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第33話 もう一人の脅威判定Sランク

「ゼェ…ゼェ…」


 女神が息を荒げて興奮している。どうやら何かあったようだ。


「全部おぬしのせいじゃ!!」


 …やはり心が読めるのか?ま、女神だからそれぐらいはできるか…。


「…すみません店員(フィナ)さん」


「誰が店員さんじゃ!!まったく……」


 …悪ノリしすぎたかな…。


 フィナは落ち着きを取り戻そうと、一旦、深呼吸をして少し間を置いてから口を開いた。


「……ふぅ〜、さっきも言ったがダーリンぐらいじゃぞ?儂ら神をそんなにぞんざいに扱うのは…」


「…儂らではなく多分、貴方(フィナ)限定だ」


「な、なんじゃと!!まさか好きな娘にわざと悪態をついて気を引こうとするアレか?それならそうと言ってくれれば…」


「別にあなたの事は何とも思ってないです。話を戻しましょう。脱線させてすみませんでした」


 わざとらしいくモジモジしながら流し目を使ってきたフィナに、俺は心底、面倒くさくなり即座にその会話を打ち切った。


「ダーリンは本当につれないのじゃ。じゃがこんなに楽しい対話は久しぶりじゃから許すのじゃ!!」


 フィナはそう俺に言うと、満面の笑みを浮かべて神々しく光輝いた。俺はそんな神々しい女神(フィナ)を目の当たりにして…


「それはなによりだ…あの、すまないんだがフィナ…(まぶ)しいんでその光りちょっと抑えて貰っていいですか?」


「………なんじゃか今日は初めて言われる台詞が多過ぎる気がするのじゃ…」


 フィナはまた何処か納得いかない様子で、身に纏う光りを抑えながら俺に与える恩恵の仕組みについての話しを始めた。


「…では仕切り直しじゃ…パンパカパーン!花村天よ!貴方は英雄に認定されましたのじゃ!」


 …どうやら神々は、形やムードにこだわるタイプのようだな…。


 いちいち突っ込んでいたら話が進まないと思った俺は、フィナの話しの流れに逆らうのをやめて、静かにその言葉に耳を傾けた。


 …とっとと貰うもん貰って元の世界に戻らんとな…。


 大概こういう場合は、元の世界の時間は止まっていて、帰ったら全然時間が経っていないというのが相場だが。もしかしたら浦島太郎バージョンもあり得ると思っていた俺は、とにかく早くここから帰りたかった。


 …無駄話をしすぎた。情報収集は大切だが、余り関係のないトークもしてしまうのは俺の悪い癖だ…。


 そんな俺の考えをまた読んだのか、フィナはあっけらかんと俺に向って…


「安心せぇダーリン。この空間に入った者は一定の時間が経たんと出られんのじゃ!じゃから焦っても大して変わらんのじゃ」


 …おい〜!それは安心じゃなくて諦めろって事だろが!…。


 俺のそんな心情を知ってか知らずか、フィナは俺にそう言うと、愉快そうな笑みを口元に浮かべ、満足げに説明を続ける。


「貴方は英雄に認定されましたので、500神PT(かみポイント)と副賞として100億円が贈られますのじゃ!」


「………100億…」


 …英雄になったら大金を与えられるのは知っていたが、実際100億も貰えると逆に現実味がないな?この前まで手提げ袋もろくに買えなかったのに昨日3億、今日100億円、手に入れるとか…まあそんな事を考えても仕方ないか。金はいくらあっても邪魔になる事はないだろうし。それにしても…。


「金はわかるが神PT(かみポイント)って一体…」


「神PTとは、儂ら神々が運営しておる神ショップという…簡単に言えば()じゃな。そこで使う事ができる通貨みたいなもんじゃ。でじゃ、そこで儂らが出品しておる様々な種類の恩恵を神PTで交換するのじゃ!!」


 フィナは目をキラキラさせながら俺にそう説明した。俺はその女神の有り様を見て、神々は本当に遊戯(ゲーム)感覚でこの世界を管理しているのだと再確認する。


 …それにしても…結局、店の店員みたいなことをやってんじゃねぇか…。


「店員じゃのぉて、店のオーナーじゃ!」


「……どうでもいいが、俺の心の声に突っ込むのやめてくれない…」


「気にするでない」


 …気になるっつんだよ!…。


「…でもまあ、確かに気にしてもしょうがないか…」


 女神(フィナ)の相変わらずのマイペースな様子に、俺は色々とどうでもよくなってきていた。


 …用はゲーム内のメダルの景品交換みたいなもんか?それを恩恵というのかは別として、選べるのは有難いかもな…。


 いらないものを押し付けられたらたまらない。そんな事を考えていたら、俺の前に文字の羅列が浮かび上がった。


生命(フィナ)の神ショップ】

 神魔法 ・10000神PT

 生命の目 ・200神PT

 環境順応法 ・100神PT

 クラスチェンジ ・100神PT

 神の知識共有 ・100神PT

 生命の玉 ・20神PT

 土地・梅1神PT・竹10神PT・松100神PT

 寿命・1神PT

 金1000万円・1神PT


 花村天の持ち神PT・残り500


 …なんかダントツで高いのがあんだけど…。


「魔法を使えんダーリンには神魔法は関係ないじゃろ」


「…おっしゃるとお〜りで!」


「さあ、持ち神PT(かみポイント)を使って好きな恩恵を選ぶのじゃ!ちなみに土地は1ヘクタール分で、寿命は1年で消費神PT1になっておるのじゃ!」


 …寿命まで交換できるのか。土地も松竹梅に別れているが1ヘクタールとは規模が大きいな…坪でいうと約3000か。まあ土地にはもう余り興味が湧かないからパスとして…。


「そういえばシストのおっさんが知識の女神(ミヨ)様から相手の脅威判定がわかる目を授かったとか…」


 …俺もおおよそなら対峙した時点で相手がどれぐらいの力量かわかるが、正確に敵の脅威がわかるのは、戦いにおいてかなりのアドバンテージになる…。


 以前シストから聞かされた、相手の脅威判定がわかる目の事を俺が持ち出すと、フィナは急に俯き、その身に纏う光りを弱々しくさせながらボソっと呟いた。


「……アレはミヨ限定の恩恵(スキル)じゃ…」


「すみません…やっぱりミヨ様とチェンジで…」


 俺がそう言うと飛びつかんばかりにフィナは身を乗り出して俺を引き止める。


「待つのじゃ!!!わ、(フィナ)限定の恩恵もちゃんとに良いものがあるのじゃぞ!!」


「…例えば?」


 俺はそんな女神に、胡散臭ささ全開だなと言わんばかりの態度を取る。


「うぬぬぬぬ…ま、まず生命の目、その次に生命の玉じゃ」


 …神PT200と神PT20の恩恵か。生命の目というのはおっさんが授かった目の生命版って所か?…。


「その認識で大体、当たっておるのじゃ」


 …俺はこいつ相手に声を出して会話しなくてもいいんじゃないか?…。


 もはや心の声と会話するのがお決まりとなったフィナに対して、俺は気にしたら負けと思い、平常運転で対話を続ける事にした。


「…次の生命の玉ってのはなんなんだ?」


 …神PT20消費ってのは高いのか安いのかわからんが、それでも金にすれば2億相当だ。ある程度は使える物なのか?…。


「生命の玉というのはじゃな、言うなれば奇跡のアイテムみたいなもんじゃ」


「奇跡のアイテム?」


「うむ。簡単に言うとどんな怪我や(やまい)でもたちどころに治してしまう…」


「今までのフィナ()に対する無礼な態度の数々…誠に申し訳ありませんでした!!」


 俺はフィナのその説明(ことば)を途中までしか聞いていないにも関わらず。まるで最初にシロナが自分(おれ)にやったような変わり身の早さで、フィナに思い切り頭を下げ、今までのフィナへの態度を謝罪した。


「喜んで貴方様の直属の英雄をさせていただきます!いえ、是非自分をフィナ様の直属の英雄にしてくださいませ!!」


 女神が提示したそのアイテムの効力は、大切な仲間が死んでしまうかもしれないという場面に直面して、自身の無力感と恐怖心に苛まれていた俺には、まさに喉から手が出るほど欲しい(アイテム)だった。


 …欲しい…欲しい欲しい欲しい欲しい!どんな怪我(・・)でも治せるってことはラムと淳の身体だって…。


 俺はこの時、フィナのある言葉を思い出していた。『あの二人は命だけは助かる』とフィナがこぼしていた言葉を。


 …命だけは…フィナのこの言葉から察するに、淳とラムは命は助かるが何らかの後遺症が残ると推測できる。しかしそれは当然の事だ。二人共アレだけの重傷を負ったんだからな。それに、ラムはともかく淳のあの怪我にいたっては、これからまともな生活を送れるかどうかすら危ういだろう…だがその生命の玉というアイテムを使えば…。


「うむ!余裕で全快にできるのじゃ。ぶっちゃけ怪我をする以前より健康体になると思うぞ?」


「!!」


「もっと言えば体から魂さえ離れていなければ死人でも生き返らせる事が可能じゃ」


 …マジか!!…。


「この世界では死んで魂が体から離れるのは3〜5分と短い間の事じゃが、死んだ直後なら魂は体に残っておる。その間なら例え首だけになったとしても、失われた体の部位の全てを元の状態に戻して全快させる事もできるほどの超強力な回復アイテムじゃ!!」


 俺の余りの食いつきに気分を良くしたのか、フィナはふんぞり返って、誇らしげにアイテムの説明を俺にする。


 …欲しい!まさに今の俺にピッタリの恩恵だ!なんとしても欲しい!この女神(フィナ)の足の裏を舐めてでも手に入れなくては…。


「そんな事をせずとも、ちゃんとにダーリンには神PT(ごひゃくかみポイント)分の恩恵を与えるから安心せぇ。それは儂ら三柱が決めた決まりごとじゃ。じゃからどんな欲深い人種や素行の悪い人種でも、そこは等しく接しなければならんからの〜」


「ありがとうございますフィナ様!!」


 俺はこの空間に連れてこられてから初めて女神(フィナ)に心より礼をした。そんな、さっきまでとはまるで違う態度の俺を見て、フィナは途端につまらなそうな顔をした。


「…その態度をやめい。興が醒めるじゃろ…」


「…はい?」


(きょう)・が・()・め・る・と言ったのじゃ!!儂がさっきおぬしに久々の楽しい対話と言ったのを忘れたのか!」


「……確かにおっしゃっておりましたが…」


 …俺は何かミスったか?…。


 俺はフィナの不機嫌な理由がイマイチよくわからなかった。そんな俺を見てフィナは、身に纏う光りを点滅させながらヒステリーを起こして俺に文句を言ってくる。


「じゃからそれをやめろと言っておるのじゃ!!折角、久々に裏表のない対話を楽しんでおったというに…畏るなとさっきも言ったはずじゃぞ!!もう表面上だけの対話はうんざりじゃ!!!」


 …成る程そういうこと…。


 つまりは心をある程度、読める女神(フィナ)に対しておべっかは必要ないということだ。寧ろ見せかけだけの礼儀は彼女にとっては逆にタブーになり得る。


「その通りじゃ!!」


 またフィナは、考えた事を俺が口に出す前に肯定した。


 …なんかさ、俺もう喋る必要なくね?…。


 機嫌が治らないフィナに視線を合わせながら、俺は深く息を吐いた後、彼女(フィナ)に言われた通りに一番最初に彼女と対峙した時と同じ調子で、女神(フィナ)に向けて言葉を発した。


「一応、言わせて貰うが、俺が心からあんたに感謝したのは本当だぞ?」


 …俺のその気持ちは100%嘘ではない…。


「口の聞き方だってあんたの直属になったわけだから生命の女神(フィナ)は、つまり俺の(あるじ)って事だろ?なら最初みたいな接し方だとマズイと思っただけだ」


「構わんのじゃ!!儂がダーリンに求めているのは今までにない刺激(・・)じゃからの!」


 …刺激か…いいだろう…。


 女神のその台詞を聞いて、俺は不敵に笑みを()ぼした。


 …俺も少なからずこの世界で成し遂げたい目的ができたからな。それを達成するためには神の力はきっと役に立つ。だから利用させて貰う代わりにせいぜい皆様(かみがみ)のために踊ってやるよ…。


「それじゃよそれ!!ダーリンに儂等(さんちゅうしん)が求めている事はまさにそれじゃよ!!」


 フィナが満足そうにウンウンと頷く。身に纏う光りも安定した輝きを放つ。


「…了解した。神ショップの話しに戻ろう五千円札(フィナ)


「……その呼び方は戻さんで欲しいのじゃ…」


「了解だフィナ」


「おぬし…わざとやっておるじゃろ?」


 …勿論だ。テンドンはお約束だからな…。


「女神を相手に……まあ良いのじゃ!それでこそダーリンらしいからの〜。では早速選ぶのじゃ!じゃがもう40PT分は決まっておるかの?」


 フィナは含み笑いをしてそう指摘してきた。


「いや、もう選ぶ恩恵は全て決めた…500PT全部、生命の玉と交換お願いします!」


「はい?」


「生命の玉25個と500神PTを交換して欲しい!」


「いや…あの〜…それはその〜……」


 俺が持ちPTの使い道をフィナに告げると、何故かフィナは困ったように口ごもってしまった。そして少ししてから意を決したように…


「すまぬダーリン!!それは無理なんじゃよ…生命の玉の在庫(ストック)は今、10個しか置いておらんのじゃ」


 …まさかの品切れ!…。


「それにじゃな…実はダーリンに頼みたい事があるのじゃ!」


 フィナは自身が女神であるにもかかわらず、俺に祈るようなポーズをとって、ある事を懇願してきた。


「そこに書いてある『神の知識共有』というやつがあるじゃろ?」


 …この神PT100の恩恵がどうかしたのか?…。


「その恩恵(スキル)をダーリンの持ち神PTと交換して欲しいのじゃ…」


「なんでまた?」


「えっと、じゃな…その能力(スキル)をダーリンが身につけんと色々とマズイのじゃ…」


「というと?」


「ダーリンは元々はこっちの世界の住民じゃないじゃろ?じゃから儂等、神々で管理しきれんところがあってな…」


 …なんかいきなり重そうな話が…。


「いんや、大して重くはないぞ?」


「さいですか…」


「重くはないんじゃが、ちょっとした理由で儂等が困るのじゃ…ぶっちゃけるとダーリンには言葉や行動の制限(ロック)がかけられんのじゃ」


 …それって普通じゃないのか?…。


「う〜ん…儂と対話する前なら問題なかったのじゃが、もう既にダーリンは少なからずこの世界の(ことわり)を儂から聞いておるじゃろ?」


「どれの事を指しているのかはわからんが、確かに重要そうな事はいくつか聞きましたね」


「普通なら神の知識を得ても他の者には教えられんように、その知識を喋れなくしたり、文字で記録したりできんよう、儂等(かみがみ)が制限をかけることができるんじゃが…ダーリンの場合はそれが無理なんじゃよ」


 …そういうことか…。


「了解した。ではその『神の知識共有』と生命の玉10個を交換するとして、残り200神PTは何にするかをちょっと考えますね」


 俺がフィナにそう返事をして残りの神PTをなんの恩恵と交換するか考えていると、そんな俺にフィナが不思議そうに尋ねてきた。


「えらくあっさり納得してくれたの?神PT100も消費する恩恵(もの)じゃぞ?良いのか?」


貴女(フィナ)がそうしないと困るならそうするしかないでしょ?察するに俺がなんの代償も払わず、神から与えられた知識を言いふらすのはあなた方が定めた決まり事…つまりルールに反するって事でしょ?」


「うむ…その通りなのじゃ」


「で、それは困ると思ったあなた方、三柱神が考えた苦肉の策が、神から与えられた恩恵(スキル)という名目で、俺のその特異体質を能力(スキル)のくくりに分類する…違いますか?」


「ご明察じゃ!やるの〜ダーリン」


 フィナは俺の推理に感心したように相槌を打つ。


「実際、魔法無効のスキルも、儂がダーリンの特異体質にちなんでつけたまやかしの能力(スキル)じゃからの?まぁこっちの特異体質は、普通ならマイナスに働くことの方が多い。何より儂等神々が特別、困ることはないんじゃが…」


「この世界の(ことわり)をなんの恩恵も代償もなしにベラベラ喋るのは問題があると」


「ダーリンは話が早いの〜」


「よく言われます」


 俺も女神に調子を合わせてわざとらしくフフンと威張ってそう答えた。


「ウフフフ…ダーリンも言うの〜、やはりおぬしとの対話は楽しいのじゃ!それにしても本当に()いのか?」


 フィナは少し申し訳なさそうな顔をして俺に聞いてくる。


「頼んだ儂が言うのもなんじゃが、その能力(スキル)は元々ダーリンについておるものじゃから神PTを無駄に消費するだけなんじゃぞ?」


「今も言いましたが、貴女(フィナ)がそうしないと困るならその頼み事を俺が聞くのは当たり前の事だ」


 …自分が願いを叶えて欲しいのに相手の頼みを聞かないなんて事は、俺の中ではあり得んからな…。


「フィナに願いを叶えて貰うのは俺も一緒だからな?なら俺の方もあなた方、三柱神のルールを守るのは当然の義務であり、通さねばならない(すじ)でもあると心得ている」


 俺の考えを聞いたフィナは感動したような目で俺を見ながら…


「あ〜、やはりダーリンは大当たりなのじゃ!強くて話しもわかる…ハァ…ヨウダンの阿呆もダーリンの半分でも話のわかる男ならええんじゃがの〜」


 …ヨウダンってのはたしかさっきフィナが話していた…。


「シストやルキナと一緒に旅をしていた男じゃ。今は教会のトップでもある男での?儂の直属の英雄なんじゃがの?これが如何せん頭の硬い奴なんじゃよ」


 …ほ〜、思わぬところで教会のトップの名前が出てきたな…。


「どんな奴なんだ?」


「頭が硬いというか頑固というか…後は、とにかく自分の価値観ばかり押し付けてくるジジイなのじゃ。(ヨウダン)との対話が一番ストレスが溜まるのじゃ」


 …独善者みたいなもんか?…。


「うむ!独善者なのじゃ!」


「…そうッスか」


 …女神にそんな(どくぜんしゃ)を言われる奴とか…英雄としてどうなのよ?そういえばおっさんも気に食わないみたいなことを言っていたな?俺もおっさんに聞いた限りじゃ教会の考え方に好感は持てんが…。


「シストとヨウダンは顔を合わせる度にいがみ合っておるからの。ま、ヨウダンのアホがマヌケな事をシストや他の国のトップに言っておるからなんじゃが…」


 …何を言っているかは大体予想がつく。邪教絡みの対処の仕方かなんかだろうな…それにしてもおっさんの昔の仲間が教会のトップとは……


「………あっ!」


 俺はある大事な事を思い出して思わず自身の口をあんぐりと開けて驚きをあらわにした。その様子を見ていたフィナが急にそんな顔をした俺に…


「どうしたんじゃダーリン?急にアホヅラになって?」


 …本当に口が悪い女神だ…。


「っと今はそんな事はどうでもいい…おっさんの事で思い出したんだが、ヘルケルベロスというAランクモンスターの討伐の助っ人に俺は行かなければ…」


「大丈夫じゃ」


 俺のそんな心配をよそに、フィナは飄々とした調子で問題ないと断言した。


「……フィナがそう言うならあっちは大丈夫か…」


「なんじゃ?最初と違ってえらくあっさり信じるんじゃな?」


「学習したんだよ。貴女は軽い態度を取ってはいるが嘘をついたり俺にとって不利益になる事をまずしない…逆にここに来てからフィナには利益(おんけい)しか与えられてないからな?」


「ウフフフ…話がわかる男は楽でいいのじゃ。そもそも儂等神々は嘘がつけんし、つく必要もないからの?儂が喋っている事は全部信じて大丈夫なのじゃ!」


 普通ならフィナが言った事は詐欺師の常套文句のような台詞なんだが。俺は不思議とこの女神が真実しか語れないというその言葉に嘘はないと、自然に頭で納得できた。


「で、ヘルケルベロスは2体とも無事に倒せたということでいいのか?」


「うむ。レオスナガルが間に合ったのじゃ。じゃから問題ないのじゃ」


 …ヨウダンって奴と一緒でさっきフィナが言っていた…確か、創造の神マトの直属の英雄だったか?強いのか?…。


「強いぞ?おぬしという例外を抜かせば、冒険士で最強は間違いなくレオスナガルじゃ」


「実力だけならおっさんより上って事か…」


 …恐らくSランクの冒険士だな。って事はもしかしてそいつが俺の他にもう一人いるとフィナが言っていた脅威判定Sの人型か?…。


「うんにゃ、違うのじゃ。冒険士のランクはSであっておるし、儂等が管理しておる人種の中で最強クラスなのは間違いないが、ダーリンと同じくS越えの脅威判定を叩き出したのは()の者じゃよ」


「そいつの事を聞いても問題ないか?」


 俺が真剣な表情でそう聞くとフィナは何処か困ったように…


「う〜む…そやつはシナット側の者じゃから余り情報を公開するのはちと難しいの〜」


 …敵か…。


 ビリ…


 俺は女神のその言葉を聞いて無意識の内に殺気を放っていた。しかし、フィナが次に口にした事を聞いて、途端に毒気を抜かれてしまう。


「なにより、その者の事なら儂よりダーリンの方がよく知っておるはずじゃぞ?」


「……へ?」


 …今なんて言ったんだこの女神?…。


「じゃ・か・ら…儂よりおぬしの方がそやつをよく知っておるのじゃ!」


 …いやいやいや、この世界の人物で女神より俺の方が詳しいって事はないだろ?…。


「それがあるんじゃよ。それと勘違いしておるようじゃがそやつはこの世界の者ではなくダーリンと同郷じゃぞ?」


「…え?向こうの人間が俺以外にいるのか?」


「うむ。ちなみにそやつがシナット側に入った理由はな…ダーリンはきっと儂等(さんちゅうしん)の側につくから自分はシナット側につくんじゃと」


 フィナは呆れ顔で首を振りながら俺にそう答えた。俺はそのフィナの言葉を聞き、ある人物が頭の中で浮かび上がる。


「…おい…そいつってまさか…」


 《現実の世界》


 〜エクス帝国の首都から僅かに南方に離れた草原地帯〜


「ふん、ふん、ふんふ〜ん、ふふんふ〜ん」


 一人の美少女(・・・)風の人型が鼻歌交じりに、あるものの上に座って足をブラブラさせていた。


『今しがたおぬしが言っていた男が、あちら側の英雄に定められたぞ』


 何も存在しないはずの虚空から、不気味で空恐ろしげな声がその者に向かって語りかけてきた。その声で話しかけられた本人は気味悪がるどころか、その声の主の言葉を聞いた途端、無邪気な子供のように喜び、はしゃぎ出した。


「キァハハハハ!ねっ!だから言ったでしょ?天天(てんてん)ならすぐにあっちで英雄になるって!でもさ、ちょっと時間かかり過ぎかな?も〜〜、遅いよ天天!」


 まるで自分の事を自慢するかのようにその者は(てん)の事を喋り出した。既に声の主の気配はないというのに。


「ふんふんふふん〜、楽しくなってきた〜」


 上機嫌なその者の外見は、日本でいうと高校に上がったばかりのあどけなさが残る少女と言ったところか。


「ちょっと退屈してたんだよね。まあ、今日はワンちゃんと遊んだから楽しかったけど。キャハハハハ!」


 顔は中々に整った顔立ちをしているのだが、そのあどけなさから度々、顔を出す危険な気配が、この者が尋常ならざる者と答えているかのようだ。腰まで届くであろう赤みの強い赤茶色の長髪は、首の後ろでひとくくりにしており。猛禽類のような鋭い琥珀色の瞳が、さらにその者の危険な雰囲気を際立たせている。


(せん)殿!貴殿は一体何を考えているのだ!!」


 突如現れた野太い声の人型が、怒声を張り上げて(せん)と呼ばれる人物に対して不信感をあらわにする。外見は、黒いローブで全身を覆い隠しているためイマイチ掴めないが、声の質から察するに恐らく男性であろう。


「キャハハハハ!もう、そんなに怒らないでよ」


 逆に(せん)の方の服装は実にラフな格好で、迷彩柄のショートパンツにヘソが出るほどの短い丈のタンクトップというものだ。その見た目と喋り方から受ける、戦の第一印象は、幼さが残る活発的な美少女と言ったところか。だが、戦のその印象を全否定するかのように、服の肩口から覗かせる、死神を思わせるような赤黒いドクロの刺青が、それを見た者、全てに死の予感を感じさせるかのように。


「これが怒らずにいられるか!!何故、貴殿は我等の同志(・・)であるヘルケルベロスを手にかけたのだ!!」


 巨大なリザードキングのさらに数倍はあろう、見上げるような巨体と三つの首を持つ黒い大狼のモンスターが黒ローブの男の眼前で横たわっている。戦は相変わらずそのモンスターに腰を据えながら、男の文句などどこ吹く風と、足をプラプラさせて空を眺めている。


「聞いておるのか戦殿!!!」


 そんな戦の態度を見て、フードの男の怒りがさらに激しく燃え上がる。一方、戦の方は男に怒声をぶつけられて、面倒さそうに耳の穴を穿っている。


 タンッ


 怒りが収まらないフードの男を見兼ねたのか、座っていたヘルケルベロスから飛び降りて、男の側に着地した。


「だってさ〜、あのワンコ、僕に火を吹いてきたんだよ?だからさ、食べちゃっても別に問題ないでしょ?」


「あるに決まっている!!そもそも貴殿が殺気など放ってヘルケルベロスを刺激するから悪いのだ!!」


「あ、バレちゃった?」


 フードの男の指摘にまるで悪びれもせず、戦は悪戯な笑みを浮かべてベロを出しながら男の言葉を肯定した。


「だってさ〜、退屈だったんだもん」


「ならば同志であるヘルケルベロスではなく堕人(おちびと)である人型共を殺せばよかろう!!特に炎姫(セイレス)など貴殿にとっては格好の獲物ではないか!」


「ん〜〜〜、あの赤髪のお姉ちゃんか〜…」


 男のその意見に、戦は何処かつまらなそうな顔をして、頭の後ろで両手を組んで空に視線を移す。


「あの子はまだ食べ頃じゃないからパス。いい線いってるけどもうちょっと旨みが欲しいんだよね?もっと美味しそうになってから()べるよ」


「う、美味い不味いは関係ないであろう!!奴らは我等、シナット様の使徒の怨敵!我等の奴隷にならない者は全て(めっ)せねばならん!」


「あ〜〜、そういうの君たちだけでやってくれない?僕は一応、君たち()だけど美味しそうなのにしか興味ないんだよね?(あり)には興味が湧かない」


「なっ!」


「後、堅気(ぶがいしゃ)にも手を出すつもりないから。僕の流儀(びがく)に反するんだよね?あっ!でも安心していいよ。だからって君たちの邪魔をするつもりはないからさ?キャハハハ!」


 戦の相変わらずのマイペースな軽い態度に、男は自身の頭から湯気を出しそうな勢いで…


「き、き、貴殿はこの聖戦の意味を理解しておるのか!!!奴らに堅気も美味いも関係あるか!!」


「え〜〜、だってさ。蟻を踏み潰しても別に面白くもなんともないじゃん?まあ僕の戦いに巻き込まれて死んじゃうのは仕方ないけどね。でも僕の方から蟻の大群を見つけて、踏み潰して歩いてもつまらないよ」


「何をわけのかわらん事を言っておるのだ貴殿は!!」


「ん〜〜、わかんないかな〜、僕のこの気持ち?その代わり美味しそうなのは全部、僕が食べてあげるから安心していいよ?キャハハハハ!」


 全く話の通じない(せん)に男の怒りと不満は頂点に達し、ついに戦へ罵詈雑言を吐いてしまう。


「話にならん!!貴様(・・)は何もわかっておらん!この痴れ者が!この戦いが何を意味するか少しは理解せんか無知な人種(ヒューマン)よ!!」


「……は?…お()ウザいな…」


 男に罵詈雑言を浴びせられて、今まで明るかった(せん)の表情がみるみるうちに影を落とし、その瞳からも光りが失われた。男はそんな戦の変わりようを気にもせずに、さらに暴言を吐く。


「大体だ!シナット様もこんな無知で得体の知れない愚か者を何故、我が陣営に迎え……ウグッ!」


 フードの男は最後まで喋らせては貰えなかった。男の暴言を無理矢理辞めさせるかのように(せん)が片手で男の首を絞めながら体を持ち上げたからだ。


「…僕さ、血の気が多い奴って嫌いじゃないんだけど頭の悪い奴って嫌いなんだよね?シナットが僕をスカウトした理由?そんなの僕が強いからに決まってんじゃん…」


 グググ…


 男にそう告げながら、戦は首を絞めている手に一層、力を入れる。


「ウッ!ウグッ」


「あんまり調子に乗ってるとさ…あの駄犬(ヘルケルベロス)みたいに(やっ)べちゃうよ?」


 バッ!


 戦はその台詞と同時に、首から手を離して男を解放した。


「ゲホッ、ゲホゲホ…」


「キャハハハハ!今度からはもうちょっと分際をわきまえてね雑魚(むしけら)君」


 いつの間にか戦は、先ほどまでのひょうきんな調子に戻っていた。


「でも君は運がいいよ?いつもの僕なら今みたいな事を言われたら、相手を殺さないまでも骨の二、三本ぐらいは壊すんだけどさ…今日は機嫌がいいから許してあげたんだよ?」


 戦は倒れてえずいている男を尻目に、無邪気な笑みを浮かべて天を(あお)いだ。


「いつもよりちょっと規模が大きくなっちゃったけど、これでやっと毎年(・・)の続きができるね天天…」


 空を見上げながら何か物思いにふけるように戦はそう呟く。そのまま少し空を眺めた後、(せん)(そら)に向かって両手を伸ばしながら叫ぶ。


「さあ!()こうでもやってたように、こっちでも楽しく親子(・・)戦争(ゲーム)しようよ天天!!キャハハハハハ!!」


 ()の名は花村戦(はなむらせん)、『戦争の申し子』『戦場(いくさば)羅刹鬼(らせつき)』と戦場で恐れらたプロの傭兵であり、この世界に存在するもう一人の脅威判定Sランクの力を持つ人種(ヒューマン)。そして花村天の実の父親(・・)である。



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