第17話 超人型
「ハァ……ハァ……」
叫び終えた狐女は息を切らしながら俺の事を睨んでいる。
まだ俺の言葉が信用できない様だ。
「もう別に信じなくてもいいから早いとこ、このモンスターをあんたらの誰かのドバイザーに入れて欲しいんだが」
俺の言葉に、カイトとリナがハッとしてほうけた表情で答える。
「す、すまん。俄かには信じられん事だが……現にこのモンスターは倒されているしな。それに自力でこんな芸当が出来るのなら、剛士が貴方に捕まえられたのも頷けるよ」
「た、確かにそれは言えてるのです!言えてるのですが…。あ、あたしは他にも気になる点があるのです…」
意を決っした様にリナが俺に尋ねて来た。
「なんだリナさん?」
「は、花村さんはあたし達が来る前にこのモンスターを倒したのですよね?」
「ああ、そうだな」
「さっき、この採掘現場での花村さんの残り香を嗅ぎ分けたら確かにこの現場から花村さんの匂いがあったので、貴方がここに一度入ったのは間違いないのです」
…流石は犬の亜人だな、それなら俺がここに一度訪れた事を自分自身で見分けられる…。
「だけどそれであたし的には納得出来ない点もあったのです…」
「「…………」」
気づけばカイトと狐女はリナの話しに真剣に耳を傾けている。
「この花村さんの匂いはかなり新しい物なのです。 恐らく花村さんは15分〜20分前にこの場所にいたのでは?」
…凄いなこの子の鼻は…。
「確かにその通りだが、それでなんでリナさんが納得出来ないんだ?」
「すみませんなのです…。更に言えば匂いが新しいのもそうなのですがその匂いの残り香がそんなに強くないのです…」
…だからそれが何に繋がるんだ?…。
「つまり花村さんはここでモンスターと戦ったは戦ったのですが、そのモンスターと戦った時間が極端に短いのです」
…あ〜成る程、この子が何を言いたいのか大体予想がついたな…。
「つ、つまりどういうことだリナ?」
「あたしの推理だと、花村さんがそのモンスターの討伐にかかった時間は5分を切るのです」
…正確には1分もかからなかったがな…。
「これ程のサイズのモンスターを倒すのに魔技の生成時間も合わせたらそんな短時間で倒おすのは不可能かと思ったのです…」
「「!!」」
リナの推理を聞いてカイトと狐女はまた信じられないといった驚きの表情になる。
「じ、実際の所はどうなんだ天?」
カイトが俺に恐る恐るリナの推理の答えを聞いてくる。
「ああ、リナさんの言う通りだな。俺がその大蛇と戦って倒すまでの所要時間は1分もかかっていない」
「「「!!」」」
…つまり秒殺だな。まあ対峙してからとなると1分以上かかったが、戦いの始まりを白蛇の噛み付きからと考えれば秒殺だ…。
「ぜぜ、絶対嘘だし!!」
また狐女が叫ぶ。
…お前はさっきからそればかりだな…。
「だから信じなくてもいいと言っているだろ。それより早くドバイザーに…」
「そ、その事なんだがな天…。ドバイザーには重量制限があって大体1200kg〜1400kgまでしか持ち運べないんだ…」
…ドバイザーって重量制限あったの?…。
「だから大型のモンスターは複数の冒険士などで切り分けて持ち運ぶんだが、このサイズとなると…」
…言われてみれば確かにドバイザーに重量制限があってもおかしくないな。もし重量制限がなかったら大型の車や家だって楽に運べてしまうから便利過ぎて逆に何かの犯罪で使われてしまうかもしれんし…。
「つまりここにあるドバイザーだけじゃこのモンスターは運べない訳だな?」
「…そういう事になるな…」
今この場にあるドバイザーの数はカイト達が所持しているドバイザーだけなので必然的に3台になる。
3台のドバイザーで運べる量は重量制限を考えれば約4tいくかいかないか。
だがこの白大蛇の重量はゆうに40〜50tはあると予想されるサイズである。
…だからと言ってアクリアさんのドバイザーを足したとしてもたかがしれてるしな…。
「何回も往復すれば問題ないがそれだと面倒だし仕方ないな…」
俺はドバイザーでモンスターを運ぶのを諦めて自分で運ぶことにした。
…力量段階操作5段階解放…。
俺は親父さんを救出してから2段階まで下げていた力量段階をまた最高値まで上げた。
「はあ〜〜…」
そして自らの闘気を解放する。
…ズン。
採掘現場が俺のプレッシャーで包まれる。
「「ひぃっ!!」」
それと同時にリナと狐女が悲鳴を上げる。
…獣型の亜人の女性は脅威を感じやすいとラムが言っていたからな。刺激が強過ぎたかもしれんな…。
「な、なんだよこの威圧感は…。駆け出しの冒険士だったころに一度だけドラゴンと遭遇した事があるが、もしかしたらそれよりも…」
カイトは辛うじて俺のプレッシャーに耐えている様だ。
…シストのおっさんも似たような事を言っていたな…。
俺は闘気を解放して、首無しの大蛇に近づき無くなった頭のすぐ下の胴体を持ち上げる。
「…よっと」
「「「!!」」」
…よし、案外軽いな。これなら外まで持ち運べる…。
この採掘現場に続く坑道は高さ幅ともに6m近くあり広いトンネルの様な作りをしている。
したがって下手をすれば電車の車両の様な大蛇でも移動させようと思えば移動出来る。
…まあ逆に言えばあの白蛇をほっといたら簡単に外に出てしまっていたわけだが…。
「あ、貴方は本当に人間種なのですか!!」
リナが大蛇を軽々と持ち上げた俺に疑問を投げかけてくる。
「一応人間だ」
…もうこの下り何回やったかな…。
「とても信じられん…」
…いや、そこは信じろよ!じゃあ、俺は一体どんな種族なんだよ…。
そんなやり取りをしていた俺はある事に気づき少し不機嫌そうに狐女に話し掛けた。
「おい狐女…」
「ビクっ!」
俺が話し掛けると狐女は驚いて体を硬直させた。
「お前の近くにこのモンスターの牙の残骸があるだろ?悪いがそれだけでもドバイザーに入れて持って来てくれ」
「は、はい!わかりましたっす!!」
…随分、素直になったな?まあいいことだが…。
「あ、狐女」
「ひゃ、ひゃい!!」
…もう完全に俺にヒビってるなこいつ…。
「その牙には毒が付いてるから絶対に直接触るなよ」
「わ、わかりましたっす!!」
「ど、毒って…。天はあいつと戦ったんだろ?大丈夫だったのか?」
「俺は状態異常無効だから毒は効かない」
その言葉を聞いてその場にいた俺以外の全員が。
「「「絶対に貴方は人間じゃないです!」」」
…じゃあ俺は一体何なの?あ〜もう面倒くせえな…。
「実は……俺は伝説の“超人型”なんだ」
「「「で、伝説の超人型!!?」」」
皆が俺の言葉に驚愕する。
……んなわけねぇだろ。だが面倒くさいから当分この方向で行こう……
「じゃあ行くぞあんたら」
「「「了解しました!!」」」
…なんでいつの間にか俺が隊長みたいになってんの?…。
こうして俺達は採掘現場を後にした。
…ズルズルズルズル…。
俺は大蛇を運びながら坑道から外に到着した。
ちなみに他のメンバーは俺の邪魔にならない様に出来るだけ俺と大蛇が距離を取って付いてきている。
…案外いけるもんだな…。
そんな事を大蛇を持ち上げながら外に出て思っていたら狐女が俺の方に走って近づいて来た。
そして…
「て、天の兄貴!!先ほどまでのご無礼をお許しくださいっす!!」
俺に土下座して来た。
それを見て後から来たリナが。
「もう、昔から調子がいいのですシロナは。天兄さんからも何か言ってあげてほしいのです」
…いつの間にか花村さんから天兄さんになってんだけど?いや、お前も十分調子がいいから…。
「全くだな。すまない兄さん、シロナも根は悪い奴じゃないんだ。許してやって欲しい」
…おい、あんたもかよカイト!兄さんって既に弟みたいになってんだけど!…。
俺は大蛇を運んだ事とは別の事でどっと疲れが押し寄せた。
「気にしてないからもう頭を上げてくれ、狐娘……」
…もう色々どうでもいい…。
「あざ〜〜す!!じゃあ今日から僕は天の兄貴の舎弟です!!」
…なんでそうなるんだよ、狐娘…。
「ひとまず皆、俺が町の魔石製造店までこの蛇を運ぶから誘導と障害物の撤去を頼む」
「「「了解いたしました!」」」
その指示を受けて皆その場で俺に敬礼してから動き出した。
…まあ、反抗されるよりはいいんだけどね…。
そして俺達は鉱山町の魔石製造店まで無事にやって来た。
「きゃ〜!!」
「ひぃっ!」
「おい、なんだよあの馬鹿でかい化け物…」
「か、母ちゃん〜〜!!」
「う、家の中に入ってなさい!」
……ガヤガヤガヤガヤ。
「流石に目立つよなこのサイズは」
鉱山町の住人達が俺の引きずって来た大蛇の死骸を見ては顔を青ざめている。
…そういえばおばちゃんいるかな?多分、親父さんに付いてるだろうからもしかしたら麓の町の病院まで付いて行ってしまったかもしれんな…。
俺のそんな心配をよそに女店主は店の前で俺を待っていてくれた。
「天ちゃん、そいつが今回の元凶のモンスターかい?」
「ああ、こいつが今回の事の元凶になった白い大蛇だ」
流石は魔石製造店の店主をしてるだけあって女店主は白い大蛇の死骸を見ても余り取り乱さない。
「……一つ聞きたいんだが、天ちゃんまさかそいつをここまで…」
「ああ。この冒険士達のドバイザーに入り切らなかったから、ここまで引きずって来た」
俺の言葉を聞いて女店主は呆れ顔で何時もの台詞を言う。
「…あんたやっぱり人間種じゃないよ…」
「「「おばさんもそう思いますよね!」」」
女店主のその台詞を聞いてそばにいたカイト達がその意見に激しく同意する。
…なんでお前らはそういう時だけ言葉がハモるんだよ…。
「おばちゃん…」
「…なんだい?」
「どうやら俺は、伝説の超人型らしい」
俺のそんな台詞に、女店主はさらに顔を呆れさせた。
「…なんだいそりゃ」
…ですよね?やっぱりおばちゃんには通用しないか…。
「そういえば親父さんはどうなった?」
俺がその事を聞くと女店主の顔は途端に笑顔になった。
「それが聞いとくれよ天ちゃん!あのアクリアさんって冒険士の女の人がそりゃ凄いのなんの…」
女店主の話しによるとアクリアの回復魔技は予想以上に強力で麓の町の病院の迎えが来た時には親父さんはほぼ全快になっていたらしい。
…流石は生命レベル4の魔技だけはあるな…。
「アクリアなら当然と言えば当然だな」
「はい!アクリアさんの回復魔技は一級品なのです!」
「僕も何度もお世話になったし」
カイト達は彼女なら当たり前だと何処か誇らしげだ。
「じゃあ、親父さんは麓の町の病院には行かなかったのか?」
「いや、やっぱり精密検査は必要だから一応、病院には向かったよ」
…そうすべきだな、アレだけの重症だ。念には念を入れて治療した方がいい。ましてや親父さんは鉱夫だから体が資本だ…。
「おばちゃんは付き添わなくて良かったのか?」
「花とあの二人とそれにアクリアさんも一応、付き添ってくれてね。あたしは用があったし遠慮したのさ」
「アクリアさんまで付き添ってくれたのか」
…やはり彼女に親父さんを頼んだのは正解だったな。治療の事もそうだがプロとしての責任感、心構えも一級品だ…。
「ハハ、アクリアらしいね」
「本当なのです」
「アクリアさんは真面目すぎだし…」
…お前は不真面目過ぎだがな狐娘…。
「ん?親父さんの付き添いより何か大切な用があるのかおばちゃん?」
その俺の質問に女店主は顔をニカっとさせて答えた。
「そりゃ、今のあたしが一番しなきゃならない事は、町の英雄が倒したモンスターの魔石製造さね!」
「……やっぱりおばちゃんはいい女だよ…」
俺は心からそう思った。




