第11話 おばちゃんと知り合ったきっかけ
「俺の住んでた山奥程じゃないがこの山道も一般人からしてみれば結構キツイよな」
俺は今、4日程前から世話になっている鉱山町に行く為に山道を登っていた。
「それに、してもよくあんな場所に町を作ったよな」
俺は山道を歩きながらそんな事を思っていた。
俺がこれから行こうとしている町…いやどちらかと言えば村に近い規模の小さな鉱山町は鉱山の谷間に作られた町だ。
住宅、店も合わせて十数件というかなり小規模で俺が最初に訪れた村よりも断然少ない。
恐らく最初は町ではなく鉱山勤務の作業員達の為に作られた簡易住宅が一つ二つと増えていき、それにともない酒場や小規模な魔石製造場もできてしまって、其処で働く人達が自分達のニーズに合わせて町みたいにしてしまったのだろう。
…正直この山道を一般人が毎回登り下りするのはキツイからな、モンスターだってここら辺はあの僧院の所為でかなり出没しているし作業場イコール自分の町の方が鉱夫達には安全で仕事もしやすいだろうしな…。
「よし、着いたな」
僧院から徒歩で10分ほどの山の谷間の鉱山町に俺は到着した。
「やっぱりこんな所に町があるとか凄いな…。ファンタジーアニメの世界だぞ本当…」
…実を言うと俺はこういう所は大好きなんだよな…なんかこう、心が踊るというか…。
「……ここに来ると毎回見とれてしまうな。 さて、道の真ん中で突っ立てないで早く魔石製造店に行くかな…」
そして俺はちょっと前から世話になっている魔石製造店のおばちゃんの所にやって来た。
「どうも、おばちゃんまた来たよ」
「あら、天ちゃんいらっしゃい」
店の中に入って、俺は頭にバンダナを巻いた歳は40前後の恰幅の良い女性に挨拶をする。
彼女は鉱山町の魔石製造店の店主をしている豪快な女店主で旦那もいるがそっちは鉱山で現場監督をしていて夜中にならないと戻ってこない。
旦那は女房の仕事にはまったく口を挟まないので事実上この店は彼女だけで切り盛りしている。
「今日は何のようだい?」
「ここは、魔石製造場なんだろ?だったら魔石製造しかないんじゃないか」
「そりゃ、違いないね!」
そう言って女店主は笑う。
「で、もしかしてまた?」
「ああ、察しの通りだおばちゃん…。モンスターの死骸は殆どバラバラで魔石に出来そうな部位は余りない」
途端に先ほどまで笑っていた顔が呆れ顏になる。
「またかい天ちゃん…。毎回思うけどどんな倒し方をすればそんなにモンスターをめちゃくちゃに出来るんだよ」
「俺の持っている必殺技はどれも暴れん坊でね」
……まあ、だったら技じゃなくて普通に倒せばいいんだが…。
「…ふう…。まあ天ちゃんも冒険士みたいだしね?そうしなきゃ命が危ないのかもしれないから深くは聞かないし余計な口は余り挟まないけど、本当に勿体ないから今度からは倒し方を考えなよ」
「…了解しました」
…ごめんおばちゃん、命が危ないとかじゃなくて、ただ単に技を使うのが楽しくてこんな倒し方してるだけなんだ…。
「で、今回の獲物はどいつだい?」
「俺も初めて倒したからわからないんだが、これ」
そう言って俺は風呂敷に入っていたモンスターの首を女店主に見せる。
「ハ、ハイリザードマン!!」
…あ、やっぱそうなんだ…。
「て、天ちゃん!こいつを一人でやったのかい?」
「ああ、余裕だった」
「……この前から思ってたけど、あんた本当に人間種なのかい?」
「一応人間です」
…ステータスの欄には疑問符がついてるけどね…。
「まあ、さっきも言った事だし色々深くは聞かないよ」
「…ありがとなおばちゃん。やっぱりおばちゃんは良い女だ」
「褒めたって何も出ないよ」
女店主は少し恥ずかしいそうに笑う。
…本当にこのおばちゃんは良い女だ…色々と俺の世話を焼いてくれる、そのくせ俺の事情は絶対に深くは聞こうとしない…。
…顏は普通だし見た目で言えばジュリや弥生とかと比べると話しにならないが、そういう見た目の魅力じゃない一人の人間として頼りたくなる様な魅力をこのおばちゃんは持っている。
「最初からそんなつもりで言ってないよおばちゃん」
「と、とにかくハイリザードマンの死骸を全部よこしな」
「了解だ」
俺は言われた通り風呂敷に入っていた残りの魔石に使えそうな部位を渡した。
「……はぁ…。勿体ないね本当に、まともなハイリザードマンなら600〜700万の魔石が出来るのに、これじゃ全部合わせても40万も届くかわからない品質の魔石しか作れないよ」
…やはり、高いんだなCランクモンスターは…俺にとっては雑魚だが一般人にはかなりの脅威だろうからな…。
…それにしても600万以上とは…。
「それで十分だよ。 じゃあいつも通り製造して貰った魔石はこの店に半額で売るから」
「……いつも思うんだけど、本当にいいのかい?そんな安く売っちまって…」
女店主は申し訳なさそうに俺に尋ねてくる。
「勿論、得体の知れない俺と商売してくれるだけで有難いからな」
…本当にこのおばちゃんには世話になってるからな。それぐらい恩返ししたい…。
「これでも人を見る目はあると思ってるんだよあたしは」
「お眼鏡に止まって光栄だな。それはそうと、これもいつも通りなんだが…」
「ああ、現場の共同浴場と食堂の事だろ? 旦那にはちゃんとに許可を取ってるから好きに使いな、誰かに何か言われたらあたしか旦那の名前を出したらいい」
「助かるよおばちゃん」
俺は、この町にやって来てから鉱夫達が共同で使っている浴場と簡易的なバイキング形式の食堂を使わせて貰っている。
女店主の夫が現場監督なので、彼女が夫に頼んでくれたおかげで使わせて貰える様になった。
…まともな食事と風呂は本当に有難いよな…。
「なに、こっちこそ何時も安く魔石を売って貰ってるからね?これぐらいなんて事ないさ。それにあいつらの事でも世話になったしね」
…ああ、あいつらね。少しはまともになったのか?…
「おばさんただい……」
「お、おいどうしたんだよ……って兄貴!」
店に坊主頭の若者二人が入ってくる、二人とも俺を見てすぐに怯えだした。
…ちょっと薬が効きすぎたか?まあ調子に乗られるよりましだが。
「お帰り、 ちょうどあんたらの話しをしてたんだよ」
「お前らちゃんとに働いてるんだろうな?」
「「は、はい!!一生懸命働いております!!」」
二人の若者が俺の問答に姿勢を正し礼をしながら答える。
「なら、よし!」
「「あざ〜す!」」
「本当にあんた達は天ちゃんの言う事には素直だね…」
この若者達は今、ある事情からこの鉱山で住み込みの仕事をしている、その理由というのが俺が4日前からここで世話になるきっかけになった事でもある。
…まあ、あれだけ目の前で暴れれば普通は俺に恐怖を覚えて表面上は素直に振る舞うよな…。
この若者達は元々この町の出身ではなく鉱山を下りたふもとの町の出身で、其処でちょっとは名の通った不良だったらしい。
だがそのために立ちの悪いゴロツキグループに目を付けられて半ば強引にグループに引き込まれ、使いっ走りにさせられた。
そしてある時そのゴロツキグループが対立している他のゴロツキグループと抗争が始まりそうになり、その抗争の準備の為に武器や防具などの用意をこの二人が任せられた。
勿論、そんな物を用意する金やコネなど持ち合わせて無かった二人が苦肉の策で行ったのがこの町を襲うことだ。
この町は良質な鉄鉱石を採掘し製鉄して質の良い鉄を売っている、その製鉄場を襲い武器や防具に使う製鉄を奪おうとした。
…ここは、冒険士協会支部は勿論、治安を守る様な役所などどこにもないからな、そういう奴らには格好の餌場に見えるだろうな…。
そして計画を実行しようと若者2人とゴロツキグループの幹部の元Cランク冒険士との3人でこの町に訪れた時にたまたまその場にいた俺に計画を見抜かれて阻止された。
…あの時のこの二人ときたら挙動不審もいいところだったからな…何かやろうとしてたのはすぐにわかった。
俺はとりあえず手始めにこの店の隣にある製鉄場を襲おうとした元Cランク冒険士の幹部を若者達の前でボコボコにして二人に事情を聞き。
実は二人もそんな大それた悪事をしたいとは思っておらず恐怖で嫌々付き合っていただけだと言った。
それを聞いた俺は冒険士らしい事もたまにはやろうかなと思い、そいつらのゴロツキグループをとりあえず壊滅させてから、ついでに敵対していたゴロツキグループも壊滅させた。
そして死なない程度にボロボロにしたゴロツキグループの幹部達をその町の冒険士協会に鉱山町を襲おうとしていたと教えて突き出した。
最初は冒険士協会の冒険士や職員も怪訝な顔をして半信半疑だったが持っていた大統領の名刺を見せたら納得してくれた。
…それでも信じてくれるまでかなりかかったんだよな…仕方ないからおっさんに無線繋いだら出なくて、結局マリーさんに無線繋いであの時は証明して貰ったんだよな…。
トゥルルル、トゥルルル…ガチャ
「はい、こちらは大統領秘書をしておりますマリーです」
「どうも、ご無沙汰しております…花村です」
…まだ3日しか立ってないがな…。
「てて、天さん!!」
…いや、驚きすぎでしょ…。
「ど、ど、どうなされましたか?」
「いや、実はちょっと困ってまして…」
俺はマリーに事の顛末を詳しく話した。
「…事情は理解しました。 まさか元冒険士の者まで絡んでいるとは…」
…やはり、冒険士のトップの側近だけあってそういう冒険士の品位を疑われる様な行動は人一倍許せないだろうな彼女は…。
「では天さんが信用の置ける方で大統領と私の知り合いだということをその協会支部の職員に説明しますので代わって頂けますか?」
「助かりますマリーさん、ありがとうございます」
「い、いえ当然ですから」
そして俺はその場にいた職員に無線を渡した。
「はい…はい…はい、わかりました」
…どうやら話しはついた様だな?
「大統領秘書の方から確認がとれました。大変失礼いたしました」
「いえ、わかって貰えたら別にいいので」
謝る職員を軽く制して、またマリーに繋っている無線を受け取る。
「信じて貰えましたマリーさん。 お忙しいところ、対応して頂き感謝します」
「こ、こちらこそ元冒険士の重犯罪を未然に防いでくれて感謝しますわ」
「たまには冒険士らしい事でもしようかと思っただけですよ」
「ご謙遜を…本当に天さんは頼りになりますね…」
…今、貴女に頼ったのは俺の方なんですが…。
「あ、あの、天さん…。こ、今度一緒にお、お食事でもどうでしょうか?ちなみに私の定休日は……」
「マリーさん、お忙しい中ありがとうございました」
ガチャ…ツー、ツー。
俺はマリーからの無線通信を強引に切った。
…いや、マリーさん…俺は今、旅してますからね?それにマリーさんと仮に食事したとして、お食事中に万が一ジュリ達に会っちゃったりでもしたら気まずいなんてもんじゃないし!
こうして俺の活躍?によりゴロツキグループ達の鉱山町への強襲を未然に防ぐ事に成功した。
この町でこの事を知っているのは、元Cランク冒険士を俺がボコボコにしている所を自分の店の中で目撃していた女店主と、彼女からその後に事情を聞いた旦那だけだ。
女店主も最初にこの若者達を目撃した時に何かやると思ったらしいのだが、町の男達は坑道に仕事に出ていた為、町には数人の男達しか残っておらず、だからといって山を下りた町にある冒険士協会に助けを呼んだとしても、すぐに冒険士達が依頼を受けてくれるとは限らず、また受けてくれたとしても冒険士協会がある町からこの鉱山町までは徒歩で3時間近くかかるのですぐに対応して貰うのは不可能だ。
女店主が半ば途方に暮れていた所に突然、俺が現れて製鉄所を襲おうとしていたその若者グループのリーダー格である元冒険士をあっという間に倒してしまい、その事で気に入られて貧乏旅をしている俺を何かとこの夫婦は世話してくれる様になった。
では、この若者達が何故そんな事を仕出かそうとしたのにこの町で住み込みで働いてるかというと。
「お前らはこの町への謝罪とその性根を入れ換える為に頭丸めてここでしばらく働け」
「「は、はい!!わかりました兄貴!!」」
っというわけで彼らの状況は今に至る。
この鉱山町でも若い男手が欲しかったらしく女店主と現場監督の旦那は大喜びでその事を承諾して、彼らがやろうとした事は水に流した。
実際に彼らも他のゴロツキ達が怖くてそんな事をやろうとしていただけで彼ら自身は根っからの悪ではない。
逆に彼らの方も自分の出身地の町で色々あって、何処か別の町に逃げようとしていたので、俺の提案は渡りに船だった様だ。
…まあ、あいつらが町に居づらくなったのは俺があの町で暴れたせいだが…。
俺は町のゴロツキグループを殲滅する為に若者達にそのゴロツキグループの溜まり場や根城を案内させて片っ端からゴロツキを狩りまくった。
彼らの目の前でそんな事をずっと繰り返しやっていた為にいつの間にか…
「「あ、兄貴には絶対逆らいません!!」」
恐怖を植え付ける事に成功していた。
…自分達が恐れていたゴロツキ共を一方的に容赦なく目の前でボコボコにしまくってたら、そりゃ俺には逆らわなくなるよな…。
これが鉱山町の女店主と現場監督の夫婦と俺が知り合ったきっかけだ。




