第32話 女神
辺り一面、何も無い真っ白な空間が広がっている。その不思議な空間で、俺は現在一人の絶世の美女と対峙していた。
「パンパカパーン!おめでとうございますなのじゃ!貴方は晴れて英雄に認定されましたのじゃ!」
神々しい雰囲気を身に纏った美女は、その威厳ある姿とは打って変わり。実に軽いノリで俺にそう告げてきた。そんな彼女に俺が言った最初の一言は…
「早くここから出せ!!」
普段の俺は、余り声を荒げて怒鳴ったりしない。それが女なら尚更なのだが、今はそんな余裕を持つ事ができないほどに、俺は焦っていた。
「うむむむむ。いきなり一言目にそれか?つれないのじゃダーリン!」
「誰がダーリンだ!いいからここから早く出せ!」
「まったく、儂に初対面でそんな口を聞いたのはダーリンが初めてじゃぞ?でもそこがまた魅力的なのじゃ」
普段の俺なら、目の前の美女が言った通り初見の相手に対して、相手が失礼な態度を取らない限りは、余り乱暴な言葉遣いはしないのだが、今の状況ではそれが無理なのだ。
「もしかして儂の事をしらんのか?」
美女は怪訝そうな顔で質問してきた。その質問いに、俺は迷わず即答する。
「知ってるよ!五千円札の女神様だろ?はい答えました!だから早くここから出して下さい五千円札!」
「それでも間違ってはおらぬが…。儂をそんなふうに呼んだのもダーリンが初めてじゃぞ?儂にはれっきとした『フィナ』という名前が…」
「いいから早くここから出せと言ってるだろ女神!俺は皆の元へ戻らないといけないんだよ!!」
そう、俺の目の前にいるのは三柱神の内の一柱、生命の女神フィナだ。そしてここは察するに、彼女が作り出した空間だろう。
…くそ!なんでこんな時にこんな目に合うんだ…。
俺はフィナを睨みつけながら、こことは別の空間にいるであろうラムや淳、一緒にリザードキングの討伐にきた仲間達の事を思っていた。
…ラム、淳、それに皆も…。
俺のそんな心境を察したのか、フィナが相変わらずの軽い口調で、説得力のない台詞を吐く。
「大丈夫じゃよ」
「大丈夫なわけねぇだろ!」
そんな女神の言葉を受けて、俺はすぐに批判の声を上げた。
…くそ、なんでこんな事になった…。
俺はリザードキングを倒した直後の事を思い出していた。
「…………」
目の前に首無しのモンスターが横たわっている。
「………終わったのか…」
その言葉を口にしたと同時に、自身の朧げになっていた意識がはっきりとしてきた。目の前に首無しの大きなモンスターの死体が転がっている。多分、俺がやったのだろう。
…自我を失うほどのショックを受けたのは初めてかもな…。
「………はっ!」
…そうだった。まだ何も終わっちゃいない…。
俺は、今の最悪に近い現実を思い出して、全身から血の気が引くのを感じた。まだ重要な事は何も終わってないからだ。
…何をホッとしているんだ俺は!…。
俺の足元で、痛々しいく頭と目から血を流しているラムを見た俺は、今までに感じた事がないほどの恐怖に心が支配される。恐怖感と不安で動悸が激しくなり、胸が圧迫されて今にも嘔吐しそうだ。
…これが本当の恐怖か…。
俺は今、アクとカイトに責められた時に感じた恐れとは比べものにならないほどの恐怖を感じていた。
「…淳は!」
ラムよりも酷い重傷の友人の事を思い出した俺は、身を震わせながら淳の方を振り向く。彼を見るとピクリとも動かないで傷口からヒタヒタと血を流して倒れていた。
「マズイ!」
…あのままじゃ淳が…。
そう頭の中で思ったが、俺にはどうする事も出来なかった。魔技どころか魔力すらない俺は、他人を回復することなどできはしない。
…くそくそくそ!自分の傷なら練気を練って内功である程度なら回復できるのに…。
自身の無力感に押し潰されそうになりながらも、応急処置で血ぐらいは止めようと思い。包帯代わりに自分の着ていた衣服を破ろうとしたその時だった。どこか使命感を帯びたような凛々しい表情の女性が、俺の方に向かって走ってくる。
タッタッタッタ!
「…ア…ク」
いつになく真剣な面持ちで、アクリアが俺の横を通過してそのまま淳の方に駆け寄る。そして酷く狼狽している俺に向かい、彼女は倒れている淳に治療を始めならがら叫んだ。
「天様!!この方は私が、持てる力の全てをもって必ずお救い致します!ですから天様はその方についていて下さいませ!」
俺はアクリアのその言葉を訊いて、恐怖が和らぎ、彼女への感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。淳に回復魔技をかけている彼女の背中に向かって、気づけば俺はがむしゃらに頭を下げていた。ありがとうと。淳をどうかお願いしますと。言葉で表せないほどの感謝の気持ちを込めて。
「天兄さん!その子はあたしが回復の魔技をかけるのです!」
いつの間にかリナがアクリアに少し遅れてこちらに近寄ってきていた。
「た、頼む…」
そう言って俺は、近寄ってきたリナの治療作業の邪魔にならないように、自分の足元で倒れているラムから少し離れた。
「あたしじゃレベルツーの回復魔技しかできので、このレベルの負傷だと応急処置にしかならないのです…でも何もしないよりはマシなのです!」
「リナ…」
…それでも十分だ。ありがとう…。
治療に集中しているリナに話しかけるのはよくないと思った俺は、必死でラムに回復魔技をかけている彼女に心の中で礼を言った。するとリナが何もできずに気持ちを沈ませてる俺を気遣うかのように、声をかけてきた。
「天兄さん。あたしとアクさんは治療に集中するので周りの警戒はお願いするのです!」
「安心しろリナ…ネズミ一匹通さん…」
「頼もしいのです!」
…それは、俺のセリフだ…。
二人に少し遅れてマリーとカイトもやってきた。マリーはドバイザーで話しながらこちらに駆けてくる。恐らく冒険士協会本部の緊急医療班を呼んでくれているのだろう。そしてカイトはというと。
「う…そ…だろ……リザードキングが…あんなに呆気なく倒されるなんて…」
俺が仕留めたリザードキングの死体を眺めながらボー然としていた。
…カイトの反応が一般的には普通の反応だろうが…。
「カイト…今はそんな事どうでもいいわ」
俺がまさに今、カイトに対して思っていた事を隣にいたマリーが代弁してくれた。彼女を見ると、もうドバイザーでの連絡を終えたようだ。
「リナさん、代わります。私はレベルスリーまでの回復魔技を使えますから。それにリナさんとカイトには別の事をお願いしたいの」
マリーがそう言ってラムに近くと、リナは慌ててラムから離れる。
「わ、わかりましたのです」
一緒に回復の魔技をかければいいだろと思うかもしれないが、それが無理なのだ。
…本当、なんで複重が駄目なんだよ…。
こちらの世界にも手術や薬などの治療法が、前の世界の最新の技術ほどではないが、そこそこのレベルで存在している。それらと一緒に魔技を用いて治療するのは問題ないのだが、回復系魔技だけの治療の場合、複重で使用しても片方の効果しか得られず。しかも、どの術者の回復魔技が優先されるかわからないため、マリーとリナで回復魔技を同時にかけた場合、下手をするとレベルスリーの回復魔技をかけているマリーではなく。レベルツーのリナの回復魔技の効果が優先されてしまう場合があるのだ。だから彼女は素早くラムから離れたのだ。
「…何をすればいいんだマリーさん?」
俺がその事を不満に思っていたら、側にいたカイトがいつの間にか何時もと変わらず調子に戻ってマリーとの会話に参加していた。
「他に二人の女の子がいるはずなんだけどその子達を探してきてくれない?まだ近くにいるかもしれないから。リナさんがいれば簡単に見つかると思うの…」
…そうだ!ジュリと弥生さんもこの近くまで来てたんだ!…。
俺がマリーのその言葉を聞いて、ハッと思い出したように辺りを見回して二人の気配を探っていた時だった。急に俺の周りにどこからともなく霧が立ち込めてきたのだ。
「な、なんなんだこの霧は…」
霧がみるみるうちに俺の体全体を覆い、その霧がやっと晴れたと思ったら、俺の目の前に女神が立っていたというわけだ。
「頼みますからここから出して下さい…」
俺は傷ついた仲間の事を思い出して、少しだけフィナに対する態度を改め。礼儀正しく頭を下げてフィナに頼む。そんな俺を見て、フィナは大きくため息を吐いて答えた。
「例えあの場所に戻ったとしても、もうリザードキングはダーリンに倒されたのじゃ。じゃからダーリンがいてもあまり意味がないじゃろ?おぬしは戦う以外はそこまで役に立たんのじゃから」
「うっ…」
…痛い所を突きやがる…。
「…だがそれでも…」
「それでもなんじゃ?言っとくがあの二人は命だけはちゃんとに助かるぞ?それに他のダーリンと一緒にいた者たちも何事もなくそれぞれの役割を果たす。それにな…」
フィナは話しを途中で切り、目を閉じてまたため息をついた。そして少し間を置いてから静かに口を開ける。
「おぬしはあの場にはいない方が良かったと思うのじゃ。ダーリンを見たら、あの死にかけの小僧の傷口がもしかすると開くかもしれんぞ?」
「っ!!」
流石の俺も、このフィナの言葉を聞いて何も言い返えせなくなってしまった。彼女の言った事はとてつもなく俺にとっての急所だからだ。
「…………」
気を落としてる俺を見て、フィナが自身の頬を指でかきながら気まずそうに声をかけてくる。
「あ〜〜、じゃから今のうちに儂と顔合わせを済ませるのも悪くないじゃろ?儂はなんせ女神じゃぞ?色々な種類の恩恵を選べるのじゃぞ?」
…女神の言うことも一理あるか。神様の知識は役に立つだろうし、恩恵も貰えるなら貰っておいて損はない…。
「わかりましたフィナ様…」
俺がフィナにそう返事をすると、彼女は途端に神々しい姿をより一層、輝かせて興奮しながら俺に迫ってきた。
「やっとその気になってくれたんじゃな!!それではこれで晴れてダーリンは儂、直属の英雄じゃ!後、別に畏まらなくて良いぞ!さっきまでと同じように儂に接してくれて構わんのじゃ!!」
「そ、そうっすか…」
「これでやっと儂もまともな英雄持ちになれたのじゃ!ぬふふふふ、今まで儂の事を小馬鹿にしておった他の四柱にも、もうデカイ顔はさせんのじゃ!」
「…ん?他の四柱?」
…フィナを抜かせば後はマトとミヨの二柱神だけじゃないのか?…。
「そういえば言っとらんかったな」
俺のそんな疑問を察したのか、フィナは実に軽々しくこの世界の理の一部を俺に話し出した。
「この世界の…いや、ダーリンが元いた世界では日本と呼ばれておるこの大陸には五柱神が存在するのじゃよ」
「三柱神様の他に二柱の神様がいるんですね?」
「うむ…。あまり驚かんなダーリンは…」
「今更です。気にせず話しを続けて下さい」
フィナは俺のリアクションの薄さに若干つまらなそうにしていたが、すぐに話しを再開する。
「ダーリンが言っておる三柱神は知っての通り儂とミヨとマトじゃ。そしてその他に『争いの神シナット』と『魔の神メノア』という二神が存在する」
「両方とも物騒な肩書きの神様ですね」
「肩書きだけ聞けばそうじゃな。まあ危ない奴らと言えばそうかもしれんが、儂ら神がダーリン達に直接、手を出すことはまずないから別に気にすることもないじゃろ」
…ふむ。神様は俺たちに直接、敵対する事はないのか…。
「ちなみにダーリン達が邪教とよんでおる連中はシナットの信者じゃ」
「手を出してんじゃねえか!」
俺は思わず素に戻って女神に突っ込んでしまった。
「シナットが直接、手を出しておるわけじゃないじゃろ?あくまでシナットの加護を受けておる信者が手を出しておるだけじゃ」
…子供みたいな理屈のような気もするが、神様が直接出ていかなければセーフなんだな…。
「それにじゃ。あちらの信者からすれば儂らを信仰しておる…俗に言う人型と呼ばれる人種の方が邪教なのじゃ」
「…おっしゃる通りで」
…ようは宗教の違いみたいなものか。フィナの言う通り、向こうからすれば人型の方が悪なのだろう…。
「…なんじゃ?随分と聞き分けがよいの?」
「向こうには向こうの考えがあるんでしょうからね。それを頭から否定するのは傲慢というものです」
「…おい。もしやおぬし、あやつらに情が…」
「移りも、かけもしませんよ。見つけたら即座に殲滅します。奴らは俺の敵なので」
俺のその意見を聞いたフィナが呆れた顔を俺に向ける。
「……ダーリンの方が言ってる事があべこべじゃぞ…」
「それとこれとは話しが別です。既に奴らにかける情けは、俺の中で雀の涙ほども残ってはいないので」
「…シナットの信者が可哀想に思えるぐらいの頼もしさじゃな」
フィナは視線を上に向けて乾いた笑いを浮かべる。
「それはそうと、もう一柱の魔の神というのは…」
「メノアの事か?あやつはこれからの遊戯とは余り関係せんぞ?」
…遊戯ね…。
この一言で、俺は神々たちがどんな気の持ちようでこの世界を管理しているか予想がついてしまった。
…ま、淳達にこの世界の事を聞いてた時からあらかじめ予想はついていたがな。それに俺的には過程はどうであれ結果を出していれば問題はない…。
この世界は何処も彼処も美しく。人型も心優しく気の良い者が多い。
…あくまで俺が見てきた中ではだが…そして、日々、魔物という脅威に絶えず晒されているにも関わらず皆、一定以上の生活水準をキープしている…。
それが三柱神達がこの世界と人型を管理した結果だというなら、最良に近いものと認めざるを得ない。幾ら誠実で綺麗事を並べても、結果を出さなければまるで意味がない。逆に不誠実で遊び半分でも良い結果を出せば問題はないというのが俺の持論だ。
…神々たちに好感が持てるわけではないが、だからといって別段、嫌悪感もわかん…。
俺が神々たちをそんな風に心の中で評価していたら、俺の心を覗いたのか、それとも考えが伝わってしまったのか、フィナが人の悪そうな笑みを浮かべて。
「ダーリンは話しがわかるのじゃ」
…神の価値観は人と違うだろうから気にしてないだけだがな…。
「…話しの続きをお願いします」
フィナの言葉に心の中で返事した俺は、先ほどまでの話しの続きをフィナに促した。
「うむ。メノアは魔人種を率いる神なのじゃが、魔人種は自身の大陸からまず出てこんのじゃ。じゃから儂らとシナットの信者とは争う事がほとんどないのじゃ」
「その大陸ってもしかして…」
「うむ。ダーリンの考えておる通りじゃと思うぞ?ダーリンの世界では北海道と呼ばれとった大陸じゃ」
…ああ、魔界ね…。
「魔族は魔人種っていうんですね。そういえば邪教…シナットの信者も魔族になった奴がいるとかいないとかって」
「それは間違いなのじゃ。あやつらは魔物ではあるが魔人種ではない。人種の形をしたモンスターみたいなもんじゃよ」
…やっぱ、あいつらは俺の言う通りモンスター枠であってるんだな…。
「この世界におる大まかな種族わけじゃが家畜などを抜かせば…人種、古代英雄種、魔物、魔人種、魔王種と五つの種に分かれておる。魔王種というのは育ち過ぎた魔物と思ってくれて構わんのじゃ」
「…強いんですか?」
「強いぞ。簡単に言うと儂らが定めた脅威判定S越えのモンスターを全て魔王種と呼んでおるのじゃ」
「今、この大陸にどれぐらいいるんですか?」
俺はフィナのその話しに夢中になっていた。自分より強い可能性がある強者が存在するかもしれないという期待と不安で胸が高鳴っていたのだ。
「おらんな。魔界にはうじゃうじゃおるが、儂らが管理しとるこの大陸にはおらんぞ。一匹でもおったら人種が滅ぶかもしれんからな。儂ら三柱が結界を張って、魔王種はこの大陸には入ってこれんようにしておるのじゃ」
…流石は魔王の種といったところか。…あれ?でも確かおっさんは会った事あるって言ってたよな?…。
「前に聞いたんですが、シストのおっさんが会った事があるって…」
俺がそう言うとフィナは額に手を当ててため息をつく。
「あれはシストとルキナとヨウダンのアホ共が、調子に乗って儂らの張った結界の外の海まで出てしまったんじゃよ。で、運悪くそこが『デビルクラーケン』という魔王種の住処でな…」
…クラーケンなんだなやっぱり。それはそうとルキナって確か亜人の女王様だったはずだ。昔は無茶してたのか?ヨウダンってのは知らんが…。
「ちなみにじゃが、今この大陸で脅威判定S越えの者はダーリンを含めて二人しかおらんのじゃ」
…俺の他にもう一人いるのか…。
「じゃから儂は、ダーリンがこの世界にきた時にすぐツバをつけておいたのじゃ!!」
気が付けば、フィナはいつの間にか目をキラキラさせて話していた。
「ダーリンがこの世界にきた瞬間に若返らせたのも儂じゃしな!流石に毛むくじゃらのおっさんはちとキツかったからの」
…俺を若返らせたのお前かよ!いや、まあいいんだけどね。何かこう、一言あっても……ん?待てよ。それじゃまさかアレも…。
「じゃあ俺のステータスの備考を考えたのも…」
「儂じゃ」
フィナはまるで悪びれず、寧ろ誇らしげに親指を立てながら俺に即答する。
…こいつ、もしかしたら俺の天敵かもしれん…。
「…あの備考、変えて貰えませんか?」
「なんじゃあの表現は気に食わんのか?」
…気に入るわけがねぇだろ!…。
俺は喉まででかかったその言葉を呑み込んだ。
「…中二病みたいな技というのを変えて頂きたい」
…この際、童帝は目をつぶる…。
「おお!ダーリンがリザードキングを倒す瞬間に何か言っておったやつじゃな!」
フィナは納得したようにポンと自身の手の平を叩く。
…あの時、無意識のうちに言っていたのか?朧げにしか覚えとらんからわからん…。
「それはそうと見てたんですかあの戦い…」
「ダーリンの事はこっちの世界にきた時から一秒も目を離しとらんのじゃ!」
…ストーカーかよ…。
「まあ、話しが早くていいけど…《闘技》でお願いします」
《闘技》
彼が編み出した100を超えるこの技の体系は、魔力、MP、武器を一切必要とせず、敵の耐性すらも無視したその攻撃方法は、後に魔力が乏しい人型達の一筋の光明となり。彼の指導によって名だたる英雄達に伝授され、『魔技』『魔装技』に次ぐ人型の攻撃手段として数多く用いられる事となる。
「闘技か…いい呼び名なのじゃ!」
「ありがとうございます」
俺が礼を言うと、どういうわけかフィナは、不貞腐れたように頬を膨らませた。
「言ったじゃろ!儂、相手に畏るなと!最初はあんなに当たりが強かったのに…さっきからのそのよそよそしさはなんなのじゃ!!」
…つっても、一応あんた女神だし…。
俺が困った顔をしていると。
「そうじゃ!」
フィナは何かを閃いたと言わんばかりのリアクションをとった後、小悪魔のような笑顔を浮かべて俺に提案してきた。
「なんなら儂の事は『ハニー』って呼んでくれて構わんのじゃ!いや、ハニーって呼ぶのじゃ!」
「話しを戻すが五千円札…」
「…フィナって呼んで欲しいのじゃ」
俺に素っ気ない態度を取られて、フィナは少しがっかりしたようだが、すぐに気持ちを立て直してまた軽い調子で話し始める。
「まったく。ダーリンはウブじゃの〜」
「……そういえばさっき直属とか言っていたが、それはつまり他の神様にも直属の英雄がいるのか?」
「おるぞ。マトはルキナやレオスナガルが代表的じゃな。ミヨはシストやクリアナといった…」
「すみませんフィナ…知識の神のミヨ様とチェンジして貰えませんか」
あまり感情の窺えない淡々とした口調で俺がフィナにそう頼むと、彼女はギョっと驚いた表情を見せて…
「なんでじゃ!!」
「なんというか絡み辛い。それに俺は知識欲が強いから知識の神のミヨ様はうってつけだし」
「なっ!絡み辛いじゃと!儂の外見をちゃんとに見てからそういうことを言うのじゃ!どう見ても絶世の美女じゃろ!あんな地味な女神よりずっと絡み易いはずじゃ!!」
「それは俺が決める事だ。第一、あなたみたいに見た目が良すぎると逆に重いんだよ。接し難いったらない」
…それにその見た目に反してかなり軽いのもマイナスだ…。
「ぐぬぬぬぬ…絶対にミヨなどにダーリンは渡さんぞ!そ、そうじゃ!儂だって今も色々と教えておったではないか!かなりの知識を持っておるのじゃぞ?なんと言っても女神じゃからな!」
フィナは得意げに俺に言い放つと、なにか聞いてこいと俺にジェスチャーする。
「じゃあ、俺に魔動力のコンロは使えるか?」
「…は?」
フィナは俺の質問を聞いて、惚けた顔で疑問符を頭の上に浮かべる。
「だから、俺に魔動力のコンロは使えるかと聞いているんだ」
「………使える」
フィナは少し考えた後、なにか納得いかないような表情を浮かべて俺にそう答えた。
「根拠は?」
「魔石を動力にする機械には、必ず機械の中に動力生成装置というのが内蔵されておる。ぶっちゃけると機械の動力源じゃな」
…車のエンジンみたいなものか?…。
「魔石をその機械を動かすためのエネルギーに変換したり機械式魔技を自動で生成したりする装置みたいなもんじゃ。その動力源に直接触れたり、機械が自動生成したコンロの火に直接触ってダーリンが火を消さない限りは普通に使えるのじゃ。ダーリンの魔法無効体質は直接触れんと発動せんからな」
…ようは俺が機械が動いてる最中にその機械を開いて直接、動力源に触らなければ問題ないということだな…。
「成る程…納得した。勉強になりました」
俺がそう言って頭を下げると、フィナは気を良くしたのか…
「ほらな、儂だって物知りなんじゃぞ!何か他に聞きたい事はないか?儂に答えられる事なら何でも答えてやるのじゃ!」
「では聞こう。魔動力コンロは今現在、どれぐらいの値段で販売されているんだ?一番安いのから一番高いのまで教えてくれ」
「…………」
俺が次の質問をすると、フィナはまた何処か納得いかない表情をして少し考え込んでから…
「…かなりの種類があるようじゃな。値段もピンキリみたいじゃ。一番安いので9万9800円、一番高いのは帝国製のもので120万6000円というのがあるのじゃ」
…高!結構いい値段するんだな…。
「ちなみにその中でフェナのオススメのコンロは…」
また俺がコンロの事を質問すると…
「ええ加減にせぇ!!儂は店の店員じゃないのじゃ!!」
これが、彼とその主となる女神との最初の対談となった。




