第9話 一人旅開始
「…驚いたな…君でもそんな顔をするのかね…」
シストが俺の穏やかな表情に驚き。
「ほ、ほ、本当ですよ!い、今の話の後に…その顔は反則です天さん!!」
マリーが顔を真っ赤にして俺に抗議する。
…一体、何が反則なんだ?…。
「…さっきのおっさんの問いに対して俺が話せる事は、俺は別に神様とは関係ないって事ぐらいだな」
「っ!…あれだけの強さでそれは本当かね?」
「ああ、3柱神様達とは会った事がない」
…多分、俺の事を見てはいると思うけどな。例えばステータスとか…ステータスとかね!…。
「てっきり君は神様の眷族かと思ったぞ?」
…やっぱりそれが一番しっくりくるよな…。
「これでも、一応人間だ。まあステータス欄だけ見たら少し自信がないがな」
「ぶはっ!!…く、くくく…で、ではやはりアレは天君が間違えて書いたのでは無く…」
シストが途端に吹き出した。
何を言いたいのかなんとなくわかるよおっさん…。
「ああ、種族の欄に人間?と書いてあるのは間違いない…。 今、頭の中でステータスを浮かび上がらせたら、やはりそういう風に記載されていた…」
「がははははは!!聞いた事がないぞステータスに疑問符が付くなど!」
…普通はそうだよね…。
「ぷっ!た、確かに君の力を考えれば疑いたくもなるが、それにしたって……ぶっ、ぶはははは!」
「だ、大統領、失礼ですよ…ぷっ!くくくく」
…二人ともさっきの緊張感が嘘の様に笑っているな。いい落ちになったが、なんか納得いかないんだけど…。
「あ〜〜すまん、すまん」
…やっと笑い終わったようだ…。
「失礼しました…」
「いや、気にしなくていいよ…」
「ふぅ〜……では、あの項目も書き忘れた訳ではなく…」
「…お察しの通りだ。俺には魔力がまったく無い…」
「…正直、魔力がまるで無い人型など聞いた事がありませんね…」
…もうそのセリフは色んな人に言われました…。
「嘘だと思うなら、ここのドバイザー契約をおこなう店の主任さんに確認してみると良い。俺が魔力がない事を最初に知ったのはそこだからな…」
「そんな事を確認せんでも今更、君の事を疑ったりせんよ。…しかし、そうすると妙だな…」
シストは疑問の表情を浮かべながら俺に質問してきた。
「君はドバイザー契約をしたのだろう?だが魔力が無ければ恐らくドバイザー契約はできん筈なんだが…一体、天君はどうやってドバイザー契約したのかね?」
「……仲間に代わりに契約して貰って、それを自分のドバイザーとして使っていた…」
…正直これは大人としてかなり恥ずかしいから言いたくなかったんだが…。
「その時に主任さんに世話になってな。後、主任さんを責めないで貰えるか?俺が魔力がないと知って、なんとかしてドバイザー契約を出来る様に考えてくれたんだ。 客のニーズに合わせた素晴らしい対応だったと思う」
「無論だ。最初から責める気などないぞ。 冒険士は必ずドバイザー契約をしなければならんからな。これからも、もし君と同じケースが出たらその様にドバイザー契約をするようマニュアルに付け加えさせよう」
「…まずありませんがね…」
…ですよね、マリーさん…。
「では…話す事ももう余りないだろうし、俺はこれで失礼させて貰う。長い時間、面会に応じてくれて感謝します」
俺はその場で一礼した。
「いやいや、儂も有意義な時間を過ごせたよ」
「そ、そそ、そうでございますね!!」
マリーは、何故かまた顔を赤らめていた。気の所為か目の焦点が合っていない。
「…そういえば君はこれから何処に向かうのかね?」
「……決めてないな。気の向くままだ」
「そうかね…。 そうだ、これを持って行きなさい」
シストは重役机から自分の名刺を取り出し俺に渡した。
「何かの役に立つかもしれん。 それに何かあった時はそこに書いてある儂の業務用の番号にかけてきなさい」
「これは、有難く頂くが俺は今、仲間にドバイザーを返してしまったからドバイザー無線は使えないな…」
「なら、近くにある冒険士支部から無線通信を借りて儂に繋げばいい」
…公衆電話みたいな物かな?…。
「了解した。お気遣い感謝する。 では俺はこれで失礼する」
「ま、待って下さい!」
慌てて俺を引き留めるマリー。
…なんだ?慌てて何かを取り出したぞ?アレって名刺かな?万年筆で何か書き足してるようだが…。
「こ、こ、これを!」
マリーがどこか緊張した様子で、自分の名刺を俺に渡したてきた。
「…ありがとうございます」
…正直、おっさんのだけあれば十分だが、くれるのなら有難く頂こう…。
「裏に私のプライベート番号が書いてあります!」
そう言いながらマリーは俺の手を両手で強く握ってくる。
「ち、ちなみに…私は32歳で未だ独身です!!」
マリーは俺に真剣な表情で訴えて来た。
「………そ、そうですか。俺も実は32歳なんです…」
「まあ!とてもそうには見えませんね…。それにしても歳が一緒なんて私達、意外とお似合いかもしれませんね!」
彼女は潤んだ瞳で俺の顔を見つめながら、先ほどよりも更に強く俺の手を握ってくる。
…いや、貴女も32歳にはとても見えませんがね?どう見ても20代前半…まあエルフなら当たり前か……って今、考察する所はそこじゃない!…。
「………え?…」
…えっと、何この状況?今の一連のやり取りから察するにそういう意味で捉えていいわけ?…。
…いやいやいやいや、早まるな俺!これでもし俺が…「実は俺もマリーさんと自分はお似合いだと思ってました!どうですか俺とお付き合いしませんか?」的な事を言ったとしてマリーさんに…「そういう意味で言った訳では…」とか「ただの社交辞令だったんですけど」とか言われて引かれた日には恥ずかし過ぎてもうおっさんにすら無線を繋げられん…。
…そ、そうだ!ジュリもたしか俺に抱きついて来たり腕を組むなどしたスキンシップを取ってきていたからな?…。
…これは多分、エルフ特有のコミニケーションの仕方なのだろう。あ〜危うく引っかかる所だった。危ない危ない…。
…第一、仮にそうだったとしてもチームメイトとあんな別れ方をしたばかりなのに寄りにも寄ってそのチームメイトの中の一人の叔母であるマリーさんとそういう関係になるとか、そんな中村さんがやりそうな事を出来る訳あるか!…。
「…そうですね…」
俺はそう返事をしてそっとマリーから手を離した。
「がはははは!マリー、振られてしまったな?」
「違います!天さんは硬派みたいですので恥ずかしがっているだけです!」
…おっさん頼むからエルフ秘書さんを焚きつける様な事を今、言わないで!それとマリーさん。今言った事まんま貴女の姪が言ってたセリフだからね!やっぱり貴女達は親族だわ…。
「と、とにかく俺はこれで失礼する。大統領、マリーさん、俺の為に長い間、時間を割いてくれてありがとうございました」
「なんだね天君、急に改まって?」
「公事と私事を区別してるだけですよ。さっきまでは腹を割って話す時間、今からはまた、貴方と俺は冒険士のトップとFランク冒険士ですので」
「がははははは!マリーではないが君はかなり真面目なんだな」
…そうでもないがね…。
「出来る男の人って…とても素敵です…」
マリーがうっとりした表情で俺を見ている。
「………では俺はこれで!」
…なんか居心地が悪いから早くこの部屋を出よ…。
俺はそんな事を思いながらその場を後にした。
時刻は0時40分。
…もう日付を跨いでいるな。かなりの時間、話してたみたいだ…。
「…これからどうするか…」
受け付けの女性にエレベーターのカードキーを返して、これからの事を俺は考えていた。
「とりあえずは、ここでこれから旅をする準備でもするかな?」
冒険士協会本部は大きな百貨店の様な建物だ、しかもここは冒険士という職業柄、どの店も冒険士達のサポートをするために一応は24時間営業で動いている。
「生活用品店にでも行くかな」
そう思った俺は、自分のポケットから財布を取り出し残金を確認した。
「…………」
残金620円。
「…一万円くらい残しときゃ良かったかな……」
俺はさっきラムに自分の所持金を殆ど渡してしまった事を思い出し、ため息をつく。
「仕方ないな。今はこれでやりくりするしかないな…」
そして俺は今の自分のステータスと持ち物確認した。
Lv 100
名前 花村 天
種族 人間?
最大HP 30500
力 777
耐久 820
俊敏 750
知能 150
特性 ・ 全体防御力アップ(効果大)
魔法無効体質 状態異常無効 練気法 体内力量段階操作法 力調整法
備考
・童帝・中二病みたいな技を多数所持(笑)
持ち物
・道着
・ひしゃげた盾
・端末
・財布(残金620円)
・シストの名刺
・マリーの名刺(プライベート番号も記載済)
……とりあえず620円で何か揃えよ…。
そして俺は、生活用品店に行き申し訳程度の生活用品を買って冒険士協会本部を後にした。
「…北にでも行くか…」
俺の宛の無いマイペースな一人旅が始まった。




