線に出てみた。


「もしもし」


『て、天殿、俺だ……シャロンヌだ』


 その無線通信の主は、シャロンヌだった。


「なんだ、シャロンヌ殿か」


『あ、ああ……』


 気の所為か、ドバイザー越しの彼女はどこかぎこちない様子だった。

 一方、天は後ろめたさを感じさせるそのシャロンヌの声を聞いて、すぐピンときた。


「なるほど、俺のことを覗いてたのはアンタだったか」


『なな、なあっ‼︎』


「誰かに見られてるのは最初から分かっていたんだよ。体にまとわりつくような視線だったからな? まあ、俺はてっきり敵方の監視役か何かかと思っていたんだがな」


『あ、う…………』


 先制パンチから言い訳の暇もなく連続攻撃。これにはさすがのシャロンヌも突破口を見出せなかった。


「おおかたこの廃墟に結界を張るとき一緒に何か仕込んだんだろうが、できれば俺達には前以て一言ほしいところだな」


『……カイトもそうだが、あまり察しが良すぎる男は女に好かれんぞ、天殿』


「ご忠告はありがたいが、相手がシャロンヌ殿ならさほど気をつかう必要もないだろ」


『どういう意味だ、それは』


「なに、もともと俺はアンタに嫌われているから問題ないと言ったんだ」


『ちがっ、あれはその場の勢いというか、言葉のあやというか……決して俺の本心ではっ!』


「シャロンヌ殿」


 ちょっとした嫌味を言ってるつもりが、何やら雲行きが怪しくなってきた。これ以上、無駄な波風を立たてることもない。そう感じた天は、声を硬質なものに変えて談話を一方的に打ち切った。


「アンタやカイト達は今どこにいる?」


『…………昼間、お前たちの動力車を停めた場所だ』


 当然、いきなり話を変えられたシャロンヌは、ムスっとした声で不機嫌さをアピールする。


『今はアリス王女を動力車に乗せ、リナとアクリアは車内、俺とカイトは外で、それぞれ警戒にあたっている。だがずっとこんな場所に留まっているわけにもいかん。分かったら、さっさと戻ってこい』


「了解した。すぐにそちらへ向かうーー」


 しかし、次に出てきた天の言葉に、シャロンヌの真剣味が瞬く間に上昇した。


「それと、俺から皆に大切な話がある」


『ーーッ!』


 シャロンヌはすぐに分かった。天が自分達に何を話すつもりなのかを。


「できれば全員、動力車の外で待機していてほしい」


『……承知した』


 特に声を荒げたわけでもない。だがシャロンヌの短くさりげない了承の言葉には、彼女自身の只ならぬ熱意、気迫が込められていた。そしてそれは、通話越しからでもひしひしと天に伝わっていた。


「今から急いで戻る」


 この言葉どおり、天がシャロンヌとの通話を終えてから仲間達と合流するまで、一分とかからなかった。

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