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第23話 町長との交渉

「カイト、頼みがあるんだが」


「…もう何でも言ってくれよ。こうなればとことん付き合うからさ…」


 カイトは疲れた表情を浮かべながら色々と腹をくくった様子で返事をした。


「今から魔石換金した(かね)を持って町長さんの所に交渉に行くからついて来てくれないか?」


「お安い御用だよ。3億1000万も俺のドバイザーで運べばいいんだな?」


「その通りだ」


 …やはりカイトは、話しが早くて一緒にいて疲れないな…。


「私も勿論、ご一緒させて頂きます」


 アクリアは先ほどの鼻血騒動からようやく立ち直り、普段の彼女に戻っていた。


「…構わないが、もう大丈夫なのかアクリアさん…」


「…は、はい…。大変お見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ありません…」


 アクリアは顔を真っ赤にしてうつむいている。


「い、いや、俺の方こそ見苦しい物を見せてしまってすまなかったな…。大人の女性が周りにいるのに着替えなどして非常識だった」


「み、み、見苦しいだなんてとんでもありません!と、とても素敵でした!」


「そこは、アクリアさんに賛成なのです」


「兄貴の首から下は完璧だったし。あんなの一度見たら他の男の裸みても何も感じないかもだし」


 …何故か、かなり俺の体は受けがいいみたいだが、今は余りその事で深く考えるのはよそう…。


「じゃあカイトとアクリアさんは俺について来るとして他の二人はどうするんだ?」


「…僕もついて行くっす…」


「あ、あたしもカイトさんじゃないのですが、今日はとことん付き合うのです!」


 狐娘とリナも既に色々と開き直っている。


「天ちゃ〜〜ん!お金に換金出来たよ!悪いけどこっちに来ておくれ!」


 女店主が店の奥から俺を呼んでいる。


「今、行くよおばちゃん!」


 …3億以上の大金だからな。こっちに運んで来るのが大変なんだろう…。


「ふあ〜〜〜…。天ちゃん、うち、眠くなったから、ちょっとお昼寝してくるね…」


「今日は、朝から大変だったからな。もう色々と落ち着いたし、ゆっくり休むといい」


「は〜い。天ちゃんありがとうね!またね!」


「俺の方こそこの服ありがとな。大切に着るよ」


 俺は自分の着ている花から貰った黒いTシャツの首元の襟を軽く引っ張りながら花に礼を言い返した。


「えへへへ……ふあ〜〜〜。じゃあ、おやすみなさい」


 花はそう言いって、眠そうに目をこすりながら店の二階にある自分の部屋へと戻って行った。


 …そういえば青いTシャツを手で持ち運ぶのもなんだし、ついでにカイトのドバイザーに入れて貰うか…。


 先ほど花から貰った黒いTシャツを着た為、元々着ていた青いTシャツを今、肩にかけて持っている。


 邪魔なので、これから入れる予定の3億1000万のついででカイトにドバイザーに入れて貰おうと思い青いTシャツをカイトに差し出した。


「カイト、悪いんだがこれもついでにカイトのドバイザーに入れて貰えないか?」


「お安いご…」


 バン!


 俺がカイトにTシャツを渡そうとしたら、横からアクリアがカイトを突き飛ばした。


「は、花村さん…よ、よろしければ(わたくし)がお洋服を預からせて頂きます!」


 …目、目が血走ってんだけどアクリアさん。な、なんか怖いし自分で持ってよう…。


「……すまないアクリアさん。やはり預けるほどの物じゃないから自分で持っている…」


「そ、そうですか…」


 …なんでそんなに残念そうなんだよ?いや、深く考えるのはよそう…。


 俺は、Tシャツをドバイザーに入れるのを諦めて自分の腰に邪魔にならないように巻いた。


「カイト、店の奥に一緒に来てくれ。換金した金を入れて貰う」


「りょ、了解だ兄さん…」


 カイトはアクリアに突き飛ばされた脇腹を抑えて、俺に近づいて来た。


 …なんかごめんね俺のせいで…。


「あ、あたしも行くのです!」


「僕も行くし!3億円なんて大金めったに見れないし!」


「では参りましょう…」


 …結局、全員ついて来るのね?…


 店の奥に行くと、そこは魔石換金した1万円札で溢れかえっていた。


「あ、天ちゃん悪いね。これを全部、運ぶのはあたしには人苦労さね」


「いや、気にしないでくれおばちゃん。これをドバイザーなしで運ぶのは、大変だからな」


「こ、こ、こんな数の1万円札、初めてみたし!!」


「……予想はしてたのですが。こ、これは凄いのです…」


 …若い二人はこの大金を見て、かなり取り乱してるな。無理もないがな。それに比べてカイトとアクリアさんは平然としている。流石だな…。


「じゃあ、ここにあるお金を全部ドバイザーに入れてしまうよ」


 カイトが当初の目的通り自分のドバイザーにそこに散らばっているお金を入れようとした。


「ちょっと待ってくれカイト」


「どうしたんだい、兄さん?」


 俺は、自分のドバイザーに金をしまおうとしたカイトを手で制して止めた。


「おばちゃん、聞きたい事があるんだ」


「なんだい天ちゃん?」


「今日、採掘作業で使った新しい買った採掘機器のことなんだが…」


「ああ、あの採掘機器かい?アレは、もう使わないから麓の町に引き取って貰うよ…」


 …やはりな。あんな事件を引き起こした原因になった機械をまた使用する気には、ならんだろう。今まで通り堅実に採掘作業をするのが一番安全だ…。


「結構高かったんだけど、結局一回しか使わなかったね……。まあ、今回の授業料だと思えばいいさね」


「それなんだがな、おばちゃん。俺がその採掘機器を買い取るよ」


 女店主にそう告げて、俺は辺りに散らばっているお札を拾いだす。


「はぁ?天ちゃん何言ってるんだい?」


「言ったまんまだ。俺があの採掘機器を買い取る。1000万で足りるか?」


「ば、馬鹿言うんじゃないよ!あの機器はそんなにしなかったし、なによりなんであんたがあんな物を欲しがるんだ」


「いやな、俺はこの町にある建物を建てるつもりなんだがその時にどうしても、あの採掘機器が必要なんだ」


「そんな話をあたしに信じろってのかい?」


 女店主は、俺の性格を知っている為、俺がこの鉱山町に都合のいい作り話をして自分達が出した損害の尻拭いを行おうとしていると思っている。


 そんな女店主の反応を読んでいた俺は、すぐにカイトとアクリアに目で合図を送って助け舟を出して貰う。


「兄さんの言うとおりですよ、おばさん。俺達は、この町に冒険士関連の建物を建てるつもりなのさ、その時にどうしても採掘機器が必要になるんです」


「ええ、間違いございません。つきましては、これからその許可を貰いに町長さんのご自宅へお伺いするところでしたので」


 …この二人は本当に察しが良くて助かるな…。


「え?そうな…むぐ」


「空気を読むのです、シロナ…」


 空気を読まない発言をしそうになった狐娘の口を隣にいたリナが抑える。


 …お前は本当に空気が読めんな狐娘…。


 俺は、そんな事を考えながら1000万円を拾い集めて女店主に手渡した。


「そういう訳だから俺が、あの機器を買い取る。どうせ処分するのなら、問題ないはずだ」


「それはそうだけどね……」


「悪いがもうその金はおばちゃんとこの町の物だ。そしてあの採掘機器は俺の物だ」


「天ちゃん……」


「俺は頑固でね? 一度決めた事は曲げないたちでな。残念だがあの採掘機器は諦めてくれ」


 女店主は呆れた顔になり、そしてその後すぐに穏やかな表情を浮かべた。


「…あんたって男は本当にいい男さね」


「よしてくれよ。お世辞でも照れるぞおばちゃん」


「いいえ、まごうことなき事実です!」


「違いないよ。兄さんはいい男だ」


 …カイトとアクリアさんがツッコむと本当に恥ずかしいくなるからやめてくれない…。


 俺は女店主に1000万円を渡して残りの3億円をカイトにドバイザーに入れて貰い、店を後にして、町長の家に向かった。


「……いいんすか天の兄貴、あんな物を大金で買っちゃって?」


「確かに…。シロナじゃないのですが、採掘機器なんて買っても処分に困るだけなのです…」


 狐娘とリナが町長の家に行く道すがら先ほど俺が女店主から購入した採掘機器に、使い道も無いのにどうするんだと言いたげに質問してきた。


「何言ってんだお前ら? あの採掘機器は支部の建物の建設に使うって言っただろうが?」


 そんな二人の質問に対して、俺はさっき言った事を聞いてなかったのかと言わんばかりに答える。


「え?アレって言葉の綾とかじゃなかったんすか?」


「あ、あたしもてっきり作り話かと思ったのです!」


「実は俺もなんだが…」


「私もそうとっていたのですが…。恐らく建設に使う機械なら建設業者の方で全て用意すると思われますが…」


 カイト達四人は、先ほどの俺が採掘機器購を購入した事に対して女店主に気を使った善意だと捉えている様だ。


 …それも間違っちゃいないが、俺は使い道の無い物に1000万も払うほど浪費家じゃないんでね…。


 そう、俺はこの世界に来て一人旅をしながらいつの間にか節約家になっていた。


「これから町長さんに交渉して手に入れる予定の土地…つまり建物を建設する土地は、ちょっと特殊な場所にある。そこで、さっき購入した採掘機が役に立つんだよ…」


「「「「?」」」」


 皆は俺の言葉を聞き、更に疑問の表情を浮かべる。


「今にわかる…」


 俺はあの採掘機器が女店主に火属性の発破装置と聞いた時に最初はダイナマイト式の発破装置だと想像していた。


 だが実際に、白大蛇を回収する時に確認した採掘機器はそんなアナクロな物ではなく見た目はショベルカーの様で先端の掘る部分に発破装置が組み込まれておりその部分だけ採掘する時に魔石動力で火属性のごくごく小規模な爆撃を起こして採掘する採掘機器だ。


 この場合、採掘機器というよりは採掘機械と言った方が正しいだろう。


 …今、思えば中に人がいるのにダイナマイト式なんて使う訳ないよな…。


 そして俺達は町長の家に到着した。


「これは、皆さん!お待ちしておりましたぞ!」


 町長は俺達を心良く出迎える。


「町長、早速ですみませんが、俺の頼み事を聞いてくれませんか?」


 町長の家に上がり早速、俺はこの鉱山町に新しく冒険士の支部を設立する許可を取る為の交渉に入る。


「勿論ですぞ!私で力になれる事なら何でも言ってくだされ!」


「ありがとうございます。実は…」


 俺は、これからこの町でモンスター被害が起こる可能性を視野に入れて、冒険士支部の設立に至った経緯を、詳しく町長に説明し、鉱山町に冒険士支部を設立する許可を出してくれと町長に頼んだ。


「資金まで全て出して頂けるとは…。誠に有難い話なんですが…」


 町長は困った顔をして言葉に詰まっている。


「何か、問題がおありなのですね?」


 アクリアが町長のその様子を見て声をかける。


「はい…。この町に冒険士の支部を設立する事、自体はこちらから頼みたいぐらいですぞ。ただその支部を建設する為の土地がこの町には…」


「「「「…………」」」」


 町長の言葉を聞き、カイト達四人が厳しい表情になる。


 町長の言う通りこの町の面積は元々、狭く、そこに住宅やら魔石製造店やら酒場などが密接して建っている為、支部の建物を建てるスペースが殆どないのである。


 …当然、俺もそんな事は百も承知の上だ…。


「町長さん、では支部設立の許可を出して貰う事だけなら問題ないと?」


「それは勿論、大丈夫ですぞ…ただ土地が…」


 町長は、また言葉を詰まらせる。


「実は、俺は二つ町長さんに頼みたい事があったんですよ」


「二つといいますと?」


「一つは冒険士協会支部設立の許可、もう一つは今回の事件現場になった一番の採掘現場の買い取りです」


「あ、あの採掘作業現場をですか!!」


 俺のこの提案は、流石に予想外だった様で町長は仰天している。


「い、意味がわかんないし!」


「言う通りなのです!」


 狐娘とリナは俺の考えが理解できない様だ。


「ま、まさか兄さん」


「納得しました。それで発破式の採掘機器が役に立つのですね?」


 逆にカイトとアクリアは俺の考えを見抜いた。


「ああ、カイトとアクリアさんの読み通りだ。あの採掘現場に今回、設立する支部の建物を建設する」


「なな、なんですと!」


 俺の考えを聞き、更に町長が仰天する。


「あり得ないし!」


「本気なのですか!」


 狐娘とリナは俺の考えを聞いても信じられないようだ。


「無論、本気だ。あそこの広さは片方の採掘現場だけでも軽く900坪はある。高さも16〜18m、それが二箇所もあってしかも出入り口の坑道も高さ、幅ともに6mはあるから建設に使う作業機械も出入り可能だ。二人も見ただろあの広さを」


「た、確かに広いは広いですけど…」


「でも、鉱山の中に支部を建てるとか普通、無いし…」


 …話のわからん奴らだな…。


「お二人とも…いい加減にしましょうね?今、花村さんが町長さんに色々と交渉されてるんですよ?」


 先ほどから、会話の腰を折る二人にアクリアが口元だけ笑みを浮かべながら注意した。


 二人を見るアクリアの目には冷たい光が宿っている。


「「ひぃっ!」」


 …さっきからの二人の態度に思う所があったんだろうな。それにしてもめっちゃ怖いよアクリアさん…。


「…二人とも…とりあえず黙っておいた方がいい…」


 カイトがそう言うとリナと狐娘は無言で何度も首を縦に振る。


「じゃあ話を戻すが、町長さん、俺の頼みを聞いて貰えますか?」


「…買い取ると言われましても、あの採掘作業現場はもう廃鉱にするつもりですぞ。とても売りに出すような土地では…」


 …それも予想通りだな。あんなモンスターが出た作業現場なんて廃鉱にするしかない。それに彼処は、モンスターの巣だった場所と繋がってしまってるから余計にもう使えんだろう…。


「だからですよ町長、俺達がこれから設立する支部は出来るだけ目立たたない様に活動するって言いましたよね?だからあの採掘現場はうってつけなんです」


 …まさか廃鉱になった採掘現場に支部の建物なんて普通は建設しない。そもそも鉱山の中に建てる事、自体が普通に考えれば異常な事だ。それだからこそやる価値がある…。


「わ、わかりました。元々、頼みを聞くと言ったのは私…。あそこを花村さんにお売りしますぞ…」


「感謝します、町長」


 俺は町長に頭を下げて感謝を述べる。


「か、感謝するのは私の方です…。な、ならせめて、あの場所は花村さんの言い値でお売りしますぞ!元々、タダ同然の土地なので差し上げても構わないですぞ!」


 …う〜ん、勿論タダは無いとしていくらで買うかな…。


 俺はしばらく考えてから…


「じゃあこれで…」


 人差し指を立てて町長に答えた。


「100万円ですな?わかりましたぞ!それであそこをお売りします!」


「いや、違いますよ」


「それなら、1000万かい兄さん?」


 カイトが町長よりも先に、俺に疑問を投げかけてきた。


「それも違う」


「まさか10万っすか? いくらなん…むぐ」


 思わず喋ってしまった狐娘を、隣にいたリナが無言で口を塞ぐ。


 もう、自分達に失言は許されない事を危険察知能力の高い彼女(リナ)は悟っている。


「んなわけないだろ。1(おく)だよ」


「…………はい?」


 町長は俺の提示した金額が信じられない様子でもう一度、俺に聞き返した。


「い、今なんとおっしゃられたのですかな、天殿?」


「俺は1億円であの採掘現場を買います」


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