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第15話 新たな冒険士チーム登場

「ヒック…天ちゃ〜〜ん!!ヒック…ありがとう〜!」


 花が俺に大泣しながら抱きついて来た。


「…天ちゃん…本当にありがとうよ…」


 女店主も俺にお礼を言う、目には薄っすらと涙を浮かべている。


「気にしないでくれ、昨日の握り飯のお返しだ」


 俺は抱きついて来た花の頭を撫でながら女店主に返事をした。


「それより親父さんの治療を早くしないと。確かに命に別状は無いが重症は重症だ」


「と、父ちゃん!!」


 花は俺の言葉にハッとしてそばで気絶している自分の父親の心配をしている。


「そ、そうだったね!…先生〜〜!うちの旦那に回復の魔技をお願いします!」


 女店主がそう呼ぶと、60過ぎのヨボヨボの老人が親父さんに近づいて触診を始めた。


「う……」


「…ふむ…。 こいつは儂の魔技では治しきれんな…。処置後の対応もある、(ふもと)の病院に運ぶのが適切な対応じゃろ」


 …その通りだな。早く麓の病院まで親父さんを運んだ方がいい…。


 この鉱山町には病院は無いが小さな診療所は存在する。モンスターの被害が皆無でも鉱夫達の仕事内容を考えれば当然と言えば当然だ。


 ただ、それでも小さい診療所に応急処置が出来る程度の老人医師しか存在しないので、今回の親父さんの様な重症の場合は麓の町まで連れて行き、町の大きな病院で治療して貰うのが好ましい。


「そっちの方は既に(わたし)の方で手配しましたぞ」


 そう言いながら出てきたのは、この鉱山町の町長を務めている老人だ。


 歳は診療所の老人医師と同じぐらいだが体つきは老人とは思えない程ガッチリしていて流石は元鉱夫と言った所だ。


「では、とりあえず町から迎えが来るまで儂の魔技で応急処置をしますじゃ」


 老人医師は応急処置を施しながら、親父さんに回復の魔技をかけ始めた。


「う…うう」


「…父ちゃん…」


 花はそれを心配そうに見ている。


 …とりあえず命に別状はないとはいえ後遺症の様な物が残る可能性はゼロじゃない。早く大きな病院で診て貰った方がいい…。


「あ、兄貴!」


「あの化け物はどうなったんすか?」


 若者二人が俺に駆け寄って来て、先ほどのモンスターがどうなったのか尋ねてきた。


「あいつなら俺が倒したから心配するな」


「「さ、流石は兄貴!!」」


 途端に若者達の顔が明るくなった。


 …現金なやつ奴らだ…。


「…天ちゃんて本当に強え〜んだな!」


 花が俺の報告を聞いて感心する。


「だから言っただろ?俺は強さだけならSSS(トリプルエス)だって」


 俺は花の頭に手を置いて答える。


「うん!!」


「それにしても、こいつらから話しを聞いた限りだとそのモンスター最低でもBランク以上だろ?よく一人で勝てたね天ちゃん…」


「わりと余裕だった」


「…天ちゃん…あんたやっぱり人間種じゃないよ…」


 女店主は感心を通り越して呆れた顔で俺の事を見ている。


 …最近、こんな事ばかり言われているせいか俺も自分が本当に人間なのか自信が無くたなって来たな…。


「で、そのモンスターの死骸はどうしたんだい?」


「採掘現場に放置してあるよ。 後で魔石にして貰うから、その時は頼むぞおばちゃん」


 …一体いくらになんだろあの白蛇の魔石は…。


「あいよ、任せときな!それと天ちゃん…今回はあたしはびた一文あんたから換金代は貰わないからね」


「いや、いつも通り半分おばちゃんに渡したいんだが…」


 …というより魔石換金のお金を殆どこの町に寄付しても問題ないんだがな。今回はモンスターも首から上が無いだけでほぼ原形をとどめてるし、アレを魔石にして換金したら恐らく1千万以上する。そんな大金は逆に持ち歩くのに邪魔だ…。


 俺がそう告げると女店主は頭に手を当てながら呆れて反論してきた。


「あんたは今この町を救ってくれて、しかもあたしの旦那まで助けてくれたんだよ?そのあんたからなんで助けられた側のあたしがお金を貰わなきゃいけないんだい!!もしお金を払うとしたらあたしの方だよ!」


「それこそいらん。 昨日の握り飯で十分だ」


「…あんたって本当にお人好しと言うか欲が無いというか…」


 …俺はお人好しでも欲無しでもないんだが…逆に自分の欲望には忠実な男だぞ俺は?…。


「とにかくあんたが何と言おうとあたしはびた一文貰わないからね!じゃないと魔石製造も魔石換金もお断りだよ!」


「……了解だ…」


 …まあ、おばちゃんなら確かに断るよなこの場合は、だからと言って町長の方も男気のある爺さんだから恐らく俺がこの町にその金を寄付すると言っても今のおばちゃんと同じ理由で断る…。


「どうしたもんかな…」


 …俺は今、一番欲しい物は魔石動力のコンロだがアレは俺が使えるかどうかという博打要素が高いからな?金があるからと言って使えないかもしれない物を買うほど今の俺は浪費家ではない…。


「あ、そうだ」


 俺はこの鉱山町でこれから起こる可能性がある一つの問題を危惧していた。


 その問題解決の為に今回のモンスターの魔石換金したお金が使えると思いつく。


 …色々と問題はあるがシストのおっさんに頼めば何とかなるかな?…。


 そんな事を考えていたら俺の後ろから知らない若者達が走ってこちらに向かってきた。


「すみません!遅くなりました!今、状況はどうなっていますか?」


 歳は20代前半ぐらいの若者男性のエルフが町長に駆け寄り、今回の事件の状況を聞いて来た。


 …麓の町の冒険士か?かなり早い到着だな?…。


 早いと言っても連絡してからこの若者冒険士達がここに来るまで40分は経っている。


 だが麓の町からここまでは並の冒険士なら急いでも普通は1時間30〜2時間はかかる距離である。


 そう考えると40分弱でここに到着したこの冒険士グループの若者達は驚異的な速さだと言える。


 …俺でも麓の町からここまで全力で走って15分はかかるからな…。


「遅いよ!!天ちゃんがもう殆どやっちゃったよ!」


 その若者男性エルフの問いかけに町長よりも先に花が不満を言いながら答える。


「花坊、この冒険士さん達を責めるな。逆に早いぐらいだぞ?正直、俺は麓の町の冒険士がここまでくるのにもっとかかると思っていたからな」


 そう言いながら俺は花の頭に手を乗せて制する。


 …最近なんか花坊の頭に手を乗せるのが癖になってるな俺は…。


「ぶ〜〜…だってさ…」


「花!天ちゃんの言うとおりさね。あの冒険士さん達は必死でここまで来てくれたんだよ。ほら、謝りな!」


 不満が収まらない花を女店主(ははおや)が叱りつけた。


「良いんです。いくら早く来ても間に合わなければ意味は無いですから…」


 そんな女店主を今度は冒険士の若者男性エルフが制する。


 …確かにな、こういう状況の場合は良くも悪くも結果が全てだ。もし仮に親父さんがモンスターに殺されてしまった場合、急いで来たんですが、最善を尽くしたんですが、などの言葉はいい訳でしかない。その事をよく理解しているだけでこの若者が冒険士としてプロフェッショナルだということが分かるな…。


「え〜〜、もう仕事終わっちゃったわけ?」


 若者男性エルフの後ろからやって来た、恐らくは仲間の冒険士と思われる狐の亜人女性が軽い感じで今の状況を若者男性エルフに確認する。


 そして、その狐の亜人女性の後ろからもう二人の女性がついて来た。


「ああ、どうやら一足遅かったみたいで、もう事態は殆ど収拾した様だ」


「魔石動車をかなり飛ばして来たんですけどね…」


 若者男性エルフの返答に今度は後ろから来たもう一人の犬の亜人の女性ががっくりと肩を落としながらそう言う。


 余談だがこの鉱山町に通っている山道はかなり急なのだが、車や魔導バスが通れるぐらいには道が整備されている。


 …成る程な、車で来たならこんなに早くこの町までこれたのも頷ける。しかし一介の冒険士チームが車を所持しているとは凄いな?それとも協会支部からかりたのかな?…。


「え〜〜、つまんない〜」


「シロナさん、冒険士の仕事に面白いもつまらないもありませんよ」


 狐の亜人女性のその言葉に対して若者達の最後の一人の恐らくは人間種であろう女性がそう言って狐の亜人女性を(いさ)めた。


 …言う通りだ。確かに他の職種なら、あるいは楽しいつまらないを求めてもいいかもしれん。が、冒険士の仕事は少なからず人の命がかかっているような物がほとんどだ。そんな仕事に対して、そういう感情を持ち込むと命取りになる…。


「アクリアさんは相変わらず真面目すぎだし」


 狐の亜人女性のその返答に、今度はもう一人の犬の亜人女性が呆れて言葉を発した。


「シロナが不真面目すぎなのです」


 …まるでジュリだな。あの狐女(きつねおんな)は…。


「そこにいる彼がこの事態を収めたらしい」


 若者男性エルフが俺を見てそう告げると他の女性3人も俺の方を見る。


「はじめまして。 花村天です」


 …一応は簡単に自己紹介しておくか…。


 俺が自分の名前を自己紹介すると若者冒険士グループの全員が驚く。


「この人が剛士(たけし)さんを捕まえた人なのですか!?」


「成る程、貴方が剛士を止めてくれた冒険士か…」


「こいつが剛ちゃんをやったやつ!」


「………この方が…」


 …狐女にこいつ呼ばわりされるのが気になるが…剛士ってだれ?…。


「「あんたら剛士さんの知り合いっすか!?」」


 若者冒険士グループの俺に対する反応を見て、今度はこっちの若者(ばか)二人が剛士という名前に反応した。どうやら知り合いの様だ。


 …だから剛士って誰だよ!…。


「すまないが剛士と言う名前の人物に心当たりがないんだが…」


「…そうか…確かに犯罪者の名前などいちいち気にしないか…。すまない、剛士とは貴方が先日捕まえた元Cランク冒険士で俺達チームの元一員でもある男だ」


「!」


 …あ〜、あのゴリラか…。


 この若者達が剛士と呼ぶ人物は俺がこの鉱山町でお世話になるきっかけになったゴロツキグループ鉱山町襲撃事件の首謀者の一人で元Cランク冒険士の若者である。


 …あのゴリラ、剛士って名前だったのか?一方的にボコボコにして協会に引き渡したから名前なんて全然知らなかった…。


「そうだ自己紹介をまだしていなかった。 俺はBランク冒険士のカイト。このチームのリーダーをしている。よろしく頼む」


(わたくし)も同じくBランク冒険士のアクリアと申します。剛士さんの犯罪を未然に防いでくださり感謝しております。以後お見知りおきを」


「次はあたしね?あたしはCランク冒険士のリナなのです。よろしくなのです」


「僕はシロナ、Cランク冒険士。 本当にこいつが剛ちゃんに勝ったの?とてもそうには見えな〜い」


 …Bランクが二人もいるのか?しかも残りの二人も両方Cランクとはかなりの実力派の冒険士チームか?まあ、あの白蛇が相手だったらそれぐらいのチームじゃなきゃ話しにならんが。つうかさっきから初対面の俺に随分と失礼な奴だなこの狐女は。しかも一人称までジュリとカブってるし…。


「では改めて俺も自己紹介しよう。俺はFランク冒険士の花村天だ、よろしく頼む」


「「「「!!」」」」


 俺が改めて自己紹介すると先ほどにもまして更に若者4人が驚く。


 …なんで驚ろいてるかは、大体予想できるが…。


「やっぱり噂は本当だったのです!」


「にわかには信じられないな。まさか剛士がFランクの冒険士にやられるなんて…」


「………」


 …予想通りだな。最近、俺がFランクと言ったら大体の奴は驚く…。


「マジ信じられないし。Fランクっていったら雑魚中の雑魚じゃん!」


 …この狐、一回しめてやろうか…。


「…………」


…ん?確かアクリアさんだったか?さっきから浮かない顔をしているみたいだが…。


「兄貴はめちゃくちゃ強いんすよ!」


「そおっす、そおっす!剛士さんを倒したのだって本当だし。今回、1番の採掘作業現場に出た化け物倒したのだってみんな兄貴っすよ!」


 …君達もっと言ってやって!言ってやって!この狐女(きつねおんな)に!…。


「それもさっきから気になってんだよね?僕らが依頼された仕事のモンスター討伐の難易度はBランクだし。ならモンスターのランクだってB以上。Fランクの雑魚に敵うわけないじゃん!」


 …こいつジュリと春風さんの悪い所を集めてたしたような狐だな…。


「…シロナさん、先ほどから初対面の、それも私達の恩人とも呼べる方に対してその態度は失礼過ぎますよ?」


若者男性エルフと同じBランク冒険士で落ち着いた感じの女性冒険士が狐の亜人女性の余りに目に余る俺への態度を注意する。


 …この人は逆に弥生とマリーさんの良い所を足したような人だな?でも、俺の事を恩人って言ってるが何かこのグループに感謝される様な事したか?一番に考えられるのはこいつらの元仲間である剛士とか言うCランク冒険士だった奴の暴走、犯罪を止めた事か。他に考えられるのは今この町で起こった事件を収拾した事だが、こっちはハッキリ言って俺に恩を感じる必要は余り無い…。


 この若者達冒険士チームが事件発生から1時間余りで麓の冒険士協会支部からこの鉱山町に到着した。それは普通に見れば、驚異的な対応の早さである。


 …仮にこの冒険士チームが親父さん救出に間に合わなかったとしても正直、今回の事件の内容を考えると仕方の無い事だ。物事には必ず物理的に不可能な事もある…。



「うっ…。だ、だってアクリアさん!マジで信じらんないんだもん!」


「俺もアクリアと同意見だぞ?それに信じられる信じられないの問題とは関係なく、今の言動は初対面の彼に対して失礼極まりない」


「あたしもそう思うのです…」


 リーダーの若者男性エルフと犬の亜人女性も狐の亜人女性の俺に対する態度が目に余ったらしく、俺に申し訳なさそうに狐の亜人女性を諌めた。


「…うう…。 ご、ごめんそこのFランク…」


 狐の亜人女性は渋々、俺に謝って来た。


 …全然謝られて無い気もするが、まあいいか…。


「いや、いいよ。 信じられないのも無理無いかもしれんしな?どうだ?俺もあんた達に頼みたいこともあるし、丁度いいから俺が倒した今回の原因の元凶になったモンスターの死骸でも一緒に見に行くか?」


「「「「!!」」」」


 俺は若者冒険士グループに自分の実力の証明もかねて事件現場に一緒に行こうと提案した。


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