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第106話 集結

 其処は真っ白な世界。

 見渡す限り何もない。

 空白の地。


「パンパカパ〜〜ン♪」


 それはあたかも始まりのファンファーレの如く。

 どこからともなく聞こえてきた神秘的な美声が。

 空白の世界をまんべんなく満たした。


「おめでとうござます! この(たび)、あなたは前人未到となるニ度目の“英雄がえり”を果たしました!」


 突如として天から降臨(こうりん)した無駄に神々しい光を放つ存在に。


 花村天(はなむらてん)は、とりあえず(たず)ねてみた。


「なあ、このくだり毎回やらなきゃダメなのか?」


「ダメじゃ!」


 いっそ清々しいほどの即答である。

 天は頭痛をこらえつつ、『とりあえず訊ねる』のコマンドをもう一度実行する。


「なあ、やっぱ今回も俺()は丸一日ココにいなきゃダメなのか?」


「ダメじゃ♪」


 再び、今度は満面の笑みで即答される。

 いよいよ本格的に頭が痛みだした。

 どうにか今の自分の心境を相手に伝えるべく、天は額に手を当てることにした。


「なあ、()主様(あるじさま)……」


「ひゃっっほーい! これでまたダーリンといっぱい対話(おしゃべり)できるのじゃ〜♪」


「……」


 もはや是非もなかった。


 天はひとまず大きく息を吐き。(たかぶ)る神経を鎮め。現実に目を向けることにした。


「……念のため確認するが、こっちで丸一日分の時を過ごしても、向こうの世界じゃ(まばた)きほどの時間も経ってないんだよな?」


「うむ! その通りじゃ! 此処(ここ)はそういう場所じゃからの!」


「…………」


 それがせめてもの救いか。

 そんなことを思いながら、天は後ろを振り向いた。


「すまん、みんな。そういう訳だから、どうか一日だけ我慢してほしい」


 言いながら、天は深々と頭を下げる。


 そこには六人の男女の姿があった。


「あぁマスター。どうか頭をお上げください」


「そうだよ兄さん。俺達に謝る必要なんかないさ。むしろとんでもない快挙じゃないか」


「はい! これは極めて名誉なことでございます!」


「ごめん天兄。実を言うと、あたし何気にちょっと前の動力車のくだりから超ワクワクしてたのです」


 先ずシャロンヌ、カイト、アクリア、リナの順に。毎度お馴染み《零支部・特異課》のメンバーが口を開いた。


 そして。


「かか、か、会長! ああ、あの御方(おかた)はっ、あの御方はもしや……っ‼︎」


「うむ……儂も直接会うのは初めてだが、間違いないのだよ」


 五大組織『冒険士協会』の会長。(およ)び大国『ソシスト共和国』の大統領の肩書きを持つ英傑と、その腹心であるエルフ族の才女。

 世界に冠たる英雄王シストと、その秘書マリーは――


「「“生命の女神フィナ”様……!」」


 その他一切のことに目もくれず。

 ひたすら目の前の人物ならぬ神仏(しんぶつ)に、

 あまねく全ての人型を()べる至高なる三存在の一角に……ただただ見入っていた。


「クフフフ♪」


 月色に輝くロングヘアをバサッとかきあげ。


()きに(はか)らえ皆の衆!」


 生命神フィナは、茶目っ気たっぷりにウインクして見せる。伴って彼女の背後にまばゆい後光がさした。それはさながら、黄金のスポットライトのようであった。


「――どうじゃどうじゃ? 今のはかなり“女神”っぽかったじゃろ!」


「分かった。今度から貴女様のことはアホ女神じゃなくてアホ殿様(とのさま)って呼んでやる。だから今は少しそっとしておいてくれ」


「あ〜ん、そうやっていつも儂ばかり除け者にするー。で・も、そんないけずなダーリンがたまらなく大好きなのじゃ♡」


「あぁ失敗した。心底失敗した……」


 LOVE(ハート)オーラだだ漏れで擦り寄ってくる女神を全力で気持ち悪がりながら、


「なんで俺は、あの時こうなる可能性を考えなかったんだっ」


 天は激しい悔恨の念にかられる。

 俺としたことが、ともう何度目かになるそのセリフを心の中で唱えながら。


 それは天と、天の『パーティー登録』メンバーが“神隠し”に()う……


 ほんの五分前。


『タルティカ王国』での首脳会談も無事に終わり。シストとマリーを冒険士協会本部に送り届けた(のち)


 天とリナが、自分達の本拠地(ホーム)である零支部ビル(仮)に帰る途中での出来事――



「そういや、まだ『あいつら』の魔石を金に()えてなかったな」


「……天兄。もしかしてその『あいつら』って――」


「ん? ああ、こないだ()った邪教徒どものことだ」


「やっぱり……」


 リナはどこか気味悪そうに眉をひそめる。

 だがそれも仕方なかった。

 この世界の人類(ヒトガタ)にとって、“邪教徒”とはそういう存在なのだ。


 だから天も、この種の魔石に関してはだけは、使い方を慎重に選んでいた。


「さすがに、奴等の魔石をカイト達に使わせるのは気が引けてな」


「確かに。シャロ姉とか絶対に拒絶するのです」


「だろ? かといって鑑定書付きで表に出すわけにもいかんし、おばちゃんの店で換金してもらうのもやはり抵抗がある」


 なにせ元人型の魔物の魔石だからな、とは口には出さなかったが。


「確かに」


 天の言いたいことを正確に理解したのだろう。リナは一つ頷き。


「そう考えると、結構厄介な代物かもなの」


「だろ?」


 と、もう一度繰り返して。


「まあ、俺のドバイザーには魔石換金機能も付いてるから、奴等の魔石に関してはこっちで現金化すればいい」


 言って。

 天はズボンのポケットから、鮮やかなスカイブルーのドバイザーを取り出した。


「あの下っ端連中の魔石はまだ使い道があるから取っておくとして。残り二人の方はこれといって利用価値もないからな。とっとと金に換えちまおう」


「ちょ、ちょっと待って、天兄!」


 少し慌てた様子で、リナが訊いてきた。


「その残り二人の邪教徒って、確か両方とも――っ」


「ああ。“管理者”とかいう幹部クラスの『外魔』どもだ」


 天は気軽なノリで答えながら、ドバイザーの《魔石ボックス》のページを開いた。


「『外魔ディゼラ』と『外魔バンザム』。一応どっちの魔石もランクは『A』だが、いかんせんバンザムの方は状態(ひんしつ)がかなり悪くてな……金にしてもぎりぎり一億にしかならん」


 そして画面に表示された『外魔バンザム亜種(あしゅ)の魔石をお金(1億100万円)にしますか?』のボタンを、気持ち強めにタップした。


「ハァ、あのときは本当に勿体無いことをした」


「いやいやいや、それでも十分スゴイのです。――って、そうじゃなくて!」

 

「ん、なんだ?」


 続けざまに。

 天は『外魔ディゼラ亜種(あしゅ)の魔石をお金(3億9800万円)にしますか?』のボタンも――


「そんな高ランクの魔石を二つも同時に換金しちゃったら、また天兄の『PT(ポイント)』が一気に貯まっちゃうのです。そしたらまた……っ」


 ――押してしまった。


「……」「……」


 そして車内にいくばくかの沈黙が流れ。


「――いや待て、いくらなんでもそんな簡単に三周目はクリアできんだろ?」


「……」


「ほら、きっと難易度もそれなりに高くなってるだろうしっ」


「…………」


「だ、だいたい二回目以降があるかどうかも――」


 この直後。

 あらゆる疑問に対する答えは、不自然な自然現象という形で浮き彫りになった。


 まあ、どちらの推測が正しかったかはあえて言うまでもないだろう。






「グヘヘヘヘ〜〜」


「くっ」


 純白の聖域を縦横無尽に駆け巡る二つの影。


「どこへ逃げても無駄じゃ、無駄! なにせ此処は儂の領域(テリトリー)じゃからの〜〜♪」


「クッ、この女神、回を追うごとに変態度が確実に増してやがる……!」


 わりと必死に逃げ回る天と。

 それをひたすら追いかけ回すフィナ。


 そこでは激しい攻防が繰り広げられていた。


「うわ〜、こんな超高速仕様の鬼ごっこ見たことないのです」


「流石はマスター。三柱神の一柱(ひとはしら)であらせられるフィナ様と、互角以上に渡り合っておられる」


「う〜ん。この場合なんだかんだでフィナ様から逃げ延びてる兄さんが流石なのか、それとも兄さんに食らいついているフィナ様が流石なのか」


「天様ー! 頑張ってくださいませーー‼︎」


「え、ちょっ、なんでこの状況をすんなり受け入れてるのよ、あなた達⁉︎ というか、どうしてこの状況下でそんな平然としていられるのよっっ⁉︎」


「ひとまず落ち着きなさい、マリー。こうなってしまった以上、我々がいくらジタバタしたところで仕様がないのだよ」


 女神相手にジタバタしている天を眺めながら。

 リナ、シャロンヌ、カイト、アクリア、そしてマリーとシストが、思い思いのコメントを述べたところで。


「あちゃー、ありゃ完全にイッちまってるよい」


「ふぅ、全く困ったものですね」


 と、不意に背後から話し声が聞こえた。


「あのバカ、天どんが(しん)記録を樹立したのが嬉しすぎて、(たが)がぶっ飛んでやがるぜい」


「本当に。そろそろあのアホが暴走した際の対応策を本気で考えないと、このままでは我らの沽券に関わります」


 そのとき。

 位置的に声が発せられた場所の真正面に立っていたシストとマリーが、他の者よりもいち早く背後を振り返った。


 するとそこには――


「おぉ、あなたさまは……貴女様は(まさ)しく……」


「フフフ、お久しぶりですね、シスト。こうしてあなたと(じか)に顔を合わせるのは、五十年と二百日振りになりますか」


 まばゆいばかりの光を(まと)った、黒縁の眼鏡をした知的な雰囲気の娘と。


「あわ、あわわわ! まま、まさか、まさかこんなことが――ッ‼︎」


「カカカ、まぁそんな物怖じすることもねいぜい。天どんの()じみなら、オイラたちにとっちゃそこらの王族よりもずっと上席の人種だよい」


 こちらも神々しい光に身を包んだ、長くて白い髭を蓄えた老翁(おきな)が――そこに立っていた。


「ご無沙汰しております。我が偉大なる主よ」


 シストがその場に跪くと、


「おお、お会いできて光栄でございます‼︎ 」


 マリーもそれに(なら)い、テンパりながらも精一杯の礼を尽くして両人の前に平伏した。


「とりあえず、早いとこアレをなんとかしねいとな」


「はい。これ以上、我ら三柱の威信を失墜されては堪りません」


 跪くシストとマリーを尻目に、両人はげんなりした様子でそちらに顔を向ける。


「グヘ、グヘヘへ。よいではないか、よいではないか〜」


「なんつうか、ここまでくると逆にスゲェな……。もはや見た目以外、どれひとつとして女神してねえぞ、コイツ」


 人界の統治者たる三柱の神々――生命神フィナ。


「さあ、ダーリン♡ 大人しく観念して、儂のことを『ハニー』と呼ぶのじゃ‼︎」


 同じく、創造神マト。


「そんじゃま、さっさとあのバカふん縛るとするかよい」


 同じく、知識神ミヨ。


「まったく、このようなアホが我ら神格の最高位(第一柱)などど、嘆かわしい限りです」


 かの存在たちは、すべからくここ『超神界』に集結した。



 ………………そして。



「さて、(われ)()いに()くとしようか。あの男の息子に」


 

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