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第29話 救世主

 ゥォーー……


 リザードキング出現の緊急警報が鳴り響き、そのサイレン音が遠くで(かす)かに聞き取れるか聞き取れないかという地点にある国境のトンネルを今。黒い外車のような風貌の動力車が1台、エクス帝国方面に向かって走っていた。


「ふぁ〜〜……後どれぐらいでつくんだ?」


 動力車の助手席に座っていた年の頃は30前後、焦げ目の強い褐色肌に光沢がかった灰色の短髪が特徴的な武闘家風の大柄な男が運転手の女性に、眠そうにあくびをしながら尋ねる。軍服を纏った女性運転手は男のその質問に少し考えてから答えた。


「…この調子で行けば恐らくあと3時間もかからないうちに帝国に到着するかと」


「それはまた随分と早えな。流石、帝国最新型の動力車だ。俺も一台、欲しいもんだ」


「…この案件が片付き次第すぐに手配させましょう」


 女性運転手がそう言うと先ほどまで眠そうにしていた男が目を輝かせてはしゃいだ声を上げながら喜びをあらわにした。


「本当か!!いや〜嬉しいね〜!だったら俺っちも頑張っちゃうぜ!」


 褐色肌の男は親指で自分の顔を指しながら二カッと笑顔で女性運転手にやる気が出たとアピールする。そんな男の様子を見て、後部座席の中央に座っていたダンディーな偉丈夫が呆れながら声をかける。


「ナダイ、何を不謹慎な事を言っていおるのだ。お前は冒険士の代表であるSランク冒険士なのだぞ?個別に特別報酬(どうりょくしゃ)を貰うなど言語道断!」


「ちゃ、ちゃんとに金は払うつもりだって旦那(だんな)…おい姉ちゃん!この動力車ってどれぐらいするんだ?」


「3000万ほどだったはずですね。それにプラス年間の維持費が100万前後かかるかと」


「…やっぱ、諦めます」


 動力車の値段を聞いた(ナダイ)は、乾いた笑みを浮かべて即座に答えを出した。


「維持費さえそちらで出して頂ければ動力車自体は無料で差し上げますよ?ご所望とあらば、シスト大統領と他の方々にも一台づつ用意させて頂きますが…」


 女性運転手の提案にシストは溜め息をついて少し不快そうに言葉を返した。


「君は今、儂が言ったことを聞いていなかったのかね?」


小生(しょうせい)もシスト様に同意ですな」


 シストの右隣に座っていた、見事な騎士の甲冑を身につけた長髪の男性がシストに続いて不満を漏らす。


「これから戦地に赴く騎士にたいしてその提案は侮辱とも取れますぞ」


 見た目こそこの中では一番若いがその身に纏う空気と佇まいは歴戦の騎士を思わせる。黄緑味を帯びた美しいブロンドの髪に凛々しく整った顔立ちが身につけている騎士甲冑と相まって、男性の雰囲気を更に神々しいものにしていた。


「この起動力は魅力的だが、生憎と()は物乞いをするほど落ちぶれてはおらん」


 透き通るような薄紫色の髪をかき上げて、シストの左隣に座っている妖艶な美女(・・)も拒否の意思を示した。


「我々にそんな物を用意する資金があるのなら、今回の被害にあった町や村の復興支援の資金に回すなり亡くなった人々の遺族に見舞金を出すなりしてはどうかね」


「全く同感ですな」


「し、失礼しました!」


 後部座席に座っている三人のVIP(ビップ)にことごとく不平不満をぶつけられた女性運転手は慌てて謝罪をした。


「おいおいそんなに責めるなよ…。この人は俺達に善意で言ってくれてんだからよ」


「確かにそうだな…もしこの場で責められる者がいるとすれば、それはその女ではなくお前の方だ」


「うぐっ!シャロンヌ!てめえ久々に緊急招集に顔を出したかと思えば、相変わらず毒ばかり吐きやがって!」


「事実を言ったまでだ」


 シャロンヌと呼ばれる美女は素知らぬ様子で窓の方に顔を向けた。


「ぐっ!…そ、そういえばさっき旦那と話してた奴は随分と大口を叩いてたよな?Bランクぐらいがどうとかよ」


 立場が悪くなったナダイは話題を変えてその場を凌ごうとしたが


「事実なのだから仕方あるまい」


 シストにシャロンヌと全く同じ返しをくらってしまう。そして、そんなシストの言葉にナダイより先に女性運転手が反応した。


「その男性の方もセイレス様と同様に最近Sランクになられた冒険士の方なのですか?」


「いや、彼はFランクの冒険士なのだよ」


「…先ほどの話しの内容から察するに何か訳ありという事ですな」


「その通りなのだよグラス殿。すまないがグラス殿…それと運転手をしてくれている帝国の軍人殿にも言わせて貰うが、くれぐれもこの事は他言無用で願いたい」


「……心得ております…」


「……小生も余程の事がない限りは誰にも喋りませんぞ…」


「「…………」」


 二人は何かを言いたげな様子でシストに了承の意を唱えた。その直後に妙な沈黙が場を支配する。多分それはシストの頼み事を聞いていたこの場の全員が同じ言葉を頭の中に浮かんだからだ。『あんなに堂々と話しておいて今さら何を言ってるのか』と。


「口先だけの男ではないならいいがな」


「言っておくがシャロンヌ…恐らく彼は君では倒せんぞ?」


「……笑えない冗談だな会長殿…」


 今までずっと表情を変えなかったシャロンヌがその表情を歪めて刃物のような鋭い視線でシストを睨みつけた。彼女の怒気で車内の空気が張り詰めていくのを感じたナダイがやれやれといった様子で二人の仲裁に入る。


「シャロンヌ落ち着けよ。それに旦那…それはいくらなんでも持ち上げ過ぎだろ?そいつがいくら強いったって、冒険士ランクがSの…しかもエルフの英雄種(エンシェント)のシャロンヌがFランクに負けるっつうのは…」


「シャロンヌだけではないぞナダイ?儂の見たてでは儂を含めたこの場にいる五人が束になっても彼には敵わんかもしれん」


「おいおいおい!本気で言ってんのかよ旦那!」


 シストの言葉を聞いて、今度はナダイも驚いた顔で後部座席にいるシストの方を振り向いた。


「どうやら会長殿は昔と違って()の勘の目が衰えたとみえる」


「ミヨ様から授かったこの目が衰えるわけがない。なによりこの目が(てん)の強さを知らしめる一番の根拠なのだよ」


「知識神様から授かった目?どういう意味ですかなシスト様?」


 右隣でずっと冒険士同士の話しには我関せずと黙っていたグラスが、シストの言葉に好奇心から反応してしまう。


「それはトップシークレットだぞグラス()?」


 シストはニヤリと笑い。グラスにその事は自身の極秘事項だと言葉を濁して伝えた。


「も、申し訳ありませぬ!」


 歴戦の騎士であるグラスは自分の手の内を晒す事の危険性を誰よりもよく知っていた。その為、今の自身の軽率な発言を恥じながらシストに心から謝罪をする。


「旦那、あんな風に言ったら普通は気になると思うぜ…」


「がははは!よし!それなら特別に儂が今言った事のヒントと(てん)の強さの根拠を同時にここにいる皆に聞かせよう!」


「良いのですかシスト大統領?」


 軍人である女性運転手もそんな事をここで喋って大丈夫なのかとシストに疑問を投げた。


「構わんのだよ。ちなみにだが儂以外の冒険士の二人はこの言葉を言えば納得する!!」


「勿体ぶってねえで早く言えよ旦那!」


「ナダイと意見が被るのは不本意だが俺も待たされるのは嫌いだ」


「シャロンヌてめぇ…」


「せっかちな奴らだ……では教えよう!!まずは儂がA、グラス殿がB、シャロンヌがA、ナダイがA、運転手の君がC…そして今話題に上がった男はSSなのだよ!!」


 まるで高価な最新の遊具を友人達に自慢する子供のように、シストはそこにいた(みな)に興奮した口調で語った。


「「SS!!」」


 その言葉(アルファベット)の意味を最初から理解していたシャロンヌとナダイは声を揃えて驚愕した。


「…その御仁(ごじん)はSSで小生はBですか…」


「…私はCですがね」


 優秀な判断力を持つグラスと女性運転手は今のシストの言葉を聞いて何を表しているかを大体は理解した。


「「…………」」


 だが誇り高き騎士でありプライドの高い軍人である二人はその評価に納得はしていなかった。冒険士の二人と違い、こちらの二人はいくらシストの能力と関係するからといってもその評価はシスト個人(・・)が降したものであって確実な根拠は何もないと思ったからだ。


「あり得んぜそれは!」


「…またナダイと意見が被るのは本当に不本意極まりない事だが俺もそう思うぞ会長殿」


「…一言多い女だぜまったく」


 しかし、それこそが神から与えられた絶対の能力、シストの英雄の証という事を熟知していた冒険士の二人の方はそうはいかない。そんな二人の反応を見て、シストは上機嫌に話しを続ける。


「がははは!!間違いないのだよ!見せて貰った(てん)のステータスはとんでもないものだったぞ!!それに実はスキルにも秘密があってな!!いや、儂も彼を最初に見た時は半信半疑だったんだがね…よし!それでは彼と出会った時の話しから聞かせてしんぜよう…」


 運命の女性と巡り会えた男子のように、生涯の伴侶との馴れ初めを話す夫のように、シストはその高ぶる感情を隠そうともせずに天とのこれまでの経緯を饒舌に語り出した。


 〜30分後〜


「がははは!!彼が儂にその特異体質を教えてくれた理由がそれは男らしいものでな!あの時、儂は彼に……」


「そ、そういえばよう…運転手さん…」


 一向に話しを終わらそうとしないシストにうんざりしたのか、ナダイが話題を変えようと女性運転手に話しかけた。


「何でしょうか?」


 女性運転手もそれを察してすぐにナダイの振りに応答する。


「今回、俺達が出向く必要があるのか?世界最強を誇る帝国軍なら例えAランクモンスターが同時に2体、出現したとしても対処できるだろ?それにエクス帝国を拠点にしてる冒険士も実力派揃いだしな。なにより、この前Sランクになった『炎姫(フレイムプリンセス)』がいるじゃねえか」


「……それは…」


「相性の問題だナダイ。火の属性攻撃を得意とするセイレスではヘルケルべロスは最悪の相手なのだよ」


 口ごもる女性運転手をよそに、ナダイの質問に答えたのは先程まで天の話しに夢中だったシストだ。


「シスト様…ではやはり伝承の通りなのですな?」


「うむ、ヘルケルベロスには火の属性の攻撃は全て効かんのだよ」


「おいおいマジかよ旦那…」


「……納得した。それだとセイレスでは勝てん。そして帝国軍が苦戦するのも頷ける話しだ」


 車内に重い空気が流れる中、女運転手が苦虫を噛み潰したような表情で口を開く。


「おっしゃる通りです…。我がエクス帝国は火属性攻撃を得意とするものが大半を占めています。軍の魔動兵器関係も全て火属性…セイレス様の火属性レベルファイブの魔技『烈火王』ですらヘルケルベロスにダメージを与えられませんでした…」


「本当に厄介な相手だなそりゃ」


「付け加えればヘルケルベロスの攻撃を喰らうと鬱状態や毒、痺れなどのバットステータスもランダムで受ける可能性があるのだよ」


「うわ〜帰りたくなってきたわ….」


 弱腰な事を言うナダイにシャロンヌが薄ら笑いを浮かべて言葉を発する。


「帰ってもいいぞ腰抜け。お前一人いなくとも俺達だけで十分だ。Sランクの称号と共に消え失せろ」


「ほ、ほんの冗談じゃねえかよ!それにそんぐらいの愚痴ぐらい言わせろよ!」


「駄目だ。貴様も戦士なら決戦の前に士気を下げるような台詞を吐くな」


「同意ですな」


「すみませんナダイ様。私もシャロンヌ様と同じ意見です」


「うぐっ…」


 グラスはおろか女性運転手にまで責められたナダイは何も言い返せずに黙るしかなかった。


「がははは!まあいいじゃないかね!ナダイも本心から言っているわけではないのだしな。それに()らが動き出したのだから頼れる同士は一人でも多い方がいいとは思わんかねシャロンヌ」


「……()らとは?」


「しらばくれるな。こんな事をする者どもなどあやつらしかおらんだろ?それに今回お前が、緊急招集に参加した一番の理由はそこにあるはずだ」


「…………」


 シャロンヌはシストの質問に答えなかった。だが彼女の浮かべた悪魔のような笑みと一瞬放った氷の刃のような殺意がシストの言葉を肯定していた。


「シスト様は今回の事件は人為的なものだとおっしゃるのですな?」


「儂はそう考えている。ヘルケルベロスが2体同時に現れるなど考えられんからな…11年前にドラゴンが2体同時に現れた時も表向きは自然現象にしたが恐らくは…」


「あの者たちが絡んでいたと見て間違いないでしょうな。我が国の王…関係者(・・・)もその時に…」


「関係者ね……まあ、間違いではないか…」


 グラスの関係者という言葉を聞いて、シャロンヌが不愉快そうにしながら窓の方を向いてしまった。その様子をみていたグラスはどこか申し訳なさそうに俯つむている。


「今回もこの騒動に乗じて奴らが動く可能性は高い…グラス殿はそんな時に自国であるランド王国を空けてよかったのですかな?」


 グラスは俯いた姿勢のまま皮肉げに返事をする。


「…その事に関しては、シスト様だけには言われたくありませんぞ」


「違いねぇや」


「シスト大統領に一緒に連れて行ってくれと言われた時は驚きましたよ。失礼ですが私も大統領、自ら我が帝国に来てくださるとは思いもよりませんでした…」


「可愛い教え(セイレス)が窮地に陥っているのだぞ?それに儂は無駄な話し合いなどをしている暇があるなら自らが動いて片付けた方が早いと思ったのだよ」


 シストの大統領らしからぬその意見を隣で聞いていたシャロンヌは、目を閉じて何かを思いながら満足気な微笑みを浮かべている。


「一国のトップの発言とはとても思えんが、俺はその考え方…嫌いじゃない」


「なんだシャロンヌ?儂に惚れたかね?」


「馬鹿を言うな。俺は男を惚れさせる事はあっても自らが惚れるような事などあり得ん」


 彼女(シャロンヌ)は自信満々にそう言い放つ。しかしその自信は過信ではなく紛れもない事実である。彼女を一言で例えるなら芸術品、美術品などの言葉が相応しい。ギリシャの彫刻のような完璧なプロポーションとそれを更に際立たせる透き通る雪のような肌、美しい泉のような翡翠色の瞳で艶かしい彼女に見つめられたら大抵の男は見惚れて動くことすら忘れてしまうだろう。


「シャロンヌ殿、貴殿に先ほどから頼みたい事があったのですが…」


 そんな彼女にシストを挟んで右端に座っているグラスが彼女に視線を向けずに声をかけた。


「俺の女になって欲しいという頼みなら悪いが断らせて貰うぞ?俺は俺だけのものだからな」


 シャロンヌは自分の胸の中心を軽く手のひらで触りながらふざけた調子で冗談を言う。


「気色の悪い事を言わないで貰いたい。先ほどから貴殿の彫刻のように美しい裸体が視界に入る度に、嘔吐しそうになるので何か上から服を着て隠して頂きたいのですぞ」


 シャロンヌの冗談に心底嫌そうな顔をして吐き捨てるようにグラスは言った。どうやら彼は大抵じゃない方の男性らしい。


 シャロンヌの服装は面積の少ないブラと下着より若干大きめなショートパンツに黒いマントを羽織っているといった感じで、水着の様にかなり露出度が高いものだ。


「…賛辞と侮辱をいっぺんに言われたのは生まれて初めてだ」


 険悪なムードを漂わせる二人の間に座っていたシストが、ハァ、とため息をついて口を開く。


「グラス殿のあの噂はどうやら真実のようだね。女性が大の苦手なのだと…」


幼子(おさなご)や適齢期をかなり過ぎた女性なら大丈夫なのですが、シャロンヌ殿のような艶かしい色香を身に纏った女性は視界に入れるだけで吐気がしますぞ」


「シャロンヌに面と向かってそんな事言う奴、初めて見たぜ…」


「そういったわけなのでシャロンヌ殿、何か服を身につけてくださらんか?」


 グラスは悪びれない態度でシャロンヌに頼むが勿論、彼女はそんな風に自分の事を評価する(グラス)の頼みを聞くわけがなかった。


「断る!貴様こそ何故、今の時代に防具を直に着ているのだ?ドバイザーに入れてリンク装備しろ!暑苦しい」


「それこそお断りですな!そのような事をするわけがない!甲冑は騎士の証であり誇りですぞ!」


 二人の間の雰囲気が一層、険悪になり、車内にピリピリした空気が流れる。その空気に耐えかねたナダイが先ほどと同じく話題を変えようとシストにそれとなくある事を質問した。


「な、なあ旦那、ヘルケルベロスはどんな災技(さいぎ)を使うんだ?」


 この世界では人型の魔法系統を魔技、モンスターの魔法系統を災技という。災技とはBランク以上のモンスターが自身で取り込んだ魔素で生成する攻撃や回復魔法、技の事である。


「バットステータス攻撃以外は確か『火炎』を使っていたのだよ」


「成る程、成る程…ドラゴンやリザードキングと似てんな?」


「ほぼ一緒と思ってくれて構わんぞ。ちなみにだが今さっき儂が話していた(てん)には両方とも効かんがな!がははは!!」


 シストが天の事を自分の事の様に自慢するとシャロンヌがうんざりした様子でシストを半目で睨む。


「またその男の話しか会長殿」


「シスト様は本当にその御仁の事を気に入っていらっしゃいますな」


「惚れ込んでいると言っても過言ではない!!だからシャロンヌ、ナダイ!くれぐれもお前達は彼の機嫌を損ねんように頼むぞ!がははは!!」


「なんだよそりゃ…そいつだけ特別扱いか?」


「またナダイと意見が被るとはな。これからヘルケルベロスの討伐だというのに縁起が悪い事この上ない」


「あ〜…絶世の美女でSランク冒険士じゃなかったらそのマントに鼻クソつけてやるのに…」


「…………」


 車内でVIP(ビップ)達の殺伐としたやり取りが続く中、女運転手は自分に飛び火しないように一言も喋らずに運転のみに集中していた。


「なに、お前達が高圧的な態度を取ったり必要以上にわざと挑発して彼を刺激するなと言っておるだけなのだよ。今、彼がこちら側にいるのはとんでもない僥倖なのだ…(あらそ)いの神の信者(・・)が活発に活動を始めたこのタイミングにな」


 シストが意味ありげな事を言ったと同時に車内がシーンと静まり返る。女性運転手は長年培ってきた軍人としての人生経験から、シストが今、口を滑らして漏らした言葉はとんでもない機密事項だと即座に判断し、何も聞かなかった事にしようと心の中で秘かに呟いた。


「彼は全世界の儂達(わしら)、人型を救う救世主(メシア)となるかもしれん。儂は彼と出会い、彼の強さに直に触れて…そう願わずにはいられなくなってしまったのだよ」


「マジでそいつに惚れ込んでんだな旦那…」


「……ふん…」


『常夜の女帝』と呼ばれるSランクの冒険士、シャロンヌは心の中で思っていた。本当にそこまでの男なら自身の望みを叶える為に使えるかもしれない。なんなら自分の女の部分を使って魅了し虜にして手駒にするのも一興だと。


「…人型を救う救世主」


 ランド王国近衛騎士団の団長、(あかつき)グラスは心の底から望んでいた。それ程の人物なら自分自身の目で確かめたいと、もし叶うならその御仁と剣を交えて戦いの中で語り合いたいと。


 彼女(シャロンヌ)(グラス)はこの時にまだ知る由もなかった。今、話題に上がっている(てん)こそ近い将来、自分達が敬愛する生涯の師となり絶対の忠誠を誓う主君になる人物なのだと。


 そして天を含むこの三人の出逢いが、これから()びゆく運命にあった500万を超える人型達の大きな希望の光となるのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] トップクラスの冒険士って大統領を筆頭に馬鹿ばっかりで最高に笑える。イイネ!w
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