第18話 剛士がチームを抜けた理由
「と、とにかくさっさとそのモンスターを魔石にしちまうよあたしゃ」
女店主は俺の言葉に照れ臭そうにしながら白い大蛇の魔石製造を始めた。
「て、天の兄貴ってああいう人がタイプなんすか?」
「……いや、タイプとかそんなのじゃない…」
狐娘が俺が女店主に言った台詞を勘違いして質問して来た。
「いいか?本当にいい女ってのは別に外見だけで決まるもんじゃない」
「ふ〜ん。よくわかんないっす…」
…これぐらいの年齢の若者にはまだ俺の言った事を理解するのは難しいか…。
「俺は兄さんが言ってる事が凄い理解できるぞ?」
…流石にカイトは俺が言いたい事がわかるらしい…。
「ちなみにだがお前らのチームで言うと、いい女がアクリアさんでそうじゃないのがお前だ狐娘」
「や、やっぱり外見じゃないっすか!」
「…偶々だ狐娘…」
…仮にアクリアさんの外見がイマイチだったとしても俺の中ではいい女認定確実だからな彼女は。それに外見だけならお前も柄は悪いが悪くはないからな…。
「あ、あたしはどっちなのですか!天兄さん!」
リナが今の会話を聞いて自分はどちらか俺に聞いて来た。
「…リナさんの事はまだよく分からんから保留…」
…狐娘と同じぐらい調子がいい一般常識人だということぐらいしかわからんからな…。
「ざ、残念なのです…」
「リナの事がよく分からないなら僕の事だって保留でいいじゃないっすか!」
狐娘がその言葉を聞き俺に抗議する。
「…いいか狐娘、第一印象は大切なんだ。俺のお前に対する第一印象はかなり悪い」
…一回しめてやろと思った程にな…。
「逆にカイトとアクリアさんはかなり俺の中で好印象だったんだよ。流石はBランク冒険士だと思った」
「光栄だな兄さん」
カイトが爽やかイケメンスマイルで俺の感想に応える。
「だからお前らのチームのメンバーに対する俺のいい女、いい男評価は…」
「「「…ゴク」」」
何故かカイト達は俺がその評価を答えようとしたら息を飲んだ。
…なんで何かの合格発表みたいになってんだよ?つうかもう答え殆ど今言っただろ…。
「カイトはいい男、アクリアさんはいい女、リナさんは保留で狐娘は未熟な狐だ」
「なんで僕だけが性別ですらないんすか!!」
「ははははは、やはり第一印象は大切だということだシロナ」
カイトはまた爽やかイケメンスマイルでシロナを諭す。
「…シロナはまだいいのです…。天兄さんにちゃんとに評価して貰ったのです…」
…なんでリナさんはがっかりしてんだよ?Fランク冒険士の俺の評価にそれほどの価値は無いと思うが…。
「でも未熟な狐だよ僕!リナなんかまだ可能性があるし!未熟な犬って言われなかっただけマシだし!!」
「…確かにそれは言えてるかもなのです…」
…そこは納得するんだリナさん…。
「この話しはここまでにして皆に俺はまだ頼みたい事がある」
俺のその言葉を聞きカイト達が一斉に俺の方を向く。
「俺達に出来る事ならなんでも言ってくれ兄さん。それにまだ俺達は100万円分の仕事を何もしてないからな」
「はいなのです!結局、仕事と言ってもシロナが毒牙運んだだけなのです」
「僕は仕事関係なく天の兄貴の舎弟だから兄貴の頼みを聞くのは当然だし!」
…もう狐娘が俺の舎弟なのは確定したのね?まあ全員協力的で助かるがな…。
「感謝する皆。それとここにいる皆というよりもカイト達のチームにお願いしたいんだが…」
俺が何を言いたいのかカイトはすぐに察したらしく、リナに指示をだす。
「リナ、悪いが動力車で麓の町まで行きアクリアを連れて来てくれないか」
…流石カイトだな。俺がチームにと言っただけで何を気にしているか察してくれた…。
「了解したのです!」
カイトの指示を受けてリナは素早く行動に移りこの場を後にして動力車まで走って行った。
…やはりこのチームは仕事が出来る者が多いな。判断や行動がどれも迅速で無駄がない…。
「察しが良くて助かるなカイト」
「なに、チームへの頼み事と言わたらアクリアを呼ぶのは当然だからな?」
「すまんな。そう言えばこの後の冒険士としての予定は大丈夫なのか?」
麓の町まで仮に車で迎えに行ったとしても往復で2時間近くかかり、またアクリアは親父さんの付き添いをしているのですぐに戻って来れるとも限らない。
その戻ってくる時間とそれから俺の頼み事を詳しく説明してお願いするとなると今日1日どころかカイト達のチームはかなりの時間をそれに費やさなければならない。
…まあ親父さんはほぼ全快しているみたいだからアクリアさんはすぐに戻ってくるはずだが…。
「それなら大丈夫だ。本当だったら今頃、俺達は兄さんが倒したモンスターの討伐をしていたからな」
…成る程な、そのモンスターを俺が倒したから暇になったと…。
「そのモンスターが居ない以上、俺達の討伐の仕事は終わっている。後は麓の町の冒険士協会に仕事の報告に行くだけだ」
「なら今日1日は俺に付き合ってくれても問題ないと?」
「はいっす!僕らは今日はもうフリーっす!」
…実は今日1日というよりは、これからと言った方が正確なんだがな俺の頼みは…。
「で、兄さんの頼みとは?」
「ああ、それなんだがな…」
カイトと狐娘が真剣な表情で俺の次の言葉を待ち、そして…
「さっきカイトが言った通りお前らのチーム全員が揃ってから話す」
俺の告げた言葉にがっくりと肩を落とした。
「て、天の兄貴…。その前振りでそれはないっす」
「…だが兄さんの言った事は正論だ。アクリアとリナが戻って来てからその頼みの内容を聞こう」
「悪いな二人とも、これから俺が頼む内容はかなりの大事なんだ」
…そう、俺がこれからこのチームを巻き込んで行なおうとしてる事はかなりデカイ事だ…。
「先に二人に話してもいいが、やはり全員で話す方が良いと思ってな?」
「て、天の兄貴がそういうなら…」
「兄さんが大事とまで言う頼み事とは、また緊張するな…」
「大丈夫だ。頼み自体はそんなに難しかったり危険だったりする訳じゃない」
俺がそう告げると二人は途端に安堵の表情になる。
「良かったっす〜」
「ああ、情けないが正直、少し怖気付いてたよ…」
「……お前らは俺をなんだと思ってるんだ…」
「「伝説の超人型」」
……失敗したかなあの言い回しは…。
「そうだ、二人というか、カイトに聞きたい事があるんだが…」
「なんでも聞いてくれ兄さん」
「剛士という元冒険士の事なんだがな」
「!」
「剛ちゃんの事っすか!」
俺が剛士という名前を出した途端、カイトは難しい顔になり狐娘は驚いて俺に聞き返してきた。
…当然の反応かもしれんな。あのゴリラはこのチームにとっては古傷みたいな物だしな…。
このチームに居た剛士というCランク冒険士はカイト達のチームを抜けてゴロツキグループの幹部をしていた。
そしてこの鉱山町を襲撃してこの町の特産品である製鉄を強奪しようして俺に捕まった。そんな盗賊の様な犯罪を犯しそうになった者が居た冒険士チームなら少なからず他の冒険士達から非難されていた可能性が高い。
…少なからずそのせいで肩身の狭い思いもしてるだろうしな?この事は聞くべきじゃなかったかな…。
「すまんな。変な事を聞こうとして、忘れてくれ」
「……いや、兄さんが剛士についての事情を知りたがるのは当然の事だからな…」
…知りたがってる訳では無いんだが…。
「それにさっきもそうだが俺は兄さんになんでも聞いてくれと言ったしな」
「なら単刀直入に聞くんだが、あいつはなんでカイト達のチームを抜けたんだ?」
「「……」」
二人とも俺が何を聞こうとしてたのかあらかじめ予想が出来ていたらしく俺の言葉を聞くなりカイトは少し表情を暗くしながら溜め息をして、狐娘は半笑いの呆れ顔になった。
…二人のあの顔を見るとロクな理由じゃないんだな…。
「その…なんだ…に、兄さん頼みがあるんだが…」
「…今から聞く事は余程の事がない限り誰にも話さんと誓おう」
俺がそう言うとカイトは安堵の表情を見せた。
「…兄さんがさっき俺に言った言葉じゃないが、察しが良くて助かります…」
「剛ちゃんのチームを抜けた理由って僕が言うのも何だけどかなりくだらない理由だし」
…うん、お前らの表情見てすぐにわかった…。
「ふう…。剛士がこのチームを抜けた理由なんだがな…」
カイトが溜め息混じりで語った剛士という冒険士がチームを抜けた理由は本当にくだらない理由だった。
ようは痴情のもつれである。
…まあ話しを聞く限りではあのゴリラが一方的にアクリアさんにふられたみたいにだから痴情のもつれですらないか…。
剛士はアクリアに異常なまでの恋心を抱いておりそれは他人が傍から見ても明らかでアクリア自身も気づいていたらしい。
勿論アクリアの方には全くその気はなく、だからと言って彼女の性格と同じチームメンバーという事もあって完全には拒絶できずにいた所に事件は起こった。
剛士は半ば無理矢理アクリアに対して行為に及ぼうとして他のチームメンバーに止められアクリアもその時にハッキリと剛士に対してその気はないと告げた。
…耳の痛い話しだな。俺もあのゴリラと結果的にはやった事は変わらん。いや、俺の場合は計算して実行したからあいつよりたちが悪いか…。
だがそんな行動に出た剛士をアクリアは自分もハッキリしなかったから悪い、これからも良き仲間としていて欲しいと剛士を許したらしい。
…彼女ならそうだろうな…。
しかし剛士にとっては他のチームメンバーがいるなかでそんな事を言われて逆に惨めになったらしく、何をとち狂ったのか自分とカイトはどちらの方がイケてるかアクリアの他の女性メンバーに聞いたらしい。
そして…
「「そんなのカイトさんに決まってる(のです)(し)」」
っとリナと狐娘に言われたのがトドメになりチームを抜けてゴロツキになったらしい。
…まあリナさんも狐娘も気持ちはわかるがそこはもっとオブラートに包めよ。それにお前ら獣型亜人の女だろ?剛士をゴリラ型亜人の男と考えればもうちょっと、こう…なんかさ…。
「カイトさんと剛ちゃんじゃ勝負にすらならないし」
…確かにな、いくらその時に冷静さを失ってたとしても顔以外でも色んな意味であのゴリラじゃカイトの敵ですらない…。
「だがそれならお前らのチームを抜けたとしても他のチームに入るかフリーで活動すればすむだろ?」
…俺もそうしてフリーになった……し……。あ〜〜、思い出したくない事を思い出しちまったじゃねぇか!あのゴリラ、半殺しじゃなくて四分の三殺しにしときゃ良かった…。
「ビクッ!」
俺が怒気を放った瞬間、狐娘が体を硬直させた。
「て、天の兄貴?も、もしかして少し、お、怒っていらっしゃいますですっす?」
俺の怒気にあてられて狐娘はろれつが回っていない。
「ああ少しな…」
「兄さんが怒るのも無理はないな…。兄さんが言った通り俺達のチームを抜けたとしても剛士が冒険士を続けられなくなった訳じゃない」
…別にその事で怒った訳ではないんだがな…。
「ましてや、それで犯罪を犯していい事には絶対に繋がらない…」
カイトの表情はいつになく真剣だ。
「確かにカイトの言う通りだな。だが何故、奴は寄りにも寄ってあのゴロツキグループに…」
「剛ちゃんは人一倍、自分に自信を持ってて自分を認めて貰いたい欲求が強かったっす」
…良くも悪くもあのゴリラは自尊心がかなり高いようだな。自尊心が高い事は別に悪いことではないが、今回のケースではそれが裏目に出たんだな…。
「それで冒険士時代からずっと交流があったゴロツキグループに勧誘されてそのまま、そこの幹部になったんす」
「ろくな連中じゃなかったんだが剛士の奴とは妙に馬があったみたいでな…」
…確かにな、ゴロツキグループの連中はゴリラと似た雰囲気の奴が多かった…。
「でも何か最近、剛ちゃんが捕まったぐらいにゴロツキグループがなくなったって聞いたし」
「ああ、俺もその事は不思議に思っている。結構な規模のグループは何の前触れも無くなくなるなんてな…」
「ん?なんだ知らないのか?あのゴロツキグループは俺が剛士とか言うお前らの元仲間を捕まえた時についでに壊滅させたんだ」
「「え?」」
俺がゴロツキグループが無くなった真相を話すと二人は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「ほ、本当なんすか?」
「に、兄さん、あのゴロツキグループはかなりたちが悪い武闘派の集団で剛士クラスも少なからずいたはずだが…」
「カイトさんの言う通りっす!中でもヘッドの強さは桁違いで下手したらBランク冒険士のカイトさんだって…」
「…シロナ言う通り、あのヘッドには俺でも一対一で戦ったとしても勝てるかどうか…」
「なんと言われようと現に壊滅させたからな…」
二人は深刻な顔をして俺の話しを聞いている。
「ちなみにそのゴロツキグループに敵対してたゴロツキグループを壊滅させたのも俺だ」
「ま、マジッすか!!」
「に、兄さんそれは本当か!」
「だからさっきから本当だと言っているだろ…」
二人は更に顔を引き攣らせる。
「あ、あのゴロツキグループは剛士がいたゴロツキグループよりも数は少ないが一人一人の実力が高いんだぞ…」
「間違いなくあの町で一番、たちの悪い奴らだったし」
…だからそのゴロツキグループと敵対する事になってあのゴリラが所属してたゴロツキグループは武器や防具を調達しようとしたのか…。
「…兄さんは全員を一人で倒したのか?」
「ああ、あんな奴ら余裕だったぞ」
「マジっすか!!!」
…お前さっきからそれしか言っとらんな…。
「マジだよ。正確に言えば倒すのに一人頭5秒もかかってない」
「さ、流石は一人であのモンスターを倒しただけの事はあるな…」
「もっと言わせて貰えば、あのゴロツキグループ達は幹部だろうが下っ端だろうが俺にとっては対して変わらん。Gランクのミミズと一緒だ」
「……僕、何があっても絶対に天の兄貴には逆らわないっす…」
俺達はそんな話しをしながら他のカイト達のチームメンバーの帰還を待った。
そして2時間程して…
「皆さん、ただいま戻りました」
「待たせてしまって申し訳ないのです」
アクリアとリナが帰って来た。




