第22話 生まれて初めてのプレゼント
俺がカイト達を信頼する気になったその余りにも単純な理由を聞いてそこにいた四人の冒険士はあっけらかんとした表情を浮かべた。
「ふっ…ふ、ふはははははははは」
カイトが途端に笑い出した。
…やっぱ、こいつの笑い方は爽やかだな…。
「はははは…あ〜、それだけストレートに言われると気持ちがいいな」
「ふふふ。本当ですね」
アクリアもいつの間にか優しい微笑みを浮かべていた。
「俺はこういう時には自分の正直な気持ちを相手にぶつける様にしている。それが俺なりの誠意だ」
「好きだなその考え方は。それに兄さんに気に入られて光栄だな」
「ええ。光栄ですね」
「俺もカイトとアクリアさんにそう思って貰って光栄だ」
「ははははは。…兄さん、微力ながら俺も力にならせて貰うよ」
そう言ってカイトは俺に握手を求めて来た。
「感謝するカイト。頼もしいぞ」
俺はカイトが差し出した手を力強く握る。
「カイトさんまで!ほ、本気なのですか!」
「勿論本気だよ。俺もアクリアと一緒で兄さんと大統領が話してる時からその部署に入りたかったからな?」
「…二人とも簡単に決めすぎだし!そんな事、今すぐ決められないし!」
「シロナの言う通りなのです!」
狐娘とリナは納得できない様だ。
…当然だな。こっちの二人の反応が一般的だろう…。
「勿論すぐに決めなくても構わん。おっさんにも言ったが支部になる建物すらまだできていないからな。正式にその部署が形になるのは5〜6ヶ月先ぐらいだろう」
「う〜〜…。僕は当分、決められないし…」
「私はもう何があろうとその部署で働かせて頂きます。例えこのチームを抜ける事になろうと…」
「「アクリアさん!」」
「二人ともわかってやってくれ…。アクリアには成し遂げなきゃいけない事があるんだ。そして俺もその事に関して協力を惜しまんつもりだ」
「…カイト」
…アクリアさんは邪教絡みで相当な事情がありそうだな…。
「そ、そもそも、天兄さんは本当にその立ち上げの為の資金の5000万円ものお金を持っているのですか?」
「僕もそれ気になったし!天の兄貴はドバイザーすら持って無いのに5000万もの大金を持ってるのはおかしいし!」
…ちゃんとに俺とおっさんの話しを聞いてんじゃねえか狐娘…。
「今は手元には60万しかないが、まず間違いなく近いうちに手に入る」
「なっ!はっきりと資金の調達手段を提示してくれないと信用できないのです!」
「う〜ん。もうすぐ終わると思うが…」
俺がそう思った矢先、花が店の奥から出て来て俺に駆け寄って来た。
「天ちゃ〜〜ん!母ちゃんが魔石の製造と鑑定終わったって!」
…お、ナイスタイミングだ…。
「了解だ花坊。丁度いいタイミングだ」
「そ、それとね、て、天ちゃんに渡したい物があるんだ」
花は顔を赤く染めてモジモジしながら先ほど持っていた綺麗に包装された小包みを俺に差し出す。
「花坊これは?」
「て、天ちゃんにプ、プレゼント!と、父ちゃんを助けて貰ったし!」
…なっ!お、俺にプ、プレゼントだと!!…。
俺は花からプレゼントが入った小包を受け取り、稲妻が落ちた様なかつてない程の衝撃を受けていた。
余談だが俺は生まれてから一度も人からプレゼントを貰った事がない。
そんな男が少女から感謝の気持ちを込めてプレゼントを貰ったらそれは凄まじい衝撃を受けてしまうだろう。
…や、ヤバイ、泣きそうだ。あの時のラム級かそれ以上の衝撃を受けちまったよ…。
「あ、あ、ありがとな花坊…」
「うん!」
俺が礼を述べると花は俺に思い切り抱きついて来た。
抱きついて来た花の頭を俺は優しく撫で続ける。
いつの間にか俺の表情はかなり柔らかくなっていたらしく周りにいたカイト達が俺の表情を見て驚きの声を上げる。
「兄さんもそんな顔になるんだな…」
「別人だし!!」
「鬼が微笑んだのです!」
…どういう意味だよ…。
「さ、先ほどからの表情や、や、やり取りからいきなりそ、その顔は不意打ちですよ花村さん!!」
急にアクリアが顔を真っ赤にさせて慌てだした。
…あれ?なんか前にもこんな事があった様な…。
「やっぱりアクリアさん、天兄さんの事が…」
「アクリアさん、趣味あんまり良くないし…」
リナと狐娘はそんなアクリアの反応を見てヒソヒソ話をしている。
…向こうで何か女共が変な事を言ってるみたいだが今はどうでもいい…。
俺は人生初のプレゼントを貰った衝撃が強過ぎて、他の事はどうでも良くなっていた。
「ねえねえ天ちゃん!」
「何だ花坊?」
「プレゼントを開けてみて!」
「了解だ!」
俺は花に言われるがままプレゼントの小包を丁寧に開けて小包の中に入っていた物を取り出した。
中には黒い無地のTシャツが入っていた。
「こ、これは…」
「天ちゃん何時も同じ格好だから違うTシャツ1枚ぐらいあった方がいいと思ったんだ!」
俺が普段着ている服装は青いTシャツとジーパンだ。
着替えがないわけではないがそれでも道着の上着だけなので普段着としては使えない。
しかも青いTシャツはこの世界に来る前の俺のサイズなので実は大きめでぶかぶかであった。
…やっぱり小さくても女の子だな?俺の普段の服装を見て思う所があったんだろう…。
「…ありがとな花坊…。大切に着させて貰う…」
そういいながら俺は更に花の頭を撫でる。
「えへへへへ」
…この服は大切に着なくては…。
「ねえねえ天ちゃん!」
「なんだ?」
「それ、ここで着て見せて!」
「了解だ!」
俺は花の頼みをすぐに了承してその場で服を着替え始めた。
普段の俺なら若い成人の女性が数人、近くにいるこの状況で着替えるなどという非常識な行為はしないのだが、今はそんな事を忘れるほどプレゼントと花しか見えていなかった。
ガバッ!
俺は上着の青いTシャツを脱いで上半身裸になった。
ブハッ!
それと同時に近くでその着替えを見ていたアクリアが鼻血を出して倒れた。
「おい!大丈夫かアクリア!」
「な、なんて素敵な体…。い、いえ…だ、大丈夫れふよカイト…」
「…作り物の彫刻でもあんな体してないのです…」
「天の兄貴、首から下は完璧だし…」
その場にいた女性陣が俺の上半身に釘付けになる。
これも余談だがこの世界に来る前の俺はボディービルダーの世界チャンピオンの様な筋肉をしていたが同時に体毛が濃くてとても女性受けがいい体ではなかった。
だがこの世界に来て見た目が若返ると同時に髭などの体毛がなくなり実質、毛が生えているのは髪と眉毛と下の毛ぐらいで他の体の部分は殆どツルツルになり上半身にいたっては胸毛はおろか脇毛すら一本も生えてない。
しかも体の筋肉は更にしまり無駄な肉などどこにもない肉体に変貌していた。
「天ちゃんすげームキムキ!父ちゃんよりすげー!!」
「そ、そうか…」
…花坊の親父さんも鉱夫だけあってかなり体はしまってると思うがな…。
「…とりあえず花坊に貰った服を着ちまうな…」
「うん!早く早く!」
そして俺は花に貰った黒いTシャツに着替え終わった。
…少しキツイがそれでも丁度いい感じに体にフィットしてるな?…。
「天ちゃん凄い似合ってるよ!」
「ああ、着心地もいい感じだ。本当にありがとな花坊…」
「うん!!」
また何度目かの俺の感謝の気持ちを伝えると花は満面の笑みで応える。
「…花村さん…。ほ、本当に良くお似合いれふ…ブフッ!」
「あ、ありがとうごさいますアクリアさん…」
…なんでアクリアさん、鼻血出してんだよ?…。
「…アクリア、とりあえず自分の鼻に回復の魔技を早く使った方がいい…」
「ら、らいじょぶよカイト。これは怪我ではありまふぇんから…ブッ」
…いや、そんだけ血を出してたら十分、怪我みたいなもんだろ…。
「無理もないのです…。あれはアクリアさんには強烈過ぎなのです」
「天の兄貴の首から上がカイトさんだったら僕もやばかったし…」
…何の話しをしてんだよこいつら…。
俺が周りの女性陣の会話についていけないでいたら、店の奥の方から女店主が製造した魔石を持って俺の方にやって来た。
「天ちゃん待たせたね。これがさっきのモンスターの魔石と鑑定結果だよ。…あたしも長年、魔石製造してるがAランクの魔石製造なんか始めてさね…」
「「「Aランクの魔石!!」」」
「ふぇ?」
その場にいたカイト達は女店主の鑑定した魔石のランクを聞いて仰天する。
…アクリアさんだけ何故か心ここに在らずだが…。
…ゴト。
女店主は少し震えた手つきでその場にあった店の机の上にその魔石を置いた。
「こんなでかい魔石、見た事がないぞ…」
「さ、流石Aランクの魔石なのです」
「アクリアさんもさっきから天の兄貴の上半身ばっか見てないで、この魔石を見るし!」
「ふぁ、ふぁい?」
…アクリアさんはとりあえず置いておくとして、確かに前に見たリザードマンの魔石の何百倍も大きいなこの魔石は…。
机に置かれた魔石は真っ白な真珠の様な形をしているが驚くべきはそのサイズだ。
普通の魔石はサイズがかなり小さく、大きいサイズでもビー玉程しかないが、白い大蛇の魔石はハンドボール程のサイズで周りで見ていたカイト達が驚くのも無理はない事だ。
「でね、その魔石の鑑定結果がコレさね…」
女店主は魔石の鑑定結果が記載された紙を魔石のすぐ横に置いた。
「「「「!!」」」」
そこにいたアクリアと花と女店主以外の全員がその鑑定結果を見て驚愕する。
マウントバイパー(亜種)の魔石
ランク A
魔石金額 3億1000万円
…3億越えだと!!予想外過ぎだろ?てっきり5000万前後ぐらいかと…。
「あ、亜種って事はあのモンスターはユニークモンスターだったのか!」
「ユニークモンスターって本当に存在したのですか!」
「でも普通はマウントバイパーはBランクだし!」
「ああ間違いない…。それに俺はマウントバイパーの実物を見たことがあるが、あんなデタラメなサイズじゃなかった…」
…何かカイト達は俺とは別の部分で驚いてるな?なんだよそのユニークモンスターって…。
「なあカイト、ユニークモンスターってなんだ?」
「…ユニークモンスターっていうのはだな兄さん、この世界に一匹しか存在しないそのモンスターの特別種の事だ…」
「なんか随分と凄そうだなそれは…」
「凄いなんて物じゃないのです!今までで確認されたユニークモンスターはオークと大ミミズと大トカゲだけなのです!」
「リナの言う通りだし!しかも今回発見された亜種は元々、Bランクのモンスターの亜種だから歴史的価値も半端ないし!!」
「そ、そうだな…。今までに出たユニークモンスターの魔石で一番価値が高いのでもオークの魔石でCランクだ。それがAランクの魔石となると…」
…オークはいくら死体が綺麗でも魔石のランクはEランクまでが限界だった筈だ。それを考えたらユニークモンスターってだけで、かなり魔石の価値が上がるんだな…。
「まあ、俺には関係ないがな…。おばちゃん」
「…あいよ。何時も通りだね?」
「「「?」」」
カイト達三人がその魔石の余りの価値に狼狽している中、俺は平常運転で女店主にその魔石を渡した。
俺と女店主のやり取りを見ていたカイト達はその何時も通りという言葉を聞いて不思議がっている。
「何時も通りだ。その魔石を換金してくれ」
「「「ちょっと待つ(ってくれ)(し)(のです)!!」」」
「なんだお前ら?」
「なんだじゃないのです!ま、まさかその魔石を…」
「換金する」
俺がその台詞を言った途端、カイト達三人が俺に食って掛かって来た。
「考え直せ兄さん!!」
「カイトさんの言う通りなのです!それにお金にするとしても国家オークションに出せば最低でもその5倍の価値で売れるのです!」
…やっぱオークションとかあるんだなこの世界にも。5倍の価値は魅力的だが、残念ながらその選択肢は俺には存在しない…。
「悪いが今すぐに金が必要なんでな。それに俺は面倒なのも目立つのも嫌いなんだ」
「その魔石ならオークションに出せば一週間もしないうちに落札されるし!!それに歴史的発見なんだからちょっとぐらい目立ってもいいじゃないっすか天の兄貴!!」
「阿呆か狐娘。俺は今から大統領と秘密裏に支部と部署を立ち上げるんだぞ?その責任者の一人である俺がいきなり目立ってどうすんだ」
「「「うっ…」」」
俺の目立ちたくない理由を聞いて、その場の三人は口をつむぐ。
「それでも勿体ないっす!アクリアさんもなんとか言って欲しいし!」
「ふぇ?わ、私は花村さんのじょ、上半身に魅入ってなどおりまふぇ…ブッ!」
狐娘に話し掛けられてアクリアはまた鼻血を出す。
「もういい加減、戻って来て欲しいしアクリアさん!!」
「今はアクリアさんは放っておくのですシロナ!」
…そこはリナさんに同意だな…。
「とにかく俺はこの魔石を換金する。それになリナさん…」
「な、なんなのです…」
「さっきあんたは俺に資金の調達手段を提示しろって言ったろ?それがこの調達手段だ」
「うっ!そ、それはそうなのですが、まさかこんなとんでもない手段なんて思わなかったのです!!」
…そんなに予想外か?おっさんは一発で見抜いたぞ?…。
「はぁ…リナもシロナも諦めろ…。兄さんは本気だ。魔石を換金する理由だってもっともな理由だしな…」
「そのエルフの兄ちゃんの言う通りだよ?この魔石は天ちゃんの物なんだから本人がどうしようと本人の勝手さね」
「「で、でも」」
リナと狐娘はまだ納得できないでいる。
「それにあんた達は、この魔石になったモンスターを一人で仕留めて、ここまで生身で運んで来た怪物に力ずくが通用すると思ってるのかい?」
「「「…それは絶対無理です」」」
「花村さんに、逆らえるわけがございまふぇん…」
…なんか最後のアクリアさんだけ、微妙に言葉のニュアンスが違った様な…き、気のせいだなきっと…。
「天ちゃんお金持ちだね!!」
「ああ、今度さっきのお返しに花坊に服でも買ってやるからな」
「わ〜い!」
俺と花はその場の空気を無視して和気あいあいと話し出す。それを女店主が微笑ましそうに一瞬見て、その場を後にし店の奥で魔石換金の儀式を始めた。
こうして、俺は支部設立の為の費用3億とんで1000万を手に入れた。




