第19話 アクリアのコンプレックス
麓の町からアクリアとリナと花の三人が戻ってきた。
「母ちゃんただいま〜!!」
花は何かが入った小包みを抱えて女店主を探している。
「花坊お帰り。おばちゃんは店の奥で魔石製造をしてるぞ」
「あ、天ちゃん!ただいま〜!」
花は俺を見つけて駆け寄って来た。
「親父さんはどうした?」
「父ちゃんはけんさにゅういん?とかで2日間ぐらい病院に泊まるから、うちは先に帰って来たんだ」
…それはそうだな。いくらアクリアさんの魔技でほぼ全快していたとしても何が起こるかわからんからな?検査入院は必要だ…。
「そういや、あいつらはどうした?」
俺は若者二人が花と一緒に帰って来てない事に気が付いた。
「あの二人は、なんか父ちゃんをみてくれるんだって」
…大方、仕事をやらなくて済むとかそんな理由か。まあ今日はあんな事があったから、もう鉱夫達の仕事も無いだろうしな?それにあの二人は麓の町出身だから何かと顔が利く所もあるし親父さんの邪魔にはならんだろう…。
「それはそうと花坊」
「な〜に、天ちゃん?」
「その小包みはなんだ?」
俺は花が持っている綺麗に包装された小包みが何なのか聞いた。
「ま、まだ天ちゃんには秘密だよ!」
俺が質問した途端に花の顔が真っ赤になる。
…まだ秘密って事は後で教えてくれるのか?…。
「う、うち、母ちゃんに父ちゃんの事を言いに行ってくる」
そう言って花は慌てて女店主が居る店の奥に入って行った。
…なんだ?変な奴だな?…
「…まあいいか…」
…さて、じゃあ俺は仕事の話しでもするか…。
俺は帰って来たアクリアとリナも合わせたカイト達4人の元に向かう。
「カイト達のチームの全員が揃ったみたいなので俺の頼みを伝えたいんだが、その前に…」
俺は戻って来たばかりのアクリアとリナの方に向かって姿勢を正して礼をした。
「アクリアさん親父さんの事は本当に感謝しています。ありがとうございます」
「は、はい!恐縮です…」
アクリアは俺の行動が完全に不意打ちだった様で少し取り乱した感じになった。
「そしてリナさん」
「は、はいなのです!」
何故か俺が名前を呼んだらリナは気をつけの姿勢になる。
「俺のわがままを聞いてアクリアさんを麓の町に迎えに言ってくれた事と花坊を連れて来てくれてありがとう」
「と、とんでもないのです天兄さん!」
二人に礼を言い終わった俺は顔を上げて平常運転に戻る。
「あ、あの花村さん…」
顔を上げた俺に対してアクリアは不思議そうに疑問をぶつけて来た。
「確かに私は現場監督さんを治療しましたがそれは仕事で当然の事であって花村さんが感謝を述べる事ではないと思いますが…」
「…アクリアさんの言う通りかもしれんが、それでも俺が貴女に頼んだのは事実で貴女はそれに十二分の働きをしてくれた」
…まさか病院まで付き添ってくるとは思わなかったしな…。
「リナさんにもそうだが礼を言うのは当然の事だ」
その俺の言葉を聞いてその場の4人が感心する。
「やっぱり天兄さんは今時珍しいのです」
「ああ、しかもあれ程の力があるのにも関わらず、この姿勢は同じ冒険士として見習わんとな?」
「剛ちゃんとは真逆の人種だし」
…あのゴリラと比べられてもな…。
「花村さんは本当に紳士なのですね…」
そう言ったアクリアの表情は何処か暗く言葉にも力がない。
「では私も改めて言わせて頂きます…」
先ほどとは代わり今度はアクリアが俺に深々と頭を下げる。
「剛士さんの事を止めて下さり心より感謝しております。あの事に関しては私にも責任がありましたのでそれと合わせて、本当にありがとうございました」
…アクリアさんの性格上、やはり自分にも奴が犯罪を起こした事に対する責任があると思ってるんだな…。
「それこそ貴女が責任を感じる事では無いと思うが…」
「いいえ。花村さんはご存知無いと思われますが剛士さんがあのグループに入ってしまった原因は私です…」
アクリアのその台詞を聞いてカイトと狐娘が気まずい顔をする。
「そ、その事なんだがなアクリア…」
「ごめんだしアクリアさん!実は…」
二人が俺に剛士がチームを抜けた、事の顛末を話した事をアクリアに説明した。
「すまないアクリアさん。俺が二人に強引に聞いた。二人を責めないでやって欲しい」
「はい、勿論ですよ。それに花村さんがその事を知るのは当然の権利だと思いますし」
「俺もそう思って兄さんに話したんだ….」
「では、その事を知る第三者の意見としてアクリアさんに言わせて貰う…」
俺の言葉にその場に居た四人が真剣な顔つきになる。
「アクリアさん、貴女に責任はまるでない」
「で、ですが私は…」
アクリアは俺の言葉に納得していない様だ。
「あの剛士とかいう元冒険士はもう立派な大人だった。なら自分が自ら進んで行った行動には自らが全て責任を取るのは当然の事だ」
「俺も兄さんの言う通りだと思うぞアクリア…」
「…カイト…」
俺は更に話しを続ける。
「それにな、こう言っては何だが話しを聞く限りでは、その剛士という男は遅かれ早かれカイト達のチームを抜けてゴロツキグループに入っていたと思うぞ?」
「…その事に関してはあたしもそう思うのです」
「剛ちゃん、仕事の時以外は何時もあのゴロツキ達とつるんでたしね」
俺の意見にリナと狐娘も同意する。
「だから偶々その時は貴女との事情がきっかけになっただけだ。あの剛士という奴は貴女との事がなくても恐らくゴロツキグループに入っていた」
「そ、それでもやはり私が最初からハッキリしていれば…」
アクリアはまだ納得できずに自分を責めている。
「あのな、あいつへの対応について気にしてるならそれこそ気にする事はないと思うが…」
…あのゴリラとこの美女とでは釣り合わないどころじゃないしな…。
「恋愛は俺も疎いから余り説得力はないかもしれんが誰が誰を好きになるかなんてのは当事者の自由だ」
「天の兄貴の言う通りっす!!ハッキリ言って剛ちゃんはあり得無いし」
「その通りなのです!剛士さんはあり得無いのです!!」
…いや狐娘、リナさん、亜人の男の中にあいつとそっくりなゴリラが絶対にいると思うが…。
「それにその事に対する貴女の奴への対応はかなり思いやりがあったと思うぞ?」
「で、ですが…ですが…」
まだアクリアは納得できずにいる様だ。
「はぁ…。大体な、貴女は超がつくほど美人なんだ。男を一人振ったぐらいで気にしてたらこれから身が持たんぞ?」
俺がそう言った途端にアクリアは耳まで真っ赤にしてそれを見て狐娘とリナはニヤニヤしている。
「え!や、そ、その、あ、ありがとうございます」
…あれ?何か変な感じになってしまったぞ?ちょっと空気を変えるか…。
「そういえば恋愛関係で気になってなんだが…」
俺はその場の空気を変えるべくカイト達に感じていたある疑問をぶつけた。
「カイトとアクリアさんは付き合ってるんじゃないのか?」
俺が疑問をぶつけた瞬間、その場に居た俺以外の四人がため息交じりの呆れ顔になる。
…え?なに?その、またその質問か…みたいな顔は…。
「やっぱり天の兄貴もそう思うっすよね?」
「あたしも二人に初めてあった時に同じ質問をしたのです…」
「それは本当によく間違われる事なんだが」
…間違われるって事は、やはり二人は付き合ってる訳じゃないんだな?…。
「私とカイトは従兄妹の関係です」
「!」
「ちなみに最初はアクリアは俺の事をカイト兄さんと呼んでたんだがな…」
…確かに、例え親戚でも年上のカイトをアクリアさんが呼び捨てで呼ぶとは考えにくい…。
「そう呼ぶと知り合いみんなにある事を不思議に思われるから呼び捨てで呼び合っているんだ兄さん」
…ある事ってなんだ?色々と事情があるんだろうな?家の事情なのかも知れんな。そういえば淳達も従兄妹だった。特殊な家柄の冒険士達は親戚でチームを組む決まりでもあるのかもしれんな…。
「従兄妹とはいえ年上のカイトを呼び捨てにするのは、最初は抵抗がありましたがもう慣れました…」
「ん?そういえばカイトと従兄妹という事は、アクリアさんはハーフのエルフなんだよな?なんで髪の色が青いんだ?」
…普通ならハーフエルフでもエルフの血が入っていたら髪は金髪だった筈だが…。
「……兄さん。まさにその事なんだ。今言った俺とアクリアが従兄妹だと不思議がられてしまう事は…」
「!」
アクリアの方を見てみると暗い顔をしてうつむいてしまっている。
そのアクリアに対してそばに居るリナと狐娘はどう声を掛けていいのかわからずにその場で気まずい雰囲気を出していた。
…俺とした事が失言だったな。少し考えれば推測出来る事だ。恐らくは何か訳ありなんだろう…。
「すまないアクリアさん。今の発言は思慮に欠けていたかもしれん。反省する…」
「……いえ、普通なら気になるのは当然の事です…。エルフの血が入っている者は金色の髪がほとんどですから…」
「アクリア…」
カイトが憂いのある表情でアクリアを見る。
…俺はどうやら、やばい地雷を踏んでしまった様だ。な、何とか軌道修正しなくては…。
「花村さんもこんな髪や目は気味が悪いですよね?」
アクリアは今にも泣き出しそうな顔で俺に自分の髪と目の色の事を聞いて来た。
…アクリアさんのこの質問に対して、俺はもう失言は許されない。言葉を選んでとにかく彼女を励まさんと…。
アクリアの気持ちが沈んだ状態で頼み事をした場合にカイト達がその頼み事を引き受けてくれるか不安になった俺は彼女を傷つけない様に彼女の髪と目の色を褒める言葉を必死に考えた。
…とりあえず俺が思った事をストレートに伝えてみるか…。
「いや?最初にアクリアさんにあった時にも感じたが。俺には貴女の髪も目の色もただただ綺麗だとしか感じなかったぞ?」
「え?」
…余りわざとらしくせずに彼女の髪と目を褒めなくては。実際に本当に思った事だしな…。
「気味が悪い?そんな事を思う訳がない。そもそも青は俺の好きな色だしな?」
「で、でもエルフの髪が青いなんてやっぱり…」
…やはりこれぐらいじゃ彼女の心に響かないか。なんとして励まさなくては…。
「別にエルフだからどうとかは関係ないと思うぞ?」
「俺も兄さんの意見に同意だな」
「アクリアさんの髪の色も目の色もめっちゃ綺麗だし!!」
「あたしもそう思うのです!」
「皆さん…」
アクリアは目に涙を浮かべながら皆の事を見つめている。
…よし、お前らもっと言ってやって!…。
俺はここが好機とばかりにアクリアの髪と目を更に褒める。
「それになアクリアさん…」
俺はアクリアを諭す様に言葉を発する。
「青い色というのは優しさや癒しの色とも言われている。貴女のイメージにピッタリな色だと俺は思うがな」
「そ、そんな…」
アクリアは顔を赤くして俺の言葉に照れている。
「それに青色が連想させる物は青空、海、水など、どれも生命や美しさを感じさせる様な物だ…」
気づけば、その場にいる皆は俺の言葉に聞き入っている。
…なんかかなり恥ずかしいんだがこの状況。だがもう一息だぞ俺!…。
「もう一度と言わせて貰うがアクリアさんの髪や目の色が気味が悪いなどと思う訳が無い!逆に綺麗で癒される色としか感じん!」
「兄さんの言う通りだ!!」
「「言う通り(なのです)(だし)!」」
「…う、うう…」
気づけばアクリアはいつの間にか泣いていた。
…後もう一息だ!…。
「アクリアさん!!」
俺はアクリアの名前を呼んだ。
「!」
アクリアは俺に呼ばれて俺の方をまっすぐに見つめる。
「貴女はその髪と目にコンプレックスがある様だがそんな事を感じる必要は全くない!寧ろその美しい髪と目を誇るべきだ!それほどの物を貴女は持っていると俺が保証する!!」
「は、はい!!」
どうやらアクリアは俺の言葉を信じて自分の髪と目に対するコンプレックスを多少なりとも軽減させた様だ。
…俺の保証にどれだけの価値があるかは謎だがな…。
…パチパチパチパチパチパチ。
いつの間にかカイト達は俺の言葉に激しく首を縦に振りながら拍手をしていた。
…ふう…いい仕事をしたな俺…。
「あ、そういえばカイト達に頼みたい事があったの忘れてたな…」
…本当は忘れてないが、もういい加減に早いとこ伝えたい…。
「なんでも言ってくれ兄さん!!」
「なのです!なのです!」
「天の兄貴の頼みならなんでも聞くし!!」
「…私は今、花村さんのお陰で長年の憑き物が落ちた様な思いです。この御恩を返さねばなりません」
…なんか上手くいきすぎて逆に凄いやりにくいんだが。け、結果オーライって事にしとこう…。
「じゃ、じゃあ話すが、俺の頼みというのはだな…」
皆が真剣に俺の次の言葉を待った。
「この町に小規模の冒険士支部を作るから手伝って欲しいんだ」
「「「「はい?」」」」
そう、俺がカイト達に頼みたかった事とは鉱山町に冒険士支部を作る手伝いだ。




