第8話 奴らはモンスター枠
「あの、天さん…正気ですか?」
マリーが呆れた顔で聞き返す。
「勿論、俺は正気ですよ。 これで俺に攻撃が通らなければ、さっきおっさんが食いついた俺のスキル…魔法無効体質の証明が出来る」
「!!」
「がはははは!確かにその通りだな天君!よし、マリー!儂が許すから今すぐ天君に魔技で攻撃しなさい」
…なんであんたが許してんだよ?いや、俺も自分でやって良いって言ったけどさ…。
「し、しかし大統領」
「なに、大丈夫だ。 仮に天君に魔技の攻撃が通ってしまったとしても脅威はSSだぞ?対してダメージは受けんよ、儂が保証する!」
…だから、なんでおっさんが俺の体の保証を勝手にしてんだよ?いや、確かに俺が攻撃しろって言ったけどさ…。
「…わかりました…」
…何故か俺が蚊帳の外なのが気になるがマリーさんがその気になったみたいだな?…。
「おっさんじゃないが遠慮はいらないぞマリーさん」
「では失礼して」
マリーはそう言うとすぐに魔技の生成を始めた。
「では行きます…烈火玉!」
「!」
…生成時間がジュリよりもかなり早い!それにあの烈火玉も大きさ、スピードともにジュリの烈火玉より一回り上だ。
そんな事を思いながら俺は手を前に出して手の平でその烈火玉を受け止めた。
パス〜ン
「なっ!!」
烈火玉は俺の手の平に当たった瞬間に霧散して消えてしまった。
「これで魔法無効体質においては証明出来たよな?」
「……まだ信じられない所もありましたが目の前で実証されては信じるしかありませんね…」
「だから儂は言っただろ?天君は嘘は言っとらんと」
…あんたのは単なる勘だけどな…。
「それにしてもマリーさんの烈火玉はジュリさんと比べてかなり威力があるな?流石は熟練の高ランク冒険士だ」
「私、自分が高ランクの冒険士だと天さんにお伝えしていましたか?」
「いえ、冒険士だとは言われましたが高ランクとは確かに言ってはいなかったですね」
最初にマリーに会った時に彼女は先輩の冒険士とは言っていたが高ランクの冒険士とは言っていなかった。
…俺がそうだと推測しただけだ…。
「ただハイオークの脅威をリアルに知っていてあの時のおっさんじゃないですけど纏っている空気もジュリさん達の比じゃなかったので。 俺の推測ですけど最低Bランク以上だと昨日、会った時に感じました」
「本当に凄い洞察力ですね天さんは…」
「マリーも見習った方がいいぞ」
「…私も大統領は天さんの用心深さを少しでも見習うべきかと…」
…まるで淳とジュリだな?男女逆だが…。
「…まあそれは置いておくとして…。 では改めて天さんに自己紹介します、私は臨時の冒険士と大統領秘書をしておりますマリーです。 冒険士ランクはBでごさいます」
「ちなみにマリーの脅威判定はCだ、だがハイオークぐらいなら一人で余裕で相手出来る程には強いぞ」
「…恐縮です」
…やはりマリーさんは高ランク冒険士だったか…。
「では、俺も一応…Fランク冒険士の花村天です」
…中身はSSSらしいが…。
「君がFランクは無理があり過ぎるぞ。 まあだからと言って何の実績もないルーキーをAやましてはSなどには出来んが…」
「そうですね大統領…」
…二人とも難しい顔をしているが、そもそも俺は冒険士のランクなどに興味がない…。
「冒険士のランクはどうでもいい。出来れば今は他の事を話したいんだが…」
「それは構わんが何か聞きたい事でもあるのかな?」
「聞きたい事も勿論あるがそれよりも二人に伝えたい事がある」
「なんでしょうか?」
「何かな?」
「俺はさっき淳やジュリさん達のチームを抜けて来た」
「!……」
「………」
マリーは、一瞬驚いてその後に険しい表情になりシストは当然だと納得した様な表情を浮かべた。
「おっさんはある程度は予想してたんだな?」
「この時間に一人で儂に会いにくるのだからその可能性も勿論、予想していたぞ。 それに、こう言ってはジュリ君達に失礼だがあの子達に君は制御出来んよ」
ある意味おっさんの見解は正しいかな…。
「マリーさんすまない…。俺はジュリさんを守るという貴方との約束を結果的に破ってしまった…」
「…いえ、確かに私はあの時に天さんにジュリさんを守って欲しいと頼みましたが、それはハイオークからであって今後の天さんの人生を縛る様な意味で言ったわけではありませんよ…」
「…そう言って貰えると少し気持ちが楽です…」
「レベルの合わないチームを抜けて自分のレベルに合った環境や高ランク冒険士達とともに高みを目指す事は冒険士の中ではよくある話ですので…」
…マリーさんの言ってる事は正しいが、俺には当てはまらない。俺の場合は別に淳達が自分のレベルに合ってないから抜けたのでは無く自分自身の本能を思いだして自分の力と技を試したいという欲求を抑えられなくなって抜けたんだ…。
「マリー、恐らく天君がジュリ君達のチームを抜けたのはそういった理由ではないな」
…おっさんの言うとおりだ。悪いが俺とレベルが合って無いと言ったら淳達だろうが他の高ランク冒険士達だろうが多分同じだろうからな?冒険士のトップのおっさんで脅威がA、マリーさんがC、比べてかなり不確定要素は高いが俺の脅威はSSだ…。
今までこの世界で確認された事のある最高値の脅威がモンスターでS、人型でAである。
そのことからSSという脅威判定は必然的に釣り合うレベルがいない事になる。
「君はこれからどうするのかね?」
「…自分の力と技を試す旅に出るつもりだ。その為にジュリさん達とも別れたからな…」
「なっ!」
マリーは俺のその台詞を聞いて驚きの表情を浮かべた。
…無理も無いな。そんな普通なら訳の分からない理由で自分の姪がいるチームを抜けたんだから。だが俺はもう…。
「……悪いなマリーさん、だが俺はもう誠意や恩のある人達に自分を偽るのはやめる事にしたんだ…」
本当はもっと早くこうしてれば良かったがな…もう後の祭りだ…。
「マリー、彼を責めてはいかんぞ…。 儂も彼の気持ちは理解できるからな…闘志とは…男とはそういう者だ…」
「……もとより、私は彼を責める立場にありません。 姉さんの事も殆ど放置している様な妹に…」
邪教か…。
「他にも二人に言いたい、というより聞きたい事があるんだが?」
「何かね天君?」
「俺はこれからモンスターで自分の力を試すつもりなんだが…」
「……良かったよ。君が儂等、冒険士の敵に回る気がないようで」
「………」
シストは俺が冒険士と敵対する気がないと察して安堵している。
マリーは自分の姉の話しをしてから何かを考えている様で心ここに在らずだ。
…恐らく自分自身を責めているんだろう…。
「それは時と場合によるな?だがあんたらが何かしてこない限り、俺からはよっぽどの事が無い限り何もしないと約束する。 それに一応は、俺も冒険士だからな」
「それだけ約束してくれれば十分だよ…。 儂からもそれとなく他の高ランク冒険士達に君の事を伝えて君には関わらない様にするよう言っておくが構わんか?」
「それは助かるな、感謝するよおっさん」
「君はもしかしたら国を滅ぼしかねない脅威だからな?下手に刺激したくはないのだよ」
…流石は何十年も国のトップをしているだけはあるな…脅威判定SSの俺を飼い慣らすのが無理なら刺激しない様にする。言われてる俺がこんな事を思うのは変かもしれないが、それは正しい判断だ…。
「すまないな天君の話しを中断してしまった。 で、何かね儂達に聞きたい事というのは?」
「ああ、ちょっとした確認なんだが邪教の連中はモンスター扱いで問題ないか?」
「「!!」」
シストは勿論、先程から沈黙していたマリーも俺の言葉に顔色が変わる。
「奴らがモンスター扱いだった場合、君はどうするのかね?」
「今言った通りだよ。 自分の力と技を試す実験台にする…つまり俺の狩りの標的にする」
「…ぷふっ…ふふふ…が〜はははははは!!」
…よく笑うおっさんだな…。
「構わん、構わんぞ天君!!儂が許す!存分に奴らを君の技の実験台にしたまえ!」
「…大統領…その台詞は色々問題かと」
そう言ったマリーの表情はこれまでにないほど冷たく冷徹な笑みをこぼしていた。
…あの表情は、そんな事を微塵も思っていない表情だな?だがそれは当然だ…。
マリーの姉でありジュリの母親でもあるエルフの女性は昔、邪教の奴隷狩りにあったことがあり、助かったまでも今だに傷跡は消えてはいない。
…秘書という立場上、一応おっさんの言動を注意したと言う所か…。
「何を心にも無い事を言ってるのだマリー」
…俺もそう思いうよおっさん。
「そもそも奴らは3柱神様に批判的なのは勿論、我々が犯してはならない最低限の法すら守っておらんのだぞ?なら奴らも法で守ってやる必要などない!」
…道理だな。やはり、おっさんは俺と考え方が似ている。
「それに、儂は教会の馬鹿共みたいに奴らを生け捕りにして罪を懺悔させるとか言う甘い考えに嫌気が差しているからな?」
シストは苦虫を噛み潰したような顔で教会の批判をしている。
…おっさんは、よほどその教会の連中の考えが気に食わないみたいだな…。
「奴らは、はっきり言えばモンスターなんかよりもよっぽどたちの悪い人型の脅威だと儂は認識している!」
「……それについてはノーコメントでお願いします」
…っと言ってはいるけど間違いなくマリーさんのあの顔はおっさんの意見に賛同しているな…。
「天君、儂からも尋ねてもいいかね?」
「なんだい?」
「何故、君は奴を敵視するのかね?」
「……ただ単に奴らが気に食わないからだ…」
ビリ…ビリビリ…ビリビリ!
その言葉と共に、俺はこの世界に来て初めて自分の闘気と殺気を解放した。
「……とんでもないな君は…。 こんな緊張感を味わったのは久しぶりだぞ?11年前にドラゴンと戦った時以来かも知れん…」
「…………」
俺がプレッシャーを出した瞬間、シストは冒険士の顔になり、マリーはプレッシャーに呑まれて顔が青ざめる。
「一体奴らは君に何をしたんだね?」
俺は一瞬、マリーの方を向きすぐにまたシストの方を向いた。
「…別に…さっきも言った通りただ単に奴ら気に食わないだけだ…」
「……天さん…ありがとうございます…」
マリーが俺に向かって心から礼をする。
…今の目線のやり取りで気づかれてしまったかな…。
「マリーさんに礼を言われる様な事では無いですよ…。 本当に気に食わないだけですから」
「それでも、私は天さんに感謝せずにはいられません…」
…マリーさんを一瞬見たのは失敗だったな…正直やりにくい…。
「最後に一つだけ、また君に聞きたい事があるのだが?」
「なんだ?」
「君は何者なんだね?」
シストは俺に愉快そうに尋ねる。
「……その事に関しては黙秘させて貰う…」
「おいおい、今更かね?」
シストは予想の俺の回答に本気で驚いていた。
…悪いなおっさん…俺はさっきあの子と約束したんだ…。
俺はラムとの約束を思い出す。
『わかりました、天さんとあたしだけの秘密です!』
…ああ、しばらく俺の出生は君と俺だけの秘密だ。
俺はその事を思い出しながら生まれてから今までにした事がないほど穏やかに顔を綻ばせた。




