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間話 ラムの覚悟

「リザードキングだって!」


 淳さんが椅子から立ち上がって驚いていますです。あたしは足が震えて来ました。Bランクのモンスターはソシスト共和国近辺では滅多に現れないんです。5年前にマウントバイパーが出て以来です。


 …あの時は冒険士協会の支部がない小さな村にマウントバイパーが現れちゃって、大勢の人が亡くなったって聞きましたです。その時、冒険士をしてたあたしのお父さんも…。


 あたしの父は亜人の男性の中では珍しい、冒険士のお仕事をしている父でしたです。冒険士のランクは高くありませんでしたがそれでも自分のお仕事に誇りを持ってるって言ってましたです。あたしはそんな父が大好きでしたです。


 …偶々その村でお仕事をしていたお父さん達の冒険士チームが、村の人達を逃がすために一生懸命戦ったって、生き残ったお父さんのお友達さんから聞きましたです…。


 それでもお父さん達をはじめ大勢の村の人の命が亡くなったって言ってましたです。


 …でもお父さん達のおかげで助かった命もあるって、お父さんと同じチームだった冒険士のお友達さんから聞きましたです。だからあたしもそんなお父さんみたいな冒険士になりたくて今、皆さんと一緒に頑張ってますです…。


「兄様、とにかく私達も地域住民の方々の避難誘導のお手伝いに向かいましょう」


 弥生さんも立ち上がって、淳さんに落ち着きながらそう提案しましたです。


「…そうだな。きっとAランククラスの冒険士の人達がすぐにリザードキングを討伐してくれると思うが、それでも住民の避難は必須だ。多分、亮達のチームもそっちに向かっているだろうし俺達もすぐ…」


「必要ないのだよ。リザードキングは僕が倒す!」


 弥生さんの考えに賛成して、すぐに避難のお手伝いに行こうと淳さんがあたし達に言っていたら、ジュリさんが真剣な顔をしてとんでもないことを言いましたです。


「だ、駄目です!!!」


 あたしは父の事を思い出し、自分でもびっくりするぐらいの勢いでジュリさんに向かってそう叫びましたです。ジュリさんもそんなあたしの勢いに少し驚いていましたが、あたしはそんな事はお構いなしにジュリさんを止めましたです。


「絶対に駄目です!!死んじゃいます!!」


「ラムの言う通りだ!馬鹿も休み休み言え!!」


「…ジュリさん、冒険士の鉄則をお忘れですか?私達の冒険士ランクはDです。ですからBランクのモンスターとは基本的には戦ってはならないんですよ?」


「……関係ないのだよ」


 淳さんと弥生さんもあたしと一緒にジュリさんを止めています。でもジュリさんはそんなあたし達を無視して、席を立って後ろを向いてしまいましたです。


「待てよジュリ!」


 淳さんが歩いていこうとしたジュリさんの手を掴んで止めましたです。でもジュリさんはすぐに淳さんの手を振りほどいてしまいましたです。


「……いい機会なのだよ。僕は天と同じくこのチームを抜ける。だから僕のやる事に口を挟まないで欲しいのだよ…」


「…わかった。お前がチームを抜けるのは止めない…」


「え!!淳さん、止めないんですか!?」


 あたしは淳さんの言葉に思わず驚いてしまいましたです。


「ああ、こいつがチームを抜けるは止めない…だがな!」


「はい。リザードキングの討伐に向かうのは止めさせて頂きます…」


 …淳さんと弥生さん、息がピッタリです…。


 さっきまで静かだったジュリさんが淳さんと弥生さんのその言葉を聞いて、強い声で言い返しましたです。


「二人とも、もう僕の事はほっといて欲しいのだよ!とにかく誰がなんと言おうと僕は行くのだよ!!」


「ま、待てジュリ!」


 ジュリさんはそう言ってそのまま走って行ってしまいましたです。


「くっ!弥生、ラム、ジュリを追いかけるぞ!」


「わかりましたです!」


「かしこまりました兄様!」


 あたし達もジュリさんの後を追いかけてファミレスを出ました。でも結局、あたし達はジュリさんに撒かれてしまい。仕方なくジュリさんを追いかけてリザードキングが現れたアラマ街道方面に向かいましたです。


「全くあの馬鹿!」


「…幸い、チーム回線は繋がったままですから半径100メートル圏内にはいると思いますわ」


「この場合、あいつのドバイザーのランクが上がって良かったのか悪かったのか…」


「そうですね兄様…。ジュリさんのドバイザーのランクがカッパーになったおかげでチーム回線が繋がる距離範囲は広くなりましたが…」


「そのせいであいつが調子に乗ってしまっている所があるからな」


「ドバイザーにもランクがあったなんて、この前まで全然、知りませんでしたです」


 この前に討伐したハイオークの魔石をジュリさんのドバイザーに入れたら、ジュリさんのドバイザーのランクが上がってあたしを含むその場にいた皆さんが全員驚きましたです。


「俺もあの時は驚いた。まさかドバイザーにランクがあったなんてな…」


「あの後、マリーさんに教えて頂きましたが、一番上がプラチナ、次がゴールド、シルバー、カッパー、ノーマルといった順だそうです。私も知りませんでしたわ」


「ランクが上がれば上がるほど機能が充実すると言っていたからな。そしてノーマルの上のカッパーになるにも、最低1体はCランクモンスターの魔石が必要らしい…」


 …ドバイザーのランクを一つ上げるだけでもCランクモンスター1体は倒さないといけないなんて…。


「凄い大変です…」


「そうですねラムちゃん…。Cランクモンスターを1体倒すだけでも命を落とす危険性は計り知れないですわ」


「それなのにあいつは一人でBランクモンスターを仕留めるとか…死にに行くような物だぞまったく!」


 …淳さんも弥生さんも凄く心配そうな顔をしてますです。実はあたしも、さっきから凄く怖い気配がこっちに近づいてきてる様な気がするんです…。


「まだこの辺りはアラマ街道までかなり離れてるはずなんですが…」


「ラム、何か言ったか?」


「い、いえなんでもないです!とにかく早くジュリさんを捕まえましょうです!」


「はい。ラムちゃんの言う通りですわ。兄様、急ぎましょう」


「ああ、一刻も早くあの馬鹿を見つけよう!」


 …あたしの思い過ごしであって下さいです…。


 嫌な予感がしたあたしは、何時も自分の服のポケットに入れてお守り代わりにしている、ある物を握りしめましたです。


 …お父さん、天さん、どうかジュリさんとあたし達を守って下さいです…。


 あたしの大切なお守り。天さんからあの夜に()かったドバイザーを握りしめて。あたしは心の中でそう祈ってましたです。


 それからしばらく辺りを探していたら、街道に沿って流れている大きな川のほとりでジュリさんを見つけましたです。


「…あっ!ジュリさんです!」


「見つけた!弥生、ラム、あいつに気づかれない様に近寄って、後ろから取り押さえるぞ」


「わかりました兄様」


「了解しましたです!」


 淳さんの指示の通りに、あたし達はジュリさんに気づかれない様に後ろからそ〜っと近づきましたです。そしてジュリさんの真後ろまで来て…


「今だ!」


「「はい(です)!」」


 ジュリさんに一斉に飛びかかりましたです。


「な、なっ!なんなのよ!」


 …あれ?ジュリさん何時もと喋り方が違います?…。


 あたしがそんなどうでもいいことを気にしてたら、淳さんと弥生さんがいつの間にかジュリさんの捕獲に成功していましたです。


「急にどこを触っているのだよ!」


「…触っているのは同じ女子の私なので気にしないで下さいですわ」


「弥生!絶対に離すな!今のうちに縄で縛り上げる!」


「横暴なのだよ!!」


「あわわわわ」


 淳さんと弥生さんとジュリさんの激しい攻防が、只今あたしの目の前で繰り広げられています。


 …何はともあれこれで一安心です。…あれ?川の向こうから大きな影が見えますです…。


「……グロロ…」


 ゾク!


「皆さん!!早く逃げて下さいです!!」


「「「え?」」」


 ザッバン!


 あたしが大声を上げた次の瞬間に、川から大きなトカゲの化け物が顔を出しましたです。多分あれが…


「「リザードキング!!」」


 淳さんとジュリさんがそのモンスターをみて驚きながら叫びましたです。


「そ、そんな…アラマ街道まで、まだかなり離れている筈なのに…」


 弥生さんは真っ青な顔をして震えてますです。


「こいつ、川を泳いで来たのだよ!」


「そんな事は今はどうでもいいだろ!!早く逃げるんだよ!!」


「ちょ、丁度いいのだよ!僕の大烈火玉で…」


「グロロロローーー!!!」


 ジュリさんが魔技を生成しようとしたら、リザードキングがこちらに気づいたみたいで、あたし達に向かって思い切り敵意を向けましたです。


 …あ、あんなの絶対に倒せないです!…。


「み、みな、みなさん逃げ、逃げましょ…」


「「ひぃっ!」」


 あたしとジュリさんと弥生さんはリザードキングのあまりの迫力に恐怖して、足がすくんで動けなくなってしまいましたです。


「三人とも早く逃げるんだ!!」


 そんなあたし達の体を淳さんが引っ張ってくれて、何とかあたしは足が動くようになりましたが弥生さんとジュリさんはまだショックで足がすくんでいるみたいです。


「淳さん、あたしがジュリさんを運びますです!淳さんは弥生さんを!」


「わかった!!」


 淳さんとあたしが弥生さんとジュリさんをそれぞれ抱き上げたその時でした。


 ザッバーーン!!


 ドスン!!


 川から勢いよくリザードキングが飛び出してきて、あたし達のすぐ近くに着地しましたです。


「……ラム、二人を頼む。俺が囮になってあいつを少しでも遠くに引きつけるから…」


「い、いけません兄様!」


「あ、あつ、淳…」


「頼んだぞ!」


 淳さんはあたし達に背を向けてそう言うと、リザードキングの気を引く為に、剣を構えながらリザードキングに向かって走って行きましたです。


「こっちだトカゲ野郎!!」


「グロロー!!」


 淳さんがリザードキングの気を引いてる間にあたしは言われた通り、近くの人が隠れられそうな茂みまで、弥生さんとジュリさんを引っ張って行きましたです。そして、あたしは自分の頬を両手で叩いて覚悟を決めましたです。


「弥生さん!今のうちにドバイザーで本部に応援をお願いします!そうすれば、きっとすぐに近くの冒険士さん達が駆けつけてくれますです!」


「…ラムちゃん?わ、わかりました!」


 何時もと違う雰囲気のあたしを見て弥生さんは少し不思議そうにしましたが、すぐにドバイザーで連絡をしてくれましたです。


「……ジュリさん」


「…う、ううっ…僕の、僕のせいで…」


 ジュリさんは自分の事を責めて、泣きながら震えています。そんなジュリさんをあたしは思いっきり抱きしめましたです。


「ジュリさんは悪くないです。今回は偶々、運が悪かっただけです…」


「れも…ヒック、れも…」


「…あたしもたまにはこのチームの役に立ってみせます」


「ラムちゃん?」


「…ラム何を言って…」


 弥生さんもジュリさんも、あたしが何を言ってるのかがわからない様で不思議そうな顔をしてます。でも、あたしがドバイザーから自分のナイフを出すのを見てお二人ともあたしが何を考えてるのかわかったみたいです。


「ラムちゃん駄目よ!行っちゃ駄目!」


「弥生の言う通りよ!!もしラムまで死んじゃったら僕は僕は…」


「あたし、皆さんが大好きです。淳さんも弥生さんもジュリさんもこのチームの皆さんが大好きです!」


 …そして天さんも大好きでした…。


「だから、お二人は生きて下さいです」


 あたしは泣いている弥生さんとジュリさんに笑顔を見せて、淳さんとリザードキングが戦っている方に走って行きましたです。


「ラムちゃん!!」


「ラム、お願いだから行かないでよ!もうわがまま言って皆を困らせたりしないから!だからお願いよ!」


 後ろで弥生さんとジュリさんの泣き声が聞こえます。あたしはお二人の泣き声を聞いて天さんと別れた時の事を思い出していましたです。


 …あの夜はあたしの方が泣いていましたです…。


「でも今度は泣きません!」


 …あたしはあの夜に誓ったんです!絶対に強くなるって!…。


 あたしは自分を奮い立たせて、恐怖心や不安を払いながらリザードキングの側までやって来ましたです。リザードキングは淳さんのおかげで、あたし達がいた場所からだいぶ離れた場所にいましたです。


「淳さん!!」


「うう…」


「グロロ…」


 淳さんはリザードキングの近くで血まみれで横たわっていましたです。


 …まずいです。まだ生きてるみたいですけど…。


 あたしは淳さんにトドメを刺そうとしているリザードキングに向かって意を決して走って行きましたです。


「う、うわーーー!!」


「グロ?」


 バン!


 あたしがリザードキングに斬りつけようとした次の瞬間、リザードキングがあたしを尻尾でなぎ払いました。あたしは近くに生えていた木に頭から激突しましたです。


 …あれ?頭がフラフラするです…。目も片方の視界が赤黒くてあまり良く見えないです…。


 あたしは何をされたか一瞬、記憶が飛んでしまってわからなかったです。でもすぐに思い出して今にも途切れそうな意識を頑張って保ちましたです。


「あたしは…まだ…何も…してないです…」


 …せめて少しでもリザードキングの気をそらして、淳さんから引き離さないと…。


「……土玉…」


 あたしはリザードキングの気を引こうと、自分が唯一使える攻撃魔技を生成してリザードキングの顔めがけて放ちましたです。


「グロー!」


 土玉は運良くリザードキングの目に当たってくれましたです。リザードキングが少し痛がっています。


「グロロ…」


 リザードキングがこっちを向いてあたしの事を睨みましたです。


 …あたしの方に気がそれたみたいです…。


「こっちです!!」


「グローー!!」


 リザードキングがあたしに向かって走ってきました。あたしは皆さんから少しでもリザードキングを遠ざけようと思って、全力で走りましたです。だけど、さっき頭を強く打ったせいですぐに足がもつれてしまって、前に倒れてしまいそうになりましたです。


 …やっぱり、あたしは役立たずです…。


 倒れながら意識を失いそうになったあたしを、誰かが胸で受け止めてくれましたです。


 …あれ?どこか懐かしい匂いがするです…。


 その人からは以前にどこかで嗅いだ記憶があるお日様のような匂いがしました。不思議とあたしはその匂いを嗅いで、気持ちが落ちつきましたです。そして聞き覚えのある声で、その人はあたしを安心させるように抱きしめながら優しく(ささや)いてくれましたです。


「ラム…よく頑張った…。後は俺に任せておけ…」


「……天さん?」


 …来て…くれたんですね…。あたし、少しは役立に立ちましたか?…。


 自分を抱く、その力強い腕と暖かい胸に心から安心してしまったあたしは、そのまま意識を失ってしまいましたです。


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