第6話 真意
「しっかし、同然だが見たことがないモンスターがほとんどだな」
……こんな時、おっさんのあの目は羨ましいな……
俺は廃墟でモンスターと戦いながら、二日前のある夜の事を思い出していた。
◇◇◇
あの日の深夜、まず俺はとある目的地に向かうため、朝方にバスで通った街道を走っていた。
「ふぅ……」
全力で走るのなんて何年振りぐらいかな……何かで気を紛らわせないとずっとさっきの出来事を思い返してしまうからな。
「……早く切り替えよう」
……そうだ、もう終わった事を考えても仕方がない……
そんな事を考えているうちに目的地がある街にいつの間にかついていた。
「30分ぐらいか?案外早くついたな…」
まさかバスで1時間30分以上かかる場所に30分ほどでつくとはな、時速で言うと160キロぐらい出ていたかな?流石は俊敏750だな。
「とっとと、あそこに行くか」
俺は街についてから足早に其処に向かった。
「やっぱり冒険士協会本部は24時間営業だったな」
そう、俺はまず冒険士協会本部にやって来た。ここで今日おこなったハイオーク討伐を俺達に依頼した張本人の大統領に事の真意を問いただす為に。
「多分居ると思うが……居なかったらいなかったで諦めればいいか」
俺は協会本部に入り、1階の受け付けに向かった。
時刻は23時を少し回っていた。
……やはりこの時間は人も殆どいないな?受け付けも女性一人しかいない……
「すみません、お尋ねしたい事があるのですが」
俺は受け付けの女性に声をかけた。
「何でしょうか?」
「今、協会本部にシスト大統領はいらっしゃいますか?」
「はい、いらっしゃいますよ。 大統領に何か御用ですか?」
よし、予想通りだ!
恐らくだがシストはこの冒険士の本部を家の様に利用している、理由は単純に居心地がいいからだ。
ここなら大統領という自分の立場を少しでも忘れられるからな、前にあった時にここでは自分は一介の冒険士と言っていた、そして大統領という肩書きもあの時は鬱陶しい感じで敬遠していたからな?多分プライベートの時間は冒険士協会にいる確率が高いと俺は踏んだ。
「はい、少しお話があって」
「事前にご連絡はされてますか?」
……やはり国のトップと話すには普通はアポが必要だよな。だがあの大統領ならこう言えば、多分俺と会ってくれる……
「事前に連絡はしてませんが、昨日、大統領に頼まれた仕事の報告をしに冒険士の花村天が来たと伝えて貰えませんか?もしそれで会って貰えなかったらすぐに諦めて失礼しますので」
「……かしこまりました。 では、只今そのように大統領にお伝えします」
「ありがとうございます」
あの大統領ならこう伝えれば俺に会ってくれる。昨日、少ししか会話していないがまず間違いない。
「はい、はい……冒険士の花村天さんと名乗られる男性が……はい、かしこまりました」
受け付けの女性はちゃんと伝えてくれた様だ、これで恐らくは、
「大統領がお会いになるそうです」
……ほらな……
「ありがとうございます、何処に行けばよろしいでしょうか?」
「はい、10階の会長室ですね。 そこの職員用のエレベーターで10階まで上がって貰い、正面の部屋になります。 今、エレベーターのカードキーをお渡ししますので、帰りにまた私の方にお返し下さい」
「了解しました」
俺は受け付けの女性からエレベーターのカードキーを受け取り、職員用のエレベーターで10階の会長室に向かった。
「ここか」
エレベーターを出てすぐに会長室と書かれたドアを俺はノックした。
「入りたまえ」
「失礼します」
部屋に入ると其処には重役机に座っている大統領と隣に立っているエルフ秘書のマリーがいた。
……こんな時間なのに、マリーさんまだ勤務中だったんだな……
「シスト大統領、面会に応じて貰いありがとうございます。 では早速、今日の……」
「天君、そんなに畏まらなくて結構なのだよ…… いや、取り繕わなくていい。どうかね、ここは是非腹を割って話さないかね? 」
「大統領?」
実に愉快そうに俺へ話しかけるシストを見て、疑問符を頭上に浮かべるマリー。彼女はまだ、大統領が何を言ってるのかを理解出来ていないようだ。
「では、単刀直入にお聞きします」
「それがいらんと言ったのだよ儂は、敬語は不要だ。呼び方も君の好きに呼ぶがいい。 一介の冒険士同士で腹を割って君と話しがしたいのだよ」
「大統領それは問題なのでは……」
…やはりこの大統領は食えないおっさんだな…。
「では単刀直入に聞こう、おっさん」
「おっさ…!」
俺の呼び方に驚いたマリーをシストが手で制す。
「がはは、この狸めが」
…それは、あんたもだがな…。
「何故、あんな仕事をリーダー達に回したんだ?そこにいるマリーさんじゃないがリーダー達にハイオークは、まだ危険過ぎる」
「!!」
マリーの顔色が変わったな、やはり今日一日中、心配していたのか。
「怒ったのかね?」
「いや、ただあんたの真意が知りたかっただけだ」
そう、俺はただそのためだけに冒険士協会本部に来た。
…俺は知りたい事があると出来ればすぐに確かめたくなる達でね。それに、もうその事でシストを責める資格は俺には無いからな…。
「正直だな天君は」
「あんたが腹を割って話せと言ったんだろ?」
「………」
マリーはもう俺の言動に対して口を挟まない。どうやら彼女もシストの真意が知りたいのだろう。
「その事だが先に君の意見を最後まで詳しく聞かせてくれないかね?今日の討伐の事と照らし合わせて」
「…いいだろう」
「…………」
…マリーさんはもう完全に話しを聞く姿勢に入っているな?まあその方が話し易くていいが…。
俺は道着と一緒に持って来てしまった、今日、ハイオークにスクラップにされた背中に持ってたひしゃげた盾を手に持ち替えてシストとマリーに見せた。
「先に言っておく、もう知っていると思うがハイオークはジュリさんの魔技で倒した」
「!!」
俺がそう告げると途端にマリーの表情が和らぐ。どうやらまだ依頼達成の連絡は貰っていなかった様だ。
…村長か淳、辺りが本部に連絡したと思っていたが。まあ仕方ないかもな、ハイオークを倒して緊張が溶けて村長も淳も連絡を忘れたのかもしれんし…。
「やはり君達に頼んで正解だったよ」
「誤魔化すなよ、それは結果論だ。 この盾はハイオークに一撃でこんなにされた。正直言って俺以外はハイオークに攻撃を一発食らっただけで致命傷、もしくは最悪死ぬ…。今日の討伐だって俺が居なかったら恐らく倒せた確率は二割を切るだろう…」
「「………」」
シストもマリーも俺の話しに真剣に耳を傾けている。
「マリーさんがあんなに必死に反対したのが良く分かる。 こういっちゃ失礼だが、仮にも冒険士のトップともあろう者が実力違いの若手の冒険士達にあんな依頼を頼むなんて正気じゃない」
「はい、私もあの時は今、花村さんの言った事と同じ考えでした」
俺が考えを話し終えてすぐにマリーも俺の考えに賛同した。よほど今回の事に関してシストに思う事があった様だ。
「だからあの時に天君をテストしただろ?そして天君は儂のテストに合格した。だから…」
「それだよ。俺が1番引っ掛かったのはそこなんだよ。 何故あんなテストだけで初見の俺に対してそんなに信用を持てたんだ?確かに俺の纏っていた空気はA級以上だったかもしれない。あんたの蹴りを寸止めと気づき避けなかった事も強さの証明になるかもしれない。だがそれはあくまで、もしかしたらとか多分そうだろうとか、確率の問題であって確かな確証は何処にもないだろ?」
「はい、私もそう思いました大統領!今この場で納得のいく解答を是非お聞かせください!」
……もう、完全に俺の側だなマリーさんは…。
「やれやれ…天君、君はそれだけの力を持ちながら随分と慎重だな?」
「俺1人ならこんな事は言わないがな。未来ある若者達を確かな確証もなく死地に向かわせる様な事をした理由が知りたいだけだ」
「もっと言ってやって下さい天さん」
……マリーさんいつの間にか俺の事、天さんって呼んでんだけど…いや、良いんだけどね別に…。
「ふぅ〜……言わなきゃ駄目かね?」
「腹を割って話せと言われたのは大統領の方でしたわよね?」
……マリーさんそれは俺のセリフ…。
「わかった、わかった! 儂はな、実は神様から寿命延命の加護を受けた時にもう一つ能力を授かったのだよ」
「「!!」」
…マリーさんも驚いていると言う事はおっさんにとって今言った事はかなりのトップシークレットなんだな…。
そしてそれが今回の仕事を依頼した事と関係していると。
「その能力とはどのような物なんですか大統領?」
……なんかさ、いつの間にかおっさんとマリーさんの会話になってんだけど…いや、良いんだけどさ…。
「言っても構わんが、二人ともこの事は他言無用で頼むぞ」
「最初から言うつもりは無い。あんたほどの冒険士が自分の能力の一つを話す重大さを俺は理解しているつもりだ」
「…君は根っからの闘士だな」
シストが嬉しそうに笑みをこぼした。
「わかりましたから大統領、洗いざらい全て話して下さい!」
…つ、強気だな、もう大統領に一切遠慮してねえよこのエルフ秘書…。
「いつの間にかマリーまで腹を割ってるのは気になるのだが…いいだろうでは儂のその能力というのはだな…」
「…ゴク」
マリーだけ息を飲んでいる。
じゃあ俺はというと、実はもうその能力については大体予想がついている。
「相手の脅威判定がリアルにわかるのだよ」
「!!」
…はい予想通り。恐らく俺のステータスや脅威がおっさんの目には正確に映るのだろうな…。
「…ん?天君はそんなに驚いてないな?」
「能力の下りから大体予想出来たからな、恐らくだがあんたの目には俺のステータス、もしくは脅威がリアルに映る仕組みになってるんだろ?それで最初に会った時に自分の目に映った俺の脅威が信じられなくてあんなテストとかいう口実を用意して俺を試して自分の目に映った脅威が本当なのか答え合わせをした…違うかい?」
「敵わんな君には…」
「そ、そうなんですか大統領!」
「ああ、天君の考察通りだ。 天君、君は知能もかなり高いんだな」
「一応、150あるからな」
「そんなにあるのか?」
……どうやらステータスが分かる訳ではないんだな。
「ステータスが分かる訳じゃないんだな?なら何を持って脅威なんだ?」
「そうです大統領!」
…あんたは一旦、落ち着こうマリーさん…。
「今から話すつもりだから落ち着けマリー」
だよね大統領。
「す、すみません…」
「まあいい、では答えるが正直そのままとしか言えんぞ」
「というと?」
「だからそのままだ、儂はモンスターの脅威判定のS〜Gと言ったアルファベットで対象の者の脅威がわかるのだ」
「!!」
成る程な…そしてマリーさん、あんたは少し冷静になれ…今の話しから大体想像ついただろ?なんでそんなに驚いてるんだよ?ラムかあんたは!
……ああやべ〜…さっきの事を思い出しちまったじゃないかよ………
「おや?なにか天君が暗くなったみたいだが、やはり自分の脅威を正確に見破れるのはいい気分ではないのかな?」
…それは、関係ない…いいからもうほっといてくれ!
「……で、あんたの目に映った俺の脅威判定はどれぐらいだったんだ?」
「うむ、俄かに信じられんがな…知識の神ミヨ様から授かった目じゃ間違う筈も無い…」
「勿体ぶってないで早く言ってくれ」
「そうです大統領!早く言いなさい!」
最早、命令口調になってますが大統領秘書さん…。
「…儂、一応大統領なんだが…」
今は我慢しておっさん…。
「…まずは、儂が11年前に倒したドラゴンが脅威判定Aだ、これは協会が定めているモンスターの脅威と同じぐらいだと思うぞ」
ふむふむ…ん?まてよ?じゃあ10年以上前にドラゴンを倒した奴ってシストだったのか?
「そして天君の脅威判定なんだが…」
「「…ゴク」」
今回はマリーだけじゃなく俺も息を飲む、やはり自分の脅威は知りたい。
「……SSなのだ……」
「「はい? 」」
俺とマリーは、二人ともにシストが今発した言葉を聞き間違えたと思い、疑問の声を上げる。
「だから、天君の脅威判定はSSなのだよ!」




