第47話 絆
「あ〜〜、柄にもねえことやると、なんだかこそばゆくてかなわん」
自分の本音を言い終えた天は、些かはにかみむように口の端を上げ、決まりが悪そうに頭をかく。
「ハハ……そう、だったのか。じゃあ俺達は、最初からお互いを求めていたんだね……」
「て、天様に!そ、そのようなふうに思われていたなんて、とと、とても光栄でございます!!」
「ほんとなの。あたしはそんな大それた女じゃないのに……。でも、はっきり言って超うれしいのです」
「いま!たしかにキツ坊って!やったし!僕もやっと、ちゃんとに兄貴の話の中に登場したし‼︎」
天が偽らざる本心。掛け値なしの本音を表に出したその時。彼の側でそれを聞いていた仲間達は、彼と同じく、どこか気恥ずかしそうにそれぞれが顔を緩ませていた。
「それにしても」
軽く一歩前に踏み出し、天は、自身の目の前に立っているカイトとアクリアに歩み寄る。
「てて、て、てん様⁉︎」
「ど、どうかしたかな?」
既にカイト達二人と天との距離は1メートルほどしか離れておらず、それが軽くでも一歩前に出れば、自ずと、二人と天の体は密着すれすれまでの距離になるのは道理。アクリアは頭から湯気が出るぐらい顔を真っ赤にさせ、カイトは責められることはないとわかっていても、反射的に怯んでしまう。
「二人ともその新しい髪型……似合ってるぞ」
「「っ!!!」」
不意打ちであった。そう言った天の顔は、優しげに、それでいて晴れ晴れとしていて、罪の意識に苛まれ、落ち込んでいたカイトとアクリアには、こたえられないほどの良い笑顔であった。
「あ……あぁ……」
「にい、さん……」
天の台詞は、自分達を茶化しているわけでもなく、お世辞を言っているわけでもない、建前のない本心からの気持ちだと、二人には瞬時に伝わっていた。
「…これはしょうがないのです」
リナはぼそりと呟く。これはアクリアが思考を止めても仕方がないと、彼女も匙を投げた。側から見ていた彼女ですら、天の今の振る舞いには痺れたのだ。それを、彼に凄まじいまでの恋慕の情を抱く女性が正面からくらっては、ひとたまりもないのは至極当然。
「…天……あなたって人は…」
アクリアの隣にいる、男であるカイトですら、自分の思考回路を保つのに必死になっているのだから。
「まったく、もともとお前らは超絶美男美女なのに、それ以上、男ぶりと女ぶりを上げてどうすんだよ?」
尚も彼等の賞賛を続ける天。
「なんというか……」
そして、天はこの直後、終にとてつもない威力の最終兵器を発射してしまう。
「二人とも、惚れ直したぞ」
直後、ピシャーン‼︎と雷が落ちた様な効果音が聞こえたのは果たして気の所為だったのか。いや気の所為ではない、彼女と天を除く他の三名の耳には、確かにその轟音が鳴り響いた。
バッ!
刹那、直ぐさまその衝撃音を発した女性に目を向ける三人。
「い、今のはマズイのです」
「アクさん、逝っちゃったかもだし!」
「ア……」
ーーアクリア、気をしっかり持つんだ!
その言葉が喉まで出かかったが、彼はグッと堪えて其れを飲み込む。
「…ハハ…光栄だな……」
目の前に天がいる今現在の状況で、小声でもそんなバカみたいな台詞を口にするわけにはいかない。何より、自分達を目一杯の心配りで激励してくれている彼に失礼だと、礼節を重んじるカイトは強く思ったのだ。
「…あ、ありがとうございます。天様のそのお気持ち…わ、私は、とても嬉しく…思います…」
「「……あれ?」」
「………ホッ…」
予想に反して、当のアクリアは見た目には異常は見られなかった。最低でも先程のようなトランス状態に陥ると思っていたリナとシロナは、拍子抜けした表情を浮かべる。
「面と向かって真面目に返されると…照れるぞ二人とも」
「た、大切な有事の際に、言葉を濁すのは…し、失礼と存じます!」
アクリアには僅かな動揺は見られるが、それでも、冷静と言っていい受け答えをしている。そんな彼女の姿を横目で見て、恐れていた事態は免れたと、カイトはほっと胸を撫で下ろして安心する。だが…
《かか…カ、カイト!!カイト!カイ、カ、カイト!!》
すぐに事態は自分の予想より厄介なことになっていると痛感させられる。
《…いきなり『念話』を使ってきたのもビックリしたけど。どうしたんだいアクリア?そ、そんなに取り乱して……》
【念話】
超聴覚を使えるエルフ同士で聞き耳を立てられぬよう開発された、己の思念を魔力操作した念波に乗せて、頭に直接受信させる会話方法。ちなみに、エルフではなくても魔力とセンスの高い者なら、コレを習得することも決して難しくはない。余談だが、魔力操作が達人の域にあるシャロンヌ、サズナなどのごく一部の者達は、500メートル以上離れている相手にも念波を飛ばすことが可能である。
「……ハハハ…ア、アクリアの言うとおりさ…」
目の前にいる天に悟られぬよう、カイトは必死に爽やかな笑顔で取り繕う。実を言えば。彼は、アクリアが何故これほどまでに取り乱しているのかを、念話が来た時点で即座に察していた。
「ハハハ……はぁ…」
では、何故わざとらしくアクリアへ確認を取ったかというと…
『マリーさんの気懸りが的中してしまった。アクリア……こんな大切な時に勘弁してくれよ!!』
カイトが念話よりさらに最奥の深層意識で絶叫した。要するに、非常にフォローが大変な数秒先の未来を予感していた彼は、簡単に言えば現実逃避をしたのだ。
《こ、これが落ち着いてなどおられますでしょうか!?どど、どういたしましょう!わ、わたくし!たった、たった今!てて、天様に……ここ、“告白“されてしまいました!!!》
「……………」
カイトは、その場で頭を両手で押さえて蹲りたかった。『やっぱりか』…彼の表情からはそんな副音声が聞こえてくるようだ。
《こ、こういう時は…どど、どうすれば…どうすればよろしいのですかカイト!?》
「………」
幸い、念話は相手へ直接的に思念を送るので、口で会話するより数段早い意思疎通が可能だ。事実、天が『惚れ直した』と言ってからまだ数秒しか経っておらず、早々にアクリアの誤解を解けば何も問題はないと、瞬時にカイトは自分に言い聞かせる。
《…アクリア、単刀直入に言うが、ソレは君の誤解だ。彼の今のセリフは、君へ愛の告白をしたわけじゃない…》
「ビクッ!!」
途端、アクリアの顔が狼狽し凍りつく。
「……フゥ…」
其の様子を見たカイトは、不謹慎ではあったが安堵の息をつく。少し酷ではあるが、伝わったようだと安心したのだ。…しかし。
《なにを…何を言っているのですか!!》
《……へ?》
《ほれ、ほれ…“惚れ“直したと天様はわたくしにおっしゃられたのですよ!!こ、これは紛うことなき愛の告白です!疑う余地など……あろうはずがございません!!》
暴走する乙女には、カイトの言葉は全く伝わったてはいなかった。
「…………」
今にも崩れ落ちそうな自身の膝に、カイトは根限りの力を入れてなんとか踏み止まる。
《よく聞くんだアクリア…兄さんはその言葉を口にする前に『二人とも』と言っていた》
そして、再び彼女の説得を試みる。
《これはつまり…惚れ直したという彼の言葉に、当然 俺も含まれているということになる》
《い、今はそのようなことを…言っている場合では!》
《いいから聞くんだ!…男が男に惚れたっていうのは異性へのそれとは違う…相手のことを心から認めたってことなんだよ》
「………ハハ…本当にうれしいよ…」
カイトは思わず声を出していた。アクリアの説得の為に用いた自らの台詞、それに自分自身も感化されてしまったのだ。
「これは髪を切った甲斐があったかな…」
自分の坊主頭を撫でながら、嬉しそうに微笑むカイト。
「まあ…カイトからすれば、男の俺にモテてもあんまり嬉しくないかもだがな?」
「ハハハ、そんなことないよ、見知らぬ女性100人モテるより、兄さんに好かれる方が断然いいからね?」
「ホモか?俺にそっちのけはないぞ…」
「違うよ、知ってて言ってるだろ兄さん?」
天にからかわれるような態度をとられ、カイトも芝居じみた不機嫌な自分を演出して見せる。今しがた本音を言い合ったこの二人は、もうすっかり親友の間柄になっていた。
「悪い悪い、怒んなって。……それはそうと」
「なんだい?」
「天でいいぞ?…あの愛称はもともと無理に言ってたんだろ?」
「ああ…そのことか…」
天にそう言われると、カイトは決まりが悪そうに頬をかいた。
「…このまま『兄さん』って呼んでは駄目かな?今更呼び方を変えるのはちょっと恥ずかしくてね…」
「大いに構わんぞ。カイトが愛称呼びする数少ない一人に選ばれたってことだからな?」
「あまりいじめないでくれよ」
「ん?今度はからかったわけじゃないんだがな?俺の本心だ」
「ハハハ、兄さんにはやっぱりかなわないな…」
「………ブスゥ」
男二人が友情トークに花を咲かせているなかで、アクリアだけがどこか納得してない面持ちで俯いていた。
「…ハァ…」
ご機嫌斜めの彼女を目の端で捉えたカイトは、ため息を吐いてまた念話を再開する。
《ほら、わかっただろ?さっきの彼の言葉は、決して君に愛の告白をしたわけじゃない》
《で、ですが!男性であるカイトと…女である私とでは!違う意味合いで天様はおっしゃられたかもしれません!殿方同士の受け取り方を基準にして決めつけるのは、いささか早計ではないでしょうか!》
《決めつけじゃなくて絶対に同じ意味だから…。そもそも、なんであの状況で兄さんが君にだけ特別な言葉を送るんだよ…》
《ですが、ですが!》
未だに納得しないアクリア。なんだかんだで、彼女は相当の頑固者なようである。
「まあ、なんだ…」
カイトとアクリアが脳内で言い争いをしている真っ最中、またしても、天がアクリアの恋心を刺激する台詞を放つ。
「二人にはこれからも迷惑をかけちまうと思うが…俺と同じ道を共に歩んでくれるか?」
ピッシャーーン!!
本日二度目の雷がアクリアの頭上に落ちた。
《かかか、か、カイト!!!わた、わ、わた、わたくし!い、いま、今確かに耳にしました!!ま、正に愛の誓いを!!てて、天様からの……求婚のお言葉を!!》
「…………」
カイトは自分の現在の表情を崩さずにするのに必死だった。出来ることなら、彼はとてつもなく疲れた顔をしてこの場で絶叫したかったに違いない。
《おかしいだろ!!どうして今の流れで!兄さんが君にプロポーズすることになるんだ!?冒険士の仲間として、同じ道を進もうって言っているんだよ天は!!》
紳士の彼からすれば珍しく、女性であるアクリアに対して、半ば乱暴な言葉遣いをとり念話で訴えるが…
《い、い、一刻も早く!お、おへんじを、お返事をさせていただかねば!!わ、わたくしがお断りをしているように、天様に汲み取られてしまいます!!》
アクリアは聞いちゃいなかった。
《は、早まるなアクリア!!頼むから思い留まってくれ!!》
《…ここで勇気を出して一歩踏み込まなければ……わたくしはこれから先、一生後悔します!!!》
《違う!踏み出してしまったらきっと一生後悔することになるんだ!!君の向かおうとしている行き先にはおそらく地雷しかない!!不用意に立ち入れば爆死は免れないぞ!!》
「スー…ハ〜〜…スー…ハ〜〜……天様、私も貴方様のそのお気持ちに…お、お応えしたく存じます!」
「お、おう…?」
「!!」
最早、頭に直接語りかける念話ですら、アクリアには届かなかった。深呼吸をして、高ぶる自らの気持ちを抑え、烈情を内に秘めた瞳で天を見つめる。『マズイ』カイトは今まで保っていた表情をついに崩して、額からは冷や汗がしたたり落ちる。
チラ
そして、助けを求めるような視線を今やこのチームで最も頼りになる亜人の女性へと送る。
「…カイトさんもアクさんも羨ましいの…。あたしも、天兄さんに惚れ直したとか…一緒にいてくれとか言われたいの…」
「アクさんもあんなだけど、リナも大概だし…」
「…………」
無理だった。彼女は恨めしそうにこちらを見ているため、とても助け船を出してくれる雰囲気ではなかった。
スゥ…
その場に居合わせた各々の葛藤が交差する狭間で、不意に、その摩擦の中心である男が、その中の一名に手を伸ばし、そっとその者の肩に手をかける。
「…え?」
「「!!」」
「……ファ〜…あ、ヤバ…」
手を肩にかけられた当人は、突然のことで何が起きたかよくわからなかった。また、それを目の当たりにした二名は、その光景を見て驚いた後、すぐさま天に選ばれた人物を嫉妬に近い視線で睨んでいる。この場で唯一シロナだけが、我慢していた欠伸をつい漏らしてしまい、咄嗟にリナに警戒して体ごと後ろを向いている。
ググ…
妙な空気が流れるものの、そんな事はどこ吹く風と、天はまるで気にせず、そのまま自らが選んだ人物の肩を抱いて、少々強引に自分の胸元に引き寄せる。そして一言。
「頼りにしてるぜ…相棒」
ドクンッ…
天にその言葉を投げられた瞬間、彼の胸は大きく高鳴った。
「あ……ああ!!!」
妹分の暴走のフォローに四苦八苦していた気苦労が一瞬で吹き飛ぶ。男同士でしかわからない気持ちの高揚が、頭の天辺から足の爪先まで駆け巡る。カイトは、全身を巡る血が一気に沸騰するのを感じた。
「まかせてくれ!委せてくれよ!!」
電撃のような衝撃が背筋を走り抜ける。カイトは飛び上がりそうなほど嬉しかった。
「まだ、貴方には遠く及ばないけど…。いつか…いつの日かきっと!!兄さんが安心して背中を任せられる様な、そんな頼れる男に…俺は必ずなってみせる!!」
「頼もしいな…それでこそ俺が惚れた男だ」
「ハハハ!あまりおだてないでくれよ…これ以上、兄さんに賞賛されたら、鼻血が出てしまうかもしれないからね?ハハハハ!」
それこそ、最高位の一歩手前であるAランク冒険士に昇格した時の何十倍もだ。
「…カイトさん超うらやましいの…」
「…プルプルプルプル」
より恨めしそうな目で男二人の様子を眺めるリナ。アクリアに至っては、カイトへの嫉妬心から涙目で全身を小刻みに震わせていた。
「「…………」」
女性二人から刺す様な視線を浴び。男達は今の状況を容易に把握し、気まずそうに体を離した。
「わ、悪いな…なんか青臭いことをやっちまって…」
ようやく天も普段通りに戻ったようで、羞恥心を取り戻したからか、恥ずかしそうに目の前の二人から距離をとる。
「ハハ、全然いいよ…」
照れ臭いような罰が悪いような顔で遠慮がちに返事をするカイト。これがもし、彼等二人だけ、もしくは周りに男しかいなければ、天もカイトもそこまで気にはしないだろうが。年頃の女性複数の前で、今したような青臭いやりとりを年甲斐もなくやってしまうと、良識のある大人な二人はどうしても恥の念から照れてしまう。
…そ、そうだ!…。
この妙な場の空気を軽く吹き飛ばす案件。その案件を、自分はシストから頼まれていたんだと思い出した天は、不心得な動機ではあるが、依頼の話を皆に持ちかけるなら今だと見計らう。
「み、みんなに聞いて欲しいことがある…緊急の案件だ…」
瞬時に真面目な風体を全身に纏わせ、あたかも自然に仕事の話を始める天。その狡猾な様は、流石この五人の中で一番の年配者、人生経験者だと言える。
「此処に来る前。俺は自分がコッチに戻ってきたことを報せるため、会長に無線をかけたんだが……その時、おっさんから俺達への緊急依頼を頼まれた」
「な!ほ、本当か兄さん!」
カイトもあからさまに驚いた素振りを見せ 、天の会話にすかさず乗っかった。何気に、この二人は息がぴったりかもしれない。
「…なんか納得いかないのです」
「え、なになに?」
「……プルプル」
女性陣も思うところはあるようだったが。とりあえず、天はそれらを無視して、例の件を話し始める。
「実はな…」
「お待ちください!!!」
シストからの依頼内容を天が説明しようとしたその時だった。ほんの少し前からわなわなと体を震わせ、何かを我慢していたアクリア。それが、とうとう箍が外れてしまったのか、抑えきれない自分の気持ちを表に出してしまう。
「天様!!なにゆえ…何故わたくしには!カイトになされたような、熱烈な包容をしてはくださらないのですか!!?」
「………はい?」
恋する乙女の魂の叫びを受け、天は目を丸くし、呆れてビックリした顔で固まってしまう。
…なに言ってんだこの娘?…。
天のこの表情から、彼の今の心境を容易に察した他の仲間達は…
「……ハァ〜」
手で顔を覆い、この後のフォローの大変さを予想して憂鬱になるカイト。
「あ〜あ…やっちゃったのです」
リナは『やっぱりやったか』と首をふって諦めモードに入る。
「お、お!なんか面白そうな展開だし!」
シロナは、完全に他人事を好奇心の目で観戦する野次馬のそれだ。
「お答えください!!なにゆえですか!!?」
「………答えよう」
余りのアクリアの剣幕に、これは茶化したり誤魔化したりするのは逆効果だと悟った天は、自身の持つ一般常識と照らし合わせた回答を彼女に聞かせることにした。
「前にも言ったが、俺は浮世離れしてるから、必然的にこの世界の時世にも疎い。だから、俺個人の価値観、一般常識から答えさせてもらうが……俺の方から、無造作にアクに抱きつくことなどあり得えん」
「えーー!?」
「………」
ガーンという表現がこれ程ハマるかという仕草と表情で驚くアクリア。幾ら仲間に寛容な男である天も、この彼女のリアクションにはかなり引いていた。
「ハァ…なんでそんなに驚いてるのです?天兄さんならそう言うに決まってるの」
「…君だって、彼は紳士だと言っていたじゃないか」
リナとカイトは揃って小声でぼやく。天の性格、行動パターンを多少なりとも理解している二人は、彼がアクリアに対して、不用意に抱きつくような真似をするわけがないと熟知していた。
「あくまでこれは俺の価値観だがな…特別な関係でもない女性に対して、男の俺が許可なく肌に触れることはセクハラ…相手を不快にする行為だと認識しているからだ」
「っ!!!ぇ…と…特別な…関係ではない…女性……ブツブツブツ…」
「「コクコクコク」」
あからさまにまたショックを受けているアクリア。何やらブツブツと天の言葉を反芻しているようだ。対照的に、天ならそう言うと思ったと、カイトとリナは納得した様子で何度も頷いてる。
「あれ?なんか今の兄貴のセリフ、前にもどっかで聞いた覚えがあるようなないような…」
「そういえば、以前アクリアが剛士に似たようなニュアンスの言葉を言っていたな…」
いつの間にか、カイトはリナとシロナの側まで避難していた。近づいてきたカイトを輪にして、三人はボソボソと以前一緒にチームを組んでいた剛士という男について語らい合う。
「確か『剛士さん、特別な関係でもない女性に対して、不用意に体を密着させるような行為は極力控えてください』…だった気がするのです」
「あ〜、僕も思い出したし。剛ちゃん、何かと理由をつけては僕等に抱きついてきたからね」
「はっきり言って超うざかったのです。中でも、アクさんにはしょっちゅう抱きつこうとして常に機会をうかがっていたのです…あの男」
「依頼を達成した時。モンスターを討伐した時。果てはアクリアの誕生日まで調べ上げて…スキンシップをはかろうとしていたからね剛士は…」
「まさかあの頃は思いもよらなかったし。アクさん自身が男に同じセリフを言われることになるなんて」
「変われば変わるものなのです」
「…ピクピクピクピク」
アクリアの顔色が急激に変わる。三人の話し声は天には聞こえてはいなかったが、彼女の耳にはしっかりと届いていた。過去の自分と比べられるような話を持ち出されたアクリアは、耳の先まで赤くして、少し離れた場所からコソコソと会話しているカイト達の方へ乱暴に振り向いた。
「天様と、わ、わたくしは特別な関係です!!!わたくしは…しかとこの耳で拝聴いたしました!!天様の、ほ、惚れ直したというお言葉を!!」
「「ビクッ」」
「まだ続くのか…君のその勘違いは…」
癇癪混じりのアクリアからの異議申し立て。彼女の迫力と非常に稀なヒステリーに、リナとシロナは反射的に口を抑えて顔を明後日の方向に向ける。だが、カイトだけは念話でのやり取りを先程からしていたおかげで、怯むより先に、聞き分けのない妹分に心底呆れていた。
「…恋はここまで人を変えてしまうものか?」
『今のアクリアはまるで別人だ』、カイトの脳裏に不安がよぎる。本来なら人の考えを見抜く能力に長け、聞き分けもいい部類に入るアクリア。そんな彼女がここまで変わることなどあるのかと。長年、側でアクリアを見ていたカイトは心配してしまう。
「これが初恋のパワーと言えばそれまでだが…」
自分もマリーに恋をしている身ではあるが、こんな極端な行動には出ないと感じてしまうのは、男の彼からすれば仕方のないことかもしれない。
「…うぅ……」
「あ、アク…」
…まいったな…。
今にも泣き出しそうな顔をしているアクリアの横顔を見て、天はなんともいたたまれない気持ちになってしまう。
「う…うう…」
…正直、アクのこの泣き顔はこたえる…。
アクリアに抱きつくか抱きつかないか、間違いなくこの場合、正しい行動選択を示したのは天の方であろう。だが、その事により目の前の女性を傷つけてしまったのも事実。
…仕方ない、抱きつきオーケーならこれぐらいは許容範囲だろ…。
スゥ…
何を思ったか、天はカイト達の方を振り向いたままのアクリアへと手を伸ばした。
ワシャ
「あ……」
そして彼は、涙ぐむ彼女の頭へとそっと手を置く。
ワシャワシャワシャ…
アクリアを労わるように、悔しそうに顔を赤く歪めている歳の離れた仲間を宥めるように、天はアクリアの頭を優しく丁寧に撫でる。
…そういえば、あの夜も涙ぐむあの娘にこうしたっけか…。
彼がかつて、心優しい少女にそうしたように。
「…あぁ…わた…くし…は」
子供の様に苛立ちを表に出し、顔を染めて涙ぐんでいたアクリアの表情は、天のその行動とともに見る見るうちに和らいでいった。
…ふぅ、なんとか収まってくれた…。
「……うれしいです。ずっと…いつまでもこうしていてほしいほどに…」
「そ、そうか、それは何よりだ…」
…こんなんで機嫌がなおるってことは、もしかすると、アクは俺に甘えたかっただけなのかもしれんな…。
多少の食い違いはあるかもしれないが、天はそう解釈して、落ち着いた調子でアクリアを諭すように声を出す。
「アク、少しの時間…俺の話に耳を貸してくれないか」
「はい…貴方様の御心のままに…」
「………そうか」
うっとりした目で天を見るアクリア。天は、その並々ならぬアクリアの視線を前に、ようやく一つの答えを導き出したのだ。
…わかったぞ…彼女が俺に向ける想いが…。
ワシャワシャ
「あぁ…幸せとはこの様なことなのでしょうね…」
「……ふぅ」
…間違いないな……アクは俺のことを理想の“父親“と思っている…。
天の導き出した結論は、例によって微妙な食い違いを見せていたのは、言わずもがなである。
…両親が生きているとはいえ、両方ともいないみたいなもんだ。父親は自分を捨て、母親は世界のどこかもわからぬ場所に幽閉されているし…。
とはいえ、実際のところは全部が全部勘違いというわけでもない。もっと言うならば、天の憶測はかなり的を射ていた。アクリアが天の事を好きになった切っ掛けは、自分の珍しい頭髪を褒めてくれたことに違いないのだが、それでも、其れは些細なもの。アクリアの中では、冷酷、且つ欠片も頼り甲斐のない自身の父親をとてつもなく嫌悪していたため、自然とアクリアの男性の理想像は、その正反対となるのは道理。
ワシャワシャワシャ
「あぁ…天…さま…」
頼り甲斐があり、逞しく男らしい紳士。容姿はともかくとして、天はアクリアの理想像そのものだった。さらに困ったことに、彼女はこの歳まで、自分自身に仮面をつけて生きてきた。よって、カイトやリナの『彼女は変わってしまった』というのは実は誤りで、正確には『今までの彼女の方が偽り』なのだ。
ワシャワシャ
天はアクリアの頭を撫でる手を止めず、静かに自分の性質を語り出した。
「俺さ…正直言うと、アクみたいな年頃の女性との接し方がわからない…というか苦手なんだよ…」
「…………」
アクリアは天が話し始めると、申し訳なさそうに口を噤む。
「やっぱりなのです…」
「てか、見ればわかるし」
「ああ。だけど、ナンパな男よりはずっと好印象だけどね」
それとは反対に、少し離れた場所で天とアクリアのことを見ていたカイト達三人は、再び体を寄せ合ってヒソヒソと雑談を開始する。
「それに関しては同意なのですが、カイトさんが誰のことを想像して言ってるのか、難くないのです…」
「ああ、…あいつのことだよ」
そう、あの男のことである。
「…?誰のことだし?」
「……だ…から……」
「「シッ…」」
問いかけるシロナとほぼ同時に天の声が聞こえてきたので、カイトとリナは、揃ってシロナに喋るなといったジェスチャーをして彼女を黙らせる。無論、シロナの方は納得がいかない風な顔をしたが、彼女も天の話が気になっていたため、即座に口を閉じてそちらに聞き耳を立てる。
「だから…さっきのは別に、カイトだけを贔屓していたわけじゃない。自分の常識に加え、俺は女性とのスキンシップが苦手だったから、アクには言葉で伝えるだけで止めたんだ」
「……天様が女性にたいして壁を作っていらっしゃるのは…初めてお会いした頃より心得ておりました…」
「…そうか」
「「「…………」」」
遠巻きにアクリアの台詞を聞いていたカイト達三人は思った。『じゃあなんで子供みたいな駄々をこねたんだよ』と。
「ですから、わた…私が!天様のその壁を取り除けたらと……強く思ったのでございます!」
「「「…………」」」
『物は言いようだな』敢えて三人は口には出さなかったが、アクリアの理由に対し、三名とも同じ感想だった。
「…申し訳ありません。結果的に…天様を困らせてしまって……」
「まあ、その、なんだ…気にすんな」
そう言って、天はアクリアの頭を撫でるのを止め、乗せていた手をゆっくりと離した。
「あ……」
アクリアは自身の頭から天の手が離れるのを、とても名残惜しそうに眺め、その後すぐにしょんぼりと下を向いてしまった。
「……ぅぅ…」
…だからそんな顔すんなって…。
「…………フゥ〜…」
アクリアの悲しそうな表情をちらりと見て、天は何かを考えていた。それから数秒の沈黙の後、彼は大きく息を吐き、腹を決めたかのように瞳を開く。
…まあ、柄にもないのは今さらだよな…。
恥の上塗りを決心した天。
「あ〜…アク、あくまでお前さえ良ければなんだがな?その、ハ、『ハグ』をさせてもらってもいいか?」
バッ!
羞恥から頬をわずかに染め、天がそう提案した途端、しょんぼりと下を向いていたはずのアクリアが勢いよく顔を上げ、身を乗り出して天に迫った。
「ま、ま、誠でございますか!!!」
「お、おう、アクさえ良ければだが……」
「ぜひ!是非お願いいたします!!!」
満面な笑みで即答するアクリア。
「あ、とうとう兄貴がおれたし」
「兄さんは本当に器が大きいよ…」
「加えて仲間思いなのです。それにしても、アクさんも超うらやましいの…」
「り、リナ、ちょっと落ち着くし」
生暖かい視線が天に降り注ぐなか、リナだけが若干、嫉妬に燃えた目をギラつかせている。
「……ハァ」
シストからの依頼もあるし『今はそれどころじゃないだろ』と、二人の嫉妬にかられる女性達に思うところはあった。が、これ以上、話をややこしくしないよう、リナとアクリアを悪戯に刺激するような発言は控えることにするカイト。
「ふふ、ふ、ふつ、ふつつか者ですが!!!よ、よ、よろしくお願いいたしまふぅ!!!」
「りょ、了解…」
顔を真っ赤にして、おおよそ彼女に似つかわしくない声のボリュームで気合いを入れるアクリア。どう考えてもおかしいテンションのアクリアに気圧されつつ、天は言った通り、彼女を抱きしめようと両手を広げた…まさにその時である。
「…どいでもいいのですが、アクさん、鼻血は大丈夫なのですか?天兄さんが今着てる服って、多分花ちゃんにもらったTシャツなのです」
ジト目で天達を見ていたリナが、アクリアのみに聞こえるほどの声の大きさで、中々に鋭い指摘を放つ。
「ッ!!」
指摘を受けた当の本人であるアクリアは、興奮状態がすっかり冷め、血の気が引いてしまっていた。余談ではあるが、天が現在着ている服は、黒いピチピチのTシャツ。つまり、鉱山町の魔石製造店の女店主の一人娘である『花』が、天に向けてプレゼントした服なのだ。
『絶対にわたくしの鼻血で汚すわけにはいきません!!』
故に、アクリアは心の中で自らを叱咤する。天が我を忘れるほど喜んでいた大切な贈り物を、自分の鼻血で血まみれにしてはならないと。
ギゥゥ…
「☆○△!!!!」
尚、当然そんなアクリアの心境など天に伝わるはずもなく、彼は無造作にアクリアを正面から抱きしめた。
『ここ、これは、これはなんという幸福感なのでしょう!!』
「…うへ…てんひゃま…」
瞬く間に、引いていた血がまた頭に急上昇するのをアクリアは感じ取る。鼻血の噴射はすぐそこまで来ていた。ただ、彼女は天に抱きしめられて一瞬で頭が真っ白になってしまったので、とても自身を制御できる状況ではない。
『だ、駄目です!き、きを、気をしっかり持たなくては!ぜ、全神経を鼻に集中するのですアクリア!』
「…フー……フー…」
またも自身を叱咤するアクリア。その甲斐あってか、初めの波はなんとか凌ぐことに成功する。だが…
ギゥゥゥ…
「ハウァッ!!!」
間髪入れずに第二波が押し寄せてきた。
「…てんひゃ…てんひゃは…うはへ……」
『なんと、なんという破壊力なのでしょう!い、いけない!しょ、正気をたも…』
アクリアが三度、己に喝を入れようとした時である。
「これからもよろしく頼む…アクリア」
ズババーーン!!
「ヴェフッ♡♡!!!!」
此方も本日三度目となる、最大級の稲妻がアクリアに飛来した。彼女は思った、ここで名前呼びは反則だと。
『も、もうだめ…です…』
鼻血はどうにか堪えたが、意識を保つことは叶わなかった。
「……キュ〜〜…」
アクリアは、天に抱きしめられてから、わずか7秒という短い時間で昇天を迎えてしまうのであった。
「……ん?アクどうした?お、おい!?しっかりしろアク!!」
「…し…あ…わ…へ…」
天の腕の中で訪れた、彼女の最後の貌は、とても満ち足りた笑顔であったという。
「アクーー!!」
タ、タ、タ、タ…
少し離れていた場所で其れを眺めていた、カイト、リナ、シロナが、非常に面倒くさそうな顔をして、天とアクリアの方に駆け寄ってくる。彼等の足音からは、やっつけ感が滲み出ていた。
「やれやれ……兄さん、俺がアクリアを介抱するよ」
「あ〜あ、アクさんやっぱし逝っちゃったし。ソッコーだし」
「自業自得なのです。ケッ…ウブ娘が調子に乗って三段跳びするからこうなるの…少しは自分を知るの…ブツブツ…」
「「………」」
リナだけが裏の顔を出して愚痴をこぼしていたが、触らぬ神に祟りなしと、両隣にいた仲間二人は気づかないフリをする。
「お〜い、しっかりしろアクリア」
天と交代して、カイトがアクリアの体を揺すりながら声をかけるが…
「……しあわへ……ウヘへ……」
「駄目だなこれは……しばらくの間、意識が戻らないかもしれない」
「す、すまん…」
「兄さんは悪くないよ!ま・ち・が・い・なくね!」
天の謝罪に対し、強調して否定の意を表すカイト。だから言ったんだと。リナほどではないにしろ、カイトもアクリアの軽率な行動に少なからずの不快を感じたのは紛れもない事実。
「会長からの緊急の仕事…その話を中断させて、何をしているんだよ君は…」
生真面目でプロ意識が高い彼なら、その不満はしょうがないことだ。
「…ハゥ…てん…さ…ま…zz…」
結局、彼女が意識を取り戻したのはそれから20分後のことである。
「…今のうちなの……」
尚、アクリアが気絶していた時間を有効活用した強者もいた。
「天兄さん!!カイトさんとアクさんにだけズルいのです!!あたしも…天兄さんの熱烈なハグを強く希望するのです!!」
「へ?いや、ちょっと待て…」
「またないのです!!二人だけ…二人だけズルいの!!あたしも天兄さんの仲間なの!!」
「いやな…リナの嗅覚だと、今の俺は臭うかもしれんぞ?なんせ、神域にいたとはいえ10日間も風呂に入ってないし…」
「全然臭わないの!!天兄さんからはいい匂いしかしないの!!」
「そ、そうなのか?」
「そうなのです!!そ、それとも…あたしだと嫌なの……ですか?」
「いや…熱烈歓迎」
ギュ〜〜
「ハウヮン!!こ、これは予想以上なの…」
パタパタパタパタ
「リナがあんなに尻尾を激しく振るの…初めて見たし」
「俺はアクリアの介抱に専念してるから……」
「あ、カイトさんがついに現実逃避したし」
「こ、この圧倒的なまでの安心感と自分のすべてを制圧されるかのような包容力…そして、ほのかに香ってくる日向の匂い…たまらないの!!これじゃ、未使用のお嬢様じゃたえられないのは当たり前なの!!」
〜それから5分後〜
パタパタパタ…クンクンクン…スリスリスリ
「キュウ〜ン、たまらないのです!たまらないのです!超…たまらないのです!!!」
「リナ、本物の犬みたいにじゃれてるし…」
「リ、リナ…そろそろいいか?」
ピタ…
「シロナ!訊きたいことがあるの!!」
「うわ!…ぼ、僕は何も言ってないし!り、リナのことを本物の犬だなんて言ってないし!」
「どうでもいいのです!それよか、お前は天兄さんにハグされたいのですか!」
「全然。僕はイケメン担当だし」
「天兄さん!聞いたとおりなのです!!」
「いや、何が聞いたとおりなのかさっぱりなんだが?」
「狐の分のハグも…あたいがいただくってことなの!!」
「やっぱ、リナも大概だし…」
「ささ、…っということなので!続きなのです天兄さん!!」
「…どういうことだよ。まあ、いいけど…」
ギュ〜〜〜
「ワフ〜〜ン!!や、ヤバいのです!!この圧倒的な雄度、ヤバすぎるの!!」
クンクンクンクン!パタパタパタパタ!
〜さらに5分後〜
「リナ…そろそろ」
「う〜、名残惜しいのです…」
スリスリスリ…
「俺的には、リナみたいな美人に抱きつかれるのは嬉しい限りなんだが、もうそろそろ仕事の話に入りたいから…な?女性に抱きつかれたままというのも締まらんし」
「……わかったのです。て、天兄さん!」
「なんだ?」
「あ、あたしも!これからも、ずっと一緒に……天兄さんと冒険士をやっていきたいのです!!」
「そいつはありがたい。てか、それは俺の方こそ頼みたいことだ。それこそ、地面に頭を擦りつけてでもな?」
「ほ、ほんと!!」
「ああ、とくにリナは、俺がこの世界で一番頼よらせてもらってる女だからな?お前が俺を見限るまで、できれば側で助けて欲しいぞ」
「や、や……やったのーー!!“天兄“に一番頼よられてるとか!超うれしいの!!」
「そいつは光栄だ」
「光栄なのはこっちなのです!あと、見限るとかあり得ないのです!!もう一生つきまとうから……そのつもりでいて欲しいの!!」
「熱烈歓迎!」
ワシャワシャ…
「ふはぁ〜〜〜、こ、このタイミングで頭を撫でるとか……天兄のテクニシャン!!ア、アクさんが復活するまでまだ時間があるのです!…っということで、頭撫でのオプション付きでハグを五分延長でお願いするの!!」
…アッチの店かよ…。
「ま、まあいいけど、アクが目を覚ますまでだぞ?」
ムギュ〜〜…ワシャワシャ
「クーー!たまらないのです!!あたし!これからも天兄の妹分として、超頑張るの〜〜!!!」
「…………なんでなのかな」
天とリナの一連のやり取り、それを、すぐ側で見ていたカイトはふと思った。
「…どうしてアクリアの時はあんなに疲れたのに、リナの時はこんなに微笑ましいんだろうね」
愚痴ともとれる台詞を呟き、自分の腕の中で、未だにお花畑から意識が戻ってこない、自身の妹分に目を向ける。
「…ムニャ……しあわへ…」
「…君も、彼女の半分ぐらい要領よく立ち回ってくれると、フォローせずともすむんだけどな……」
「…てん…さま…ハゥァ……」
「……ハァ〜〜」
最近の彼の悩みは『以前よりも格段にため息をする回数が増えた』だ。だが、彼のこの悩みは、暫くの間は解消されることはないであろう。
【花村天の“ハ“グランプリ最終結果】
1位 リナ 記録15分以上 取得称号“頼れる妹分“
2位 カイト 記録1分 取得称号“相棒“
3位 アクリア 記録7秒 取得称号“失神娘“
番外シロナ 記録なし 取得称号なし(狐のまま)
この日この時、成り立ちはどうであれ、花村天は仲間達とのかけがえのない絆を手に入れた。彼等、冒険士協会ゼロ支部の伝説はここから始まるのだ。




