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第27話 最初の依頼

「マリーさん、ご無沙汰しております…」


「ええ…久しぶりね。アクリア、カイト…」


 今、俺の目の前で二人の女性が静かに睨み合っている。二人とも口元は微笑んでいるものの、お互いを見るその鋭い目つきは、まるで縄張り争いをする猛獣のそれである。


 …二人が顔見知りなのは知っていたが、まさか犬猿の仲だったとは…。


 そんな二人を見て勝手にそう解釈した俺は、それを確かめるべく近くにいたカイトに小声で尋ねてみた。カイトは何故か顔を青ざめながらブツブツと何かをつぶやいている。


「なあカイト…マリーさんとアクって仲が悪いのか?」


「…嘘だ…マリーさんがそんな…嘘に決まってる…」


 …何が嘘なんだ?仲が悪い事が嘘って意味じゃないよな?カイトはそんな変な言い回しはしないだろうし…。


「なあカイト…」


 俺がもう一度その事について尋ねようとカイトに声をかけた。そしたらカイトは何時もの爽やかな雰囲気とは打って変わり、何処か追いつめられている様な必死の形相で俺の質問をはねのけた。


「うるさいな!!今、俺に話しかけないでくれ!」


「す、すまん…」


 …一体どうしたんだ?あの爽やかさが嘘のようだぞ…。


「…カイト、少し落ちついて下さい。心配しなくとも大丈夫です。(わたくし)は負けませんから」


「しばらく会わない間に随分と自信家になったわねアクリア…。以前はカイト以外、歳の近い男性だと会話すらまともにできないウブなお嬢様だったのにね…」


「私は昨日、知ってしまったのです…。恋とは自分自身を大きく変えてしまうものだと」


 二人の睨み合いは、更にその激しさをまし。ぶつかり合った視線が火花を散らしている様だ。


 …どうやらアクは好きな男がいるみたいだが…昨日って事は俺達と別れた後に町で何かあったのか?いや、今はそれよりもこの場から何とか離れられないものか…。


 なんとも居心地が悪くなり。俺はこの場をすぐにでも離れたかったのだが。新支部の打ち合わせの為に、建設業者の人達と共にわざわざこんな場所まで来てくれたマリーを放置する訳にもいかず。俺は半ば途方に暮れていた。そんなマリーとアクリアのやりとりを少し離れた所で見ていたリナとシロナは、何やらヒソヒソと話しをしている。


「信じられないし。エルフの血が入るとあんなコケッシーみたいなのがモテんの?」


 ちなみにコケッシーというのはこの世界のFランクモンスターで、無表情のこけしの様な顔をしている二足歩行の猫のモンスターである。


「あたしはある意味、女として正しいと思うのです。より優秀な(オス)との間に子供を作りたいと思うのは女の(さが)の一つなのです」


「え!?まさかリナ…」


「恋愛感情とは違うのです。ただ、もし体を求められたらあたしは多分、拒まないと思うのです」


「あり得ないし…」


「あり得るのです!そもそもあたし達は獣型の女なのです。だからあたしが今言った事は本能に近いものなのです。キツ坊だって優秀な遺伝子が欲しいとは思わないのですか?」


「思わないし!男は顔が全てだし」


 リナとシロナの会話に聞き耳を立ててみると、向こうは向こうで何やら生々しい女子トークを繰り広げている模様だ。とても助け船は期待できそうに無い。


 …つうかこんな状況で何の話しをしてんだよお前らは!…。


「……なんで急にこんな状況になったんだ…」


 昨日の夜にカイト達が帰った後、俺、リナ、シロナの三人は夜通しこの場所で作業をしていた。


 …主に俺とリナが働いていたんだが…。


 そのおかげもあって色々と順調に事が運び、新たな発見も幾つかあり。先ほどまでは万事うまくいっていたはずなのだが。


 …だからさっきまで俺を含む徹夜組は全員機嫌が良かったのに…。


 俺達三人の徹夜組は各々に収穫もあって。三人とも朝から上機嫌であった。その収穫の内容なのだが、まず初めに俺のレベルが上がったのだ。


 …まさかあんな方法があったとは…。


 その方法を発見したのは本当に偶然だった。モンスターの巣穴で殲滅作業をしていた俺は、自分のレベルを力量段階操作法で1番低い20レベルまで下げて戦っていた。そして殲滅作業をあらかた終えた俺はなんとなく自分のステータスを確認して驚愕した。


 Lv 21

 最大HP 8700

 力 400

 耐久 437

 俊敏 389

 知能 150


 なんとレベルが1上がっていたのだ。


「ちょっとまてよ…なら俺の本来の力量(レベル)に戻したら…」


 俺は自分の心音が高鳴るのを感じながら、恐る恐る力量を五段階まで上げてみた。


 Lv 105

 名前 花村 天

 種族 人間?

 最大HP 33000

 力 824

 耐久 862

 俊敏 800

 知能 150


「……よ…よっしゃーー!!」


 予想通りレベルが5も上がっており、俺は嬉しさを抑えきれずにその場でガッツポーズをしながら叫んだ。


「これからは敵にトドメを刺す時は、なるべく力量を一番下まで下げる事にしよう」


 そんなお気楽な事を考えてしまう程に昨晩の俺は上機嫌であった。レベルが上がった事に気分を良くした俺はリナとシロナに今回の作業の賃金として、お金の代わりにハイリザードマンの魔石をそれぞれひとつづつ渡すことにした。


「お前らもそっちの方がいいだろ?」


「勿論だし!!あざーっす!早速、魔石製造してドバイザーに入れさせて貰うっす!」


「天兄さん…本当にいいのですか?ハイリザードマンの魔石は一つで700万以上するのです。こんな仕事で貰っていい報酬じゃないのです…」


 まるで躊躇せずに俺の提案を受け入れたシロナとは逆に、リナは貰う報酬と自分の仕事量がまるで釣り合ってないと遠慮してうつむいている。


「気にぜずに受け取ってくれリナ。それに仕事の賃金とは言ったが、これから俺達は少なからず一緒に戦う事もあるだろう。だったら仲間のドバイザーを強化するのは当たり前の事だ」


「天兄さん…。わかりましたのです。有難く使わせて頂くのです」


 俺が諭すようにそう言うとリナは感極まった顔して俺に深々と頭を下げた。そんな俺とリナのやりとりを隣りで見ていたシロナが、笑顔で俺に尋ねてきた。


「じゃあ、ハイリザードマンの魔石とは別に、最初に言ってたの3%の賃金も貰えるってことっすか!」


「……リナ、こいつにやる予定だった魔石もお前のドバイザーに入れて構わん…」


「…了解したのです。おい(きつね)、そういう事だから早くハイリザードマンが入ってるそのドバイザーを貸すのです…」


「じょ、冗談っすよ冗談!ぜ、絶対にこのドバイザーは渡さないし!」


 …絶対に本気だったな、この狐は…。


 俺が呆れながらシロナを見ていると、リナが何かを思い出したかのようにハッとして口を開いた。


「そういえばもう一体のハイリザードマンは確かカイトさんのドバイザーに入っていたのです」


「問題ないぞ。あの巣穴で更にもう一体、倒したからそいつを使う。そういう訳だからリナのドバイザーを貸してくれ」


 重量制限でシロナのドバイザーに入りきらなかったハイリザードマンを放置して一旦、戻ってきた事を二人に告げると。今度はリナとシロナが俺に呆れた表情を向けて疲れたように呟いた。


「天の兄貴は簡単に言ってるっすけど、日に三体もCランクモンスターと遭遇するとか普通あり得ないし。しかもそれ全部を素手で瞬殺とか…」


「正確にはCランク三体にAランク一体なのです。もう天兄さんが何をやってもある程度なら驚かないのですが、なんか今日一日で自分が今まで積み上げてきた物が崩れたみたいで疲れたのです…」


「僕もそれ、本当によくわかるし…」


「いや、その…なんかすまん…」


 今までの自分のやってきた事は何だったんだと言わんばかりのなんとも痛ましい顔で落ち込んでいるリナとシロナの様子を見て。俺は別になにも悪い事をしていないのだがとりあえず謝ってしまった。しかしそんな二人もハイリザードマンの魔石を使用して自身のドバイザーがランクアップした事を目の当たりにした途端、先ほどまでの落ち込みが嘘の様に大はしゃぎして喜びをあらわにした。


 …本当に現金な奴らだ。お前らがあんまり落ち込むからなんともいえない申し訳なさを感じていたのに…あの時の俺の気持ちを返せ!…。


「やったし!!やっとドバイザーのランクが上がったし!!」


「夢にまで見たカッパーなのです!カイトさんとアクリアさんはシルバーだから、せめてあたしもカッパーにはなりたかったのです!」


 リナとシロナは自らのドバイザーに頬ずりしながら喜んでいる。


「…お前ら少し静かにしろ…」


 …さっき俺も自分のレベルが上がってかなりはしゃいでたから二人の気持ちもわかるが、こんな夜中にそんな大声をだしてたら近所迷惑だ…。


 只今の時刻1:25


 魔石製造店は女店主の計らいで特別に今日は店を24時間営業にしてくれたのだが、それでも花をはじめ、ほとんどの町民が寝静まっている今の時間帯に大声ではしゃいだら迷惑極まりない。


「仕方ないさね天ちゃん。あたしも10年以上、魔石製造店をやってきたけどドバイザーのランクがアップするなんて全く知らなかったよ。だからきっとかなり凄い事なんだろうよ…だろ?嬢ちゃん達?」


「おばさんの言う通りなのです!あたし達、冒険士の中でノーマルより上のドバイザーを持ってる者は1割もいないのです!」


「言う通りだし!僕の知ってる冒険士でもカッパーになった奴なんてほとんどいないし!そもそもランクアップの条件が鬼畜だし!Cランクモンスターの魔石が必ず一つ必要な上に他にもD、Eクラスのモンスターを複数、倒したりして…」


 …意外と楽勝だと思うが…。


 俺は心の中でそうつぶやいたが藪をつつきそうだったので口には出さない事にした。


「「とにかく凄いこと(なんだし)(なのです)!!」」


「そ、そうかい…」


 リナとシロナの勢いに女店主がかなり引いている。これ以上騒いだら花が起きてしまうと思った俺は興奮状態が抜けない二人を半ば強引に引っ張っていき、店を後にして採掘場に戻った。


 採掘場に戻ってきた俺達3人は、そのテンションのまま朝まで徹夜で土地のならし作業を行い。その結果、一晩で採掘場を全て整地にするという偉業を達成した。


 …おっさんがよこした建設業者の人達も皆、驚いていたな…。


 そんな感じでマリーとカイトとアクリアがここに来るまでは全て順調に進んでいた。


 三人の中で最初にここに来たのはマリーだった。彼女はこの採掘場に入って来るや否や、落ち着かない様子でキョロキョロと誰かを探す様に辺りを見渡している。そして俺の事を視界に捉えた瞬間、表情を明るくしてこちらに駆け寄って来た。


 …俺を探していたのか?…まあ当然か、新支部設立についてマリーさんとは色々話す事もあるしな…。


 そう思った俺は、早速マリーと新しい支部や部署設立についての打ち合わせをしようと。こちらに向かってくるマリーに軽く社交辞令的な挨拶をしながら近づいた。


「わざわざ来てくれたんですねマリーさん。お忙しい中ありがとうございま…」


「天さん!お久しぶりですね!またお会い出来て嬉しいです!!あ、あの積もる話しもあると思いますし、何処か二人きりでお食事でもしながらゆっくりとお話しを…」


 マリーは俺のその挨拶を最後まで聞かず。俺の所にくるなり興奮気味に俺の手を両手で強く握ぎり、自分の胸の前まで持ち上げる。そして俺の顔を見つめながら何故か支部の打ち合わせがてら二人で食事に行こうと誘ってきた。


 …気のせいかいつも会うたんびにこの(マリー)は興奮してる気がするんだが…。それはそうと支部の話しをするなら二人きりじゃ駄目だろ…。


「「…………」」


「おっ、二人も来たんだな。カイト、アク、おはよう」


 マリーとそんなやり取りをしていたら、丁度そこにカイトとアクリアがやってきた。二人は俺とマリーを見るなり何かを悟った様な顔で口を開く。


「……嘘だ」


「やはりですか…」


 そしてアクリアが俺とマリーの間に割って入るように立ち。マリーと睨み合いを始めて今にいたるというわけだ。


「アクリア、一応、言っておきますけど天さんはああ見えて32才よ?あなたと一回りは違うわ。ちなみに私とは同い年だから、そういう意味でもお似合いだと思うのだけど…」


「勿論、天様の年齢は存じておりますよ。それで、それが何か問題でもあるのでしょうか?こう言っては大先輩(・・・)であるマリーさんに対して大変失礼かもしれませんが、殿方は若い女性の方が好まれる傾向にあると思われます…」


「…なぜなんだ…俺はずっと想ってきたのに…なぜ俺ではなく彼なんだよ…」


 三人はさっきからずっとこんな感じで、マリーとアクリアにいたってはハッキリ言って終わりが見えないほど緊迫した睨み合いとどこか棘のある会話を続けている。


 …何この状況?あ〜、この場からいなくなりたい…。


 俺が今の状況にうんざりしていたその時、マリーのドバイザーが鳴り響いた。


 トゥルルル!トゥルルル!


「こんな時に…誰ですか一体…」


 マリーは不満そうな顔でドバイザーの無線に出る。


 ガチャッ。


(わし)だ」


「なんですか大統領…今、私は色々と忙しいんですが」


 …相変わらず大統領(おっさん)に一切、遠慮がないなこの秘書(マリー)さんは…。


「……儂は一応、大統領なのだがね…。まあいい…そこに天君はいるかね?」


「はい。いらっしゃいますよ」


「すぐに天君に代わって欲しい。彼に緊急の用件があるのだよ」


「…わかりました…」


 …おっさんはどうやら俺に用があるようだな?なんでもいいがナイスタイミングだおっさん!…。


 俺はこの状況から抜け出せるならなんでもいいと心の中でシストに感謝して。マリーからドバイザーを受けとりシストの用件を聞く。


「もしもし、代わったぞおっさん」


 最早、俺もシストに対して公けの場以外はこの言葉遣いで話しをする事にした。これはシストを低く見ているわけではなく。既に二度も取り繕うなと言われているのにもかかわらずまた丁寧口調で話したら、(シスト)に対して逆に失礼だと思ったからだ。現に俺のその言葉遣いを聞いてもシスト本人は勿論、回りにいるマリー達も平常運転である。


「天君、単刀直入に言おう。仕事を頼みたいのだよ。昨日の今日で悪いのだがね」


「…何をすればいいんだ」


 俺とシストの真剣な声音を聞いてその場にいた全員の顔つきが変わった。流石に皆Bランクだけあって公事と私事の区別はしっかりつけている。


「先ほど協会本部から儂のドバイザーに緊急連絡が入ったのだが…アラマ街道付近にリザードキングが出現したのだよ」


 シストから俺に告げられた用件は俺達、新支部の旗揚げとなる最初の仕事を依頼するものであった。


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