第14話 親父さん救出作戦開始
ガバッ!
「おいおい何だよこの気配は…」
僧院での朝、俺はこの世界に来て今までに感じた事のない程の圧倒的な存在感と、その気配の主の溢れんばかりの怒気で目を覚ました。
…まずいな気配は鉱山町の方から感じる。…ということは…。
「あの町で何かあった可能性が高い」
俺はすぐに鉱山町に向かった。
…多分この気配は俺が感じていた気配の主と同じ者からだ。だが何故いきなりこんなに肌で感じる程に怒っているんだよ!…。
「昨日まで大人しかったのにいきなりなんでこんな…」
…くそ!頼むから無事でいてくれよ、おばちゃん、花坊、親父さん、ついでにあの馬鹿二人…。
俺が鉱山町に着くと町の住人が町の出入り口に避難していた。
…やっぱり何かあったんだな?…。
俺は女店主や花が人混みに居ないか探した。
「「天ちゃん!!」」
「「兄貴!!」」
俺が花達を人混みから探そうとしたら女店主、花、若者二人が俺を呼んできた。
…良かった〜、みんな無事だったんだな…。
俺は事情を聞く為に皆に駆け寄った。
「一体、何が起こったんだ?」
…ある程度は予想出来るが事の詳細をまず明確にしないとな…。
「ば、化け物が、化け物が!」
若者の一人は正気を保てていない、もう一人も顔が真っ青で口を開いてはいるが声が出せない様子だ。
「落ち着け!!」
俺が怒鳴って喝を入れる。
…まあ状況から察するにこいつらは直にこの気配の主と対峙したみたいだから仕方がない、おばちゃんに話しを聞くか…。
「おばちゃん、何があったんだ?」
女店主は深呼吸をし、自分自身を落ち着かせて俺に事態の詳細を話し始めた。
「昨日、麓の町から最新の採掘機器を買ったんだ。それを朝、採掘作業場で使ったらモンスターが出て来て…」
「それは昨日、花坊から聞いた。 一体何を使ったんだ?」
「魔石動力の火属性の発破装置を使ったんだ…」
「!」
…爆破式の発破方法で採掘したのか!…。
俺は女店主の話しで今の状況の大体の経緯を推測出来た。
…爆破した近くにモンスターの巣の様な物があってモンスターの怒りをかった可能性が高いな…。
「天ちゃん!父ちゃんが、父ちゃんが!」
花が泣きながら俺の足にしがみついて来た。
「お、親父さんが俺達、現場の皆を逃がすために化け物の囮になって…」
「!!」
先程まで声を出せなかった若者の方が俺に事情を説明して来た。
…なんでそれを早く言わないんだよ!…。
「い、今、麓の町の冒険士協会に頼んで腕利きの冒険士チームに向かって貰ってるんだけど…」
若者の言葉を聞き、女店主が更に今の状況を補足する。女店主の顔は真っ青で今にも倒れそうだ。
「…親父さんは何番の採掘現場にいるんだ?」
「「い、1番ッス!!」
若者二人が声を揃えて俺の質問に答える。
…よし!1番なら中の構造は単純だ。すぐに親父さんを見つける事が出来る…。
この坑道の採掘現場はそれぞれ番号で別れていて、1〜5番の採掘現場があり1番の採掘現場はその中で最も広くて単純な作りになっている。
…確か中は高さ15メートルぐらいで広さはサッカーコートの半面ぐらいある多目的ホールみたいな作りの採掘現場が奥と手前に一つづつあるだけだったよな?…。
「て、天ちゃん一人で行く気かい?」
「勿論だおばちゃん」
…悪いが麓の町の冒険士を待っている余裕なんて今はない。彼処からここまでくるのに鍛えてる奴でも2時間はかかる。親父さんの事を考えるなら絶望的な時間だ。それにはっきり言って俺一人の方が色んな意味でやり易い…。
「ヒック…天ちゃん、Fランクなんだろ?ひ、一人じゃ危ないよ!」
花が俺の足元で泣きながら俺の心配をしている。
…健気だな…必死に自分の感情を抑えて俺の心配をしている…だがな花坊、こういう時は我慢しなくていいんだよ…。
俺は足元で泣いている花の頭に手を乗せた。
「安心しろ花坊、俺は確かにFランクだが強さだけならSSSランクだ。 それにな…」
花は俺の顔を遠慮がちに見上げる。
「こういう時、子供は大人に正直にわがままをぶつけるもんだぞ?」
俺の言葉を聞き花が今、自分が1番願っている気持ちを俺にぶつけてくる。
「天ちゃん!父ちゃんを助けて!!」
「任せとけ!」
俺は花の頭に手を乗せたまま力強く宣言した。
「天ちゃん、主人を頼みます…」
女店主も俺に頭を下げて頼んで来た。
「最善を尽くすよおばちゃん」
そう女店主に告げて俺は1番の採掘現場に急いだ。
…ああは言ったが正直キツイかもしれん…。
俺の感じている気配は間違いなくBランク以上のモンスターだ。そうなると一般人だと出会ってしまったら一瞬で殺されてしまう確率が極めて高い。
…頼むから生きていてくれよ親父さん!…。
俺は祈る様な思いで1番の採掘現場がある坑道前までやって来た。
…すごい獣気だな…。
坑道の入り口からはむせかえる様なモンスターの気配がする。
…とりあえず力量段階を最高まで上げておこう…。
俺は力量段階操作法で自分の力量を3段階から上限一杯の5段階まで引き上げた。
…今回は親父さんの命がかかってるからな…俺に油断や遊びは許されない。最初から全力で挑まなくては…。
「とにかく中に入って親父さんを救出する」
俺は坑道に入り採掘現場に親父さんが居ないかくまなく探した。
「!」
…いた!!…
俺は採掘作業場の壁にもたれかかりながら倒れている40代ぐらいの細めの偉丈夫の男性を発見した。
「間違いない、親父さんだ!」
俺は親父さんを見つけた瞬間に縮地法を使って一瞬で親父さんに近寄り安否の確認をする。
「…う……」
…よし!!まだ息がある、体を強く打って打撲や骨も何本かいってるが命に別状がある怪我はしてない…。
「そうか、この匂いのおかげか…」
俺は親父さんから微かに香る匂いを嗅ぎ取った。
前にこの町の鉱夫達に聞いた事がある。この町の鉱夫達は虫除けスプレーならぬモンスター除けスプレーを体にかけて作業している。
元々、F、Gランクモンスターには効き目があるが、オークなどのEランク以上には殆ど効かない。仮に効いたとしても嫌な匂い程度で、相手を怒らせたら効き目が殆どなくなるぐらいの効果しかないスプレーだ。
「ただあいつには効いたみたいだな?」
…それに気絶していたのもかなりのプラス要素だ。下手に動き回ったら奴を刺激してしまうかもしれんからな…。
俺はこの採掘現場で親父さんを見つけたと同時に今回の騒動の元凶の主とも対面していた。
「…命に別状はなくても重症なのは変わらんからな?とっととアレを始末して親父さんを治癒しなくては…」
「シャーーー…」
俺は親父さんを背に庇いながら今回の元凶のモンスターと対峙した。
「親父さんがかけてるスプレーの匂いが相当苦手な様だな?白蛇」
俺の目前にいる圧倒的な存在感と溢れんばかりの怒気を放つモンスターは体高2.5メートル弱、体長に至っては15メートルは軽く超える白い大蛇だった。
「蛇は嗅覚が強く匂いには敏感で苦手な匂いの種類があると聞いた事があるがモンスター除けのスプレーがその中に入っていて助かったぞ」
「シャーーーー」
…多分そのおかげで噛みつきや巻きつきなどの接近攻撃がなかったのが不幸中の幸いだな、やられてたら恐らく即死だ…。
「生きててくれて本当に安心したよ」
俺は心から安堵していた。
そしてこのモンスターと対峙して俺はある一つの事を推測した。何故こんなに巨大なモンスターが魔素が薄い所に生息しているのかということだ。
それに対して答えは、言うなれば逆の発想だ、巨大なモンスターが魔素の薄い所にいるのではなく巨大なモンスターがいるから魔素が薄いのだ。
つまりこの白大蛇は鉱山の殆どの魔素を何十年も独占してこのサイズになった可能性が高いと俺は推測した。
…そう仮定すれば色々と辻褄が合うからな…。
「とにかく今は、そんな事はどうでもいいか…」
…それにしてもこいつ、さっきから隙をかなり見せてるのにまるで俺に攻撃してこないな?親父さんについているスプレーの匂いのせいか、それとも俺を警戒しているのか…。
俺は自分から大蛇に攻撃を仕掛けられないでいた。
…今、大蛇と俺との距離は20メートル弱で両方とも一瞬で間合いを詰めようとすれば詰めれるのだが俺の後ろには親父さんが倒れている…。
「…シャー」
…なら親父さんと離れて戦えばいいと普通なら思うかもしれんが、ここでそれは悪手だ…。
白い大蛇の体長は16〜20メートル近くあり蛇の瞬発力を考えるとこの広い採掘現場でも端から端まで恐らくは大蛇の攻撃射程圏内である。
…仮に俺が親父さんから離れて戦って、この白蛇が俺ではなく親父さんに攻撃してしまった場合、即座に対応できるかわからんからな…。
だから俺は親父さんの側を動けづにいた。
…ここで最優先されるのは親父さんの安全確保であって白蛇を倒すのはその安全確保の1番の障害になるからだ、焦って優先事項を間違えるなよ俺…。
俺は自分にそう言い聞かせて気持ちを落ち着かせた。そして俺は大蛇が親父さんに攻撃してきても即座に対応できるギリギリの位置まで大蛇に近づいた。
「シャーーー!」
俺が近づいて来て大蛇も俺に対しての警戒心を強める。
「巣の近くを爆撃されてお前が怒るのも無理はない。 だが俺にも譲れない物があるんでね…」
…俺は花坊やおばちゃんと約束したんでね。必ず親父さんを助けると…。
「だからお前にはここで死んで貰う…」
ビリビリ…ビリビリ…。
俺はその言葉を言うと同時に大蛇に向けて殺気を放った。
「…シャーー…シャーー」
大蛇は途端に口から黄色いヨダレを垂らしながら俺を睨みつけて来た。
…毒か?どうやらあいつの中で俺は敵と認定されたようだな…。
俺がまた半歩分、大蛇に近づいたその瞬間。
…来る!…。
ビュン!
「シャーー!!」
大蛇は俺に向かって高速で噛みつて来た。
ガシッ!
俺は大蛇が噛みつこうとして口を閉じようとした瞬間に上顎と下顎の牙を両手で掴んで噛みつきを阻止した。
…噛みつきと言うよりは丸呑みに近いか?スピードもかなり速い…だが動きが素直すぎて見切りやすいな、それに俺には毒は効かない…。
俺は大蛇の黄色い毒液塗れの牙を素手でがっちり掴んで離さない。
大蛇は必死に口を閉じようとするが俺の力777の腕力がそれをさせない。
…中々、顎の力が強いがそれでも俺の腕力の方が上だな、それにもう…。
「開始早々、申し訳ないがこの勝負はもう詰みだ白蛇…」
俺は両手で掴んでいる大蛇の牙に練気で練った勁を流しこんだ。
「練気・発勁流し」
「…シャ!………」
大蛇は一瞬、身体を大きく痙攣させて動かなくなった。
…蛇の急所は頭から首にかけてだからな、そこに頸を放てば動きを止められる…。
俺は動かなくなった大蛇を掴んだまま、すかさず次の攻撃に入る。
「…練獄背負い投げ」
大蛇の牙を両手で持ったまま柔道の背負い投げの要領で大蛇の頭を左右の地面にひたすら叩きつけた。
ガン!ゴン!ガ!ドン!ゴン!
俺は十数回、大蛇の頭を叩きつけて、掴んでいた牙が両方粉々になり頭が原形をとどめていない程ぐしゃぐしゃになってから攻撃を止めた。
…まだ白蛇の気配は少しあるが恐らくもう放っておいても死ぬ…だが念には念を入れさせて貰う…。
俺はその場で垂直跳びをして5メートル程の高さまで飛び右足を高らかと上げて踵に練気を集中させてそのまま大蛇の頭に目掛けて、かかと落としをくらわせる。
「とどめだ…」
ゴッ!!!
大蛇は頭を粉々に粉砕されて少し痙攣してから動かなくなった。
…気配が完全に消えたな…。
俺は大蛇が完全に動かなくなったのを確認してから親父さんの元に戻りそのまま親父さんを抱き上げた。
「親父さん。今、皆の所に連れて行くからな」
「うう……」
俺は親父さんを抱えてその場を後にした。
坑道を出た俺はすぐに皆の待つ町の出入り口に向かった。
「父ちゃん!!!」
「あんた!!」
「「親父さん!!」」
町の出入り口に到着した俺と親父さんに皆が駆け寄って来る。
「体中に怪我はあるが命に別状はないぞ」
オオオーー!!
俺がそう知らせると途端に回りから歓声が湧きおこった。
…親父さん救出任務完了だな…。
こうして俺の親父さん救出作戦は無事に成功した。




